798話 これから?
「朝からこんなにのんびりするのは久しぶりだな」
お父さんの言葉に、食後のお茶を楽しいながら頷く。
「そうだね」
こんな風に朝からゆっくりお茶を飲むのは、本当に久しぶりだ。
家や店の修復。
それに道路や広場の整備。
本当に色々とお手伝いしたな。
そうだ。
初めて家具に色を塗ったり、ニスを塗ったりしたんだよね。
完成品を見ていなけど、大丈夫だったかな?
あと、壊れた家具から釘を抜いた事もあったよね。
大変だったけど、楽しい事もあった。
「おはよう」
食堂にジナルさんとフィーシェさんが入ってくる。
「「「「「おはよう」」」」」
「おはようございます」
食堂にジナルさんとフィーシェさん。
それに炎の剣のメンバーと私とお父さんが揃った。
このメンバーが揃うのは、復興が始まった日だけだったのでちょっと嬉しい。
これでウルさんがいたら完璧だったんだけどな。
「全員が揃っているのか? あれ? ウルは?」
ジナルさんの言葉に、セイゼルクが苦笑する。
「部屋に空きが無かったから違う宿だ」
「あぁ、それは悪い事をしたな」
ジナルさんが椅子に座ると、シャンシャさんが2人分の朝食を持って来る。
「おはよう。昨日も遅くまでありがとうね。2人とも体は大丈夫?」
「大丈夫ですよ。問題ないです」
ジナルさんの言葉に、フィーシェさんも頷く。
それにホッとした表情のシャンシャさんは、もう一度お礼を言うと調理場の方へ戻って行った。
確かにジナルさん達は、ここにいる誰よりも忙しかった。
特に森の対応と、隣町。
今は無くなってしまったオカンノ村の事では、中心になって動いた。
そのせいで、朝早くから夜遅くまで本当に動き回っていた。
「終わったのか?」
「あぁ、昨日で全部終わらせた」
セイゼルクさんの言葉に、朝食の野菜を煮込んだスープに笑みを浮かべながら頷くジナルさん。
「あ~、ゆっくり食べられるご飯っていいよなぁ」
しみじみ言うジナルさんに隣に座ったフィーシェさんが無言で頷く。
そんな2人を見て、セイゼルクさん達が小さく笑う。
ジナルさん達の食事が終わるまでゆっくり待つ。
これからの事について話す事があるから、待って欲しいと言われたのだ。
「「ごちそうさま」」
ジナルさん達が、食べ終わった食器を調理場に持って行く。
それを見ながら、2人分のお茶を用意する。
「あれだけ食べてたけど、これも食べるかな?」
隣に来たラットルアさんが、シャンシャさんが用意してくれたお菓子を持って私を見る。
「どうだろう?」
2人ともスープを何度もお替わりして、パンを7個も食べていた。
そして用意されたお菓子は、小ぶりだけど団子だ。
「いらないかな?」
フィーシェさんは。お腹がいっぱいだと言っていたし。
「そうだな。お茶だけにするか」
ラットルアさんの言葉に頷く。
「あっ、お菓子。俺は3個、いや4個を頼む」
ジナルさんが食堂に戻ってくると、私とラットルアさんが持っている物を見えて笑みを浮かべる。
「えっ?」
あれだけ食べて、団子も食べるの?
しかも4個も?
「俺は2個でお願い」
フィーシェさんも。
「あ~、持って行こうか」
ラットルアさんが苦笑すると、お皿に団子を4個と2個載せる。
「そうだね」
凄い食欲にちょっと驚いたけど、元気な証拠だね。
食べられる事はいい事だ、たぶん。
ジナルさんとフィーシェさんの前にお茶とお菓子を置く。
「「ありがとう」」
あっという間に団子を食べきる2人を、ちょっと驚きを持って見る。
「んっ? どうした?」
ジナルさんの言葉に、空になったお皿を見る
「お替りを持ってきましょうか?」
私の言葉に、空になったお皿を見たジナルさん。
「いや、大丈夫」
本当かな?
