810話 外れ
―ジナル視点―
待ち伏せしていた者達と、少し離れていた場所に隠れていた者達を1ヵ所に集める。
全員で18人。
正直に言って、弱すぎる。
「これは、外れだな」
予想外の事に、ため息が出てしまう。
せっかく、村道まで来て相手をしたのに。
「外れ?」
セイゼルクの言葉に、肩を竦める。
「あぁ、狙っている者から送られて来た刺客では無いみたいだ。こいつらは、さすがに弱すぎる」
相手の力を判断しやすいから俺だけで対応したのに、力を見る前に倒してしまった。
いや、全員が正面から、しかも連結もとらずにバラバラに攻撃してくるとは思わなかったから。
普通は、これだけの人数がいるんだ。
数を活かして攻撃してくると思うだろう?
「はぁ」
バラバラに襲ってくるから、味方どうして邪魔しているし。
しかも剣だけって。
素人でも、もう少し考えて攻撃するだろう。
ちょっとは楽しめると思ったのに、全く楽しめなかった。
「アイビーが、こっちに向かってきているな」
セイゼルクの言葉に、アイビー達がいる方向の気配を探る。
……3人とも、気配を隠すのが上手いな。
えっと、何処だ?
あぁ、見つけた。
確かに、こっちに向かっているな。
でも、アイビーの姿をこいつらに見られるのは危険だ。
「シファル――」
「こっちに来るのを止めて来るよ」
シファルがさっと、アイビー達の方へ駆けだす。
「ありがとう」
セイゼルクもだけどシファルも、考えを読むのが上手いな。
フィーシェ達みたいに、全てを言わなくても分かってくれるから動きやすい。
「これ、どうするんだ?」
ヌーガの言葉に、少し考えこむ。
話をする必要がある。
依頼した者の事や、依頼料についてもだな。
あと、どんな命令が下されていたのか。
チラッと18人に視線を向ける。
この中で、彼等の纏め役は……んっ?
あれ?
普通はすぐに分かるのに、どうして分からないんだ?
あぁ、18人の反応が分からなくさせているんだ。
誰もが下を見て、纏め役に視線を向けようとしない。
こういう時は、纏め役をチラチラ見るんだけどな。
「セイゼルク。こいつらの中で、纏め役が誰か分かるか?」
「……悪い。分からない」
セイゼルクも無理か。
もしかして、纏め役がいない?
でも、ここにいる者達以外の気配は無かった。
これは、聞くしかないか。
正直に話してくれるといいけど……無理だろうな。
「おい」
俺の言葉に18人が視線を向ける。
「纏め役はどいつだ?」
俺の言葉に、嫌そうな表情をして視線を逸らす者が9人。
下を向いてしまった者が7人。
そんな中2人の者が、ある人物に視線を向けた。
すぐに慌てた様子で下を向いてしまったが。
「あれか?」
2人が視線を向けた人物を見て、セイゼルクが首を傾げる。
彼が不思議に思うのも分かる。
視線を向けられたのが、気弱そうな男性だったから。
「無いだろう」
つい、男性を見て言ってしまう。
見た目からは、纏め役が出来るようには見えない。
「でも、まぁ反応したから話は聞かないとな」
セイゼルクの言う通り。
2人が反応したのだから、話を聞く必要がある。
気弱そうに見せている可能性もあるからな。
「おい。立て」
視線を向けられた男性の腕を掴む。
細身だが、筋肉はそれなりについているな。
ただ、剣を振り回すにしては少し物足りない。
「えっ?」
腕を掴まれた男性は、戸惑った様子で俺を見る。
「立て。話がある」
俺の言葉に、視線をさ迷わせる男性。
その男性の態度に、少し疑問を感じる。
戸惑っているが、怖がっている様子はない。
こいつ、何かあるな。
ジャリ。
セイゼルクが俺の傍に来るのが分かった。
男性の反応を見て、不信に感じたんだろう。
「聞こえなかったか? 立て」
ゆっくりと少し大きな声で男性を促す。
男性は、ちらっと後ろを見ると立ち上がった。
男性が視線を向けた方を見る。
体格が良く、腕や首に傷がある男性を見たようだ。
見た目だけで判断するなら、そちらの方が者纏め役に見えるな。
「この者達の纏め役だどいつだ?」
立ち上がった男性は、驚いた表情をしたあと後ろを気にした様子を見せた。
彼の反応から、纏め役は後ろの者という事になる。
でも、目の前にいる男性の反応に違和感を覚える。
男性に視線を向けた2人をチラッと窺う。
駄目だな。
顔が下を向いているので、表情が分からない。
「どいつだ? 早く言え?」
戸惑った様子の男性が、俺を見て顔色をさっと青くした。
それに首を傾げる。
今まで怖がっていなかったのに、急にどうしたんだ?
