803話 王都に向けて出発!
マーチュ村の門に、マーチュ村の人達が集まった。
皆、ジナルさん達にお別れを言うためだ。
さすがのジナルさんも、集まった村人たちの多さに驚いていた。
「アイビー。王都まで、気を付けて」
「はい。フィーシェさんも、気を付けて下さいね」
フィーシェさんとウルさんは、もうしばらくマーチュ村に留まるらしい。
何でも、少し気になる事があるとか。
何が気になるのかは、教えてはくれなかった。
でも、冒険者として有名なフィーシェさんが残るという事は、彼の力が必要だという事だろう。
怪我などしなければいいけれど。
「ポーションは足りますか?」
「大丈夫だ。青のポーションも赤のポーションも3本ずつ貰ったからな。でも本当にタダで貰ってよかったのか?」
「はい。ソラとフレムに聞いても『いい』と答えてくれたので」
フィーシェさん達が別行動になると知って、私はソラとフレムにポーションをお願いした。
今回のように、何が起こるか分からないから。
「それなら今回だけは、タダで貰うな。でも次からはちゃんと請求してくれ」
フィーシェの言葉に、頷く。
タダでポーションを配る事は、ポーション作りで家計を支えている人達にとって脅威となる。
だから、今回は特別。
「アイビー、行こうか」
「うん」
フィーシェに手を振ると、お父さんの下へ向かう。
お父さんは、私が傍に寄るとポンと頭を優しく撫でた。
「どうだった?」
「4倍の値段でまとまったよ」
今回、お父さんがジナルさんに渡したソラとフレムのポーション。
私とてしては、無料でよかった。
でも、マーチュ村の村長さんが「あれほどの物を無料で提供してもらう訳にはいかない」と言った事から、では1本の値段は? という事になった。
私もお父さんも、ソラ達のポーションを売る気は無かったので、村長さんに金額を任せる事にした。
そして昨日届いた金額は、正規のポーションの10倍の値段。
さすがに貰い過ぎだと私が言うと、お父さんが村長さんと交渉してくれた。
そして、正規のポーションの4倍で落ちついたみたいだ。
「村長に『本当にその金額でいいのか?』と何度も聞かれたよ」
「あははっ。4倍でも凄い金額だと思うけどな」
ソラとフレムのポーションの原材料は、捨てられたポーション。
つまり、タダ。
それなのに、正規ポーションの4倍の金額になった。
別に悪い事をしたわけでもないのに、ちょっと落ち着かない。
マーチュ村の門から出ると、サーペントさんとクラさんがいた。
途中まで送ってくれるそうだ。
門から出てくれた村の人達に手を振って、マーチュ村から離れる。
「あ~、疲れた」
ジナルさんの言葉に視線を向けると、本当に疲れた表情をしていた。
まぁ、あれだけ人に囲まれたらそうなるよね。
セイゼルクさん達を見ると、同じようにちょっと疲れた表情だ。
あっいや。
シファルさんは元気みたい。
ヌーガさんを壁に使っていたからね。
「捨て場?」
クラさんが私を見る。
「うん。皆のご飯を捨て場で拾っていく予定だから」
昨日のうちに捨て場に行こうと思った。
でも、「人手あるから、明日でいいだろう」と、ジナルさんが言うので今日になったのだ。
「分かった」
捨て場に向かう途中で、ソラ達をバッグから出す。
森からサーペントさん達がいなくなった時に、ソラ達も表から姿を消してもらった。
これは、サーペントさん達と一緒に帰ったと思わせるためだ。
上手く誘導出来たようで、帰った事を残念だと言っている村人達をよく見かけた。
「お待たせ」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
「……ぺふっ」
元気に飛び出すソラ達に、クラさんが笑顔を向ける。
サーペントさんも、嬉しそうにソラ達の傍に寄った。
「何度見ても、不思議な光景だよな」
ラットルアさんの言葉に、セイゼルクさんが頷いている。
私は見慣れた光景なので、2人の会話にちょっと笑ってしまった。
「よしっ、拾うぞ!」
ジナルさんの言葉と同時に、ソラ達が捨て場に入って行く。
そしてすぐに、ソラ達がポーションを食べる音が捨て場に響いた。
「「しゅわ~、しゅわ~」」
「早いな」
ヌーガさんが勢いよく食べて行くソラ達を見て呟く。
赤のポーションを拾いながら、ソラ達を見る。
確かに、早いよね。
あれ?
