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796話 皆で協力して

マーチュ村の復興は、想定より早く進んだ。

その理由は、サーペントさん達の活躍にある。


始めの頃は森の復興に、かなり時間が掛ると思われた。

それは、亡くなった人や魔物があまりに多かったからだ。

亡くなった者達をそのまま森に放置する事は、病気の蔓延や魔物を呼び寄せる事になる。

そうなる前に、燃やさなければならない。

しかし、人や魔物の亡骸は森のあちこちに広がり過ぎていた。

そのため、この作業が大変になる事は誰の目から見ても明らかだった。


1日でも早くという思いで、魔物に襲われた翌日から森での作業が始まった。

1日目は、人や魔物の亡骸がどこまで広がっているのかを調べた。

その結果、オカンノ村の傍からも多くの亡骸が見つかった。

その翌日から始まった、作業はやはり困難を極めた。

森の地面は凸凹しているため、台車などに乗せて移動させる事が不可能だからだ。


淡々と森で作業を続けるマーチュ村の人達に、サーペント達がそっと近づいた。

そして、サーペントさん達が村の人達がしていたように、人や魔物の亡骸を移動させ始めたのだ。

最初はサーペントさん達の行動に困惑した村人達も、しばらくすると彼等に感謝した。

なぜなら1回で数十人もしくは数十匹の移動が可能で、移動速度も速かったからだ。


サーペントさん達の活躍で、3ヵ月ぐらいはかかるのではと思われた作業が、ほぼ10日で終わった。

その結果、村の修復に人手が回り復興が早まったのだ。


「あっ、この家も完成したんだ」


新しく建った家を見上げる。

私が板を何度も運んだ家だ。

何となく、嬉しい気持ちになる。


「あらっ。あなたは」


家から出てきた女性が、私を見ると少し驚いた表情を見せた。


「あっ、こんにちは」


挨拶をすると女性は嬉しそうに笑う。


「こんにちは。あなた達のお陰で、この通り元の家に、違うわね。元の家より凄く良くなったわ」


女性の言葉に笑ってしまう。


「ありがとう」


「いえ、では」


私は、今日も復興のお手伝い中。

今日運んでいる物は、木桶に入った塗料だ。

木の板は、大きくて重くて大変だった。

塗料は、持ち手のある木桶に入っているので持ちやすい。

これを最初に見た時は、喜んだ。

でも、塗料の入った木桶は非常に重かった。


「アイビー」


お父さんの声に視線を向けると、こちらに駆けて来るのが見えた。

少し焦った様子に首を傾げる。


「どうしたの?」


「ヌーガとラットルアはどうした?」


……あっ!

