819話 外!
「ぐあぁ~」
「ぎゃあう~」
「にゃうん!」
魔物達の唸り声と、シエルの楽しそうな声が洞窟内に響く。
そして走り回る複数の足音と、洞窟の壁にぶつかる音が数回。
全て音だけなのは、巻き込まれない様に少し離れた場所にいるためだ。
「シエルは、本当に楽しそうだな」
ジナルさんの言葉に、シファルさんが笑って頷く。
「ずっと我慢していたからな。思いっきり暴れているんだろう」
確かにシエルは、魔物を倒したいのに我慢してくれていた。
ジナルさんが、「帰りはシエルも魔物を倒してくれ」と言った時に、かなり喜んでいたのは知っている。
でもまさか、帰りの魔物をシエルが全て倒して回るなんて、思わなかった。
まぁ、声からも分かるぐらい楽しそうなのでいいけど。
「にゃ! にゃ!」
本当に楽しそう。
なんだか、シエルの相手をする魔物が可哀そうになって来た。
それにしても、どうしてジナルさん達は武器をマジックバッグに仕舞ったんだろう。
あれを見て、帰りは魔物がいないと思っていたから声が聞こえた時は驚いた。
「どうした?」
お父さんを見ると、いつもの武器に手を置いている。
何かあった時に、すぐに対応するためだろう。
「ジナルさん達が、使っていた武器を仕舞ったからどうしてかなって思って」
「あぁ、あれか。彼等がさっきまで使っていたのは、普段使っている武器では無いんだ」
「そうなの?」
「あぁ、気になって購入した新しい武器を使っていたんだ」
「新しい武器だったんだ」
あれ?
つまり、試し切りしていたという事?
「ジナルさん達は、本当に強いね」
絶対に問題ないと思わないかぎり、使い慣れた武器を使うはずだよね?
「そうだな。一緒に戦ってみて、本当にそう感じたよ」
んっ?
今の強いには、お父さんも入っているんだけどな。
だって、お父さんもいつもと違う武器を使っていたから。
「にゃうん」
満足そうに鳴きながら戻ってくるシエル。
「お疲れさん。ありがとうな」
「にゃうん」
ジナルさんの言葉に、尻尾を揺らすシエル。
本当に機嫌が良い。
「マジックアイテムの確認に入るぞ」
セイゼルクさんの言葉に、洞窟のあちこちに落ちている黒い箱を調べていく。
私が調べたマジックアイテムは空。
外れだ。
それにしても、洞窟の奥から出入り口付近まで、かなりの数の魔物を倒したよね。
しかもかなり余裕で。
ジナルさん達も強かったけど、シエルはそれに輪をかけて強いみたい。
「あっ、当たりだ」
シエルが倒した魔物の中に、当たりのマジックアイテムがあったようだ。
あと少しで外だから、今日の当たりは全部で5個かな。
「それにしてもこの洞窟、当たりが多いし、魔物の復活も早い。しかも帰り道に現れる魔物も、ドロップ付き。普通は、帰りの魔物からドロップする事は少ないんだけどな。というか、帰りにこんなに多くの魔物が現れるのも珍しい」
そうなんだ。
ラットルアさんの言葉に、手に持っている黒い箱を見る。
そして周りにある黒い箱に視線を向ける。
正確な数は分からないけど、行きと同じぐらいの数だと思う。
マジックアイテムをドロップする数も。
「少し異常な数だな」
ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんが頷いている。
もしかして、この洞窟には問題があるの?
「急いで外に向かおう」
ジナルさんの言葉に歩きだすと、洞窟の奥から魔物の声が聞こえた。
「まさか、もうさっきの魔物が復活したのか?」
ジナルさんの眉間に皺が寄る。
「この洞窟は、まだ完成されていないんじゃないか」
えっ、あんなに洞窟が深かったのに?
シファルさんの言葉に驚くけれど、皆は納得している様子。
本当に、完成していないという事?
「 魔力塊に、まだ相当な力が溜まっているんだろう。それだったら魔物を倒してもすぐに復活するし、マジックアイテムをドロップする魔物が多いのも説明がつく」
魔力塊は、ドロップする魔物が現れる洞窟を作る力の塊だよね。
それに、力が有り余っているという事でいいのかな?
「それなら落ち着くまでは、誰も近づかないようにした方がいいな」
お父さんの言葉にジナルさんが頷く。
「そうだな。力が溜まっている魔力塊は、不安定な状態だ。下手に刺激を与えると暴走するかもしれない」
つまり、私達がここにいるのも駄目なのでは?
というか、既に暴れ回ったよね?
「まぁ、既に暴れた後で言うのは手遅れだけどな」
やっぱりそうだよね。
ジナルさんの言葉に、皆で苦笑してしまう。
「早々に出ようか」
知らなかったとは言え、かなり不安定な魔力塊に刺激を与えたんだろうな。
大丈夫なのかな?
ガーン、ガーン。
「えっ?」
不意に響いた音に、全員が動きを止める。
「これは、本当にやばいかもな。ヌーガ先頭を頼む。俺は最後に回る」
「分かった」
ヌーガさんが先頭になって、小走りで出入り口に向かう。
ジナルさんは皆の後ろに回り、後方を確認しながら走っていた。
ガーン、ガーン。
再度聞こえた音に、つい振り返ってしまう。
「アイビー、急いで」
「うん」
お父さんに促されて、走る速度をあげる。
「出口だ」
先頭を走るヌーガさんの言葉に、ホッとする。
さすがに、魔力塊が暴走するかもしれないと言われたらちょっと怖い。
全員が洞窟から出て、少し離れた場所で立ち止まる。
「何も起こらないな。このまま何事も無ければいいけど。少し様子を見よう」
セイゼルクさんが洞窟の出入り口が見える岩に座り込むと、皆も近くの岩や倒れた木に座った。
「最後の最後に焦ったな」
「さすがに、ちょっとな」
ラットルアさんの言葉にシファルさんが頷く。
「はい」
えっ?
お父さんの言葉に視線を向けると、果実水の入ったコップを持っていた。
「ありがとう」
受け取って一口飲むと、喉が渇いている事に気付く。
コップの中身を一気に飲むと、息を吐き出す。
最後の音。
あれは、怖かったな。
お父さんが隣に座る。
皆に、果実水を配り終えたみたいだ。
「お疲れ様。お父さんも疲れているのに、ありがとう」
お礼を言うと、ポンと頭を撫でられた。
皆の様子を見る。
洞窟の方を見ている時もあるけど、いつも通りに戻っている。
もう、大丈夫という事なんだろう。
「お父さん。魔力塊が暴走すると、どうなるの?」
ジナルさん達でも緊張するという事は、大変な事が起こるんだよね?
「一番多いのが、洞窟から魔物が溢れてしまう事だな。数が少ないと問題はないが、大量に出て来るから影響が大きいんだ。あとは、洞窟が崩落したりかな」
つまり、大事になるんだね。
洞窟の方を見る。
先ほど聞こえた音は、全く聞こえない。
ジナルさん達を見ると、地図を広げているところだった。
次の目的地までの、確認かな。
肩から提げているマジックバッグに、そっと触れる。
ここには、お父さんに贈る守護石が入っている。
早く、形にして渡したいな。
 




