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793話 疲れたな

ポタ、ポタ、ポタ。


「あれ?」


湯船に浸かってホッとすると、どうしてか涙が溢れた。

顔を洗って涙を洗い流す。


ポタ、ポタ、ポタ。


おかしいな、私は大丈夫なのに。


「ぷぷ~」


湯船に浸かる私の傍にソラが来る。

そして私をじっと見る。


「大丈夫だよ」


そう、私は……大丈夫だから。

泣き止まないと。

皆に心配を掛けてしまう。


ポタ、ポタ、ポタ。


お風呂を出たら、ジナルさん達に私に起こった事を話して。

それで、ジナルさんから組織に報告する内容を聞いて。

あれ?

……聞いてどうするんだろう?

あぁ、シエルやソラ達の事をどこまで報告するのか、聞いておきたかったんだ。


ポタ、ポタ、ポタ。


それで、明日からは村の復興のお手伝いをして。

いっぱい、いっぱいやる事がある。

だから、泣いている時じゃない。

それなのに……止まらない。


ポタ、ポタ、ポタ。


「どうして?」


私は捕まったりしたの?


ポタ、ポタ、ポタ、ポタ、ポタ。


「ぷ~」


「ソラ、私……トロンに会いたいよ」


会いたい。

会って、謝りたい。


ポタ、ポタ、ポタ。


ポチャン。


「えっ? ソラ」


お湯の中をぷかぷかと近付いて来るソラ。


「ぷ~、ぶくぶくぶく」


うまく私に近付けないのか、不服そうに鳴くソラがお湯に沈んでいく。


「ソラ!」


慌ててソラをお湯から出して、腕の中にギュッと抱きしめる。


「大丈夫?」


「ぷっぷぷ~」


腕の中のソラは、プルプルと震えると私を見た。


「ありがとう、ソラ」


傍にいてくれて。


「目が腫れていたら、お父さんが心配するね」


そう思うのに、涙が止まらない。

どうしよう。


「ぷっ!」


えっ?

腕の中のソラが、プルプルと激しく揺れる。


「どうしたの?」


「ぷっ! ぷっ!」


なんだろう?

少し怒っている様な気がするけど、どうして?


「何か怒らせるような事をしたかな」


「ぷぷっ」


あっ、優しい鳴き方に変わった。

機嫌が直ったのかな?

あれ?

涙が止まった。


「ソラ、ありがとう。涙が止まったみたい」


「ぷ~」


ソラを見ると、情けない表情のソラ。

それに首を傾げる。


「どこか痛いの?」


「ぷ~」


少し不服そう?


「ごめんね。分かってあげられなくて」


「ぷ~」


悲しそうに鳴くソラに、ちょっとだけ強く抱き付く。


目を閉じると、トロンの姿が浮かんだ。

紫のポーションに浸かるトロンの、気持ちよさそうな表情を思い出して小さく笑う。

ポーションが少ないと、不服そうな表情で根っこをバタバタ動かすんだよね。


ポタ、ポタ、ポタ。


あっ、また。


「ぷ~」


腕の中でプルプル震えるソラ。

その振動が、ソラが傍にいる事を伝えているようでホッとする。


ポタ、ポタ、ポタ。

ポタ、ポタ、ポタ。

ポタ、ポタ。

ポタ……ポタ。


「トロンは後悔していないかな?」


「……」


「私に会って」


パシャン。


「ぷっ!」


ソラが体を大きく揺らし、少し大きな声で鳴く。

まるで怒っているその様子に、少し驚く。


「ソラ?」


ソラを見ると、本当に怒っているのか目がいつもより吊り上がっている。


「ぷ~」


不服そうに鳴くソラに、もしかしたら誤解を与えてしまったのかと焦る。


「ごめん。私はトロンに出会えた事を後悔していないよ。でもトロンはどうかなって。後悔していないかな?」


「ぷっぷぷ~」


ソラは後悔していないと思うんだ。


「それだったら、嬉しいな」


顔をお湯で洗う。

涙は止まったけど、目元に少し違和感を覚えた。

もしかしたら少し腫れているかもしれないな。


「そろそろ出ようか」


体を拭いて服を着る。


「ふぅ」


なんだか、体が凄く重いような気がする。

今から話し合いがあるのに。

しっかりしないと。


「ぷっ?」


心配そうに私を見上げるソラに、小さく笑う。


「……少しだけ、しんどいかな。たぶん、疲れているんだと思う」


体は重いし、気持ちも……気が重いな。

でも話をしないと駄目だから。


脱衣所から出ると、お父さんが手で顔を覆っていた。

どうしたんだろう?


