831話 敵?
明日から忙しくなるという事で、今日は早めに休むことになった。
今までずっとのんびり旅をしていたので、休む必要があるのか分からないけど。
「「「「「いただきます」」」」」
村道の近くにあった、開けた場所。
そこにテントを張り、皆で夕飯を作った。
出来上がった料理を並べると、肉料理が多い事に気付く。
まぁ、皆がそれぞれ好きな料理を作ったらこうなるよね。
刺客達は、ジナルさん達が何処かに連れて行った。
きっと魔物除けに守られて寝ているだろう。
あの後ジナルさんが「起きると面倒だ」と、全員の奴隷の輪に指示を出していたから。
「あ~、こんなにのんびり夕飯を楽しめるのも今日までかぁ」
残念そうなセイゼルクさんの言葉に、ヌーガさんが巨大な肉にかぶり付きながら頷く。
ヌーガさんは、本当にお肉が好きだよね。
あっ、お肉の載ったお皿を引き寄せようとして、セイゼルクさんに怒られている。
でも2人とも気付いて、シファルさんとラットルアさんが凄い勢いで食べているから。
「おい、2人とも食べ過ぎだろう!」
セイゼルクさんの言葉に、ラットルアさんが肩を竦める。
「早い者勝ちだよ。そこで遊んでいるのが悪い。最後の1個――」
「俺のだ」
あっ、最後の1個をヌーガさんが取った。
というか、他にも肉料理はあるよ。
「アイビーの料理は人気だな」
お父さんの持っているお皿を見ると、私が作った料理をしっかり確保しているので笑ってしまう。
「皆に気に入ってもらえるのは嬉しいかな」
ただ皆の作った料理を見ると、その理由も頷ける。
私が作った肉料理以外に肉料理は4つ。
その内2つは肉を焼いてソースを掛けただけ、1つは「あっ、間違えた」とセイゼルクさんが慌てていた。
その後、シファルさんが手伝っていたので食べられるけど……まぁ、うん。
そんな感じだから、私の料理が人気なんだろうな。
「たべた~」
ラットルアさんが、お腹を押さえながら満足そうに笑う。
それにセイゼルクさんが呆れている。
「食べ過ぎだろう」
「そうか?」
うん、食べ過ぎだと思う。
セイゼルクさんも含めた、全員がね。
まさか、あの大量にあった肉料理を完食するとは思わなかった。
使ったお皿を、シファルさんとヌーガさんと一緒に洗う。
お鍋はセイゼルクさんが、洗ってくれている。
「よしっ、終わり」
シファルさんの声に、綺麗になったお鍋とお皿を見る。
汚れていた物が綺麗になると、どこかスッキリするよね。
「お茶の用意が出来たぞ」
「は~い」
お父さんの隣に座ると、ソラがピョンと足に乗ってくる。
「ぷっぷぷ~」
数日後にカシム町に着く予定という事で、今日はポーションを多めにあげた。
そのお陰かいつもよりご機嫌のようだ。
「お腹は、いっぱいになった?」
足の上で楽し気に揺れるソラに聞くと、プルプルと少し動きが早くなった。
「ぷっぷぷ~」
「そっか。良かった」
「ぷ~」
しばらくすると大きな欠伸をするソラ。
今日もいっぱい遊んだし、お腹もいっぱい。
もう寝るしかないか。
「お休み、あとで布団に連れて行くね」
「ぷ~」
フレムとソルは、何処だろう?
ふふっ、フレムはジナルさんでソルはシファルさんか。
「にゃうん」
そしてシエルは、スライムになってお父さんの足の上と。
皆、ゆっくり出来る人を選んでいるみたい。
「ククククッ」
後ろに振り向くと、夕飯の時にはいなかったサーペントさんと木の魔物がいた。
「おかえり」
夕飯を作り始めた時に、何処かへ行ってしまったサーペントさんと木の魔物。
もしかしたら、ご飯を食べに行っていたのかも。
「ククククッ」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
私の後ろで寛ぎ始める、サーペントさんと木の魔物。
その様子にジナルさんが笑った。
「どうしたの?」
「ん~。ここからだとアイビーが中心にいて、サーペントと木の魔物をテイムしているみたいだ」
ジナルさんの言葉に、サーペントさんが体を左右に揺らす。
もしかして喜んでいるの?
