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792話 もしかして

宿「バーン」に着くと、宿の店主バトアさんが大きな荷物を持って出てきた。


「んっ? おかえり。無事だったか」


バトアさんの言葉に、お父さんが小さく頭を下げる。


「おかげさまで。ここでの訓練が役に立ちました」


「そうか。それは良かった」


嬉しそうに笑うバトアさんとお父さんに、ジナルさん達が首を傾げる。


「訓練って?」


不思議そうなラットルアさんに、冬の間にお父さんとバトアさん。

それとウルさんが特訓して事を簡単に話す。


「そうなんだ」


話を聞いたラットルアさんが、興味津々にバトアさんを見る。

もしかして訓練に興味があるのかな?


「それより、酷い格好だな」


バトアさんの言葉に、全員の姿を見る。

確かにお父さん達は、魔物の血や草木でかなり汚れている。

私も、魔物の血はそれほどついていないけど、草木や土汚れが酷い。


「ここまで来たなら宿を使っていいぞ」


バトアさんの言葉に、首を傾げる。

もしかして、シャンシャさんから宿を薦められた事を知らないんだろうか?


「シャンシャさんから、宿を使っていいと言われてきたんですが大丈夫ですか?」


お父さんの言葉に、バトアさんが頷く。


「もちろん大丈夫だ。ただ、まずは風呂に入ってくれ」


確かにそうだろうな。

この汚れた格好で宿の中を動き回ったら、あちこち汚しそうだもんね。


「ありがとうございます。あっ、宿に泊まりたい者がいるんですが、いいですか?」


お父さんの言葉に、バトアさんの視線がジナルさん達に向く。


「彼等の事は知っている。この村を守ってくれた者達だ。ありがとう。宿は自由に使ってくれ」


バトアさんの言葉に、ジナルさんが小さく頭を下げる。


「ありがとうございます。今、ここにいない者もいるんですが」


「問題ない。悪い、これから集まりがあるんだ」


バトアさんは、これから村の人達と話し合いがあるそうで、出入り口の鍵を閉める事だけ言うと自警団の詰め所に向かった。


宿に入るとホッとした。

たった1日というか半日?

その間に、色々な事があり過ぎた。


「大丈夫か?」


お父さんが心配そうに私を見る。


「大丈夫。なんだかホッとしたら……疲れたなぁって」


そうだ、凄く疲れているんだ。

ずっと緊張していたからだろうな。


「お風呂に入って、ゆっくりしよう」


「うん。……あれ? あっ! お父さん、私のバッグは森の中だ!」


魔物に襲われた時、持っていたマジックバッグは森に放り投げた。

あの中に、私の服が全て入っていたのに!


でも、あれはしょうがないよね。

逃げる時に荷物は邪魔だから。

まぁ、お金は腰に巻いたバッグの中だから、それだけは良かったけど。


「あっ。そういえばそうだったな。俺もだ」


お父さんが困った表情で私を見る。


「どうしよう。取りに行くと言っても……どこだろうね」


「あぁ、どこで荷物を放り投げたか、分からないな」


どうしよう。

着替えが無いから、お風呂に入れない。

でも、汚れは落としたい。

……ジナルさん達に服を借りる?

……駄目だ。

絶対に大きすぎる。


「アイビー」


今の声はクラさん?

後ろを振り返ると、宿に入ってくるクラさんがいた。

その手にはなぜか、私とお父さんのマジックバッグを持っていた。


「それ、どうしたんだ?」


お父さんが、クラさんからマジックバッグを受け取る。


「じいが、サーペントに乗って取って来た」


マルチャさんが、サーペントさんに乗って?


「必要だろうからって」


あの状況で、荷物を放り投げた場所を覚えていたんだ。

凄いな。


「ありがとう」


クラさんからマジックバッグを受け取る。

あれ?

私のマジックバッグは全部で3個だけど、2個だ。

1個は駄目だったのかな?


「1個は魔物のせいで破れて、中の物は駄目だったみたい」


やっぱりそうか。

魔物が沢山いたからね。

3個のうち2個も無事だったことが奇跡なのかも。


「クラさん、届けてくれてありがとう。マルチャさんにも『ありがとうございました』と伝言をお願いできる?」


「うん」


マジックバッグの中を確認する。

1個目は、ソラ達のご飯ポーションとマジックアイテムだ。

2個目は、服だ!


