表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
902/1157

826話 解放

「うわぁ」


えっ?

男性の叫び声に慌てて視線を向けると、カゴを召喚した男性の逃げ出す姿が見えた。


「情けない」


お父さんの呆れた表情に、笑って頷く。


「諦めが悪いね。ジナルさん達から逃げられるわけが無いのに。あっ、シエルが追いかけていった。あれ?」


すぐに追いつくと思ったのに、まだ追いかけている。

あぁ、追いつかないように走る速度を加減しているんだ。


「これはまた、絶妙な追いかけっこだな」


「そうだね」


遠くに行かないように先回りしたり、楽しそうに追い掛け回したり、森に逃げ込もうとしたら、飛び越えて驚かしたり。

完全に遊んでいる。


「諦めて、ジナルさん達の所に戻った方がいいのにね」


「それが出来たら、あんな無様な姿はさらしていないだろう」


まぁ、そうか。

あっ、こけた。


「おっ、お前ら死ぬぞ。あれの制御が、出来なくなったんだ! ここにあれがくる!」


んっ?

男性の言葉にジナルさん達が険しい表情をして、男性に近付く。


「どういう事だ!」


うわっ。

ジナルさんのあんな怖い声は、初めて聞いた。


「大丈夫か?」


「うん」


男性の様子から、きっとすぐに話をさせるべきだと判断したんだろうな。


「はははっ、お前らは俺を捕まえたと思っているんだろう? でも、カゴの魔法陣を壊したんだ。此処に奴が来て、全員を殺す。全員、終わりだ!」


魔法陣?

カゴにそんな物が施されていたの?


「ククククッ」


いつもと少しだけ違う鳴き声に、視線を向ける。


「どうしたの?」


サーペントさんがジッと、叫び声をあげている男性に視線を向けている。

何か、あの男性とサーペントさんの間に繋がりがあるんだろうか?


「なんだろう?」


「アイビー、どうした?」


「サーペントさんの様子がちょっとおかしくて」


繋がりがあるのは、あの壊れたカゴだよね。

もしかして中に入っていた魔物に、関係があるのかな?

それにあの男性が言った、魔法陣が気になる。


「サーペントさん、カゴの中に入っていた魔物はどうしたの?」


さっきは「食べたのかな」と、思ったけど違うのかな?


「ククククッ」


私の言葉に、スルスルっと森を移動するサーペントさん。


「ククククッ」


さっきと同じように振り返ると、私を見た。


「付いて来いって事だな」


お父さんの言葉に頷くと、サーペントさんの後を追う。


「あっ、お父さん。ジナルさん達に言わなくていいの?」


私の言葉に立ち止まったお父さん。

そして少し思案すると、サーペントさんを見る。


「遠いのか?」


「ククククッ」


お父さんの言葉に、首を横に振るサーペントさん。

遠くないなら、少しぐらい離れても大丈夫かな?


「すぐに戻って来よう」


「分かった」


「「「……」」」


無言で付いて来るソラとフレムと、なぜか2匹の勝負に参加し始めたソル。

あの賑やかな鳴き声が聞こえないと、少し寂しいな。


3匹の様子を見ながら、少し急ぎ足でサーペントさんの後を追う。

5分ほど森の中を歩くと、少し開けた場所に出た。


「「あっ!」」


開けた先には、ぐったりと倒れているサーペントさん。

慌てて近付こうとすると、お父さんに腕を掴まれた。


「お父さん?」


「駄目だ」


その言葉に首を傾げる。

また微かに体が上下しているから、生きているのにどうして?


「魔法陣だ」


「えっ?」


お父さんの視線を追うと、サーペントさんの体には魔法陣が刻まれ、そこから血が溢れていた。

目や口からも血が出て、その表情は苦痛に歪んでいる。

慌てていたせいで、見逃していた。


「この子は」


「教会の奴等に、変異させられたんだろう」


マーチュ村を、血を流しながら襲ったサーペント達を思い出す。

まさか、まだいたなんて。


「ククククッ」


サーペントさんの鳴き声に視線を向けると、ソルに向かって鳴いていた。


「ぺふっ」


「ククククッ」


サーペントさんとソルが会話するように鳴き合うと、ソルは倒れているサーペントに近付いた。

微かに目を開けたサーペントは、ソルを見ると小さなうめき声をあげる。

その様子をジッと見たソルは、体を1回ぶるっと震わせるとサーペントを包み込んだ。


「大丈夫かな?」


これまで、魔物を変異させた魔法陣など食べたことな無いはず。


「しゅわ~、しゅわ~。……しゅわ~、しゅわ~、しゅわ~、しゅわ~」


あれ?

