853話 お手伝い
「おはようございます」
酒場に入ると、テーブルにマジックアイテムや旅に必要な道具などが、綺麗に並べられていた。
しかもテーブル6個に。
「おはよう。ここから必要な物や気になる物を持って行ってくれるかな?」
笑顔のガガトさんに、お父さんが少し戸惑った表情を見せる。
「本当にお金は必要ないのか?」
「あぁ、無料だよ」
ガガトさんの言葉に、お父さんが首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、ここにある物はどれも新品みたいだから。本当に貰っていいのか迷ってな」
新品?
確かに、どのマジックアイテムや道具にも傷1つ付いていない。
これが無料だと言われると、裏に何かあるのではないかと疑ってしまうよね。
「あぁ、そうか。俺達には当たり前だけど、ドルイド達は知らないもんな」
ガガトさんに視線を向けると、申し訳なさそうな表情をしていた。
「すまん。ここの商品は全て、新商品でお試し品なんだ」
新商品でお試し品?
「商人達から、使って欲しいと無料で提供された新商品なんだ」
商人が無料で?
「へぇ、無料ね。確かに見た事のない道具があるな」
お父さんが、テーブルにある道具を1つ手に取って頷く。
「改良版とか、機能を追加した道具とか。まぁ、いろいろあると思う。とりあえずここにあるのは旅に必要になる物だけだ」
小さなマジックアイテムに手を伸ばす。
10㎝ぐらいの四角の箱?
……何に使う物だろう?
あっ、説明書がある。
えっと、魔物除けの効果を20倍にするマジックアイテム?
これは、必要ないかな。
「ドルイド達には、ここにある商品を実際に使って良い所や駄目な所を教えて欲しいんだ」
私に出来るかな?
ガガトを見ると、笑顔で頷かれた。
「そんな難しく考える必要は無いから。使って見て、前に使っていた道具やマジックアイテムより使いやすい、使いにくいという感想だけでもいいんだ。あと、ちょっと無茶な使い方をして欲しいかな」
無茶な使い方?
「簡単に壊れる道具なんて、旅にはお薦め出来ないからさ」
「お薦めって?」
お父さんの質問に、ガガトさんはある紙をマジックバックから取り出した。
「冒険者や旅人に『高評価』をされた商品やマジックアイテムは、冒険者ギルドと自警団で問題が無いか調査するんだ。商人が金を渡して、評価を良くするように依頼している可能性があるからな」
お金を渡してまで『高評価』を得たい理由は何だろう?
「問題がなければ、高評価を取った物だけを自警団員や契約している冒険者達が使って最終確認。そこでも高評価を取れば『冒険者ギルドのお薦め』や『自警団のお薦め』として発表されるんだ」
ガガトさんから受け取った紙を、お父さんと一緒に覗き込む。
そこには、今回のお薦め商品として数点のマジックアイテムが載っていた。
評価した点なども詳しく書かれてある為、とても分かりやすい。
「『お薦め』を貰った道具やマジックアイテムは、他の物に比べると5倍から10倍は売れるんだ。だからどの商人も、無料で道具やマジックアイテムを提供してくれるんだよ。小さな投資で、ガッツリ稼げるからな。まぁ、中途半端な道具やマジックアイテムでは無理だけど」
なるほど。
それならお金を渡してでも、評価を良くしてほしいと思うかも。
でも、しっかり調べられるみたいだからバレるんだろうな。
「初めてでやり方が分からなかったら、この紙に書いてある通りに考えてくれたらいいよ」
ガガトさんが新しい紙を、お父さんと私に渡す。
その紙には、使った道具やマジックアイテムを調べるための簡単な質問が数点書かれていた。
「前に使っていた道具と比べて? 使用した時の重さは? ボタンの押し加減は? 凄い。この紙に書かれている通りに調べていくと、私でもお手伝いが出来そう」
「初めてだと、難しく考えてしまう傾向があるから、その紙を作ったんだ。そうだ、考え方が分かったら、もっと色々と感想を書いてくれていいからな」
ガガトさんの言葉に、頷く。
お父さんを見ると、笑みを浮かべてマジックアイテムを見ていた。
「お父さん、楽しそう」
「新しい物を試すのって、ワクワクしないか? 無料の理由があるなら、遠慮する必要は無いしな」
ん~確かに、ちょっとワクワクするかも。
お父さんの傍によって、一緒に道具を見ていく。
「これは、テーブルだよね?」
特に変わったところが無いテーブルに首を傾げる。
椅子もあるけど、椅子にも特に気になる部分は無い。
「機能が付いているみたいだ」
2人で、テーブルの説明書を覗き込む。
「テーブルの中央にお鍋を置くと、温度を一定にしておくことが出来るみたいだ」
「あぁ、冷めて欲しくない料理には良いかな? でも、中央だけという事は1個だけかな?」
温かさを保って欲しい料理が複数あると、足りないよね。
「この機能は、俺達には物足りないな」
「うん」
んっ?
