811話 大丈夫かな?
少し離れた場所から、ジナルさんを待ち伏せしていた者達。
まぁ、刺客なんだろうけど。
その刺客たちの叫び声? 悲鳴? が聞こえる。
いや、聞こえるというか森の中に響き渡っている。
「これ、大丈夫なの?」
助けを求めているみたいだけど。
「大丈夫だよ」
シファルさんの笑顔に、お父さんが苦笑している。
本当に大丈夫なのかな?
少し前、ジナルさん達が無事に刺客を捕まえたのを確認した。
だから、もう大丈夫だろうと彼等の下へ行こうとしたんだけど、シファルさんに止められた。
刺客に、私の顔を見せない方がいいそうだ。
隠れていても、彼等もそれなりに訓練をしてきた刺客。
近付き過ぎると気付かれる可能性があるため、少し離れた場所で待つことになった。
シファルさんにこれからの事を聞くと、刺客との交渉だと言われた。
なんでも捕まえられた刺客たちは、情報と引き換えに自分の罪を軽くするための交渉を始めるそうだ。
雇い主を簡単に裏切る事に驚いていると、その程度の刺客だったからと言われてしまった。
それなりの訓練をしたその程度の刺客……つまり刺客としては強くないという事かな?
あぁだからジナルさんに簡単に倒されたのかと思っていると、シエルが一声鳴いてどこかへ行ってしまった。
急な行動に驚いて、シエルの去った方向を見ていると威嚇音が聞こえてきた。
近くに魔物がいるのかと焦ったけど、気配は感じない。
おかしいなと思っていると、数十人の悲鳴が森に響き渡った。
慌てて悲鳴が聞こえた方に行こうとしたら、お父さんに腕を掴まれ止められた。
そして「シエルなジナルに協力しに行ったみたいだな」と。
なるほどと納得。
それから数分。
悲鳴というか助けを呼ぶ声がどんどん減っている。
「もうそろそろ、素直に話をしたくなる者が出るかもな」
素直に話って……まぁ、早く話が聞けるなら良いか。
お父さんの守護石を見つけるための時間が多くなるからね。
「おっ、いた」
シエルの威嚇が聞こえなくなると、ヌーガさんが姿を見せた。
「話は出来そうか?」
「あぁ、とても素直に話をしているよ」
「そうか」
シファルさんとヌーガさんを見る。
うん、楽しそうですね。
「アイビー」
「はい」
ヌーガさんを見ると、ポンポンと頭を撫でられた。
それに首を傾げるとふっと笑われる。
何?
「シエルを寄こしてくれて、ありがとう」
んっ?
「あっ、それはシエルの判断なんです。私は何をしに行ったのか、お父さんに聞くまで分からなくて」
「そうなのか?」
「はい」
お父さんを見ると、小さく笑って頷いた。
ヌーガさんはお父さんを見て、もう一度私に視線を向けた。
「そうか」
あれ?
納得してくれたはずなのに、頭を撫でられているのはどうして?
「終わったぞ~」
セイゼルクさんの言葉に、ヌーガさんの手が止まる。
「外れのようで当たりのようだ」
セイゼルクさんの言葉に首を傾げる。
外れに当たり?
……くじ?
いや、違うよね。
「あれ? 当たり? ジナルは外れだと言っていただろう?」
「あぁ、狙っていた者からの刺客では無かったけど、思いもよらない相手からの刺客だったみたいだ」
もしかして、刺客の事を外れとか当たりと言っているのかな?
「そうなのか、それは良かったな」
シファルの言葉にセイゼルクが頷いている。
刺客が送られて来たらもっと緊張感が増しそうなのに、いつもと変わらない光景。
それだけジナルさんやセイゼルクさん達が強いという事なのかな?
