807話 忘れてた!
あ~どうしよう。
あと少しで4月だ。
そう4月には、お父さんの誕生日があるのに何も用意していない!
もう、どうして忘れていたのよ!
覚えていたら、マーチュ村で贈り物を買って来たのに!
「ん~」
村道に向かってから2日目。
ジナルさんがある花を見て「もう4月なんだな」という言葉で思い出した、お父さんの誕生日。
今現在は森の中だから店などあるわけもなく、どうすればいいのか全く思いつかない。
「ん゛~」
「アイビー」
「あ~」
「アイビー!」
えっ?
名前を呼ばれた気がして視線を向けると、ラットルアさんが困った表情で私を見ていた。
「ごめん。ちょっと考えていて」
「そうだろうな」
んっ?
ラットルアさんが私の後ろを指すので視線を向けると、積み上げられた枯れ枝。
そういえば、夕飯でいる枝を拾いに来たんだった。
「さすがに、こんなに大量に枝はいらないな」
「そうだね。いらないね」
2日分は余裕であるね。
「どうしたんだ?」
ここは相談した方がいいかな?
ラットルアさんだったら、何か思いつくかもしれない。
「もうすぐ、お父さんの誕生日なんです」
「そうなんだ」
「はい。それなのに何も用意していなくて」
私の言葉に、少し驚いた表情をするラットルアさん。
それに首を傾げる。
「悪い。大人になってからは顔を合わせた時に、「誕生日おめでとう」という言葉で終わる事が多いから。何かを用意するなんて、アイビーの時が久しぶりだったんだ。ドルイドの誕生日を祝うという発想が無かったよ」
大人になったらそんな感じなんだ。
それなら、お父さんの誕生日に何かしようとするのは迷惑かな?
言葉だけ?
でも、日頃の感謝を込めて何かしたいな。
「気になるならその日の料理を豪華にするとか。あぁ、でも森の中だと限度があるか」
豪華な料理か。
それなら、皆にちょっと協力をしてもらう事になるけど出来る。
ただ、いつもの料理とあまり変わりがないような気がする。
森の中だから豪華にも限界があるし。
「何か狩って、それを贈るとか?」
「いや、それはシエルじゃないんだし。シエルも自分で狩りたいだろうし」
ラットルアさんの言葉に首を横に振る。
「そうだよな。悪い」
ラットルアさんも言ってみたものの違うと思ったのだろう、少し恥ずかしそうな表情をしている。
「森の中で出来る事か」
「うん」
「あっ。シエルに洞窟を探してもらって、高価な魔石とか宝石とか守護石を贈るとかはどうだ?」
「それらは既に持っているんだよね」
私の言葉に驚いた表情をするラットルアさん。
「シエルがあちこちの洞窟に連れて行ってくれるから、売れないような高価な宝石や魔石がゴロゴロとマジックボックスに転がっていて」
あっでも、守護石は無くなっていたかも。
この間、私が持っていた守護石は割れてしまったし。
「守護石は、いいかもしれない」
「そうか。でも、この辺りで守護石が採れる洞窟はあるのかな?」
どうだろう?
シエルにこっそり聞いてみようかな。
必要な枝を持って、皆の元に戻る。
少し遅くなったせいでお父さんに心配されてしまった。
夕飯を作りながらシエルを探す。
あれ?
いない。
「どうしたの?」
スープをかき混ぜていたシファルさんが、不思議そうに私を見る。
「シエルがいないので、何処に行ったのか知りませんか?」
「あぁ、ドルイドに食事に行くと言って、森の奥に駆けて行ったよ」
そういえば、そろそろ食事の日か。
「そうだったんですね。ありがとうございます」
「俺も、ラットルアみたいな話し方が良いな」
えっ?
ラットルアさんみたいな話し方?
……あぁ、そういえば最近ラットルアさんに対しては砕けた話し方になっていたな。
「駄目?」
シファルさんの悲しそうな表情に、慌てて首を横に振る。
それを見た彼がニコッと笑う。
「ありがとう」
あれ?
今の悲しい表情はワザとだったのかな?
シファルさんを見ると、またニコッと笑った。
うん、ワザとだ。
「あのラットルアさんへの話し方ですが、ではなくて、えっと……話し方だけど自然と変わっていったもの……だから、少しずつでお願いします。んっ? お願い、ね?」
ラットルアさんへは、自然とお父さん達と同じような話し方になって行ったんだよね。
でも時々元の話し方に戻っているみたいだけど。
気にしていないから、言われるまで気付かない。
だから、シファルさんへの話し方を変えようとしても、ちょっと難しい。
「ふふふっ。分かった、気長に待つよ」
「ありがとう」
「それで、シエルを探していたけど何か用事でもあったの?」
「はい。シエルに洞窟を探してもらおうと思っていま……て」
不自然な言い方になってしまった。
やっぱり意識して変えようとするとおかしくなるな。
「はははっ。大丈夫、ゆっくりで良いよ」
シファルさんの笑い声に釣られて私も笑ってしまう。
「どんな洞窟を探しているんだい?」
えっと、お父さんの居場所は?
少し離れているから、声を潜めたら聞こえないかな。
シファルさんにそっと顔を寄せると、意図に気付いてくれたシファルさんも顔を寄せてくれた。
「お父さんに贈る守護石を、探したいんです」
私の言葉に首を傾げているシファルさん。
しばらく考えると、ハッとした表情になった。
「誕生日?」
「うん」
私の答えに頷くシファルさん。
そして、マジックバッグから地図を取り出すと、ある場所を指した。
「俺の知っている守護石が採れる洞窟は、あ~、もっと王都寄りだ。確かドルイドの誕生日まで……20日ぐらいかな?」
「はい。そうです」
「それだと間に合わないか」
ここから洞窟までは1ヵ月以上は掛かるらしい。
シファルさんが、残念そうな表情をする。
「ふふっ、考えてくれてありがとう」
「役に立たなかったけどな」
シファルさんの言葉に首を横に振る。
洞窟を探そうとしてくれただけで、嬉しい。
「それにしても誕生日か」
「シファルさんの誕生日はいつですか?」
「俺は8月だよ」
そうなんだ。
ちょっと想像と違ったな。
彼の性格から、冬の印象があったんだけど。
「暑い時期ですね」
「そうそう。セイゼルクからは、8月より12月か1月だろうって言われたけどね」
「あぁ、そんな感じですよね」
「そうそう。俺の性格が冷たいからだって言ってたな」
「う……落ち着いた性格だからですよ」
焦ったぁ。
つい、頷きそうになってしまった。
決して冷たい性格というか、腹黒だからさむい季節だと思ったわけでは無い!
「ふふふっ」
シファルさんの笑顔にゾクッとする寒気を感じる。
ここは私も笑って誤魔化そう。
「ふふふっ」
「どんどんアイビーが、シファルに毒されていくな」
「セイゼルク、それはどういう意味かな?」
シファルさんの視線がセイゼルクさんに移動すると、ホッとする。
セイゼルクさん、ありがとう。
シファルさんの視線とか話の間とか勉強になるけど、ドキドキする。
あっ、そうだ。
守護石の事は、お父さんには内緒だという事をシファルさんに言っておかないと。
「シファルさん、さっきの話はまだお父さんに内緒なの。だから」
シファルさんを見ると、優しい笑みで私の頭をポンと撫でた。
「分かった。内緒だな」
「うん」
良かった。
これで大丈夫だね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
本当にドルイドの誕生日を忘れていました。
教えていただき、ありがとうございます。
ほのぼのる500




