820話 狩りと磨き
洞窟から村道に戻る事になった。
もしかしたらジナルさんを狙う者が、まだいるかもしれないそうだ。
マーチュ村を出発してから少し時間が経っている。
だからもういないのでは? と思ったけど、高額な報酬に目が眩んだ者達は頑張るそうだ。
ただ、村道で隠れて待っているだけでも体力は消耗する。
だから、待っている者は愚か者だと言っていた。
そして今日は村道を目指して2日目。
急いでいく必要は無いという事で、湖を見つけたのでのんびり休憩を取っている。
というか、本当に村道に戻る気があるのかな? と思うほどのんびりしている。
待っている者がいるなら、ちょっと可哀想かも。
……いや、ジナルさんの命を狙っているから可哀想では無い。
自業自得だね。
のんびりお茶を飲みながら、1つ悩みがある。
お父さんとずっと一緒の為、守護石の加工が出来ない。
これは、どうすればいいんだろう。
「アイビー、これから狩りに行く事になったけど、どうする?」
「ぷぷっ?」
「てりゅっ?」
「ぺふっ?」
えっ、狩り?
驚いてお父さんを見ると、お父さんと一緒に来たジナルさんがポンと私の頭を撫でた。
そしてソラ達の頭も、順番に撫でる。
「この辺りには、ガルガという魔物がいるんだ。久しぶりに食べたくなったから狩ってくるよ」
ジナルさんの言葉に、ガルガを思い出す。
確か大きさは2m弱で、2本足で飛び跳ねる魔物だったよね。
気性が荒くて、頭の角で襲いかかってくると本で読んだ記憶がある。
お父さんは、動きが速くて角での攻撃だけでなく尻尾の攻撃にも注意が必要だと言っていた。
「あっ、お父さんが好きな魔物だったっけ?」
ガルガの肉を食べたのは、確かハタハ村。
ハタハ村でガルガの串焼きをお父さんは沢山食べていたよね。
「よく覚えていたな。あれは食べ始めると止まらなくなるんだよ」
本当に好きなんだなぁ。
「この辺りにもいるの?」
「あぁ、徐々に生息地域を広げている魔物で、この辺りにもいるのが確認されているんだ」
そうなんだ。
「アイビーはどうする?」
ジナルさんの言葉に視線を向ける。
んっ?
視線が合った瞬間、ジナルさんの視線が私の傍に置いてあるマジックバッグを見た?
何か気になる事でもあるのかな?
「あっ」
「どうした?」
私を、不思議そうに見るお父さん。
「なんでもない。私はここで待ってるよ。お父さん、美味しそうなガルガを狩って来てね」
「任せろ。あとガルガの居場所を探してもらうために、シエルも一緒に行くんだけど大丈夫か?」
「ぷぷっ!」
「てりゅっ!」
「ぺふっ!」
お父さんの言葉に、ソラ達は力強く鳴いて私を見る。
もしかして、ソラ達は「任せろ」と言っているんだろうか?
「ソラ達も、私と一緒にいてくれるの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
正解だね。
「お父さん、私は大丈夫だよ。気を付けてね」
私の言葉に頷くお父さん。
「シファルとヌーガは残るから」
「分かった」
狩りの準備を済ませると、シエルを先頭にお父さん達に姿が森に消えた。
「さてアイビー、やろうか」
やっぱり!
お父さんと私を別々にするための狩りだったんだね。
でも、ガルガは私も久しぶりに食べたいから、期待しよう。
「うん」
マジックバッグから、守護石を取り出す。
形は綺麗だから削る必要は無いと、シファルさんが言ってくれた。
でも、磨きは必要らしい。
「これを」
シファルさんから魔物の皮を受け取る。
「この皮で守護石を磨くんだ」
「ありがとう」
魔物の皮で守護石を包み込み、少し力を籠めて磨く。
結構力がいるな。
「アイビー、ちょっと確かめてみよう」
しばらく磨いていると、シファルさんから声が掛かった。
「うん」
魔物の皮から守護石を出す。
「うわぁ、綺麗」
元々綺麗に見えた守護石だけど、磨くと赤色と青色が鮮やかになっていた。
そのせいか、透明度も上がったように見えて、とても綺麗。
「良い感じだな。見せてもらっていい?」
「どうぞ」
守護石をシファルさんに渡すと、彼はジッと守護石を見つめた。
「ん~……ここ。まだ磨きが不十分かな?」
シファルさんの教えてくれた場所を見る。
「んっ?」
えっと、ここだよね?
