790話 皆の活躍
サーペントさんから下りてゆっくりと門に近付くと、武器を持った男性が姿を見せた。
緊張感が走るが、男性はサーペントさんを見ると安心した表情になった。
「敵では無かったんですね。えっと、あなた方は? あっ、ドルイドさんでしたね?」
男性はお父さんを知っているみたいだ。
お父さんを見ると、少し困った表情をしているので知らない様だ。
「すみません、えっと?」
お父さんの様子に男性が笑う。
「知らないと思いますよ。一方的に見ただけなので」
「そうですか」
ホッとした様子のお父さんに小さく笑ってしまう。
「村は大丈夫でしたか?」
お父さんの言葉に、少し悲し気な表情をした男性。
何かあったのだろうか?
「村を守る奥の壁が、魔物に破壊されてしまったようなんです」
男性の言葉に、お父さん達の顔に緊張が走る。
「奥には戦えない者達がいたので。今、被害を確認しているところです」
男性の悲痛な表情に、言葉が出ない。
「どうぞ。森はサーペント達が来てくれたお陰で落ち着きましたが、まだ危険です」
男性に促されて村に入ると、服を血で染めた自警団員達が走り回っていた。
どうやら、被害の確認をしているみたいだ。
壁が壊されたと聞いたので心配したが、門の近くの建物には被害が見られなかった。
それにホッとするが、門から少し離れた場所に亡くなった人達が並べられているのを見て息を飲んだ。
「彼等は、武器を準備するまで門を守ってくれました。彼等がいなけらば、村は壊滅していたでしょう」
男性の声に視線を向けると、複雑な表情をしていた。
「亡くなった者もいます。でも、光ポーションのお陰で多くの者が助けられました。あのポーションが無ければ、もっと多くの者が亡くなったでしょう」
男性の「光ポーション」という言葉に、お父さんを見る。
お父さんは、私を見ると頷いた。
そうか。
亡くなった人もいるけど、ソラ達のポーションで助かった人もいるんだ。
良かった。
そう言えば、ソラ達は森だよね?
ジナルさん達に無事だと報告したら、すぐに森に探しに行こう。
「戻って来たぞ」
男性の声に視線を向けると、村の奥から走って来る自警団員の姿が見えた。
自警団員の服を見て、ギョッとした。
なぜなら襟元から下が真っ赤に染まっていたから。
おそらく首を怪我したんだろう。
それもかなり大怪我を。
それなのに、あんなに走って大丈夫なんだろうか?
「大丈夫だった! 魔物はアダンダラという魔物が倒してくれたそうだ」
アダンダラ?
えっ、アダンダラってもしかして?
お父さんを見ると、眉間に皺を寄せている。
「アダンダラだって? 大丈夫なのか?」
「あぁ、なんでも急に現れて魔物を倒してくれたらしい」
シエルの事だよね?
「そうか、アダンダラが。それで……奥で亡くなった者は? 怪我人は? あと少しだけ光ポーションは残っているから、すぐに持って行った方がいいのか?」
自警団員の1人が光ポーションを持って、走って来た自警団員に駆けよる。
「そのポーションは、ここにいる怪我人に全て使って大丈夫だ」
「えっ?」
走って来た自警団員の言葉に、周りが少し混乱する。
「村の奥で亡くなった者はいない。怪我人も0だ」
自警団員の説明に、周りが静かになる。
魔物によって壁が壊された以上、被害は出ているはず。
なのに、亡くなった人だけでなく怪我人もいないのはおかしい。
「2匹のスライムが、怪我を治療してくれたんだ。だから、怪我人もいない!」
「本当に? 嘘じゃないわよね?」
自警団員に詰め寄る1人の女性。
周りにいる全員が、ジッと自警団員を見る。
「本当に全員が無事だ。相談役が確認した。間違いない! 全員、生きている!」
自警団員の言葉に、わっとマーチュ村の人達から歓声が上がる。
中には泣いている人達もいる。
きっと壁が壊されたと聞いた時から、心配だったんだろう。
それにしても、2匹のスライムかぁ。
「ソラとフレムだな」
お父さんの言葉に、笑って頷く。
マーチュ村の人達に見られてしまったから、これからの事を考えないと駄目だと思う。
でも、ソラとフレムを褒めたい。
だって、あの子達は凄い事をしてくれたから。
そしてシエルも。
「行こうか」
ラットルアさんが、私達にそっと声を掛ける。
「うん」
興奮しているマーチュ村の人達を横に、奥に向かって行く。
奥に進むと、建物の被害が出てきた。
大きな爪跡が残っていたので、魔物が暴れたのが分かる。
「アイビー、無事だったか。おかえり~」
ジナルさんの声に視線を向けると、大きく手を振っている姿を見つけた。
「ただいま~」
私も負けないように大きく手を振る。
ジナルさんの傍にいたフィーシェさん、セイゼルクさん、ヌーガさんも手を振ってくれた。
良かった、皆無事みたい。
「うわっ、フィーシェさんのズボンが血まみれだ! あれ? 左のズボンは食いちぎられたのかな?」
村の自警団員さん達の服もあちこちに血が飛び散っていた。
一番酷かったのが、村の奥の様子を確認してきた自警団員さん。
それに負けないぐらい、フィーシェさんのズボンが凄い事になっている。
「足を引きずっている様子は無いから、しっかり治療はしたみたいだな」
「うん」
ジナルさん達の元に向かいながら、周りを見る。
シエル達は既に村の中にいるはず。
何処にいるんだろう?
