808話 崩落した洞窟
あっ、シエルが戻って来た。
お父さんは、離れた場所にいるから今なら内緒でお願いが出来る。
「シファルさん、シエルにお願いして来ますね」
「あぁ、火加減は見ておくから大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってシエルの下へ向かう。
「おかえり、シエル」
「にゃうん」
頭をそっと撫でるとゴロゴロと喉がなる。
あぁ、可愛い。
あっ、違った。
お願いに来たんだった。
そっとお父さんを探す。
今は、ラットルアさんと話をしているようだ。
こっちも見ていないし、大丈夫。
「シエル。お父さんに内緒でお願いがあるの」
「にゃ?」
私の言葉に首を傾げるシエル。
「あのね、もうすぐお父さんの誕生日なの。それで守護石を贈りたいんだけど、この近くに守護石が採れる場所は無いかな?」
「……」
シエルを見ると、何か考えている様子。
いつもならすぐに返事が返ってくるのに。
もしかして、
「この近くには無いの?」
「にゃうん」
無いのか。
どうしよう、困った。
「にゃ!」
シエルが何かを見つけると、私の服をクイッと引っ張った。
どうやら一緒に行こうと言っているみたいだ。
シエルについて行くと、シファルさんの元へ。
私とシエルを見て首を傾げるシファルさん。
「にゃうん」
シエルはそんなシファルさんを気にする事なく、彼の傍にあるマジックバッグを前脚で叩いた。
「えっ、どういう事だ?」
不思議そうな表情で、私を見るシファルさん。
私もシエルが何をしたいのか分からないため、首を横に振るしかない。
「守護石が採れる場所は、この近くに無いみたいなんです。それで私が困っていたら、シファルさんの所に連れて来られたんだけど」
シファルさんのマジックバッグを叩くという事は、その中に用事があるのかな?
「あっ、もしかして」
シファルさんが何かを思いついたのか、マジックバッグから地図を出した。
そしてその地図をシエルの前に広げた。
「昨日の夜、自分達が今どの辺りにいるのかシエルに地図を見せて確認したんだよ。だから、地図を見せて欲しいんじゃないか?」
「にゃうん」
そうだったのか。
分かって良かった。
「にゃ!」
シエルがある場所を前脚で叩く。
その場所を見ると、シファルさんが教えてくれた場所と同じ所のようだ。
その洞窟は有名なのかな。
「シエル。その場所だとちょっと遠いから、お父さんの誕生日には間に合わないんだ」
「にゃ!」
私の言葉に、もう一度地図を叩くシエル。
見ると、今いる場所に近い場所を指している。
「この辺り?」
シファルさんが、地図を見ると何かを探すように周辺を指で確認している。
もしかして知っている場所なんだろうか?
「その場所が何処か分かるんですか?」
「ん~、目印になっている岩がここだから……やっぱりそうだ。この場所にある洞窟は人が手を加えたせいで、崩落したはずなんだ」
シエルを見ると、首を横に振っている。
「崩落していないの?」
私の言葉に、楽しそうに尻尾を揺らすシエル。
「にゃうん」
「そうなのか? それだったら行きたいな。この場所にある洞窟は、良いマジックアイテムがドロップするんだよ」
マジックアイテムか。
「守護石もある?」
「にゃうん」
シエルの返事に良かったとホッとする。
マジックアイテムをドロップする事は、私には難しいからね。
弱い魔物だと頑張れば倒せるかもしれないけど、マジックアイテムは期待できないから。
「この場所にはどれくらいで行けるの?」
話し方が元に戻っていたかも。
「そうだな。8日ぐらいかな。ただし、途中で村道に寄って用事を済ませると13日後ぐらい?」
それなら間に合う。
「この場所では、どんな守護石が採れるんだろう?」
「それが、俺は知らないんだ。というか、この場所で守護石を見た事が無い」
「えっ?」
でも、シエルは採れるって。
「採れるんだよね?」
「にゃうん」
自信ありげに鳴くシエル。
それなら、きっと大丈夫。
「どうする?」
「シエルが大丈夫と言っているので、行きたい」
「分かった。それならジナル達に話を通しておくよ。ドルイドの誕生日の事は言っても大丈夫か?」
「うん。でも予定は大丈夫かな?」
「それは、大丈夫。あとは、どうやってこの場所にドルイドを誘導するかだな」
「誘導?」
「急にこの洞窟に行こうと言ったら、違和感を覚えるかもしれないだろう?」
そうかな?
シエルが連れて行ってくれる洞窟なら、疑問に思わないと思うけど。
「シエルが連れて行ってくれるなら、たぶん大丈夫だと思う」
旅の途中で、気が付いたら洞窟の前にいる事がよくあったからね。
「そうなのか?」
「うん。いつも目的の場所だけ教えて、あとはシエルにお任せなんだけど。ふふっ、気付いたら洞窟の前にいた事が何度もあるから」
私の言葉に、驚いた表情を見せるシファルさん。
やっぱり驚くよね。
「なるほど。それならシエルに任せた方がいいな」
シファルさんの言葉に頷く。
「あっ、ドルイドが来た」
シファルさんの言葉に、ちょっと表情を引き締める。
バレないように気を付けないと、お父さんは鋭いからな。
よしっ。
「何をしているんだ? 地図?」
あっ、しまった!
「あぁ、ここから村道までの距離を見ていたんだよ。あと、周辺に何があるのか話していたんだ」
シファルさんの言葉に、ちょっとドキッとする。
周辺の話をするとは思わなかった。
「あぁ、シエルに聞いていたのか? 前足の跡が付いているな」
お父さんの言葉に、地図を見る。
本当だ。
地図にシエルの前足の跡がばっちり付いている。
「あぁ、シエルは森の事に詳しいから、色々と聞いていたんだ」
「確かに詳しいよな。いつも知らない洞窟とか花とかを、教えてくれるよ」
シファルさんとお父さんの会話にドキドキする。
そっとお父さんを見ると、楽しそうに地図を覗き込んでいる。
「この場所には何があるんだ?」
これから行こうとしている場所を指すお父さん。
シエルの前脚の跡が付いているから、気になったんだろうな。
どうしよう。
「その場所に洞窟があるらしいんだ」
「洞窟か。あれ? この場所は確か……この岩が目印になるから…、やっぱりそうだ。人のせいでこの場所の洞窟は崩落したはずだけど。違う場所か?」
「いや、ドルイドの言う通り、その場所の洞窟は崩落したはずなんだけど、シエルは洞窟があると言うんだ。だから気になってね」
「確かに気になるな。この場所で採れるマジックアイテムは、凄く良かったし」
凄い、シファルさんと似た反応だ。
それだけ、その洞窟で採れるマジックアイテムは有名という事かな。
……マジックアイテムも気になるなぁ。
「行ってみたいよな。今も前の様なマジックアイテムがドロップするのか確かめたいし」
「えっ?」
シファルさんを見ると、楽しそうな表情でお父さんを見ている。
「確かに、それは確かめたいな」
あれ?
「ん~。村道の後の予定は決まって無いし、行けるかジナルに相談するか」
「それはいいな。アイビー、どうしたんだ?」
「何でもない」
驚き過ぎて、茫然としてしまった。
それにしても凄くあっさり、目的の洞窟に行く事になったなぁ。
あっお父さんが心配そうに私を見てる。
ここは……夕飯!
「そろそろお肉が焼けるから、夕飯にしよう」
今日は、バナの葉っぱの蒸し焼きにしたんだよね。
スープも味見して、問題無し。
お肉をお皿に出してソースを掛けたら完成。
チラッとお父さんを見る。
大丈夫、バレてない。