不思議な気持ちでサーペントさんを見ると、隣の木の魔物も枝が揺れていた。
「私にテイムされているように見られて、嬉しいの?」
「ククククッ」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
「そうなんだ」
驚いた。
サーペントさんも木の魔物も自由な印象があるから。
「いいなぁ」
セイゼルクさん達が、羨ましそうに私と後ろにいるサーペント達を見る。
皆、似たような表情になっているので笑ってしまった。
「さてと、この雰囲気を壊して悪いが、話しておきたい事がある」
そういえば、ジナルさんが言っていたよね。
彼を狙う貴族の事で、話があると。
「そうだったな」
お父さんの言葉に、少し緊張感が漂う。
「俺を狙っている貴族の事だ。予想外の名前が出た。ドルイドは知っているかもしれないが、公爵の位についている、ボルアトの当主。フィーガス・ボルアトだ」
苗字まで言うのは珍しいな。
貴族でも、名前だけ言う事が多いのに。
たしか苗字まで言うのは、長い歴史がある家の場合……だったかな?
「歴史あるボルアト家か?」
お父さんの言葉に、ジナルさんが頷く。
良かった正解だ。
でもどれくらい歴史が長いと、苗字が必要なんだろう?
「そう。まさか刺客から、この名前を聞く事になるとは思わなかったよ。ボルアト家は、フォロンダ様の同士だと思っていたから」
フォロンダ領主と仲がいい貴族なんだ。
裏切られたと分かったら、つらいだろうな。
「でもフィーガス・ボルアトが、本当に依頼をしたのか? もしかしたら、誰かが彼を陥れようとしている可能性もあると思うが」
お父さんの言葉に、ジナルさんが頷く。
「確かに刺客の証言だけで、物的証拠はないからその可能性はある。フィーガス・ボルアトが、教会と敵対していた組織に資金を渡していた事は有名だ。そのせいで、一部の貴族から、かなり憎まれているからな」
教会と手を組んで甘い汁を吸っていた貴族からすれば、フィーガス・ボルアトもフォロンダ領主もそうとう憎い相手だろうな。
「フィーガス・ボルアトが敵なのか味方なのか、調べようと思っている。ちょうど、カシム町に行くしな」
カシム町とボルアト家に、関係があるのかな?
「アイビー」
「はい?」
「カシム町は、ボルアト家が治めている領地なんだ」
そうなんだ。
それならちょうどいい時に、カシム町にお邪魔する事になるんだね。
「アイビーはどうする?」
「えっ?」
ジナルさんの言葉に、首を傾げる。
「フィーガス・ボルアトが敵だった場合、俺と一緒に行動するのはかなり危険だ」
「危険?」
私の呟きに頷くジナルさん。
「アイビーの絵姿は誰が持っていたんだ? フィーガス・ボルアトが刺客に渡した物だとすると、アイビーは既に狙われているかもしれないだろう?」
お父さんの言葉に、ジナルさんの眉間に深い皺が出来る。
「フィーガス・ボルアトが渡した物か、分からなかった」
ジナルさんの言い方に、違和感を覚える。
刺客に確認を取っていないのだろうか?
「どうしたんだ?」
お父さんも不思議に思ったのか、ジナルさんを見る。
「アイビーの絵姿をどうやって手に入れたのか、奴が覚えていないんだ。おそらく契約によるものだと思う」
契約か。
それなら、無理には聞き出せないよね。
別々か一緒か。
ジナルさん達と離れて……。
「あの、皆で一緒にいた方がいいと思う。別行動すると、大丈夫なのか不安に思うだろうし」
私も、おそらく皆も。
「確かに」
セイゼルクさん達が頷く。
「そうだな。一緒の方が、もしもの時はすぐに対応できるか。まぁでも、俺にせいで巻き込んだらごめんな」
ジナルさんの言葉に、首を横に振る。
彼は、悪くない。
どんな理由があるにしろ、刺客を送りこんで来る人が一番悪いんだから。
 




