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801話 皆で準備中

「うわっ」


ガン。

ガラガラガラ。


ラットルアさんの焦った声と何かがぶつかり転がる音に視線を向ける。

視線の先には、頭を押さえるシファルさんと焦った表情のラットルアさん。

そして2人の周りに転がる3個のお鍋。


「やったな。だから前を向いて歩けと言ったのに」


ジナルさんの声に、セイゼルクさんが呆れた様子でため息を吐いた。


「あはははっ。ごめん、前を見てなかった」


「だろうな」


シファルさんが笑顔を見せると、ラットルアさんが小さく叫んで調理場から逃げて行った。


「ちょっと、遊んでくるね」


楽しそうに調理場から出て行くシファルさん。

その手には、なぜか鍋。

あれで何を?

いや、考えるのは止めよう。


「逃げるから、仕返しが倍になるのでは?」


「そうだろうな。はい」


私の言葉に返事をしてくれたフィーシェさんから、パナの葉で包んだ料理済みのお肉を受け取る。

香ばしい匂いを楽しみながら、マジックバッグに入れる。

ずっと持っていたら、食べたくなってしまうからね。


今日は朝から、調理場を借りて旅で食べる料理を作っている。

皆も協力してくれたので、思ったより早く大量に作る事が出来た。

昨日、買ったお鍋やフライパンの使い勝手も分かったので良かった。


「今日の夕飯はアイビーが作ってくれるんだって?」


フィーシェさんの言葉に頷く。

昨日は、お昼とおやつを食べ過ぎて夕飯を食べる事が出来なかった。

だから夕飯を作るのが、今日になった。


宿の店主バトアさんとシャンシャさん。

それにクラさんと宿に泊まっているバンガルさんにも食べてもらう事になっている。

時間があったら来て欲しいとマルチャさんにも伝言を送ったけど返事がまだない。

忙しいのかもしれないな。


「何か食べたい物は、ありますか?」


私の言葉に真剣に考えるフィーシェさん。


「アイビーが作ってくれた、辛みのタレに浸けた肉が食べたいな。果物と一緒に漬け込んだって言っていた気がする」


後ろからヌーガさんの声が聞こえた。

見ると、洗い終わった大量のカゴを持っていた。


「ヌーガ、ここで乾かそう」


ジナルさんがテーブルに布を敷いて、カゴを乾かす場所を作っていた。


「あぁ、ありがとう」


「ヌーガさんが言った物と同じ物は無理ですが、似たような味でいいですか?」


お肉を漬けこむ時、色々な果物を使うのだけど、その時その時で使う果物が違う。

そのため、同じ味を作るのはほぼ無理で似たような物しか作れない。


「うん。問題ない。楽しみだ」


嬉しそうに笑うヌーガさんに笑みが浮かぶ。

私の料理を楽しみにしてくれる人がいるのはいいな。


「野菜がいっぱい入ったスープ。野バトの出汁が無いのが残念だけどね」


あれ?

いつの間にシファルさんは戻って来たんだろう?

