794話 にぎやかな朝
朝、目が覚めてソラと目が合うと、なぜか攻撃された。
違った。
目が腫れていたのか、治療してくれた。
あれには、ちょっと驚いた。
本当に起きてすぐ、ソラが顔を包み込んだから。
「おはよう、どうしたんだ?」
ソラの治療が終わって茫然としていると、お父さんが不思議そうな表情で部屋に入って来た。
「あ~、うん。目が腫れていたみたい」
「んっ? 別に腫れていないぞ? いつもの可愛い目元だ」
「そっか。いつものかわい……い?」
お父さんの言葉を繰り返していると、ハッとする。
……うん、目が覚めた。
お父さんを見ると笑っている。
今の私は、そうとう間抜けに見えただろうな。
「おはよう。何処に行っていたの?」
「ジナルに、今日の予定を聞いて来たんだ」
今日こそ話をしないとな。
「そうなんだ。それで?」
昨日の夜に、皆に話をしたからなのか少しだけ心が落ち着いた。
トロンの事を知った後から感じていた、ギュッと押しつぶされたような重さ。
それがほんの少しだけ、マシになった。
「朝食を食べた後に、ジナルが話を聞きたいそうだ。話せるか? 昨日の内容なら俺でも大丈夫だぞ」
お父さんの言葉に、少し考えてから首を横に振る。
「私の事だから、自分で話すよ」
「分かった。……傍にいるから」
「うん、ありがとう」
お父さんが、いてくれてよかった。
クラさんが持って来てくれたマジックバッグから、ソラ達のポーションとマジックアイテムを取り出して並べる。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「……」
ソラとフレムは元気に食べ始めたけど、ソルは少しふらふらしている。
そっとソルを窺うと、寝ながらマジックアイテムを口に運んでいる。
「ソル。起きて」
寝ながら食べたら、消化に悪そう。
いや、大丈夫か。
いつも通り消化しているね。
「……ぺふっ」
眠そうな視線で、私を見るソル。
その時、ソルの口からポロッとマジックアイテムがこぼれ落ちた。
「ふわぁ~」
欠伸をするソルに笑みが浮かぶ。
本当に眠そうだね。
「眠たいなら、寝たらいいよ。ご飯は、起きてから食べたらいいんだし」
「……」
コテッ。
「本当に寝たな」
「うん。昨日は魔法陣で飛ばされたりしたから、疲れたのかもしれないね」
「そうだな」
お父さんはソルを抱き上げると、ベッドに運んだ。
あれ?
ソルを載せたベッドに、使った形跡がない。
「お父さん、昨日は何処で寝たの?」
「アイビーと一緒のベッドだけど、どうしたんだ?」
お父さんの言葉に、首を傾げる。
……もしかして、あれは夢では無かったのかな?
夜中に起きた時、お父さんにギュッと抱きしめられていた。
何か怖い夢を見た気がしたけど、お父さんに守られているみたいで、すぐに落ち着く事が出来たんだよね。
でも、朝起きた時は1人だったから、あれは夢だと思ったんだけど。
「そっか」
本当の事だったのか。
「ほらっ。お腹が空いただろう? 着替えて、ご飯に行こう」
「うん」
すぐに着替えて、部屋を出る。
ソラとフレムは既にご飯を済ませ、ベッドで眠っていた。
2匹も、さすがに疲れているみたいだ。
食堂に行くと、ジナルさん達がいた。
昨日の夜にはいなかった、セイゼルクさんとヌーガさんの姿もある。
「おはようございます」
「「「「「おはよう」」」」」
「アイビー、ドルイド。こっち、こっち」
4人掛けのテーブルに座っているラットルアさんとセイゼルクさん。
2人の前の席が空いているので、お父さんと並んで座った。
「よく眠れたか?」
ラットルアさんの質問に笑顔で頷く。
「はい。大丈夫です」
お父さんのお陰で。
お父さんを見ると、ふわっとした笑みを浮かべ私を見ていた。
「あらっ、起きたのね。2人とも、おはよう」
シャンシャさんの声に視線を向けると、朝食を運ぶ彼女の姿があった。
「おはようございます」
「ふふっ。すぐにご飯を持って来るから、待っていてね」
「はい」
シャンシャさんが持って来てくれた朝食の野菜炒めを食べると、凄くお腹が空いていた事に気付いた。