食べた後に、ソラとフレムが顔を見合わせている。
……んっ?
もしかして食べる時間でも競っているのかな?
「アイビー。赤のポーションが見つからないんだけど、そっちはどうだ?」
ジナルさんを見て、手の中の赤のポーションを見せる。
「こっちに沢山あるから。赤のポーションは私とヌーガさんが拾っていくね」
「分かった」
「きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~」
あっ、ソラが剣を食べ始めたみたい。
フレムとの勝負はついたのかな?
ソラとフレムを見ると、フレムの機嫌が少し悪い事に気付く。
どうやら、勝負はソラが勝ったみたいだ。
ソラとフレムのポーションを拾ってから、もう1つの捨て場でソルのマジックアイテムを拾う。
「ぐしゃ、ぐしゃ、しゅわ~、しゅわ~」
ソルのマジックアイテムを食べる音を聞きながら、手早くマジックアイテムをマジックバッグに入れていく。
「大きなマジックアイテムだと食べるのは大変だよな?」
ラットルアさんの言葉に、ソルを見る。
「そうでもないですよ。ほら」
「んっ?」
ラットルアさんがソルを見ると、少し驚いた表情をした。
ソルの触手はけっこう強い。
だから、大きなマジックアイテムも簡単に引き千切る事が出来る。
「あの触手って、凄いんだな」
セイゼルクさんが感心したように言うとソルが嬉しそうに揺れた。
「もしかして喜んでいるのか?」
セイゼルクさんが私を見るので頷くと、彼は嬉しそうに笑った。
さすがに全員で拾うと、あっという間にマジックバッグが一杯になった。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
捨て場から出ると、クラさんが少し寂しそうな表情で待っていた。
「ありがとう」
「うん。会いにく」
クラさんの言葉に、隣にいるサーペントさんが頷くように頭を上下にする。
どうやら、かなりいい関係を気付けているみたいだ。
「分かった。でも無理はしないでね」
「うん」
サーペントさんに手を伸ばすと、スッと頭を下げてくれる。
「ありがとう。またね」
「ククッ」
クラさんに手を振って、捨て場を後にする。
「ここからだと――」
「にゃうん」
セイゼルクさんが地図を出そうとすると、シエルが尻尾でセイゼルクさんを軽く叩く。
「えっ?」
「あっ。シエルが案内してくれるので地図はいらないですよ」
「にゃうん」
胸を張るシエルに笑って頭を撫でる。
「今日からまたよろしくね。皆の行きたい所も行って。あっ、急ぐんでしたね」
今回は、森の探索は無理か。
「いや、急がないけど?」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
王都から急いで帰るように言って来たから、すぐに出発を決めたはずなんだけど、違うの?
「マーチュ村にいたら、催促の手紙が何通も来るだろう? それの対応が面倒だから、出発しただけだ。だから急ぐ必要は無いからな、シエル」
「にゃうん」
対応が面倒。
ジナルさんらしいというか、あの手紙を送った人が本当に嫌いなんだな。
「さて、何処に向かう?」
「にゃうん」
ジナルさんの言葉に、「付いて来い」という感じで鳴いたシエルが、颯爽と先頭を歩きだした。
それに続くジナルさん。
セイゼルクさん達は少しとまっどた表情を見せたけど、楽しそうな表情に変わると歩きだした。
「楽しくなりそうだな」
「そうだね」
お父さんと笑って歩き出すと、周りをソラ達が跳びはねる。
王都まで、どんな旅になるかな。
教会の問題も解決したし、楽しい旅になるよね。
「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました」を読んで頂きありがとうございます。
「803.王都に向けて出発!」で「マーチュ村と狩り」の章は終わりです。
次の章ですが、すみません。
まだ細かい設定が固まっていないので、開始まで少し休憩を挟みます。
次の更新は7月になると思います、暫くお待ちください。
今回の章で終わりかと思われた方もいたようですが、まだお付き合いいただければ幸いです。
ほのぼのる500