隣に立つシファルさんを見る。


「んっ? はい、鍋をありがとう」


「いえ」


受け取ったお鍋を見る。


「大丈夫。鍋は使わなかったから、凹んだりはしていないよ」


そんな事は思ってもいない……いや、ちょっと心配したかな。


「あれっ、ラットルアさんは何処に?」


「買い物に行っているよ。今日はラットルアの奢りでお酒が飲める事になったから」


シファルさんの言葉に、ヌーガさんとフィーシェさんから「やった」という声が聞こえた。

セイゼルクさんとお父さんも嬉しそうに笑っている。

明日は、二日酔いに良い朝ご飯をシャンシャさんが用意しそうだな。


出来上がった料理を次々とマジックバッグに入れていく。

それにしても、多いな。

確かに、王都までジナルさん達と一緒だけど。


「こんなに、必要だったかな?」


今回の旅は、ジナルさん達やセイゼルクさん達も一緒だ。

だから、旅の途中でも料理をすると思う。


「作り過ぎたかな?」


正規のマジックバッグに入れるため、腐る事は無いからいいけど。

全ての料理をマジックバッグに入れると、今度は夕飯の準備に取り掛かる。


「アイビー、疲れていないか?」


お父さんが、お肉を漬け込むタレをかき混ぜながら、私を見る。


「大丈夫だよ。久しぶりにいっぱい作れて楽しいの」


朝ご飯を食べた後から、ずっと作っているけど楽しい。


「こんな物か?」


「うん。ありがとう」


肉を漬け込むタレの味は、3種類。

ヌーガさん希望のちょっと辛みのあるタレ。

それと、お父さんが好きな辛みが強いタレ。

これは葉野菜で包んで食べるとおいしいんだよね。

最後に、果物を一番多く使ったタレ。

一番人気で、どれだけ肉を浸けても無くなるんだよね。


それぞれのタレに、お肉を漬け込んでいく。

それにしても、肉を切るのが大変だった。

皆、よく食べるから大量だもんね。


「よしっ」


全てのお肉をタレに漬け込んで、準備完了。


「あとはスープだね」


シファルさんの言う通り、野バトの骨から取ったスープが久しぶりに飲みたいな。

今日は無いから、沢山の野菜と塊肉をゆっくり煮込んでおいしいスープにしよう。


「はい。切っておいたから」


ヌーガさんから、切った野菜の入ったカゴを受け取る。

彼は器用で、野菜の大きさが綺麗に揃えられている。


「ありがとうございます」


野菜を大きなお鍋に全て入れ、水と塊肉も入れて火にかける。

灰汁を取りながら夕飯まで煮込む。

味付けは、トーマがあったから一緒に煮込んじゃえ。

あとは、煮込んでから味を調えよう。


「よしっ。準備は終わり」


あとは、夕飯の仕上げをする時にサラダを作ろう。


ん~、皆はお酒を飲むんだよね?

ちょっと摘まめるおつまみがあった方がいいかな?


野菜は何があるだろう?

この村で作った、じゃぼが沢山ある。

これをくし切りにして、素揚げしてみようかな。

味付けは、塩味とトーマでソースを作ろうかな。

あっでも、スープもトーマの味だ。

それだったら、他の味にする?

……まぁ、トーマ味でいいか。

ちょっと多めに薬草を入れてみよう。


「何をするんだ?」


「トーマで、ソースを作ろうと思って」


トーマと少し細かく切って、フライパンで炒める。

そこに薬草を入れて、塩も入れて……ちょっとだけスープを貰おう。

あとは水気が無くなるまで煮込んで完成。


「何に浸けるんだ? 肉?」


お父さんの言葉に首を横に振る。


「じゃぼを切って素揚げして、塩かソースを浸けて食べようと思って」


「酒に合いそうだな」


ジナルさんが隣に来ると、トーマを使ったソースを見る。


「そのつもりで作ったんですよ」


「ありがとう」


ジナルさんがチラッと、窓の外を見る。


「夕飯?」


「はい。夕飯の時に出しますね」


私の言葉に、少しだけ残念そうな表情を見せるジナルさん。

もう、飲みたいのかな?


「ただいま。疲れた~。シファル、この紙は何だよ!」


ラットルアさんが調理場に入ってくると、シファルさんに向かって紙を掲げる。


「必要な物を書きだしただけだ」


シファルさんの言葉に溜め息を吐くラットルアさん、


「必要な物? 全部酒だったけど?」


「必要な酒を書きだしたんだ


ラットルアさんが肩を竦めると、マジックバッグからお酒を取り出す。

カゴを干しているテーブルに、どんどん酒が置かれて行く。


「凄い量」


テーブルにあるお酒の量に、顔が引きつる。


「アイビー」


「はい」


全てのお酒を出したのか、ラットルアさんが私を見る。


「マルチャさんが『楽しみにしています』と伝言を頼まれた。少し遅れる可能性があるみたいだけど、来るって」


「分かりました」


良かった、参加してくれるみたい。

ウルさんも夕方から来るし、私がお世話になった人達が勢ぞろいだ。

今から、ちょっと待ち遠しいな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりにアイビーが料理をしていて、ほんわかした優しい空気が戻ってきたと感じる。 調理や食事をしている場面が明るいと楽しくなる。
[良い点] アイビーがかわいい [一言] アニメ化おめでとうございます! 来年が待ち遠しいです!
[良い点] アイビーに笑顔が戻って何より。旅の途中ではまた何かあるかもしれないけど、このメンツなら乗り切るだろうし。 しかし、オッサンどもは少し自重しろ酒で溺れる気か?w
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