後ろを見るとガガトさんが、紙に何か書き込んでいる。
「もしかして今の会話?」
「あぁ、ごめん。気になった?」
ガガトさんの言葉に首を横に振る。
「その商品を排除した理由は、かなり重要でさ。俺の事は気にせず、選んでくれていいから」
それからもお父さんと一緒に、説明書を見ながら楽しく選んで行く。
新しい機能にも色々あって、「これは!」という物もあれば、お父さんと首を傾げる物まであった。
「これで頼む」
選んだ道具とマジックアイテムを、ガガトさんに見てもらう。
「ありがとう。感想を書くための紙を渡すね。そうだ、使って見て良くも悪くも無かったら『普通』って書いてもいいから」
そんな感じでいいの?
「つまり、無理に何かを書く必要は無いって事だな」
お父さんの言葉に、なるほどと頷く。
無理せず、自然と生まれた感想を書けばいいなら、私でも大丈夫。
「分かった。そうだ。大容量のマジックバッグが欲しいんだ、お薦めの店はあるか?」
「マジックバッグ? そうだな……あっ! 酒場を出て、大通りを左に歩いて行って、宿を通り過ぎて。えっと、3本、いや4本先の角を右に曲がって、そのまま真っすぐ歩くと『クジャ』という店がある。そこは、マジックバッグの専門店なんだ。あそこの店なら、あちこちから仕入れているから、大容量のマジックバッグもあるかもしれないな。ただ、ドルイド達の欲しい物があるかは分からないが」
「『クジャ』か。ありがとう」
酒場を出て大通りを左、宿を通り過ぎて4本先の角を右折して真っすぐ歩く。
よしっ、覚えた。
「おはよう。必要な物はちゃんとあったかしら?」
酒場の出入り口から、ロティスさんが元気に入って来る。
昨日とは違って、今日は元気なようだ。
「あぁ、面白そうな物まであったよ」
「それは良かった。ガガト、今回の商品だけど、あの業者は避けた?」
「もちろん」
ガガトさんの言葉に、ロティスさんが満足そうに頷く。
「あっ。お父さん」
「どうした?」
「捨て場の事を聞かないと」
「あぁ、そうだった」
お父さんがロティスさんに視線を向ける。
「ロティス。少し、相談したい事があるんだけど」
お父さんの雰囲気に、ロティスさんが真剣な表情をする。
「何かしら?」
「捨て場からゴミを貰いたいんだが、カシム町には見張りがいる。見張りを、少しの間移動させられるだろうか?」
「あぁ、あの子達のご飯ね。ん~、捨て場から見張りを……時間はどれくらい必要かな?」
「1時間ぐらいは欲しい」
確かにマジックバッグの中が空っぽだから、1時間は必要かな。
「1時間。それくらいなら大丈夫よ。そうだ! せっかくなんだからテイマーとしての仕事にしてしまえば? カシム町から報酬が出るわよ」
あっ、それは……。
「自警団に登録が必要だろう? それは無理だ」
ロティスさんは、私の事をジナルさんから聞いているので分かっていると思うけど。
「あぁ、それについては極秘というか、私の紹介で『テイマー1』で登録するわ」
テイマー1?
お父さんも初めて聞く事なのか、不思議そうな表情でロティスさんを見ている。
「今、町や村の捨て場に限界が来ているせいでテイマーが狙われているのよ。とりあえず、テイマーの数を多くしようって」
そんな事をしても、ゴミの問題は解決しないのに。
「だからカシム町では、テイマーの名前は記載していないの。皆、テイマー1か2よ。1は通り過ぎていくテイマー。2は町にいるテイマーという意味よ。星の数も性別も、もちろん年齢も一切不明。見張り役さえ、事情を知っている者にしてしまえば、問題なしよ」
凄い登録方法。
でも、それでテイマーが守られるなら必要だよね。




