806話 次は村道に向かって
「ぷっぷ~!」
「てっりゅ!」
「えっ、ソラ? フレム? アイビー、どうしてこの子達は俺に怒っているんだ?」
森の最奥から抜けて、安全な場所まで来ると少し休憩を取る事になった。
もう大丈夫だろうとソラ達を出したのだけど、なぜかラットルアさんに向かって文句を言いだした。
もしかして「バッグから出せない理由」を話した時に、楽しそうに賛同したからかな?
バッグの中でも暴れていたし。
「崖の上での会話が原因だと思う」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
やはり、正解みたいだね。
「あれか~。でも俺が悪いのか?」
「ふふっ。ソラもフレムも怒っているけど、高い所で遊ばずにジッと出来るの?」
「「…………」」
2匹が体を横に倒しながら考えるのを見て、絶対にバッグから出さないと誓う。
この子達は、絶対に何かする。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「そこまで悩んで『大丈夫』と言っても信じられないって」
ソラとフレムの返事に、呆れたように返すラットルアさん。
「ぷ~!」
「てりゅ~!」
気に入らなかったのか、彼に体当たりをするソラとフレムに首を傾げる。
なんだろう?
ラットルアさんに対する行動が……悪くなっている様な気がする。
「お前達は~」
「ぷ~!」
「てりゅ~!」
ラットルアさんから楽しそうに逃げるソラとフレム。
あぁ、遊んで欲しかったのか。
「ラットルアは、あの2匹の良い遊び相手みたいだね」
「はい」
「同じくらいの精神年齢なのかな」
「は……えっ?」
「んっ?」
不思議そうに表情で私を見るシファルさん。
いや、その前の一言。
それが、気になるんだけど。
「どうしたの?」
「いえ」
突っ込んで聞かない方がいいような気がする。
だって、シファルさんの表情が凄く楽しそうなんだもん。
「ぷ~!」
「てりゅ~!」
ラットルアさんの腕の中で不服そうに鳴くソラとフレム。
凄い、あの2匹を捕まえられたんだ。
私だったら、絶対に逃げられるのに。
「お~い、ちゃんと休憩しろよ」
ジナルさんの注意にラットルアさんが肩を竦める。
ソラとフレムが煽らなければ、彼だってちゃんと休憩を取ったよね。
あれ?
簡単に乗せられたという事は、シファルさんの言った通り……。
「どうした?」
「なんでもないです。果実水でいいですか?」
不思議そうに私を見るラットルアさん。
その隣で肩を震わすシファルさん。
どうやら私が考えた事がバレているみたい。
「あぁ、頼む。ほら、2匹もこれから沢山歩くんだから、準備しとけよ」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「よしっ」
ソラとフレムの頭を撫でると、私が渡した果実水を飲むラットルアさん。
私も近くにある岩に座って果実水を飲む。
「そういえば、ソルはどうしたんだ?」
「あそこです」
私が指した方を見るラットルアさん。
次の瞬間、噴き出した。
「どうしてヌーガの頭の上にいるんだ? しかも寝てるのか?」
「はい、寝てます。今日は、あそこで寝たい気分みたです」
ヌーガさんに協力してもらって、何度もソルを頭の上から下ろしたんけど、気付いたら元に戻っていた。
諦めないソルに、ヌーガさんの方が諦めてくれた。
まぁ、頭の上で寝ているだけで、悪さはしないから大丈夫のはず。
「アイビー、大丈夫か?」
果実水を飲み終わる頃に、ジナルさんが傍に来る。
「はい、大丈夫です。行けますよ」
私の疲れ具合を、心配してくれたんだろうな。
でも、しっかり休憩したから歩けるよ。
「分かった。村道の近くまで戻るつもりなんだ、まぁここからだと2日か3日はかかるけど」
村道の近く?
特に問題は無いけど、このまま森を渡って王都は目指さないんだ。
なんだか不思議な道順だな。
「何かあるんですか?」
村道に行かなけらばならない理由なんて思いつかないけど。
「まぁ、もしかしてと思ってな。それの確認」
もしかして?
村道……誰か通るのかな?
「あっ、知り合いでも来るんですか?」
いや、それはおかしいか。
知り合いが来るなら、ホリュスの実を収穫するために森の最奥まで行くはずが無い。
だって収穫して戻ってくるのに、何日掛かるか分からないんだから。
実際行くと決まってから、収穫できるまで3日掛かったからね。
知り合いが来ると分かっているなら、会ってから収穫に向かうはず。
という事は知り合いでは無い。
それに「もしかして」と言ったのが気になる。
来るかもしれないし、来ないかもしれない。
「会いたくない人が来るかもしれないとか?」
「ちょっと惜しいかな」
惜しい?
「もしかしたら、誰かが俺達が通るのを待ち構えているかもしれないんだ」
待ち構えている。
味方……では、無いよね。
ジナルさんに敵意を向ける人?
ジナルさんの仕事柄、怨みは買うだろうな。
でも、待ち伏せするほどの怨みってどんなものだろう?
「どうした?」
「いえ、待ち伏せされるほどの怨みって何だろうなって思って?」
「んっ? ははっ。怨みか。今回はそれとは少し違うかな」
そうなんだ。
怨みでは無いのか。
良かったけど、それならどうして待ち伏せ?
「それで、村道に戻って良いか?」
「もちろんです。確認が必要なら行きましょう」
王都に行くのが遅れるけど、誰も気にしていないしね。
それなら私が気にする事ではないんだろう。
「よしっ、話もまとまったし行こうか」
「はい。ソラ、フレム。遊んでもいいけど、私達の傍から離れないように気を付けてね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ヌーガさんの頭の上を見る。
どうしよう。
バッグの中に入れた方がいいかな?
「気にするな。俺が面倒を見るから」
ヌーガさんが私の視線に気付くと、そっと頭の上にいるソルを撫でてから私を見る。
「良いですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「それなら、宜しくお願いします」
ソラとフレムの様子を見ながら、村道に向かって歩き出す。
と言っても、今いる場所が全く分からないのでシエルが頼りだ。
「わぁ、綺麗な花」
私の掌ほどある大きな花。
少し細長い花弁が沢山あり、よく見るとその1つ1つの少しずつ色が違う。
全体を見ると淡いピンクの色に見える。
「本当に綺麗だな」
隣を歩いていたお父さんが、花に1歩近づく。
「待て」
後ろを歩いていたシファルさんが、お父さんの止めると花をジッと見た。
「これは毒花かもしれない。しかも、全てに毒があったはず」
毒花?
綺麗なのに毒があるんだ。
「そうなのか? 毒を含んでいる草花の本で、見た事は無いが」
そういえば、私の持っている本にも載っていないと思う。
「かなり珍しい花で、文献には葉っぱに触れただけで死ぬ可能性があるとも書かれたいたはずだ」
そんなに強い毒なんだ。
「でも、香りはいいですよね」
花からは、ふわっとした甘い香りがする、
「香りは、大丈夫ですよね?」
全てに毒があると言っていけど、まさか香りは大丈夫だよね?
問題があったら、既に手遅れだけど。
「あぁ。毒は根に茎、葉っぱや花にあるそうだ。あと、種にも毒が確認されていると書いてあったな」
種も駄目な花か。
「文献によると、種1つで数十人は死ぬらしいぞ」
そんなに?
もっと近づいて花を見たかったけど、無理だね。
「綺麗だけど、凄く怖い花だね」
「そうだな。見ていたら触りたくなるから、行こうか」
「うん」
花を横に見ながら、村道に向かう。
待ち伏せか。
いた方がいいのか、いない方がいいのか、ジナルさんはどう考えているんだろう?