「お父さん?」


もしかして、私がお風呂から出てこないから困っていたの?


「遅くなってごめん。皆はもう、集まっているの?」


「大丈夫。話をするのは明日になったから」


「えっ? どうして?」


もしかして、私の様子がおかしかった?

だから、気を遣わせてしまったのかな?


皆が疲れているから?

えっ、フィーシェの足が?

確かにズボンが血まみれだったけど。


「お礼を言われたよ。ソラのポーションをありがとうって」


「ぷっぷぷ~」


そうか、ソラのポーションで。

ソラは凄いな。


「部屋に戻ろうか」


そうだね

部屋に戻って、皆に話をしよう。

私に何があって、そしてトロンが何をしてくれたのかを。



―ドルイド視点―


アイビーから攫われた時の事。

目が覚めた後の事。

あの教会にいたフードを被った者の事を聞いた。


おそらくその者が、教会の化け物だろう。

その化け物が話した内容を聞く限り、トロンがいなければアイビーは逃げられなかったかもしれない。

かなり自信ありげに魔法陣で張った結界の事を話していたみたいだからな。

もしかしたら、トロンは何か気付いたのだろうか?


ソルを見る。

ソルとトロンだけが、アイビーと一緒にあの教会に飛ばされた。

もしかしたらソルとトロンは、何か知っていた?

それとも偶然?

いや、偶然ではないだろう。

ソルやトロンだけでなく、ソラやフレムも何か知っているのでは? と思う事があるからな。


アイビーの話は続き、木の魔物になろうとした時の不思議な体験を話してくれた。

でも、その内容に眉間に皺が寄る。

まさか、そんな悲しい過去を見ていたなんて。


ぽんぽんと背中を撫でると、アイビーが俺を見て笑った。

その笑みはいつもと違い悲しげで、ギュッとアイビーを抱きしめた。


「……」


いつもなら、大丈夫と言うアイビーが何も言わない。

それだけ、つらい過去を見たのだろうか?

いや、アイビーならそれでも大丈夫と言うはずだ。

「大丈夫」と誤魔化せないほど、疲れているのかもしれない。


それからアイビーは、木の魔物になって逃げた事。

そして俺と会ったところまで話した。

アイビーを見ると、顔色が悪い。


「あとは、俺が話すよ」


アイビーと合流したあとの事。

そして教会で見つけたトロンの事。

おそらくトロンが、教会に掛かっていた結界を壊した事を話した。


腕の中にいるアイビーを見るが、俯いていて表情が見えない。

でも、ぐっと両手を握っているのが分かったので、もう一度ギュッと強く抱きしめた。


ぽんぽんと背中を優しく撫でると、アイビーの震えが伝わって来た。

何も言わず、ただ背中を撫で続ける。

しばらくすると、アイビーの体から力が抜けた。


「にゃうん?」


シエルの不安そうな鳴き声に、大丈夫と頷く。


「寝たみたいだ。皆は、トロンが亡くなった事に気付いていたんだよな?」


「にゃうん」


答えてくれたのはシエルだけだが、他の子達の様子で知っていた事が分かった。


「そうか。トロンは、亡くなる事を知っていたのかな?」


教会に行けば、自分に何が起こるのか知っていた?

その質問には、皆の無言が返って来た。

知らなかったのか。


「教えてくれて、ありがとう」


「にゃうん」


んっ?

シエルの声に視線を向けると、ベッドを前脚でポンと叩いた。


「分かった」


アイビーをベッドに寝かせる。

これで良しっと思っていると、シエルに体を押された。


「うわっ」


慌ててシエルを見ると、シエルの前脚がポンと俺の肩を叩く。

えっ?

ソラ達が俺とアイビーの周りに来ると、寝始める。


「……アイビーと一緒に寝ろと?」


「にゃうん」


まぁ、アイビーの事が心配だからいいけど。


「アイビーが起きたら、驚くだろうな」


アイビーの隣に体を横たえると、布団を整える。


「おやすみ」


目を閉じると、スッと意識が遠のくのが分かった。

今日は、本当に色々あった。

……疲れた。


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― 新着の感想 ―
もうずっと泣いてる笑木の魔物やトロンのこと思うと涙止まらいよ、
[一言] 。゜(゜´ω`゜)゜。
[良い点] いつのまにか1番の推しになっていたトロン 最期は何故か、やってやったぜ!って顔だったんだろうなって クスッと笑ってしまったけど涙が止まらなかった。 トロンを預けた木の魔物、もしかしたら未来…
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