表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
925/1159

848話 やっぱり!

どうしよう。

全然止められない。


ある一角に積みあがる服、服、服。

ロティスさんとラットルアさんが競うように、服を積み上げていく。


「これは、凄いね~」


隣で優雅にお茶を飲むシファルさん。

縋るように見たが、首を横に振られた。


「言っても無駄だよ。返事だけはいいけど、全く聞いてないからね」


そうなんだよね。

「もう十分です」と2人に言う度に「分かった」と返事は返ってくる。

それなのに、「あっ、これも!」とか「こっちも」とか。

何度このやり取りが繰り返された事か。

私も、もう疲れた。


「アイビー。のんびり待とうよ。あれは落ち着くまで放置した方がいい」


溜め息を吐きながらシファルさんの隣に座る。

そして、用意してもらったお茶を飲む。


「美味しい」


「こっちのお菓子も美味しいよ」


シファルさんが薦めるままにお菓子を口に入れる。

一口で食べられるお菓子は、口の中で果実の香りが広がり、疲れた心を癒してくれる。


ここはカシム町で一番大きな服屋「ゴーディオ」。

そして私がいる場所は、特別なお客様をもてなす特等席。

ロティスさんを見たお店の人が、すぐにこの場所に案内してくれた。

最初はその場所にドキドキしたけど、ロティスさんとラットルアさんの暴走にその気持ちは吹っ飛んだ。


「アイビー、好きな色は?」


ロティスさんの急な質問に、視線を向ける。


「アイビーは、青系が好きだよな?」


応えようとすると、ラットルアさんに先を越された。


「えっ青? でも、赤系も似合うと思うんだけど。うん、やっぱりあっちのオレンジも欲しいわね」


ロティスさんの言葉に、驚いてしまう。

質問の答えが全く生かされていない。

そもそも私は質問に答えてもいない。


「ぷぷっ」


隣に座っているシファルさんから、笑い声が聞こえた。


「笑っている場合じゃない。あの量を見てよ!」


「大丈夫。買おうとしたら声を掛けて、あそこからそうだな……5着だと文句が出るな。うん、10着を選んでもらえば? 私に一番似合う10着を選んでくださいって」


「10着! えっと二人で?」


「いや、2人で20着だな。それぐらいにしておかないと、収まらないだろうから」


「はははっ」


シファルさんの言葉に、2人を見て頷く。

確かに、収まらないだろうな。


「それにドルイドから聞いているよ。去年の服がきつくなっているんだろう?」


あれ?

お父さんには、まだ言っていなかったのに。


「うん。ちょっときつくなってきた。でも、もう少し着られるかなって思っているんだけど」


「それは駄目だ。成長中なんだから、体に合ったものを着ないと。成長に悪影響を及ぼすぞ」


真剣なシファルさんの表情に、戸惑う。


「そうなの?」


「そうだよ。アイビーは大きくなりたいんだろう?」


「うん」


小さい頃に栄養が足りなかったせいで、同年代より私は小さい。

お父さんが、それを気にしている事に気付いた。

だから、大きくなって安心させたい。


「だったら、ここは甘えてしまえばいいよ。それに、あの2人を見てごらん」


ロティスさんとラットルアさんを見る。


「もの凄く嬉しそうで、生き生きしているだろう?」


うん、確かに。


「あんな気持ちに慣れるのは、アイビーの服を選んでいるからだ」


そこが少しおかしいと思うけど。


「2人の楽しみを奪ったら可哀想だよ」


「そうかな?」


何か違うような気がするだけど。


「そうだよ。それに、『絶対にいらない』と言って止めたら、もの凄く悲しむだろうな」


それは想像が出来てしまう。


「でもさすがにあの量は、アイビーが困るだろう?」


「うん」


一体何着あるのか、ここからでは分からない。

でも間違いなく20着以上はある。


「だから1人10着。これは妥当な数字だよ」


そういうもの……なのかな?


「どっちもが納得する数字という事だね」


そうなのかもしれない?


「分かった。1人10着で。それ以上は、絶対に断るからね!」


「その時は、俺も説得するよ」


まぁ、それなら?

……あれ?

私、シファルさんに丸め込まれた?


「どうしたの?」


シファルさんを見る。

きっと何を言っても無駄だろうな。

それに、ロティスさんとラットルアさんも楽しんでいるのは確かだし。


「いえ」


あっ、私も皆の服を選びたいなって思っていたんだった。

このお店は、全ての年齢層の服が置いてあるから、皆の服も探せるかな?


