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844話 娘のリミーさん

「おはよう」


食堂に入ると、セイゼルクさん達が既に朝食を食べていた。


「おはようございます。遅くなってごめんなさい」


食堂を見渡す。

店主のフィミーさんはいないようだ。

奥にいるのかな?


「アイビー、こっち」


お父さんに呼ばれて近付くと、壁際にマジックボックスが並んでいた。

それに首を傾げながらお父さんを見ると、壁に掛かっている物を指していた。


「何これ?」


「フィミーさんからの伝言だ」


フィミーさんから?


「『私は屋台の方が忙しいので、朝食はマジックボックスに入っています。ご自由にどうぞ』」


並んだマジックボックスを見る。

というか、マジックボックスが全部で10個並んでいるんだけど、多くないかな?

一番近くにあるマジックボックスを覗く。


「パンだ」


ふわっと香る焼き立てのパンの香り。

これは凄く惹かれる香りだな。


「朝食代は宿代に含まれていると書いてあるから自由に食べていいぞ。あれ?」


お父さんが首を傾げて、セイゼルクさん達を見る。


「どうしたの?」


「昨日、宿代を払っていないと思って」


冒険者達は急に宿を発つことがある為、どの宿の前払いとなっている。

だから、誰かが宿代を支払ったはず。


「セイゼルクさん達かな?」


「確認して、アイビーと俺の分は支払っておくよ」


「うん」


宿代を出してもらう理由は無いからね。


マジックボックスからパンとスープ。

お肉と野菜の煮込んだ物と六の実とマーチュ村の特産品じゃぼの炒め物を選ぶ。


「それで足りるのか?」


お父さんの言葉に「もちろん」と頷き、お父さんの持っているトレーを見る。

私と同じ物に加えて骨付きのお肉が5本。

結構な大きさなので、トレーの上で目立っている。


「絶対にお肉は外さないよね」


「力の源だからな」


「ふふっ」


まぁ、野菜も一緒に食べるようになってくれたからいいけどね。


「隣においで」


「はい」


シファルさんの隣に座ると、前にお父さんが座る。


「「いただきます」」


食べ始めてから皆を見回す。

ヌーガさん以外は既に食べ終わっているみたいだ。


「よく眠れた?」


シファルさんの言葉に頷く。


「そう。セイゼルクとラットルアは、面白い夢を見たんだって」


「面白い夢?」


「そう。可愛い世界なのに、恐ろしかったそうだよ」


楽しそうに話すシファルさんに、セイゼルクさんの顔が歪む。

一体どんな夢を見たんだろう?

ラットルアさんを見ると、視線が合う。


「どんな夢だったの?」


気になる。


「見た目が可愛い魔物に追い掛け回される夢だった」


見た目が可愛い魔物?

鍵にぶら下がっていた野兎の人形を思い出す。

魔物なのに凄く可愛く作られていたよね。


「最初は特に怖いという印象は無かったんだ。でも、どんどん魔物が増えていって。最後は凄い怖い目で追い掛け回されたよ」


「えっと、大変でしたね?」


どんなに見た目が可愛くても、追い掛け回せる夢は嫌だな。

しかも最後の方は怖いみたいだし。


「セイゼルクさんも同じ夢なの?」


「いや俺は……」


言い淀むセイゼルクさんに首を傾げる。

そんなセイゼルクさんの態度に、シファルさんが笑っている。

あっ、食べ終わったヌーガさんも楽しそうだ。


「レースに絡まって動けなくなっている夢だったんだって」


レース?

もしかしてベッドのレースが影響してそんな夢を見たの?

驚いた表情でセイゼルクさんを見ると、恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


「「ごちそうさま」」


お父さんの方が多く食べたのに、どうして一緒に食べ終わるんだろう?


