813話 洞窟に到着
「ここが、シエルが教えてくれた洞窟?」
蔓や根に覆われた岩を指す。
「にゃうん」
シエルの反応にジナルさんが、岩を調べ始める。
「シエル、ありがとう」
シエルの頭を撫でると、ゴロゴロと喉が鳴っているのが分かる。
「あった、出入り口だ」
ジナルさんの声に視線を向けると、蔓の間から洞窟の出入り口が見えた。
「シエル、ありがとう。以前の洞窟とは見た目がかなり違うから、案内が無かったら辿り付けなかったかもしれない。それにしても、洞窟の周辺が凄い状態だな」
ジナルさんの言葉に、お父さんが頷く。
この辺りは蔓性の植物が多いのか、洞窟周辺の木に絡みついている。
しかも、蔓性の植物が木から木へと蔓を伸ばしているため、視界を遮っている。
「随分と高い木も多いな。そのせいで薄暗い」
セイゼルクさんの言う通り、洞窟周辺の木々は高い木が多い。
しかも木と木の間が狭く、太陽の光を遮っている。
「薄暗くて見通しが悪いから、魔物に気を付けないと」
地図に印をつけていたシファルさんが、周りを見回す。
「まぁ、今はシエルがいるから大丈夫そうだけどな」
「にゃうん」
ラットルアさんの言葉に当然と鳴くシエルに、皆が小さく笑う。
「シエルは、頼もしいな」
「にゃうん」
ジナルさんに褒められて、嬉しそうに尻尾を揺らすシエル。
そんなゆっくりした時間に、お父さんの影から周りの様子を窺っている存在が1匹。
バレないようにそっと見ると、体を少し揺らすのが分かった。
「ぷっぷぷ~」
絶対にやると思った。
さっきから、私の様子を見ながら機会を窺っていたもんね。
「バレてるよ」
飛び出したソラをバシッと両手で捕まえる。
今日は、確保に成功!
「ぷ~!」
不服そうになくソラ。
「もう、危ないでしょ! 洞窟の中にどんな魔物がいるか分からないんだよ? 怪我でもしたらどうするの?」
ソラを抱きしめると、少し体を揺らす。
「ぷっ」
チラッと私を見たソラは、小さく鳴いた。
「ソラは、洞窟には興味ないよな?」
お父さんが、私の腕の中にいるソラを撫でる。
「えっ? でも、洞窟に入ろうとしたよ?」
「ソラは洞窟に入ろうとしたのではなく、アイビーの隙を狙うという遊びをしていたんだと思うぞ。そうだろ、ソラ?」
「……」
そっとお父さんから視線を逸らすソラ。
どうやら言い当てられて困っているみたい。
「ソラはアイビーと遊びたいんだよ」
「ぷっぷぷ~」
小さな鳴き声で同意するソラ。
「そうだったんだ。確かに今日は、休憩を挟まずに洞窟まで来たから、ソラ達と遊べなかったね。ごめんね」
「ぷっぷぷ~」
嬉しそうに腕の中で鳴くソラ。
「てりゅっ!」
フレムが一声鳴くと、私の腕の中のソラに向かって飛び跳ねる。
慌てて避けようとするが、間に合わずソラに直撃してしまう。
「ぷふっ!」
ソラから、おかしな鳴き声が聞こえた。
「てりゅっ!」
地面に着地したフレムは満足そうに鳴くと、ソラを見上げる。
「ぷ~!」
いつもより少し低いソラの鳴き声。
「てっりゅ、てっりゅ」
まるで揶揄うようなフレムの態度。
そんな2匹に溜め息がこぼれる。
「ソラ、フレ――」
「ぷ~!」
腕から勢いよくフレムに向かって落ちるソラ。
「でりゅ」
ソラが見事、フレムの上に落ちた。
すると、ソラとフレムの追いかけっこが始まる。
「なんだ、また始まったのか?」
洞窟の出入り口を確認していたジナルさんが、苦笑を浮かべる。
「はい、またです」
旅の道中、何度も見かけたソラとフレムの追いかけっこ。
もう、皆の中では見慣れた光景だ。
ソルは、そっと肩から提げたバッグの中を見る。
今日は寝る日に決めたのかな。
「どうだった?」
ラットルアさんが、洞窟に入る準備をしながらジナルさんを見る。
「出入り口は蔓性の草で少し入りにくいけど、中は大きな空洞になっていたよ。奥に続く道らしき物も見つけた。ただ、そこまでしか光が届かなかったから、そこからは洞窟に入って確認をするしかないな。魔物の気配は感じないが、洞窟の中の気配は読みづらいから警戒は必要だ」
「そうか。洞窟にはすぐに入るのか?」
「いや、少し休憩しよう。今日はけっこうな速さで歩いて来たからな」
ラットルアさんの質問に首を横に振るジナルさん。