ちょっとお菓子が置いてあるテーブルを見たけど。
「本当に大丈夫だから」
笑って言うジナルさんに頷く。
まぁ、欲しかったら自分で取りに行くよね。
お父さんの隣に戻ると、ポンポンと頭を優しく撫でられた。
「話なんだけど」
ジナルさんが全員を順に見ると、最後にお父さんを見た。
「セイゼルク達もドルイドとアイビーも王都に来て欲しいと、フォロンダ様から伝言を頼まれた。どうだろうか?」
お父さんを見ると、微かに眉間に皺が寄っていた。
「もちろん拒否してくれていい。無理強いはしなくていいと言われているから」
王都に行く予定は、元々無かった。
だから何となく不思議な気持ちになる。
「どうする?」
お父さんを見る。
さっきのような眉間に皺は寄せていない。
でも、どこか不機嫌かな?
「お父さんは嫌なの?」
「嫌というか、どうして呼ばれたのかと思って」
確かに、呼ばれる理由は無いよね?
「ジナル。俺達を王都に呼んだ理由は?」
セイゼルクさんも、それが不思議なようだ。
ジナルさんを見ると、思案する表情を見せた。
何か重要な要件でもあるのだろうか?
「悪い。難しく考える必要は無いんだ。呼ばれたのは、光の森で見た教会の事でだ」
魔石があった教会の事?
「あの教会で何を見たのか、実際に見た者達に話を聞きたいそうだ」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
それほど重要なことなのかな?
「あの教会を調べればいい事なのでは?」
シファルさんの言葉に、ジナルさんが肩を竦める。
「それが、組織の者が調べる前に崩れ落ちたんだ。ドルイドから聞いた魔石の見つかっていない」
「えっ?」
あの、大きな魔石が?
透明だった石が、最後に見た時は水色で薄っすら白く濁っていた。
でも、無くなるような物では無いとおもう。
「砕けた、とか?」
石を実際に見ているラットルアさんがジナルさんを見る。
「いや、砕けた残骸も無いそうだ。本当に跡形もなく、無くなったんだ」
跡形もなく。
結構な大きさの魔石だから、絶対に痕跡が残るよね。
砂のようになったとしても、魔石があった場所に何か残ると思う。
「それで、見た者に話しを聞きたいらしい」
たぶん、あの大きな魔石を私が一番見ているよね。
でも、私の話で役に立つのかな?
「本当に難しく考えなくていいから。ただ、見た物をそのまま伝えれば。あとは、フォロンダ様や周りの者達が考える事だから」
周りの者達?
「誰に話をするんだ?」
「フォロンダ様だ。他の者を同席される事はない。あっ、ただフォロンダ様の息子が同席する可能性があるそうだ」
お父さんの質問にジナルさんが慌てて応える。
良かった。
沢山の人と話をするのかと思った。
「息子?」
お父さんの眉間に深い皺が寄る。
えっ?
それに首を傾げる。
どうして不機嫌になっているんだろう?
「お父さん?」
「いや、大丈夫。どうする? 断るか?」
断って欲しいみたいな言い方だ。
でも、あの魔石は私を助けてくれた。
だから、何があったのか知りたいな。
「行くのか?」
私の表情を読んだお父さんが、少し複雑な表情をした。
「えっと、駄目なら行かないけど。あそこにあった魔石には、助けてもらったから」
「あぁ、そうだったな」
お父さんには、あそこであった事を詳しく話してある。
だから、魔石が私を助けてくれた事も知っている。
「それなら……仕方ないか」
本当に仕方なさそうにいるお父さんを不思議な気持ちで見る。
ここまで嫌がる事かな?
別に王都に行って、フォロンダ領主と話をするだけだ。
困るような事は、何も無い……よね?
「そこまで迷う事か?」
ラットルアさんの言葉に、私も頷いてしまう。
そんな私とラットルアさんを見たお父さんはため息を吐いた。
「フォロンダ様に、息子を紹介すると言われた事がある」
そんな事……あったかな?
「あぁ、それは迷うな」
えっ?
ラットルさんの言葉に、首を傾げる。
フォロンダ領主の息子さんは、問題があるのだろうか?
「父親の複雑な心境という奴だな」
シファルさんの言葉に、お父さんを見ると視線を逸らされた。
「お父さん、話をするだけだよ」
「はぁ、仕方ない。行くか」
お父さんの不本意だと分かる表情につい笑ってしまう。
そんなに嫌がる事も無いのに。
フォロンダ領主だって本気では無いだろうし。