「アイビー、どうした?」
お父さんが私の顔を覗きこむ。
「刺客が来たのに、いつもと変わらないから」
「あぁ、それは慣れているからだろう」
慣れるほど刺客が送られてくる事が凄いよね。
「シファルさん」
「どうした?」
「シファルさん達も刺客に慣れているんですか?」
「まぁ、いろいろな仕事をしていると怨まれる事があるから」
「冒険者も大変なんですね」
「はははっ」
あれ?
何かを隠したような笑い方だな。
もしかして、シファルさん達も裏に関わった事があるのかな?
「にゃうん」
「あっ、シエル。ジナルさんのお手伝いをしてくれたんだね、お疲れ様」
ゴロゴロゴロ。
喉を鳴らしながら私の頭に顔を擦りつけるシエル。
いつもより喉の音が大きい。
これは、かなり機嫌がいいんだろう。
「アイビー、ありがとう。シエルが来たお陰で早く終われたよ」
ジナルさんが来ると、私の肩にポンと手を置いた。
あっ、彼も間違っている。
「シエルは自分の意思でジナルさんのところに行ったんですよ。だから私は関係ないです」
私の言葉に、ジナルさんがシエルを見る。
そして私に視線を戻すと笑みを見せた。
「シエルはたぶん、アイビーの為に動いたんだよ」
「にゃうん」
えっ?
ジナルさんの言葉に、賛同するように鳴くシエル。
「そうなの?」
「にゃうん」
私の為だったんだ。
「こんな事に時間を使いたくなかったんだよな」
ラットルアの言葉に、シエルの喉がゴロゴロとなる。
これも正解なんだ。
あっ、この後の守護石探し。
その時間を、確保してくれたのか。
「ありがとう」
ギュッと首元に抱き付くと、ゴロゴロゴロといつもより大きな喉の音が聞こえた。
「あれ?」
ジナルさんにセイゼルクさん達4人、お父さんに私。
全員がこの場所にいるという事は、刺客たちを放置してきたんだろうか?
「どうした?」
「刺客たちはどうしたんですか?」
「あぁ、眠らせて村道の横に置いて来た」
ジナルさんの言葉に、唖然としてしまう。
えっ、それって魔物に……。
「んっ? あっ、魔物のエサにするわけでは無いからな。ちゃんと魔物除けも置いて来たし、マジックアイテムで仲間に合図を送っておいたから。ここからだとカシム町から仲間が引き取りに来るはずだ」
「そうなんですね。驚いた」
「誤解が解けて良かったよ。それにしても今の反応」
ジナルさんを見る。
私の反応がどうしたんだろう?
「冒険者が盗賊に遭遇した場合は、意識を奪ったあとマジックアイテムを使って合図を送るのが決まりなんだ。知らなかった?」
「はい」
「そうか」
「誰かが来るまで、待っておく必要は無いんですか?」
魔物除けがあっても、何か起こるかも。
「冒険者にも予定があるから、盗賊たちに付き合うわけにはいかないからな」
確かに期日が決まっている仕事中だったら、盗賊の事は後回しになるよね。
「だから、動けないようにして、緊急を報せるマジックアイテムで合図を送るんだ」
「そういう事なんですね。放置では無くて良かった」
「はははっ。詳しく話を聞くまでは生きておいてもらわないと困るから」
「はい。んっ?」
まぁ、気にする事はないか。
うん。
「さてと、ここでの用事も終わったし。洞窟に向かうか」
ジナルさんの言葉に、全員が頷く。
どうやら刺客より洞窟が気になるみたい。
チラッと、刺客がいるだろう方を見る。
ジナルさんが大丈夫と言ったから、大丈夫だろうけど。
村道に寝ている姿を想像すると、ちょっと可哀想。
「大丈夫だぞ」
「えっ?」
お父さんにポンと頭を撫でられる。
「緊急のマジックアイテムが起動したら、人を乗せられる魔物をテイムしている者達が、すぐに動けるように待機しているから」
「そうなんだ」
それなら、安心だね。
「まぁ、運が凄く悪かった場合は……」
最悪な結果になるという事か。




