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850話 成長したから

「大丈夫だったか?」


お父さんの質問に首を傾げる。

襲い掛かって来た冒険者とは接触をしていないので、怪我をするわけが無い。

だから別の事を心配されているんだろうけど……思い当たる事が無い。


「大丈夫って何が?」


分からない時は聞くしないよね。


「奴の視線だ。あれは、弱い者をいたぶる事に慣れた者がするものだ。気分が悪くなっていないか?」


あぁ、あの視線か。

何度か、あれに似た視線で見られた経験がある。

確かに気分がいい物ではないし、1人だったら不安になったかも。


「大丈夫。なんとも無いよ」


お父さんが隣にいたから、不安な気持ちなんて湧いてこなかった。

さっきも「気持ち悪い」というお父さんの言葉に、笑いそうになるぐらい余裕があったしね。


「お父さんが一緒だからね」


「そうか。それならいい」


私を見て笑うお父さんに、ちょっと恥ずかしくなる。

だって、お父さんが本当に嬉しそうに笑っているから。


「どうした?」


「なんでもない。ほら、宿に戻ろう」


少し赤くなった頬を手で押さえながら、少し急ぎ足で宿に向かう。

それを不思議そうに見ながら、お父さんが追ってくる。


「ふふっ」


私、お父さんの笑顔が好きだな。


宿に着くと、昨日は気付かなかった事に気付いた。


「昨日は少し暗かったから気付かなかったけど、これは入るのにちょっと勇気がいるな」


お父さんが宿の外観を見て、次に窓を見て苦笑する。


「そうだね」


まさか壁が可愛いピンクだったとは、しかも窓には可愛い人形が外から見えるように飾られている。


「まぁ、もう泊っているから今更だな」


お父さんが肩を竦めて宿に入るので、それに付いて行く。


んっ?

宿に入る瞬間、複数の視線がこちらに向いた事に気付いた。

殺気などではなく、興味津々という感じだ。

やっぱりこの宿に泊まる人が、皆も気になるのかな?