「よかったぁ。これでお風呂に入れる」


「助かったな」


「うん」


お父さんも服の入ったマジックバッグがあったようで、ホッとしている。

クラさんは用事があるらしく、荷物だけ渡すと帰って行った。

なんだか、凄く忙しそう。


「これで問題は無くなったな」


お父さんの嬉しそうな表情に笑って頷く。


「お父さん、お風呂に行こう」


「あぁ」


「にゃうん」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


んっ?

どうして皆が付いて来るんだろう?


「お風呂に入りたいの?」


「「「……」」」


「ぷっぷぷ~」


お風呂に入りたいのは、ソラだけみたいだね。

それなら他の子達は?


「アイビーと、一緒にいたいんじゃないか?」


「にゃうん」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


お父さんの言葉に鳴く、皆を見る。

そうか。


「脱衣所の前で、待っていてくれる?」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


「にゃうん」


「……」


ソラ以外は賛成みたいだね。

ソラを見る。

ジーっと私を見てくるソラ。

その視線は断りづらい。


「ソラは一緒に入ろうか」


「ぷっぷぷ~」


嬉しそうに鳴くソラを抱き上げて脱衣所に入る。


「皆は待っていてね」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


「にゃうん」


クラさんが持って来てくれたマジックバッグから着替えなどを出す。


腰に巻いたマジックバッグを外し、ポケットから2つの小さな石を取り出す。

そっとソラを窺う。

トロンの事は、落ち着いた状態で皆に話したい。

でも、私は落ち着いて話が出来るかな?


あれ?

そう言えば……シエル達はどうしてトロンの事を気にしないんだろう?


「ぷ~」


「えっ?」


ソラを見ると、ソラの視線が私の手にある事に気付く。

もしかして、トロンが亡くなった事を知っているの?

いや、話していないから知らないはず。


「ソラ……」


今ここで言うのは駄目だよね。

皆に言わないと。


「ぷぷ~」


ソラが私の足に体をそっと寄せる。

そんなソラの行動に、なぜか涙が溢れた。


「あっ」


皆に心配を掛けるから、トロンの事はなるべく思い出さないようにした。

だってトロンの事を思い出してしまったら……。


「ぷぷ~」


ソラがいきなり、足に体当たりをしてきた。


「えっ?」


「ぷ~、ぷ~」


ソラは鳴きながら、私の周りをくるくると回る。

そして、私の腕と肩を踏み台にして頭に飛び乗った。


「うわっ。ソラ、危ないよ」


「ぷぷっ」


ソラは、頭の上でぴょんぴょんと2回跳ねると、地面に飛び降りた。

その行動に首を傾げる。


「どうしたの?」


「ぷぷっ」


ソラは私をチラッと見るが、すぐに石を持つ手に移動した。

もしかして。


「……ソラは、トロンが……もういない事を知っているの?」


「ぷっぷぷ~」


知っているんだ。


「もしかして皆も?」


「ぷっぷぷ~」


そうなんだ。

知っているんだ。


「ぷぷっ」


ソラに手の中の石を見せる。

ソラは手の中を見ると、なぜか左の方に移動した。

その行動に首を傾げながら、手の中を見る。


あっ、左の石がトロンの石だ。


「どっちがトロンの石が分かるの?」


「ぷっぷぷ」


分かるんだ。


「トロンに何があったのか、知ってる?」


「……」


もういない事だけが分かっているのか。

そうか。

それなら、何があったのか皆に話さないとね。


「ぷぷ~」


「んっ?」


ソラに視線を向けると、お風呂の前に移動している。

そしてその場でピョンピョンと飛び跳ねる。


「お風呂に入らないとね」


「ぷっぷぷ~」


うん、まずは汚れを落とさないとね。


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― 新着の感想 ―
アイビーの感情に一番鋭いのは一番長くいるソラで良かったよ…
ソラは誰よりもアイビーと一緒にいたから。
お師匠どこ行った???
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