851話 冒険者が多いから?
服の整理が終わったので、次は旅に行く準備をする。
「足りない物が、結構あるな」
「そうだね」
罠に使ってしまったため縄が足りないし、岩を砕く道具も欠けているから代えなきゃ駄目だろうな。
それに、使っているマジックバッグの1個が何かに引っ掛けたのか破れかけている。
あと少しの刺激で、完全に破れそうだ。
「このマジックバッグは、もう駄目だね」
「そうだな。そのマジックバッグと同じ容量が入る物はあったかな?」
破れそうなマジックバッグは、容量が一番大きい物だった。
このマジックバッグのお陰で、ソルに必要なマジックアイテムが沢山持ち運べたんだよね。
「あ~、無いな。どれも容量が小さい」
全てのマジックバッグを調べたお父さんが、首を横に振る。
「マジックアイテムを持ち運ぶなら、この大容量は必要だよな?」
「うん。あった方がいいと思う」
「ぺふっ?」
マジックアイテムに反応したのか、ソルが私とお父さんを見る。
そして、私が持っているマジックバッグを見ると、嬉しそうに傍に来た。
「ふふっ。このマジックバッグにマジックアイテムは入っていないよ」
「ぺ~」
不服そうに鳴くソルに首を傾げる。
「どうしたの?」
「あっ、アイビー。夕飯の時間だ」
えっ?
お父さんの言葉に、慌てて部屋にある時計を見る。
本当だ。
もう7時になっていたんだ。
「ごめん。お腹が空いていたんだね」
「ぺふっ!」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
皆、我慢して待ってくれていたのか。
お父さんと視線が合うと笑ってしまう。
「ごめん。すぐに用意するから」
お父さんがマジックバッグから青と赤のポーションを出すので、私は別のマジックバッグからマジックアイテムを取り出す。
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ!」
「てっりゅりゅ~」
それぞれが嬉しそうに鳴くと、すぐに食事が始まった。
その勢いに、お父さんが不思議そうな表情をした。
「凄く、お腹が空いていたんだな」
「そうみたいだね」
あまりの勢いの良さに、少し驚く。
朝ご飯が少なかったかな?
いや、いつも通りだったはず。
「あっ!」
お父さんの焦った声に、視線を向ける。
「しまったぁ」
「どうしたの?」
「ゴミの事を相談し忘れた」
あっ!
皆のご飯!
「明日は忘れないようにしような」
「うん」
ロティスさんに、捨て場の情報を必ず聞く!
今、一番重要!
頭に叩き込んでおこう。
「さて、俺達も食事に行こうか」
「うん」
ソラ達の食べるところを見ていたら、お腹空いた。
「そういえば、セイゼルクさん達は戻って来たのかな?」
ラットルアさん達は、合流できたかな?
「どうだろう? そろそろ戻ってきてもいい頃だと思うけどな」
1階に下りると、出入り口の辺りが騒がしい事に気付いた。
「誰かが騒いでいるみたいだな」
「ここにいる事は分かっているんだ! 出て来い!」
男性の怒鳴り声が、廊下にまで響く。
「かなり怒っているね」
私の言葉に、お父さんの眉間に皺が寄る。
「アイビーは、俺の後ろにいてくれ」
「うん」
冒険者は、村や町の人達に比べると興奮しやすい人が多いと聞いた事がある。
冒険者が使用する広場の管理人も、冒険者が多くなると問題が多発すると言っていた。
カシム町は、冒険者が多い。
問題を起こす人が多いんだろうか?
「はぁ、うるさいですよ。黙って下さい。全く」
この声はリミーさん?
ここからは姿が見えないな。
お父さんも同じ事を思ったのか、少し場所を移動する。
「なんだ、貴様は?」
「この宿で今、管理をしている者です。それより怒鳴らず、静かにしてください」
なんだろう?
私達が会ったリミーさんとは、ちょっと違うような気がする?