「あの、私も服を選びたから見て回っていい?」


「んっ? ラットルア達に任せたら?」


シファルさんの言葉に、首を横に振る。


「自分のは任せました。お父さんや、皆に何か買いたいなって思っていて」


お店を見渡す。

あっ、2階が男性用の服だ。


「そうか。それなら付き合うよ」


「えっ。いいの?」


ゆっくりしててもいいのに。

準備が終わったら、また旅に出るのだし。


「問題ないよ。それにヌーガやセイゼルクの趣味は俺が良く知っているからね」


あっ、それもそうか。


「それなら、おねがい」


シファルさんと、男性の服が置いてある2階に行く。

2階も1階同様に服が沢山あり、どの年齢層にも対応しているようだ。


「どんな服を考えているの?」


「えっと……服と限定はしていなくて」


今までのお礼も兼ねているから、ちゃんとした物を買いたいんだけど。


「役立つ物がいいと思ってるんだ」


「役立つ物か。それなら手袋はどうかな?」


「手袋?」


でも皆、既に手袋は持っているよね?


「手袋って1年で何個も必要なんだよね。武器を握るたびに消耗していくから」


あっ、そうだ。

お父さんも1年に2回か3回、新しい手袋に変えている。


「あっ駄目だ。手袋だったらすぐに次の物に変えてしまう。あげるなら、残る物の方がいいか」


残る物か手袋か。

手袋は、摩擦から掌を守るための重要な物。


「手袋にする。うん、皆に手袋を買う事にする」


武器は皆を守る物。

でもその武器を素手て握ると、摩擦で怪我をする事があるそうだ。

それは掌が固くなっている今でも起こると、お父さんが言っていた。

だから、手袋がいい。


「分かった。手袋は、あっちだな」


シファルさんと一緒に、手袋た置いてある棚に向かう。

そして、棚の前に立って戸惑ってしまった。


「こんなに、あるの?」


まさかの量に、ここから皆の好みに合った手袋を探すのかも思うと心配になる。


「大丈夫だよ。手伝うから」


シファルさんの言葉に背を押され、目の前にある手袋に手を伸ばす。

皆の好みをシファルさんに聞きながら、大量にある手袋から「これ」と思う物を探す。


「お父さんは、これ」


お父さんの好みは問題なし。

あとは、ジナルさんなんだけど。


「ジナルさんの好み?」


全く想像つかない。

普段の格好から、派手な物が好きでは無いと思う。


「彼は、装飾の無い物を持っている事が多いな」


シファルさんの言葉に、ジナルさんを思い出しながら答える。


「うん。派手さは無いかな」


ジナルさんに似合う手袋を、大量の中から探し出す。

しばらくすると、刺繍が施されているとても素朴なデザインの手袋を見つけた。


「素材は何かな」


シファルさんが、「手袋は使われている素材が重要」だと教えてくれた。

素材によって、丈夫さが異なるらしい。


「皮膚が硬い事で知られている魔物か。これだったら大丈夫だね」


皆の手袋を選び終えて、1階に下りる。


「ラットルアさん達、休憩しているみたい」


良かった、服選びは終わったんだね。

あれ?

服の山が4個?

2階に言っている間に、服の山が1個増えた。


「アイビー、これが決定した服だよ」


いやいや、何着あるの?


「さすがに、この量は駄目だよ」


「「えぇ~」」


私の言葉に不満な声を上げる2人。

いつの間にか、仲良くなったみたいだ。


「この中からそれぞれ10着。アイビーに絶対に似合いそうな服を選んだら? 貰う側が気にする量を押し付けるのは駄目だろう?」


シファルの言葉に、溜め息を吐きながら服を選びだすラットルアさん。

ロティスさんは、服の山を見て私を見た。


「駄目?」


「すみません」


「アイビーが気になるならしょうがないか。……よしっ、10着だな」


良かった。

捜していた時の興奮は落ち着いたみたい。


ラットルアさんとロティスさんが服選びに集中している間に、皆の手袋を買う。

少しすると、ロティスさんとラットルアさんも決まったようだ。

それぞれが代金を払い、満足そうな表情で服の入った紙袋を受け取っている。


「お買い上げ、ありがとうございました」


あれ?

この文句は、会計が終わった時に言ってくれるものだよな?

既に全員の会計は終わっているのに、誰だろう?


「あっ、シファルさんも買ったんですね」


声のした方に視線を向けると、紙袋を受け取ったシファルさんがいた。


「当然だろう? 俺もアイビーの服を買うためにこの店に来たんだから」


んっ?

私の服?


「もしかして、私の……」


シファルさんがもちろんと、首を縦に振る。


あれ?

いつ、その服を選んだんだろう?

ずっと、私といたよね?


「どうやって?」


「んっ? お店の人が探してくれた今年の一押しの中から、俺は選んだだけだよ。まぁ、最初にアイビーに似合う色やデザインは伝えたけどね」


さすがシファルさん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
その買い方はできる男…
アイビーの口調が敬語ではなくなって、ちょっと幼くなったように感じるけど、まだ子供だからこれくらいが年相応なのかな。
武器を扱う手に嵌める手袋って、素材も重要だろうけどサイズもじゃない? SMLじゃ足りないのでは。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