812話 回収済み?
「アイビー。昨日の奴等は、生きたまま回収されたから」
お昼の準備をしていると、ジナルさんが私の下に来た。
「昨日の? あっ、村道に置いて来た刺客たちですか?」
「そう。無事に仲間達に見つけられたようだ」
ジナルさんの言葉に、ホッとした。
森に置き去りにしてきたから、少し気になっていたんだよね。
「あれ? 回収した事がどうして分かったんですか?」
ジナルさんに釣られて回収と言ってしまったけど、保護?
いや確保かな?
「マジックアイテムが、正規の方法で解除されたから分かるんだよ」
「そうですか」
正規の方法で解除されたら、ジナルさんが持っている何かが反応でもするのかな?
ジナルさんを見るが、それ以上の説明は無い。
不思議に思っていると、ふっと笑ってポンと頭を撫でられた。
「そのマジックアイテムについては、極秘なんだ。悪いな」
「いえ。無事なら良かったです」
死んでしまったら、悪い事をした気持ちになっていたと思うから。
例え相手が刺客だったとしても。
「美味しそうだな」
ジナルさんが私の手元を見る。
「あと少しで完成です」
今日のお昼ご飯は、牛丼もどき。
皆、大好きなんだよね。
ご飯は大量に炊いたし、上の具も大鍋で大量に作った。
たぶん、足りるはず。
「出来ましたぁ」
ジナルさんから報告を聞いた約10分後。
牛丼もどきが完成。
「お替りは各自でお願いします」
「「「「「は~い」」」」」
一斉に食べ始めるお父さん達。
……凄い勢いだな。
ご飯と具の入っている大鍋を見る。
さすがに足りるよね?
「はぁ、食べた~」
丼物は、ちょっと食べ過ぎてしまうんだよね。
お茶を飲みながら、お腹をさする。
んっ?……いつもより食べたかな?
「ヌーガ! お前何度目のお替わりだ?」
セイゼルクさんの言葉に視線を向けると、大鍋を持ち上げているヌーガさんがいた。
「まさか、もう無いのか?」
セイゼルクさんの声に、驚いてしまう。
もしかしてあの大量に作った具が、無いの?
えっ、本当に?
25人分ぐらい作ったつもりだったんだけど。
「「ごちそうさま」」
お父さんとシファルさんの言葉が重なる。
視線を向けると、シファルさんが満足そうな表情でお茶を飲んでいる。
お父さんも、同じような表情でゆったりと休憩を始めた。
良かった、足りたみたい。
「早い者勝ちだ」
ヌーガさんの勝ち誇った表情に、セイゼルクさんの眉間に皺が出来る。
そしてため息をつくと、「4杯目」と呟いた。
3杯も食べてくれたんだ。
セイゼルクさんのお腹辺りに視線を向ける。
……自分のお腹に手を当てる。
ちょっと膨らんでいる。
もう一度セイゼルクさんのお腹辺を見る。
いつもと変わらないのはどうして?