んっ?
奥で子供達が騒いでいるみたい。
魔物に襲われた時は、怖がって泣く子が多いのに。
この村の子供達は、恐怖に強いのかな?
「アイビー、怪我はしていないか? 何かおかしな事はされなかったか?」
ジナルさんが、心配そうに私の全身を確認するように見る。
その行動を、呆れた表情のフィーシェが止める。
「やめろ、気持ち悪い」
「はっ? どういう意味だ?」
フィーシェの言葉が不服だと、ジナルさんが詰め寄る。
お父さんは、そっとジナルさんから私を隠した。
「その疑いは、解決しているだろうが! 心配なだけだ!」
納得のいかない表情のジナルさんに笑ってしまう。
「大丈夫です。皆が私を助けてくれました」
ソルにトロン。
そして、お父さん達が。
「あっ、ジナルさんにもお礼を言わないと」
「お礼?」
「はい。ヒューマンコピーが出来る魔石が活躍しました。あれで、逃げられたんです」
あの魔石が無かったら、危なかった。
「そうか。あれが役に立ったのか。ところで何を複写したんだ?」
「木の魔物です」
私の言葉に、ジナルさんが驚いた表情をした。
そんなに驚く事だろうか?
「複写が、出来たのか?」
ジナルさんの言葉に、頷く。
「はい。お父さん。私は、木の魔物にちゃんとなれてた?」
「あぁ、大丈夫」
「ドルイドは凄かったぞ。木の魔物を見た瞬間に、アイビーだと分かったみたいで」
えっ、そうなの?
「名前を呼びながら木の魔物に向かって行くから、驚いたよ」
お父さんを見ると、少し困った顔をしていた。
「どうしてなのか。あの時は木の魔物を見てアイビーだと思ったんだよな。親子として繋がっているのかもな」
お父さんの言葉に、嬉しい気持ちになる。
「気付いてくれて、ありがとう」
「ふふっ。親だから当然だ」
お父さんと一緒に笑っていると、ジナルさんにポンと頭を撫でられた。
ラットルアさんからもぽんぽんと頭を撫でられる。
もしかして、凄く嬉しい表情をしているのかも。
あっ、そうだ。
ジナルさんにソラ達の居場所を聞けば、分かるかな?
「あのジナルさん」
「どうした?」
「ソラ達は、どこにいるんでしょうか? 皆は、無事ですか?」
「あぁ……、あそこにいるはずだ。元気だぞ」
ジナルさんが指したのは、子供達が騒いでいる方。
あそこにソラ達がいるの?
お父さんと顔を見合わす。
そして、そっと子供達の方へ向かった。
「ぷっぷぷ~」
あっ、姿は見えないけどソラの声だ。
「あっ、行っちゃうの?」
子供達の残念そうな声が聞こえたと思ったら、子供達の中からシエルが姿を見せた。
そして、私を見ると凄い勢いで走って来た。
その背にはソラとフレムもいる。
「皆!」
良かった。
無事だ。
怪我をした様子もない。
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
傍に来たシエルの首にギュッと抱き着く。
ソラとフレムも、私の頭にそっと体を寄せたのが分かった。
良かった。
本当に良かった。