そう言えば、昨日は朝ごはん以外に食べていなかったな。
「お替わりがあるけど、食べる?」
シャンシャさんの言葉に、野菜炒めが入っていた空のお皿を見る。
いつもは足りるのに、今日はもう少しだけ欲しい。
「少しだけ下さい」
「ふふっ、了解」
シャンシャさんが、追加で野菜炒めを持って来てくれた。
「ありがとうございます」
「ふふっ。いい食べっぷりよね」
シャンシャさんの言葉に首を傾げると、彼女は食堂を見渡す。
釣られて食堂を見渡すと……皆のお皿の上には大盛の野菜炒め。
食堂に入った時に見た量より増えているので、皆がお替わりをしたんだろう。
確かに、いい食べっぷりだ。
「あ~、食べた~」
セイゼルクさんの言葉に、苦笑する。
それはそうだろうね。
大盛で3回もお替わりをすれば。
「ちょっとつられて食べ過ぎたな」
ジナルさんの言葉に、フィーシェさんが呆れた様子を見せる。
「だから3回目のお替わりは止めたのに」
「食べられると思ったんだ」
そんな2人の様子に小さく笑うと、フィーシェさんが肩を竦めた。
「こいつは、本当に忠告を聞かない」
「そんなことは無いだろう?」
ジナルさんの言葉に、ワザとらしいため息を吐くフィーシェさん。
彼等といた時の、よく見た風景だと思った。
まるで、昨日の事が無かったような。
でも、そんなことは無いのだけれど。
食後の休憩を少しとると、そのまま食堂で話をする事になった。
シャンシャさんは、私達の様子から「ごゆっくり」と言って食堂を出て行った。
お父さんが、昨日の出来事をジナルさん達に話始める。
村を出発した事、結界に阻まれた事、魔物に襲われた事など、本当に色々な事があった。
そして私が連れ去られ、お父さんと合流するまでは自分で話をした。
昨日より、話をしていてもつらくない事に途中で気付いた。
トロンの事も、少し言葉に詰まったけれど自分の言葉で皆に伝える事が出来た。
私達の話が終るとジナルさんが、お父さんが私を迎えに行った後のマーチュ村の事を教えてくれた。
魔物の数が多く、かなり危険だった事には少し驚いた。
でも、サーペント達が追い払ってくれたそうだ。
そして、マーチュ村の壁が崩れ魔物が入り込んだけど、シエルが追い払い本当に助かった事。
ソラが怪我の治療をし、フレムが心のケアをしたみたいだと言われた時は驚いた。
フレムにそんな力がある事を知らなかったから。
「報告はどうするんだ?」
全ての報告をし終えると、お父さんがジナルさんに聞く。
「フォロンダ様には、本当の事を話すつもりだ。それと、シエルとソラ達は隠す事も考えたけれど、目撃者が多すぎるからきっと何処からか情報が洩れる。それなら、最初から隠さない方がいいと思うんだ。隠せば、何かあると思う者もいるからな」
確かに、ソラもフレムも子供達に人気だったよね。
「ただ、アイビーがテイムしている事は隠す。というか、関係がある事も隠すつもりだ」
ジナルさんの言葉に、お父さんが頷く。
「フォロンダ様にも提案するが、サーペントや木の魔物が沢山この村には現れた」
多くの木の魔物は、黒くなってしまっていたけど。
「だから、シエルもソラ達も、あの大量の魔物と一緒に何処からか現れた事にする」
「シエルとアイビーが一緒にいる所を見られているけど、大丈夫か?」
そう言えば、村の人達がいる前でシエル達と合流してしまった。
どうしよう。
お父さんの質問に、ジナルさんが大丈夫と笑う。
「俺とシエルは、一緒にマーチュ村に来た。そしてその時に少しシエルとは話をしている。だから、その事を利用するつもりだ」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
「シエルに協力してもらう事になるけど、村の中を一緒に歩き回るつもりだ。そうすれば、アイビーより俺の方に懐いている。もしくは、何か関係があると思わせられるだろう。なんと言っても村にも一緒に来た関係だ」
ジナルさんの言葉に、なるほどと頷く。
それだったら、きっと誤魔化されてくれるね。




