815話 暇だね
「ラットルア、後ろ!」
「了解」
セイゼルクさんとラットルアさんの連携攻撃で、あっという間に7匹の魔物が倒された。
「シファル、ドルイド!」
「ヌーガは前を、ドルイドは――」
「横から来るのは任せろ!」
ヌーガさんとシファルさんとお父さんの、息の合った体制で11匹いた魔物が1分もかからず倒された。
「こいつ等、四方から一気に襲いかかってくるぞ!」
ジナルさんの言葉に、私を守るように円形の陣形になり襲いかかってくる魔物に、それぞれ武器を構えた。
「にゃうん」
そっと静かに鳴くシエル。
頭を撫でると、ゴロゴロと鳴らして尻尾をゆったりと揺らす。
「暇だね」
「にゃうん」
周りで魔物と戦っているので、とても不謹慎な言葉だけど本当に暇なのだ。
ジナルさんが強い事も、ラットルアさん達が強い事も知っていた。
もちろんお父さんも強い。
そんな彼等が手を合わせて戦ったらどうなるか。
うん、魔物が手も足も出ない状態ってこういう事を言うんだろうな。
今もあっという間に、襲い掛かって来た魔物が倒された。
「凄いね。何匹いたんだろう?」
倒された魔物に近付く。
しばらくすると魔物の姿が消え、黒い箱が姿を見せた。
「やっぱり何度見ても不思議だな」
「どうしたの?」
ラットルアさんが私の傍に来て、近くにあった黒い箱を手に取る。
そして中身を見て、肩を竦めた。
「それも外れ?」
「うん。だいたい100匹の魔物を狩って、当たりは1個か2個かな」
そんなに当たりは出ないんだ。
「それより、何が不思議なんだ?」
次の黒い箱に手を伸ばしながら、私を見るラットルアさん。
「魔物がマジックアイテムになる事が、不思議だなって思って」
「そうか?」
ラットルアさんの言葉に首を傾げる。
「不思議に思わないの?」
「思った事は無いな。小さい頃から当たり前の事だったから」
そっか。
そうだよね。
私のこの感覚は、前の私の影響だ。
「あっでも、かなり昔はマジックアイテムをドロップするような洞窟は無かったみたいなんだ」
「そうなの?」
「あぁ。だから、魔物が消えてマジックアイテムをドロップする洞窟が出現した時は、国中を上げて大変だったみたいだぞ。洞窟に関する文献にも、その当時の混乱が載っているんだ。俺が読んだ文献には『魔物を倒したら、魔物が消えそこに不思議な物が突然に姿を現した。その不思議な物を調べた結果、生活に役立つ物が多いと判明。また、使っても今のところ体に影響は見られない。ただし調査はまだ必要だと考察する』と仰々しく書かれていたよ」
仰々しく、か。
でも初めて確認された時は、凄く驚いただろうな。
今までは、魔物は魔物でしかなかったのに、いきなり物に変わるんだから。
「今では当たり前なんだけど……確かに、当時は凄く驚いたというか、怖かったかもな」
「そうだね。驚きより怖かったかも」
私はドロップする物がマジックアイテムだと分かっているから、目の前で魔物が変化しても不思議に思うぐらいだけど、見た事も無い現象が目の前で起こったら、それは怖いだろうな。
「残念。全部外れみたいだ。奥に行こうか」
ジナルさんの言葉に、ラットルアさんと共に洞窟の奥に向かう。
この洞窟、かなり大きいみたい。
そうとう大きな魔力塊があるんだろうな。
「アイビーは。どんな洞窟が好き?」
ラットルアさんの言葉に首を傾げる。
「どんな?」
今洞窟には、3つの種類がある。
1つ目は、自然に出来た小さな洞窟に森の魔物が住み着いたところ。
住み着いた魔物が安全に過ごすために、洞窟を大きくしていく事が多々ある。
そして岩を削って広げた洞窟の中には、長い年月をかけて生まれる魔石や宝石が埋まっていたりする。
2つ目は、魔力の塊である魔力塊が作ったところ。
魔力塊は洞窟に住む魔物を誕生させ、この魔物を倒すとマジックアイテムに変わる。
そして3つ目は、1つ目の洞窟に魔力塊が出来て作られたところ。
マジックアイテムをドロップする魔物がいるのに、魔石や宝石も採れるので冒険者に一番人気だ。
ただ、洞窟の数は多くないけどね。
「私は、魔石や宝石の採れる洞窟が好きかな」
魔力塊が作った洞窟は、魔物が多い。
私では手に負えない。
「あれ? マジックアイテムやドロップとは誰が言い始めたの?」
「さぁ? 俺が読んだ文献には、不思議な物としか書かれていなかったな」
何か気になるな。
ん~、……ドロップにマジックアイテム?