「あぁ、お前が店主か? だったら話は早い。俺の相棒を出せ。怪我はしたくないだろう?」
「はっ? 無理ですね。それと、静かにしてください」
リミーさんの声が低くなった?
「あ゛? 貴様、ふざけんじゃねぇぞ。とっとと、ぐほっ」
んっ?
最後の音は何だろう?
宿の出入り口が見られる場所に来ると、お父さんの後ろからそっと覗き込む。
あっ、リミーさんの前で男性が……お腹を押さえて苦しんでいる?
「耳が遠いんですか? それとも頭が悪過ぎて理解出来ない? 私は、静かにしてくださいと言っているんですが」
「貴様、なめんじぇ――」
あっ、リミーさんが危ない!
ゴキッ。
「がぁっ!」
えっ、リミーさんの蹴りが男性の顔面に……。
「あれは痛そうだな」
宿に帰って来る時に、凄い音をさせて冒険者を昏睡させたお父さんが言う事かな?
「んっ? どうした?」
「なんでもないよ。リミーさん、凄く強いね」
「そうだな。冒険者が多いから、強い女性も多いのかもな。宿とか屋台とか絡まれる事が多いだろうから」
カチャッ。
「ただいま。あらっ、リミー。このゴミは何?」
事情を聞く前に、男性がゴミ扱いだ。
「冒険者よ。相棒の女性を殴っていたから、女性の方を保護したの。そうしたら、ここまで押しかけて来たってわけ」
そんな事があったんだ。
暴行された女性は大丈夫なのかな?
「あぁ、屑か」
「てめぇら」
宿の店主フィミーさんとリミーさんの会話に、顔を真っ赤にして……ついでに鼻血を流した状態で睨み付ける男性。
でも、フィミーさんとリミーさんの視線の方が冷たい。
あの男性は、2人の様子に気付いていないのかな?
「あの2人、只者では無いな」
「そうだね」
うん、あの視線は普通の人には無理だよね。
「呼んだ?」
フィミーさんの言葉に首を傾げる。
「えぇ、もちろんよ。だって、こんな奴に時間を割いている暇はないもの。夕飯の時間だし」
誰かが来るのかな?
「ただいま帰りました。んっ? これは?」
ラットルアさんの声に、視線を向ける。
セイゼルクさん達の登場に、男性が戸惑った様子を見せた。
「この宿か!」
この声はジナルさんだ。
「くそっ」
セイゼルクさん達の登場に焦った男性が、急いで出入り口に向かおうとした。
でも、彼の前にはシファルさんがいるから、無理じゃないかな?
「これは捕まえた方がいいのかな?」
シファルさんがフィミーさんを見ると、彼女が笑顔で頷いた。
次の瞬間、地面に転がった男性。
何があったのか、全く見えなかった。
「くっそ~、離せ!」
暴れる男性を難なく抑え込むシファルさん。
男性の方が体格はいいのに、凄いな。
「ありがとう。こいつ冒険者なのに、女性に暴行していたそうなの」
「うわ~、屑だね」
「同じ冒険者と思われたくないな」
ラットルアさんとヌーガさんの言葉に、男性が睨み付ける。
「被害にあった女性は?」
ジナルさんの言葉に、フィミーさんがリミーさんを見る。
「怪我の治療はしたわ。ポーションも飲ませたんだけど、かなり長い間暴力を受けていたみたいで、古い傷には効かなかったわ」
全員の冷たい視線が男性に向く。
それに気付いた男性の表情が強張る。
「んっ? 自警団を呼んだのか?」
「えぇ、こういう問題は自警団で処理する事になっているからね」
リミーさんの言葉に、男性が暴れ出す。
「はぁ、往生際が悪い」
「いた~。止めてくれ、折れる。折れる」
シファルさんが男性の腕を掴むと、男性の叫び声が宿に響き渡る。
「それぐらいで叫ばないでくれない? 彼女の腕は折れていたのに」