宿に入ると、誰もいないのか全く音がしない。

でも、宿を管理しているリミーさんがいると思うんだけど。


「鍵は開いていたから、リミーさんがいるはずだよね?」


「あぁ、そのはずだけど。あっ、奥にいるみたいだ」


お父さんがカウンターに置かれた板を指す。

そこには「用事がある人は奥に声を掛けて下さい」と書かれてあった。


「奥に声だけ掛けて、部屋に戻ろうか」


「うん」


お父さんがカウンターの奥に声を掛けると、小さな声が返って来た。


「ごめんなさい。今、手が離せないの。おかえりなさい」


「ただいま戻りました。ドルイドとアイビーです。部屋に戻りますので」


「は~い。夕飯は、6時頃からです。8時頃には母と変わります」


「分かりました」


リミーさんと別れ、部屋に戻るとソラ達をバッグから出す。


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「にゃうん」


「ぺふっ」


「ごめんね、皆。また、旅に出たら外で思う存分に遊べるからね」


私の言葉に、ぷるぷる震える4匹。


「アイビー、きつくなった服と生地が傷んだ服を出してくれ」


「分かった」


お父さんがマジックバッグから、買って来た服が入った紙袋を出す。

そしてその中身を、ベッドに並べだした。


「何をしているの?」


「んっ? どんな服があるのか見てるんだ」


お父さんの行動に首を傾げる。


「どうして?」


私の質問に、お父さんがちょっと困った表情を見せた。


「あ~何かあった時のために、親は子供の服装を覚えておく必要があるんだよ」


あっ、事件に巻き込まれた時の為に。


「もちろん、無駄になるのが一番だけど。何があるか分からないし、王都周辺の森や町には人さらいも多いから」


そうなんだ。


「これからは、魔物より人に注意して欲しい」


「分かった」


それは人さらいだけではないんだろうな。


「よしっ。そっちはどうだ?」


お父さんの言葉に、止まっていた手を動かす。


「えっと、まだこれは――」


「それも小さくなっているだろう?」


ちょっときついぐらいなんだけどな。


「あっ」


お父さんが、持っていた服を取り上げる。


「皆に買ってもらったんだ。着てあげた方が喜ぶよ」


「そうかな?」


私の言葉に力強く頷くお父さん。


「それにしても、見事にこれからの季節を考えているな」


買ってもらった服を見る。

ズボンは9本で、あとは全てTシャツ。


「そうだね」


これから夏の旅になる。

汗や、雨などで服は特に枚数が必要になる。

川や湖が近くにあれば洗濯する事も出来るが、無理な場合も多い。

特に雨が続くと最悪だ。


「そうだ。王都、カシム町、カシス町、カシメ町の周辺には、汗のにおいで集まって来る魔物がいる」


お父さんの言葉に、本で読んだ魔物が思い浮かんだ。


「たしか、40㎝~50㎝ぐらいの小型の魔物だったよね。個々はそれほど強くないけど、『集団で襲う』習性があって、一度狙われるとしつこく追って攻撃してい来ると、書かれていたと思う。名前は……あれ?」


描かれていた絵姿も思い出せたのに、名前が思い出せない。

確か、随分絵姿に似合わない名前だなって思った記憶がある。

なんだっけ?


「エッチュ」


あっ、そうだ。

お父さんを見て頷く。


「エッチュの事なら、本で読んだ事がある」


「それなら特徴は、知っているな」


「うん」


汗のにおいで集まって来て、上位魔物すら襲うエッチュ。

集団の力なのか上位魔物を倒す事もあるそうだ。


「どれくらいの集団なのかな?」


それについては、本に記載は無かった。


「最低50匹とも言われているな。200匹の大集団が発見されたという噂を聞いた事があるな」


「200匹!」


上位魔物も200匹で来られたら、恐怖だろうな。


「あっ、その服も駄目だぞ」


えっ?


お父さんが、私の持っていた服をさっと取り上げる。

そして、傍い置いてあったマジックバッグに入れた。


「生地が傷んでいただろう?」


確かに、でもこの夏ぐらいは頑張ったら着れるはずなんだけど。

お父さんを見ると首を横に振られた。

しかたない、諦めよう。


「その服は、どうするの?」


お父さんが持っているマジックバッグを見る。


「あぁ、この村には着なくなった服を引き取ってくれるところがあるんだ」


「でも、生地が傷んだ服もあるよ?」


洗濯で縮んだ服もあるし、よれてしまった服もある。


「それでもいいらしい。掃除道具として活用するそうだ」


あぁ、なるほど。

掃除道具なら、傷んだ意地でも問題ないね。


「というわけだから、そっちも駄目だからな」


問題無いと避けた方の服をお父さんが掴む。

えっ?


「丈が短くなっているTシャツだろう?」


ちょっとだけね。


「他には? そうだ、丈の短くなったズボンがあったよな?」


あっ、やっぱりバレていたか。

お父さんが言っている丈の短くなったズボンを4本、マジックバッグから出す。


「こんなにあったのか?」


さすがに4本も出て来るとは思わなかったようだ。


「あははは、残りは大丈夫だから」


背が伸びるのを見越して買ったズボンは。まだ大丈夫。

でも、これもあと1年か2年かな。


「小さくなった服を整理していると、アイビーがしっかり成長していると分かるな」


お父さんの言葉に、目を見開く。


「そうだね」


そうか、私が成長しているから服が小さくなるんだ。

当たり前の事なのに、すっかり忘れていたな。


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― 新着の感想 ―
どうやって処分するのかと思ったら、リサイクルするんですね。
[一言] ドルイドは小さくなった服は残しておいてあとからこんなに成長したなぁと振り返るタイプではなかったかw
[良い点] ちょくちょくドルイドさんとの背比べシーンが出てますが、シファルさんたちからすると、大きくなっているんだろうなぁと思います。 [一言] 新刊の予約ができるようになっていたので、予約しました。…
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