なんだろう?
「あっ!」
「どうした?」
ラットルアさんが私を見るので、慌てて首を横に振る。
マジックアイテがドロップする洞窟を作ったのは、前世を持っていた者かもしれない。
だって、ドロップやマジックアイテムという言葉は、私の前世にあったものだから。
ふふっ、ドロップと聞くたびに「ゲームみたいだ」と思っていたんだよね。
食糧が足りない時代に、簡単に作れる米を願った者がいた。
それなら生活を良くするために、ゲームを知っている者がマジックアイテムのドロップを願ってもおかしくない。
ラットルアさんが読んだ文献に「生活に役立つ物が多い」と書いてあったみたいだから、皆の生活を良くしたいと願ったのかもしれない。
「来るぞ」
ジナルさんの言葉に、ハッとする。
駄目だ。
暇だとしても、考え込んでいたら怪我をするかもしれない。
「大丈夫か?」
前方で戦っていたお父さんが、後ろをゆっくりと歩くラットルアさんと私の下に来る。
「大丈夫だよ。戻って来ても大丈夫なの? ……あぁ、もう倒したんだ」
魔物を倒す時間が、少しずつ早くなっているような気がするのは気のせいかな?
「ドルイド、変わってくれ」
「分かった。アイビー、疲れたら言ってくれ。俺達は、戦いで気が高ぶっていて疲れが分かりづらくなっているから」
「分かった」
シファルさんの言葉にお父さんが、私の肩をポンと軽く叩くと前に向かった。
ラットルアさんも、お父さんと一緒に行くようだ。
「アイビー。壁を見て」
後ろに下がって来たシファルさんの言葉に、壁に視線を向ける。
特に何も無い。
首を傾げてシファルさんを見ると、上を指さした。
「あっ」
シファルさんが指した方を見ると、壁の一部がキラッと光っていた。
「守護石かな?」
「にゃうん」
私の言葉に応えるように、シエルが小さく鳴く。
「守護石みたいだな」
「そうだね。シエル、ありがとう」
頭を撫でると、満足そうに喉が鳴るシエルに笑みが浮かぶ。
「どうやらこの辺りから、数が増えるみたいだ」
シファルさんの言う通り、壁に埋まっている守護石が少しずつ増えていく。
「近くで見てみようか」
シファルさんは、お父さんの様子を見た後に私を見た。
「うん」
お父さんは、一番前で楽しそうに魔物を狩っているので、私の行動はバレないだろう。
「間違いなく守護石だな」
壁に近付いて、光る物を調べたシファルさんが笑みを見せる。
「良かった。でもこれは、あまり良くないみたい」
目の前にある守護石は、白い濁りが少し強い。
「そうだな。まだ時間が必要な守護石だな」
守護石も魔石も宝石も、時間をかけて透明になっていくらしい。
白く濁っている目の前の守護石も、ゆっくり時間を掛ければ透明になるんだろう。
「ゆっくり探しながら行こうか」
「魔物はいいの?」
魔物というか、マジックアイテムかな?
「あぁ。皆がいれば、いつかは『当たり』を引くだろうから、俺が別行動しても問題ないよ」
「ありがとう。シエルも、一緒に探そうね」
「にゃうん」
壁に埋まっている守護石を見ながら、皆の後を追う。
「奥に行くほど、透明度の高い守護石になっているみたいだな」
「うん」
前を見ると、まだまだ奥に洞窟は続ているように見える。
「この際、一番奥の守護石を取りたいな」
「にゃうん」
シファルさんの言葉に、尻尾を揺らすシエル。
「ふふっ。シエルも賛成なの?」
「にゃうん」
「決定だな」
「うん」
どんな守護石が、かなり楽しみだな。