途中から、食べる勢いが増したと思う。

もしかして、気に入ったのかな?


「魔法陣が消えていく」


お父さんの言葉に、サーペントの体に刻まれていた魔法陣を見る。

ソルの消化する音に合わせてゆっくり、ゆっくりその姿を消していくのが見えた。


「うまくいったんだね」


「そうだな」


ぴょん。

ソルがサーペントの上に跳び乗ると、そのまま私の方に跳びこんで来た。


「おつかれさま」


ソルを腕に抱いたままサーペントに近付くと、そっと様子を窺う。

その隣でお父さんが、サーペントの顔に手を伸ばした。


「死んでいる」


お父さんの言葉に、腕の中にいるソルをギュッと抱きしめる。


「そっか」


魔法陣から解放は出来たけど、助ける事は出来なかったのか。


「ククククッ」


不意に、スリっと私の体に顔を摺り寄せるサーペントさん。

その目を見ると、温かい何かを感じた。


「ククククッ」


「感謝してるみたいだな」


「ククククッ」


お父さんの言葉に、嬉しそうに鳴くサーペントさん。

あぁサーペントさんは、この子を魔法陣から助けたかったのか。


死んでしまったサーペントを見る。

さっきまで苦しそうに歪んでいた表情が、穏やかになっているのが分かった。

良かった。

穏やかにいけて。


「燃やさないとな」


お父さんの言葉に、視線を向ける。

確かに、森では埋めても魔物に掘り起こされてしまうため、亡くなった者を弔う時は燃やす事になっている。


「大丈夫?」


人とは違い、体が大きいサーペント。

周りの森に火が飛び移らないように、気を付けないと。


「ジナル達に協力してもらうから、大丈夫だろう」


「そうだね。あっ、そろそろジナルさん達にこの子達の事を言わないと」


少し時間が経ってしまった。

もしかしたら、探しているかもしれない。


「戻ろう」


お父さんと急いで、元いた場所まで戻る。


「いた!」


「良かった。心配したんだ」


ラットルアさんとセイゼルクさんが慌てて、こちらに駆けて来るのが見えた。


「悪い。少し用事が出来て」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


「あれ? 勝負は、もういいの?」


私の言葉に、ソラとフレムがぴたりと動きを止める。


「勝負の事を、忘れていたな」


「ぷっ!」


「てりゅ!」


お父さんの言葉に、強めに返事をするソラとフレム。

忘れていた事を誤魔化してるみたいだな。


「刺客は捕まえたんだが、様子がおかしいんだ」


あっ、男性の事をすっかり忘れていた。

ソラとフレムの事を言えないな。


「原因を聞いてもまともに答えない。だから、急いでこの場所を移動しようという事になった」


それなら、もう大丈夫。

男性が言っていた「あれ」は、さっき亡くなったサーペントの事だろうから。


「それなら大丈夫だ」


セイゼルクさんを落ち着かせるように、彼の肩を叩くお父さん。


「大丈夫?」


セイゼルクさんが不思議そうにお父さんを見ると、彼はスッと上を指した。


「ククククッ」


「「えっ?」」


セイゼルクさんとラットルアさんの目が見開かれる。

そんな2人に、木から下りてきたサーペントさんが近付く。


「ジナル達の所に行こう。奴が怖がっていた魔物について説明するよ」


「ククククッ」


「はぁ、驚いたぁ」


胸を押さえているラットルアさんに、ちょっと笑ってしまう。

あっ、見つかった。


「いや、これは驚くぞ。アイビーだって、驚いただろ?」


「アイビーは、すぐに受け入れたぞ」


ラットルアさんの言葉に、お父さんが否定する。


「えっ、私も驚いたよ」


まぁすぐに、知り合いのサーペントさんだと分かったから、その驚きも消えたけど。


「そうか? 全く驚いている様には見えなかったけどな」


お父さんの言葉に、首を横に振る。


「それは、すぐに会った事があるサーペントだと思ったからだよ」


私の言葉に、セイゼルクさんとラットルアさんがサーペントさんを見る。

そしてなぜか私を見た。


「どうしたの?」


「いや、よく会った事があるサーペンだと分かったな」


ラットルアさんの言葉に、サーペントさんを見る。


「えっと……感覚?」


それについては、説明が難しいな。

話したわけではなく、なんとなくそう思っただけだからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔法陣のない世界を願いたい。
[一言] あーーーサーペントさんが一体成仏されたのですか。 魔法陣を体に埋め込むなんて、、、、。 組織も完全壊滅にいたってないから、こういう手口はまだまだ無くならないのですね。 アイビーのテイマーとし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