「グルグルグル」
「えっ?」
唸り声に振り返ると、シエルが尻尾を左右に動かしながら立っていた。
それにちょっと驚いてしまう。
全く、気配に気付かなかった。
セイゼルクとヌーガも同じなのか、目を見開いているのが分かった。
どうやら、気配に気付けなかったのは俺だけでは無かったようだ。
「グルグルグル」
「ひっ!」
「ちっ、近付くな!」
シエルの唸り声に、18人から悲鳴のような声が上がる。
バタン。
それがうるさかったのか、シエルの尻尾が地面を叩く。
それにも反応する18人。
「……纏め役だどいつだ?」
目の前でガタガタ震えている男性の腕を掴んで、シエルの方に放り投げる。
「ひぃぃぃ」
男性の悲鳴が森に響き渡る。
「煩くすると、魔物が集まってくるぞ。あぁ!」
バキン。
「はははっ、悪い。手が滑って、魔物除けを壊してしまった」
18人の視線が、俺の前で壊れた魔物除けに向く。
「おっと」
バキバキ。
バコッ。
「悪い。足がよろけて、こっちの魔物除けも……これはもう、使えないな」
18人が用意した魔物除けは、全部で6個。
その内の2個が、俺の不注意で壊れてしまった。
「ごめんな。ワザとでは無いんだ」
「なっ!」
「グルグル、グルグル、グルグル」
先ほどより低くなったシエルの唸り声。
しかも2歩近付いて来るという、恐怖も追加された。
彼等が用意した3個目の魔物除けに手を伸ばす。
「や、止めてくれ! こいつ、こいつだ! こいつが俺達に命令したんだ!」
泣きそうになりながら叫ぶ男性。
その男性が指を向けたのは、気弱そうに見えた男性。
そして彼の後ろにいる、一番纏め役に見えた男性も叫んだ男性の言葉に同意するように何度も頷いている。
「見た目で判断するのは駄目だな」
セイゼルクの言葉に、頷く。
「そうだな。俺もちょっと騙されかけたよ」
まぁ、俺の質問に怖がっていなかったから、違和感があったけど。
「お前だな」
気弱そうに見えた男性の視線が鋭くなる。
なるほど、これがこいつの本性か。
「誰の指示だ? 俺をどうしようとした?」
ちっと舌打ちして、視線を逸らす男性。
「グル」
近くで聞こえた唸り声に隣を見ると、シエルがジッと男性を見ていた。
「ひっ!」
男性は目を見開き、小さく悲鳴を上げる。
「誰だ?」
「グルグルグル」
「命令内容は?」
「グルグルグル、シャー」
「話す! 話すから、その魔物を! 向こうに、む、向こう! 助けてくれ!」
全身が震え上がり、泣きだした男性。
それに満足そうな表情のシエル。
そっと頭を撫でると、グルグルと喉が鳴る。
「ありがとう。シエルのお陰で、彼とゆっくり話が出来るよ」
グルグルグル。
あれ?
随分と静かだな。
あぁ、シエルが気付かれないように、必死に音を出さないようにしているのか。
シエルはよく見れば……よく見ても怖いな。
アイビーは可愛いとよく言うけど……あっ、性格は可愛いな。
うん。
「グル?」
「なんでもないよ!」
すみません、フィーシェは別行動中でした。
修正しました。
ほのぼのる500