「どうしたんだ?」
「なんでもない」
お父さんの質問に首を振って答えると、不思議そうな表情で私を見た。
そしてツンと私の頬を指で軽く押した。
「何かあったのか?」
食べた後のお腹の膨らみが気になったなんて、言えない。
「なんでもないよ。それより後片付けを始めるね」
皆、食べ終わったみたいだし。
「アイビーは休憩していて良いよ。よく食べた者が、後片付けをすればいいから」
そう言ったシファルさんは、ヌーガさんとラットルアさんを見て笑った。
「宜しく」
「「分かった」」
少し焦った表情のラットルアさんと、いつもと変わらないように見えるヌーガさん。
どうやらこの2人が、牛丼もどきをたくさん食べてくれたみたいだ。
食べる量に驚いたけど、完食してくれるのは嬉しい気持ちになる。
「ぷぷ~」
「てりゅ~」
コロコロコロ。
ソラとフレムの鳴き声と何かが転がる音に、慌てて周りを見る。
「あそこだ」
お父さんの指す方を見ると、2匹が近くにある丘の上から転がってくる姿が見えた。
それに慌てて立ち上がるけど、ソラ達は私達の傍まで転がってくるとぴょんと跳ねて着地した。
そして楽しそうに2匹で縦に揺れている。
「遊び?」
制御できずに転がって来たのかと思ったけど、違うみたい。
「そうみたいだね。ソラもフレムも楽しそうだ」
シファルさんの言葉に一声鳴く2匹は、丘の上に向かってしまう。
あっ、ソルも参加した。
しばらくすると丘の上に3匹の姿があった。
そして、
「ぷぷ~」
コロコロコロ。
「てりゅ~」
コロコロコロ。
「ぺふ~」
コロコロコロ。
次々と丘を転がって落ちて来るソラ達。
地面が少し凸凹しているのか、途中で大きく跳ねている。
それも楽しいのか、私達の傍まで転がってくるとすぐに丘の上に向かった。
「楽しそうだな」
「うん」
お父さんが笑いながら、ソラ達を見る。
シファルさんも、柔らかい視線をソラ達に向けている。
「ぷぷ~」
コロコロコロ。
「てりゅ~」
コロコロコロ。
「ぺふ~」
コロコロコロ。
「にゃ~」
コロコロコロ。
あっ、シエルがスライムになって参加し始めた。
「何回ぐらい、繰り返すんだろうね」
ソラとフレムは既に8回目。
ソルは7回目でシエルは6回目。
そろそろ、飽きてくれるといいんだけどな。
「ぷ~?」
コロコロコロ。
「あれ? ソラの様子がおかしくないか?」
シファルさんの言葉に頷く。
なんだか、声に元気がなくなった。
「大丈夫かな?」
近くに転がって来たソラの下へ向かう。
「ぷ~」
んっ?
なんだかふらふらしているみたい。
「これ、目が回っていないか?」
お父さんの言葉に、再度ソラを見る。
そう言われてみれば、そう見えるような。
「てりゅ~」
コロコロコロ。
「ぺふ~」
コロコロコロ。
「にゃ~」
コロコロコロ。
フレム達を見て確かめるが、目を回している様子はない。
「どうしてソラだけ?」
「ぷぷ~!」
「おっ、復活した」
シファルさんの楽しそうな声に、ソラがピョンと飛び跳ねる。
そしてフラム達と一緒に、丘を登っていく。
「ぷぷ~」
コロコロコロ。
「ぷっ!」
あっ。
「地面の凸凹で飛び跳ねた時に、不規則な回り方になるみたいだな」
お父さんの言う通り、転がっている途中でソラが大きく跳ねると、転がり方が不規則なってしまった
「ぷ~」
さっきと同じ状態で転がってくるソラ。
転がり方で目が回るのか。
面白い発見だな。
「ぷっ!」
負けないという感じで力強く鳴くソラ。
「ソラ、そろそろお昼の休憩は終わりだよ」
「ぷ~」
私の言葉に、不服そうになくソラ。
フレム達も、ソラと同じように鳴き始めた。
「遊んでいると、町への到着が遅くなってポーションやマジックアイテムが足りなくなるぞ。それでもいいのか?」
シファルさんの言葉に、ぴたっと鳴き止むソラ達。
それにお父さん達と笑ってしまう。
正直なんだから。
「終わったぞ。そろそろ移動しようか」
ラットルアさんの言葉に、マジックバッグに出した物を仕舞っていく。
それが終ると、マジックバッグを肩から提げた。
ジナルさんが先頭を歩きだすと、シエルがアダンダラに戻り先頭に駆けて行った。
「行こうか」
お父さんの言葉に頷くと、ソラ達に声を掛ける。
ジナルさんを追うように歩きだすと、横を楽しそうにソラ達が飛び跳ねる。
そんな皆の姿に笑みが自然と浮かぶ。
「お父さん、楽しいね」
「そうだな」
心配事も無くなったし、あとはお父さんの守護石を見つけるだけだね。
どんな洞窟なのか、今から楽しみ。