「あっ、セイゼルク達に聞きたい事があるんだけど」


お父さんがお茶を飲みながら、セイゼルクさん達を見る。


「なんだ?」


「宿代なんだけど、もしかして建て替えてくれたのか?」


お父さんの言葉にセイゼルクさんが首を横のふる。


「俺達じゃない。ガガトが1週間分を支払って行ったんだ」


「ガガトが?」


「あぁ、暗殺者捕獲の協力料から支払っておくと言っていた」


協力料?


セイゼルクさんの言葉に、お父さんが眉間に皺を寄せる。


「何か他にも思惑がありそうだと思うんだが?」


「たぶん、あるだろうな。まぁそれも、今日会えば分かるだろう」


よく分からないけど、ガガトさんは私達に何かをさせたいという事かな?

その費用を既に払った?

……断れないようにしたかったのかな?


「よしっ。全員食ったな。そろそろ準備をしてロティスの所に行くか」


セイゼルクさんの言葉に、机の上を片付ける。


「食器はどうしたらいいんだろう?」


屋台が忙しいなら、洗っておいた方がいいのかな?


「このままでいいみたいだぞ。ほらっ」


ラットルアさんが食堂の出入り口を指すと、「食器はそのままで問題なし」と書いた紙が、壁に貼ってあるのが見えた。


「食堂に入った時に、周りを見たのに気付かなかったな」


「うん、私も気付かなかった」


お父さんの言葉に頷くと、2人で笑ってしまう。


「あらっ、珍しい。この宿に男性のお客様がいるなんて。今日から泊まるのかしら?」


食堂の扉が開くと、店主のフィミーさんによく似た女性が入って来た。


「いえ、昨日から泊まっています。あなたは?」


シファルさんの言葉に、嬉しそうに笑った女性。


「フィミーの娘のリミーよ。お昼は私がこの宿の番をしているの」


「娘さんでしたか。お世話になります」


シファルさんの言葉に合わせて軽く頭を下げると、少し驚いた表情をしたリミーさん。


「格好から冒険者の方よね?」


シファルさんが不思議そうに頷くと、リミーさんが感心した様子を見せた。


「冒険者でも、しっかりした人はいるのね。この宿はこんな感じだから揶揄ってくる屑が多いのよ。別にお前らに迷惑かけていないだろうがってね」


あれ?

今微かに殺気を感じたような気がするけど……もしかしてリミーさんが?


「リミーさんは、冒険者ですか?」


ラットルアさんが少し警戒した様子を見せる。

おそらく殺気に気付いたんだろう。


「いいえ、違うわ。私は、母の宿と屋台。それと父の装具屋を手伝っているの」


宿と屋台と、装具屋?

なんだか凄く忙しそう。


「そうなんですか?」


シファルさんが腑に落ちない雰囲気でリミーさんを見る。


「ふふっ。そんなに警戒しないで。本当に冒険者では無いから。でも微かな殺気に気付くなんて、あなた達は中位冒険者以上なのね」


んっ?

冒険者じゃないのに、分かるの?


「母も父も個性的な人達でね。平穏に生きるためにはある程度の力が必要だったのよね。だから小さい頃から、知り合いの中位冒険者に鍛えてもらっていたら思いのほか強くなっちゃって。気付いたら鍛えてもらっていた中位冒険者を倒しちゃったのよね」


それって、そうとう強いのでは?


「でも私は冒険者では無いですからね」


冒険者では無いけど、冒険者なみに強いのか。


「ある程度強い者が、宿を守ってくれていると思うと安心だな」


セイゼルクさんの言葉に、シファルさんが小さく笑って頷く。


「確かに、今日からよろしくお願いしますね」


「はい。皆さんのお休みなる部屋はお守りしますから」


本当に個性的な人が集まる宿に泊まっているんだな。

そういえば「母も父も個性的な人達」と言っていたよね。

お父さんはどんな人なんだろう?


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― 新着の感想 ―
この世界の宿屋は強い。
[一言] 中位冒険者以上じゃないと気付かないような微かな殺気に反応するアイビー 修羅場潜ってるからなあ
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