821話 完成!
傷ついた手をソラに治してもらう。
しゅわ~、しゅわ~。
「ソラ、ありがとう」
「ぷっぷぷ~」
傷が消えていく掌を見る。
それにしても酷い傷だったな。
作業が終わりホッとすると、掌の痛みい襲われた。
慌てて確かめると、掌全体が赤くなって皮まで向けていた。
必死だったので気付かなかったんだろうけど、よく最後まで出来たなとちょっと感心してしまう。
作業中、シファルさんとヌーガさんが何度も「変わろう」と言った理由も、自分の手を見て分かった。
「ぷっぷぷ~」
私の両手から離れるソラ。
傷1つ無い綺麗な手に笑みが浮かぶ。
「ありがとう、ソラ」
ソラの治療は本当に凄いよね。
「アイビーは頑固だったんだな」
シファルさんを見ると、ポンと頭を撫でられた。
「そうかな?」
「間違いなく頑固だ。あんな手になってもキリを離さなかったんだから」
ヌーガさんにも頑固だと言われてしまった。
でも、それはちょっと違う。
「必死だったから、手の傷に気付かなかったの!」
私の言葉に2人が笑う。
本当なのにな。
「そうだ。紐の準備はしていないよな」
紐?
「あっそうか。紐がいるんだ」
全く考えていなかった。
どうしよう。
「これは、どうだ?」
ヌーガさんの掌には、3本の紐。
「これは魔物の毛なんだけど、強いから色々な事に使われているんだ。装飾品にも使われている。ヌーガの首元にある物にも使われているよ」
シファルさんは説明しながら、ヌーガさんの首元を指す。
ヌーガさんの首物には、魔物の牙を利用した装飾品がある。
その紐が、きっと魔物の毛なんだろう。
「貰っていいの?」
「もちろんだ」
ヌーガさんから魔物の毛を受け取る。
触るとしっかりした硬さがある。
色は白と黒と茶色。
「白を貰うね。これを、守護石に通して……」
あれ?
この後は?
「ちょっと待て、使えそうな物を出すから」
ヌーガさんの言葉に、私が守護石の事しか考えていなかった事に気付く。
紐の事も、守護石に紐を通した後の事も、頭の片隅にも無かった。
「はい」
ヌーガさんから、守護石より小さい透明の石を渡される。
その石には、既に紐を通す穴が開いていた。
「魔石だ」
「使っていいの?」
「あぁ、小さいしあまり価値は無い物だ」
「ありがとう」
この受け取った石をどう使えばいいんだろう?
「あと、これも」
ヌーガさんの手には、銀色の小さな丸い金具が数個乗っていた。
「守護石の下にこの丸い金具。そしてその下に魔石を、次に丸い金具に紐を通して」
ヌーガさんに教えてもらいながら、守護石の装飾品を仕上げていく。
2個目の金具を利用して紐を折り返して、もう一度、魔石と丸い金具に紐を通す。
最後に守護石に紐を通して……。
「次にこれだ。色は選んでくれ」
ヌーガさんが出してくれたのは、色とりどりの丸い玉。
とても小さく、何をする物か分からない。
「これに紐を通して、そしてこの丸い玉を平らに潰して守護石を動かないようにするんだ」
なるほど。
それにしてもヌーガさんは随分と詳しいし、色々持っているな。
丸い金具と同じ色にしよう。
「ヌーガはそういう物を作るのが好きなんだ。まぁ、彼の場合は主に骨や牙を使った装飾品だけど」
そうだったんだ。
ヌーガさんが、こんなに手先が器用だと思わなかった。
ちいさな丸い玉に紐を通して……道具を利用して潰して。
これだけでも動かなくなるんだね。
「紐の先にも丸い玉を付けるか? そのままだと味気ないだろう?」
「うん、そうする」
「紐の先は接着剤を使用しよう」
「分かった、ありがとう」
紐の先に小さな玉をそれぞれ通して接着剤て付ける。
接着剤が固まるまで待つ、と言っても数分でいいみたい。
「出来た!」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
えっ?