綺麗に磨かれていると思うけど……あっ、少しだけ周りと違うかな?
「教えてくれて、ありがとう」
シファルさんから守護石を受け取ると、もう一度魔物の皮で磨く。
「もう、大丈夫じゃないか?」
私の隣で、様子を見ていたヌーガさんの言葉に魔物の皮から守護石を出す。
「凄いな」
「うん。本当に」
さっきより、キラキラしている様な気がする。
「見事だな。守護石は、腰から下げられるようにしたいんだったよな?」
「うん。そうだけど、どうしたらいいかな?」
「真ん中に穴を開けて紐を通す方法はどうだ? 後は、紐で守護石を落ちないように結ぶことも出来るが、見た目がちょっとな」
私が持っていた守護石も、穴に紐を通していたな。
あとは、形によっては台座にくっつける物もあったよね。
私が持っている守護石はまん丸。
台座は使えないし、紐を何重にも掛けるのもちょっと嫌。
「紐を通す穴は簡単に開けらえるの?」
「キリという道具で、簡単ではないが開けられるよ。ただ守護石は硬いから、ちょっと覚悟が必要かな」
キリ?
覚悟?
「俺のは無くしたけど、ヌーガは持っているよな?」
「あぁ、少し待て」
ヌーガさんがマジックバッグから緑の箱を取り出す。
そしてその箱の中から、先のとがった道具を取り出した。
「守護石より硬い鉱物で作られているから、穴を開ける事が出来るんだ」
ヌーガさんからキリを受け取る。
先はかなり鋭い。
扱いに気を付けよう。
「守護石を、これに固定して」
シファルさんが、マジックバッグからカゴに入った土の塊を取り出す。
不思議に思いながら受け取ると、土の塊には物をくっつける性質がある事に気付く
「この土には粘着性があるんだ。これに守護石を少し埋めて置くと動かなくなるから、穴があけやすくなるんだよ」
「なるほど」
確かに丸い物を固定するのに、いい方法だね。
守護石を土に少し埋めて固定すると、穴を開ける場所に印をつける。
「最初は穴を開ける場所にキリを突き刺したらいい。少し溝が出来たら、キリが滑る事は無くなるから」
「わかった」
穴を開けると決めた場所にキリを突き刺す。
「あれ?」
突き刺さらなかった。
もう一度。
コツ。
突き刺さった。
でも、出来た溝はかなり浅いな。
キリが滑らないように気を付けよう。
「あとはひたすら、両手でキリをくるくる回すだけだよ。回す時にキリを少し下に押し付けるといい」
たぶん、それが大変なんだろうな。
「よしっ」
両手でキリを持つと、少し下に押し付けながらキリをくるくる回す。
くるくる、くるくる、くるくる。
「これ、かなり大変だね。少しは、穴が深く、なったのかな?」
全く手ごたえがないんだけど。
「ん~、最初はヌーガにしてもらおうか」
シファルさんの言葉にキリを止め、穴を見る。
……最初とほとんど変わっていないような。
「最初は一番難しいから」
シファルさんの言葉に頷き、ヌーガさんにお願いする。
ヌーガさんがキリを回すと、ゆっくりと守護石の中に飲み込まれていく。
「凄い」
ヌーガさんの力で、ようやく穴が深くなりだした守護石。
なんだかちょっと悔しい。
私では、ほとんど変化が無かったのに。
チラッと、お父さんが行った方を見る。
あと、どれくらい時間があるだろう。
間に合うかな?
「ヌーガさん、私がやります」
「分かった。手袋をした方がいいぞ」
「あっ、そうだね。アイビーの手は俺達と違って柔らかいから」
旅で色々な道具を扱うから、それなりに硬いけどシファルさん達ほど硬くない。
おそらく、キリを回す作業で傷がつくだろう。
シファルさんから手袋を受け取る。
「ありがとう」
準備完了。
絶対に、私の力で完成させる。
「う~」
あれから1時間ぐらい?
もう手が限界。
途中でシファルさんに手伝って貰ったお陰であと少しなんだけど。
「う゛~……」
あと少しなんだけど……手の感覚が。
「あっ!」
硬い物が無くなった感覚。
もしかして。
「おめでとう。無事に貫通したな」
「良かった~」
はぁ~、まさかこんなに大変だとは思わなかった。
シファルさんとヌーガさんに半分以上手伝って貰わなかったら、絶対に終わらなかった。
「シファルさん、ヌーガさん、ありがとう」




