809話 あれ? 終わり?
「行こうか」
ジナルさんの一声にシエルが先頭を歩きだす。
昨日、夕食の時にシファルさんとお父さんが洞窟について皆に相談をした。
シファルさんと私の会話を聞いて事情を知っているセイゼルクさんも、何気なく後押ししてくれた。
結果、あっという間に村道に行った後はマジックアイテムがドロップする洞窟に行く事が決まった。
皆の様子を見て、誰も疑問に思っていないようだったのでホッとした。
そして今日から、ちょっと速度を上げて村道に向かう事になった。
理由は村道で待っている者達ではなく、その後の洞窟。
皆、洞窟がどうなっているのか気になるみたい。
そんなにドロップするマジックアイテムが良いんだろうか?
ここまで皆が反応するなんて、少し驚いた。
「ソラ、静かにね。フレムも」
「ぷっ」
「てりゅっ」
速度を上げて歩いたおかげで、2日ほど掛かる予定だったのが1日で村道に着いてしまった。
のんびり行くとは聞いていたけど、どれだけゆっくり予定を組んでいたのか。
「ジナル、そのマジックアイテムは使えそうか?」
村道が見渡せる場所から様子を見ているジナルさんに、セイゼルクさんが声を掛ける。
「あぁ、ばっちりだ。遠くまで鮮明に見えるから、これはいいぞ。それと村道脇に隠れている者達を見つけた」
マジックアイテムを使って様子を見ていたジナルさん。
どうやら、待ち伏せしている者達を見つけたみたいだ。
「本当にいたんだ」
話には聞いていたけど、まさか本当にいるとは。
「人数は?」
「ここから確認できたのは12人だ。もう少し多いかもしれないな」
ジナルさんの言葉に、驚いてしまう。
まさか、12人も待ち伏せしているなんて。
「多いですね」
「えっ? そうか?」
私の言葉に、不思議そうな表情を見せるジナルさん。
そんな彼の反応に驚いてしまう。
いや、12人だよ?
多いよね?
お父さんを見ると、首を横に振られた。
つまり12人は多くないの?
「まぁ、村や町から離れている村道だからな。12人しか集められなかったんだろう。下手な者を連れて来ると、ここに来るまでに魔物に襲われて対処しないと駄目になったりするからな」
ジナルさんの言葉から、待ち伏せされる事に慣れている事が分かる。
しかも、いつのはもっと大人数みたい。
あれ?
お父さんも12人は多くないって。
「お父さんも、待ち伏せされた事があるの?」
「いろんな事を見たり、知ったりするとな。追い詰められた者は、最後の悪あがきをしたくなるんだよ」
なるほど。
冒険者の仕事というより、それは裏の仕事の時かな。
「さてと、どうしようかな? 本当にいるから困ったねぇ」
ジナルさんが戻って来て「困った」と言っているけど、その表情は全く違う。
「楽しそうですね」
そう、もの凄く楽しそうな表情をしている。
「いや、困っているぞ」
どこが?
全くそんな風に見えないけど?
「話を聞かないと駄目だから、生かしておかないと駄目なんだよ」
そっちか。
「手加減は、相手の状態によっては非常に難しいからな」
「そうそう。ここに来るのに疲れてしまって、予想より動きが鈍かったりするからな。そのせいで大怪我させてしまったりして、あとで対処が大変だったりするんだよね。面倒くさいし」
ジナルさんとシファルさんの会話に笑ってしまう。
ジナルさんが負ける心配は、するだけ無駄みたい。
「まぁ、ここで様子を見ていても仕方ないから、ちょっと行って来るよ」
ジナルさんが準備を始めるとセイゼルクさんが声を掛ける。
「手伝おうか?」
ジナルさんは、少し考えてから首を横に振った。
「いや、1人で行って相手を油断させるよ。俺だけだと、逃げずに突っ込んでくるだろうから」
それは相手の力量を考えずに、人数だけで判断するという事だね。
「分かった。あ~だったら、逃げ出した時にすぐに対応できるようにしておくよ」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが頷く。
「それはありがたい。大金に目が眩んでいるからすぐには逃げ出さないとは思うけど、1人が逃げるとつられて逃げ出すからな。あぁいう奴等は」
一体、どんな者達が待ち伏せしているんだろう。
かなり酷評をされているけど。
「アイビーとドルイドとラットルアは、ここで待っててくれ」
あれ?