今まで静かにしていたソラ達を見る。
皆、私の手に持っている物を見ている。
「協力、ありがとう」
集中できるように静かにしてくれたのかな?
「そろそろ戻ってくるな」
確かに、お父さん達の気配が近付いて来ている。
急いで、使用した道具を仕舞う。
「ヌーガさん、シファルさん、ありがとう。とてもいい物が出来ました」
潰した玉が少し歪な形になってしまったけど。
きっと大丈夫。
「ドルイドは、きっと大喜びだろうな。目に浮かぶよ」
シファルさんの言葉に、神妙に頷く。
そうなってくれたら、嬉しいな。
「そうだろうな。間違いなく喜ぶだろう」
ヌーガさんもそう言ってくれるから、少し自信が持てるかも。
装飾品なんて、お店に並んでいる物を選んで作った事はあったけど、ここまで手作りしたのは初めて。
だから不安だったんだよね。
作った物を布で包んみマジックバッグに仕舞う。
いつ渡そう。
何だが、今からドキドキしてきた。
早すぎるでしょう!
「にゃうん」
「あっ、シエル。おかえり」
真っすぐ駆けて来るシエルに抱き付く。
あ~、落ち着く。
「ただいま、アイビー」
「お、おかえり」
ちょっとどもってしまった。
落ち着け、私!
お父さんが不思議そうに私を見ているから!
「狩りの守備は、どうだったんだ?」
シファルさんの言葉に、お父さんが笑顔を見せる。
「2匹だ」
凄い、この短時間に2匹も狩って来たんだ。
「お父さん、凄いね」
「そうか?」
「うん」
お父さんの手が私の頭を撫でる。
「それで、物は?」
ヌーガさんの言葉に、そういえばと周りを見るがガルガはない。
「今、ジナル達が解体をしているよ。少し離れた場所にある川で」
そうなんだ。
「俺はアイビーに用事があって、一足先に戻って来たんだ」
用事?
何か問題でも起きたのかな?
「ガルガの肉はどれくらいの大きさに切ればいいんだ?」
「えっ? 用事ってそれ?」
「あぁ、そうだよ。『アイビーが作りたい料理に合わせて切るから、聞いて来てくれ』と言われたんだよ」
もっと何か重要な用事があるのかと思った。
お父さんの言葉に、小さく笑ってしまう。
「『少し大きめに切って欲しい』と、お願いして」
小さくは切れるから、大きいまま欲しいな。
「分かった。じゃあ、言ってくるよ」
「待って! 一緒に行きたい」
お父さんの腕を慌てて掴む。
ジナルさん達の解体する様子を、まじかで見てみたい
「良いぞ。それなら行こうか」
「うん。シファルさん、ヌーガさん、行って来るね」
「あぁ、いってらっしゃい」
お父さんと私が、ジナルさんの下に向かうとソラ達も付いて来る。
「一緒に行くの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「……」
ソルは、応えるのは面倒になったみたい。
チラッと見るが、眠そうな目でソラ達を追っていた。
「おっ、アイビーも一緒か」
ジナルさん、セイゼルクさん、ラットルアさんに手を振る。
「皆、おつかれさま」
2m以上ありそうなガルガが、1体地面に置かれている。
1体は、既に解体中だ。
「それで、大きさはどうする?」
ジナルさんの言葉に、1つ頷く。
「大きめて切って欲しい」
「分かった。全部、同じぐらいの大きさで良いか?」
「うん」
皆の解体作業を見る。
手伝おうかと思ったけど、何もしない方がよさそう。
「あっ、お肉を包むぐらいなら、していいよね」
解体され、積みあがっていたお肉をバナのは葉で包む。
そして、用意されていたマジックボックスに入れていく。
「大量のお肉だな」
何を作ろうかな。
お父さんの好きな串焼きは決定しているけど、他には何がいいだろう。