お父さんの言葉に周りを見て、少し焦る。

「待っていて」と言われていたのに、忘れて移動してしまった。


「待っていてと言われていたのに……。あっ、来た」


ヌーガさんとラットルアさんが、慌てた様子で駆けて来るのが見えた。

その2人の表情を見て、罪悪感に襲われる。


「アイビー、良かった」


ホッとした様子のラットルアさんに、頭を下げる。


「ごめんなさい」


ジナルさんから、逃走した教会関係者がいると教えてもらった。

そして、彼等のいた教会に私の絵姿があった事も聞いた。

それなのに、1人で行動してしまった。


「問題が無いならいいんだ」


ポンと私の頭を撫でるヌーガさん。

ラットルアさんも私の頭をポンと撫でると、塗料を取りに行こうと促してくれた。


「ドルイドは、どうしたんだ?」


いつもより早い時間に村に戻って来たお父さんに、ラットルアさんが視線を向ける。


「オカンノ村は、燃やす事が決まったんだ。その準備に、明日から取り掛かる事になったから、今日の作業は終わりだ」


お父さんの言葉にラットルアさん達が頷く。

きっと予想していたんだろうな。


オカンノ村の被害は想像以上だった。

生存者は0。

そして村のいたるところに魔法陣が描かれていたそうだ。


お父さんの様子がおかしかった日は、オカンノ村の中に入って状態を確認した日だったそうだ。

オカンノ村で、被害にあった子供達の姿を見つけて動揺してしまったんだとお父さんが翌日に教えてくれた。


お父さんは、裏の仕事までこなしていた冒険者だ。

そんなお父さんが動揺するほどの光景。

それがどんなものなのか、想像は出来ないけどかなり酷かったのだろう。


「村に残された魔法陣は、燃やしても反応しないのか?」


ヌーガさんの言葉に、お父さんが神妙な表情で頷く。


「魔法陣は全て木の魔物が無効化してくれていたから、きっと大丈夫だ」


木の魔物か。


「燃やす理由は何なんだ?」


「それは、村で行われてきた実験の書類などを、この世界から消すためだ」


実験?


「オカンノ村では、魔物を従わせる実験が繰り返し行われていたようだ」


村を襲ったサーペントを思い出す。

体中が傷だらけで、目からは血を流す子もいた。


「そんな実験が、村の至るところで行われていたんだ。そのせいで、関係書類を探すのに一苦労したよ。一応村の全てを見て回ったが、全てを探せたかは不明だ。いま、オカンノ村を守る壁はあちこち崩れている。警戒はしているか、完璧では無い。いつ、実験の事を知っている者が、書類を盗みに来るか分からない。だから、ある程度調べ終わったら、村を燃やして全てを消す事が決まったんだ」


そうか。

教会の関係者は、オカンノ村で何が行われていたのか知っている。

もしかしたら、実験に関する物を盗みに来る可能性があるのか。


「森に誰かがいた痕跡も見つかったしな」


お父さんの言葉に、ラットルアさん達の気配が鋭くなる。


「アイビー、絶対に1人にならないように」


「うん、わかった」


さっき、お父さんが焦ったのは森に誰かがいたからか。

マーチュ村を守る壁は既に修復されている。

だから大丈夫だとは思うけど、絶対では無いからね。

気をつけなくちゃ。


「アイビー達は、まだ作業が残っているんだよな?」


お父さんの視線の先には、塗料を作っているお店がある。

この村で建てられる家の床は、ある木から取った蜜を混ぜた塗料を塗るのが当たり前らしい。


「おっ。3人とも、帰って来たな」


お店から店主さんが顔を出した。


「遅くなってすみません」


お父さんと話をしていたため、歩く速度が遅かった。

ラットルアさんが頭を下げると、店主が慌てた様子で首を横に振る。


「いや、大丈夫。と言うか、必要な家には配り終えたから、もう終わりなんだ」


「そうなんですか?」


「あぁ、ありがとうな」


店主が、ラットルアさんから木桶を受け取る。

次にヌーガさんと私の木桶を受け取ると、私達に向かって笑みを見せた。


「お疲れ様。本当に助かったよ。重かっただろう?」


店主さんが私を見る。


「いえ、大丈夫です」


ヌーガさんの言葉に、店主さんが大笑いした。


「それは見れば分かる。俺は、お嬢ちゃんに聞いたんだよ」


「あぁ、それもそうか」


店主さんとヌーガさんの会話に、つい笑ってしまう。


「それで、大丈夫かい?」


店主さんが私を見たので頷く。


「はい。大丈夫です」


「それは良かった。痛みが出たら、自警団でポーションを貰いなよ。無料で貰えるから」


「はい」


店主さんと別れて宿に向かう。

今日はまだ、1時過ぎ。


「久しぶりにゆっくり出来るな」


お父さんの言葉に頷く。


「そうだね。久しぶりだね」


ラットルアさんとヌーガさんも嬉しそうだ。


あの魔物が襲って来た日から、今日で37日目。

家や店の修復は今日で終わりみたいだから、ようやく一区切りかな。


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[気になる点] うーん、落ち着くまで引きこもってようよ…
[気になる点] イヤな伏線の臭いがプンプンする〜!(T_T)
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