2人の会話を聞いて、お茶の用意を始めるとシファルさんが傍に来た。
「手伝うよ」
「ありがとう。と言っても、お茶を淹れるだけだけど」
マジックバッグからお湯の出るポットと皆のコップを出す。
お茶の葉をポットに入れて、ゆっくりゆする。
しばらくすると、周りにお茶の香りが広がった。
「このお茶、香りがいいよな」
「うん。マーチュ村の周辺で採ったお茶の葉なんだけど、他の場所で採った物とは香りが違うんだよね」
それぞれのコップにお茶を淹れていく。
「アイビー。今日のお菓子はこれにしないか?」
シファルさんが、マジックバッグから少し大きなカゴを取り出した。
「どうしたの、それ?」
シファルさんがカゴの開けると、中には色鮮やかな赤くて丸いお菓子。
少し大きめなので食べ応えがありそう。
「果物を練り込んで作った焼き菓子なんだ。マーチュ村で知り合った人が、道中に食べてくれって作ってくれたんだよ。今日はいつもよりお昼が軽めだったから、このお菓子がいいかなって思ったのさ」
「軽め? 確かに今日のお昼は、おにぎりとサンドイッチだけだったけど」
お父さん達の食べた量は、決して軽くないと思う。
「うん、軽め」
そうなのかな?
あっ、シファルさんが軽めと言うなら、お父さん達も軽めと感じているのかも。
「うん。では、その焼き菓子で」
それなら、食べ応えがありそうなお菓子がいいよね。
「皆。お茶が入ったよ」
「「「「「ありがとう」」」」」
洞窟に入る準備をしていた皆は手を止めると、お茶とお菓子を取ってそれぞれ休憩を始めた。
最後にシファルさんと私がお茶とお菓子を取る。
お父さんの近くの岩に座ると、焼き菓子を食べる。
「美味しい」
しっとりした生地に、小さな果物が混ざっている。
甘酸っぱい香りに果物の酸味もいい。
あっ、食べてしまった。
少し大きめだったのに。
「もう1個、貰っていい?」
シファルさんに聞くと、どうぞとカゴを渡してくれた。
中を見ると、皆もお替わりをしているのか随分と数が減っていた。
「残りは、何個ある?」
「8個だよ」
最初は40個入っていたので、かなり減ったよね。
シファルさんを見ると、彼は周りを見てから私を見た。
「遠慮せずに、食べたい数を取った方がいいぞ。ラットルアとセイゼルクが、まだ食べたそうにしているから、すぐに空になりそうだ」
「ありがとう。……では、2個貰うね」
うん、やっぱり美味しい。
「俺はあと1個」
あれ?
シファルさんの方が少ない。
「これが3回目のお替わりだからな」
もうお替りをしてたの?
知らなかった。
2個目を食べきって、3個目。
ちょっと多かったかな。
「ごちそうさま」
食べた~。
お腹いっぱいだ。
「ぷっぷぷ~」
楽しそうに鳴きながらソラが、座っている私の膝の上に跳びのる。
あとで来たフレムもソラと同じように、膝の上に跳びのった。
「どうしたの?」
2匹が落ちないように抱きしめると、楽しそうに揺れる2匹。
「機嫌がいいみたいだな」
お父さんが2匹の頭を撫でると、揺れ方が少し激しくなる。
「そうみたい。どうしたんだろう? うわっ」
ソラとフレムは、腕から飛び出すと洞窟の前まで跳んで行く。
そして、私を見ると2匹で鳴いた。
「もしかして洞窟の中に入りたいの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラは、興味なさそうだったのに。
「ソラとフレムも興味が湧いたみたいだし、そろそろ中に入ろうか」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ジナルさんの言葉に反応するソラとフレム。
そんな2匹を見ながら、片付けと洞窟に入る準備をする。
「アイビー、ソルはどうしたんだ? 見かけないんだけど」
「ここ。今日は寝る日に決めたみたい。バッグから出てこないの」
肩から提げたバッグの蓋を開けて中を見せると、ぐっすり眠っているソルの姿。
昨日は楽しそうに1日中遊んでいたから、疲れたのかな?
「行くぞ~」
ジナルさんの声に急いで洞窟の前に行く。
うわ~、ドキドキしてきた。
シエルが薦めるという事は、かなり良い守護石があるはず。
絶対に「これだ!」という物を見つけてみせる!