ラットルアさんも?
「分かった。気を付けて」
お父さんの言葉に、ジナルさん達が村道に向かっていく。
「アイビー。気になるなら、見ていていいぞ」
ジナルさんが振り返って、先ほど使っていたマジックアイテムを指す。
「ありがとうございます」
ジナルさん達の活躍を、マジックアイテムがあれば見られるね。
「アイビー、見たいならこっちだ」
お父さんと一緒にジナルさんが様子を見ていた場所に行くと、マジックアイテムを覗き込む。
お父さんを見ると、似たマジックアイテムを覗き込んでいた。
「お父さんも持っていたの?」
「あぁ。シエルと一緒だと、使う時が無いけどな」
シエルがいると?
どういう意味だろう?
「見つけたか?」
ラットルアさんが隣に来ると、その手にはマジックアイテム。
「冒険者は皆、遠くを見るマジックアイテムを持っているものなの?」
私の言葉に、ラットルアさんが頷く。
「魔物によっては森と気配を合わせて隠れる種類もいるから、気配や魔力を調べるだけではなく自分の目で確かめる事も重要なんだ」
なるほど。
シエルがいると使う時が無いというのは、威嚇して魔物を遠ざけてくれるからか。
「アイビー。ジナルと待ち伏せしていた者達が、接触するぞ」
「えっ、本当?」
慌ててマジックアイテムで、ジナルさんを探す。
あっ、見つけた。
あと少しでジナルさんが、待ち伏せしている人達と接触しそう。
えっと、セイゼルクさんとヌーガさんとシファルさんは何処だろう?
……あぁ、隠れている者達の背後か。
逃げ道を防ぐためなんだろうけど、どの方向に逃げるか分からないから大変だよね。
「あれ?」
ジナルさんに視線を戻すと、彼の前に冒険者の格好をした14人が姿を見せていた。
2人多いのは、きっとここから見えない場所で隠れていたんだろうな。
というか、
「どうして全員で出てきたの? そこは、隠れて様子を見る者とか、後ろに回る者とか。行動を分けた方が、倒せる確率が上がるのに」
もしかして他にも……いない。
本当に全員が姿を見せたの?
「ぷっ、アハハハハ。アイビー、どっちの味方だよ」
お父さんの笑い声でハッとする。
そうだよね。
全員が姿を見せたのは、ジナルさんからはいい事だよね。
「ジナルさんだけど……えっ? 正面から攻撃?」
14人の先頭に立っていた6人が一斉にジナルさん達に向かったのが見えた。
全員が剣みたいだ。
武器も一緒か。
槍とか弓とかもいた方がいいと思うけどな。
「……」
あっという間に、ジナルさんによって倒されていく6人。
慌てて残っていた8人も動き出すけど……だからどうして全員が正面からなの?
「弱いですね」
逃げる心配も無かった。
本当にあっという間だったから。
「あっけないなぁ。すぐにセイゼルク達と……あれ? いないな。あっ!」
ラットルアさんの様子が少し変わる。
見ると、村道から少し離れた場所を見ているようだ。
「他にもいるみたいだな。ジナル達の様子を窺っている」
ラットルアさんが見ている方向を見ると……いた。
「4人ですね」
「あぁ、ジナル達に此処からは合図も送れないし」
ラットルアさんが困った表情をしている。
どうしよう。
伝えられる方法は、無いかな?
「大丈夫だ。セイゼルク達が向かっている」
「「えっ?」」
お父さんの言葉に、4人の周辺を見渡す。
あっ、いた。
「本当だ。いつの間に背後に回ったんだろう?」
あっ、セイゼルクさん達に4人が気付いた。
あれ?
終わった。
「想像以上に、弱かった」
「ぷっ」
私の言葉に噴き出すラットルアさん。
「セイゼルク達が強いんだよ。ジナルは、4人に気付いていたみたいだな」
えっ?
ジナルさんに視線を戻すと、4人がいる方を見て手を振っている。
なんだ。
知っていたのか。
それにしても、見つけてから倒すまで早いな。
いつも読んで頂きありがとうございます。
808話で、シエルと書くところがシファルになっておりました。
教えていただきありがとうございます。
ほのぼのる500




