番外編 マーチュ村で3
―ウル視点―
ジナル達が門を出て行く。
光ポーションは持たせた。
きっと大丈夫だ。
「必ず帰って来てくれ」
ジナル達を目で追っていると、シエルの姿が見えた。
きっとこのままアイビー達の下へ行くのだろう。
……あれ?
シエルが門から出て行かない。
どうしたんだ?
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
シエルが鳴き声の後に、ソラとフレムの鳴き声が聞こえた。
不思議に思っていると、ソラとフレムを背に乗せたシエルがこちらに戻って来た。
そして、そのまま俺の横を通り過ぎて村の奥へと向かって行く。
「えっ? もしかして残ってくれるのか?」
「ウル! あの子達と一緒に行動しろ!」
マルチャの声にハッとする。
そうだ。
シエルは魔物だ。
間違って攻撃でもされたら大変だ。
「分かった」
シエルの後を追うが、早過ぎる。
もう姿が見えない。
何処に行った?
村の奥に近付くと、悲鳴や叫び声。
子供達の鳴き声が聞こえてきた。
「あっ!」
4足歩行の魔物が、親子に飛び掛かろうとしているのが見えた。
剣を手に親子の前に出る。
「ぐっ」
なんとか魔物の爪を剣で防ぐ。
魔物が次の攻撃に入ろうと、少し離れた所を心臓をめがけて剣を刺した。
「くっそ~、なんでこんなに皮膚が硬いんだよ!」
襲ってくる魔物は、何かされたのか異様に皮膚が強化されている。
なんとか、剣を魔物から引き抜くと親子に視線を向ける。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
周りを見て安全な場所を探す。
少し離れた場所に、自営団が守っている場所が見えた。
「あそこまで行きましょう」
親子を促して移動していると、魔物がこちらに向かって来るのが見えた。
「走って下さい。奴らを食い止めるので」
「あの――」
「急いで!」
親子が走ってくのを確認して、魔物の前に立つ。
やばいな、3匹か。
ギュアワ~!
ガギャワ~!
魔物の威嚇に、剣を握っていた手に力が入る。
3匹が同時に向かって来たのが見えた。
「最悪だな」
最初に牙をむいて来た魔物を避け、次に襲って来た魔物の首に剣を刺す。
くっ、剣が!
「やばい」
「おら~!」
えっ?
次に襲って来た魔物が、誰かによって倒される。
そちらに視線を向けると、大剣を持った男性がいた。
「助かった」
剣を魔物から引き抜く。
「いや、まだだ」
男性の視線の先を追うと、5匹の魔物。
「はははっ。確かにまだだな」
襲ってくる魔物を男性と一緒に倒していく。
「お前、強いな」
男性の言葉に、苦笑する。
「魔物の硬い皮膚を切り裂いているお前もな」
どんだけ力が強いんだ。
あの硬い皮膚を真っ二つに切るなんて。
「くっそ!」
男性の声に視線を向けると、子供に襲いかかっている魔物を倒していた。
でも、数が多く苦戦しているのが分かる。
助けに行きたいが、余裕がない!
「うわっ」
男性の手から大剣が弾き飛ばされたのが見えた。
「どけ~」
目の前の魔物を蹴り上げ、男性を見る。
「あっ」
子供に覆いかぶさる男性に襲いかかっている魔物。
男性は血まみれになっている。
「に゛ゃ~!」
何処からかシエルが走って来ると、男性を襲っている魔物の首に食らいつく。
そして爪で魔物の体を切り裂いた。
「すっげ~」
「ぷっぷぷ~」
ソラがピョント男性の隣に来ると、そのまま男性と子供を包み込んだ。
ソラの中から不思議そうに俺を見る男性。
「あ~、怪我の治療だ」
これは嘘を言ってもしょうがない。
あっ、男性は腕を引き千切られていたのか。
お~、治っていく。
凄いな。
男性もかなり驚いているな。
……これって、後でかなり問題にならないか?
まぁ、上に任せよう。
今は命を助ける事が重要だからな。
「がんばれ~!」
えっ?
子供の応援の声に視線を向けると、8匹の魔物と戦っているシエルが見えた。
さすがに手助けをと思ったが……アダンダラは強いんだな。
全く俺の手は必要ないみたいだ。
「凄いな」
えっ?
隣に立つ男性を見る。
腕を見ると、見事にくっついていた。
「この子のお陰だな」
男性がソラをそっと撫でる。
「ぷっぷぷ~」
ちょっと胸を張るソラ。
それに笑っていると、ソラがピョント何処へ向かってしまう。
「ソラ、待て。一緒に行くから」
ソラの後を追うと、子供を抱えた男性もなぜか付いて来た。
それを不思議に思い、隣に視線を向ける。
「魔物はあっちの子が倒しているから、他にやる事があるかと思ってな。この子も安全な場所に連れて行きたいし」
確かに、シエルが凄い速さで魔物を倒しているな。
子供を見ると、シエルをキラキラした目で見つめていた。
「あれ、アダンダラだよな?」
「あぁ、うん。えっと……」
男性の言葉に頷いたけど、なんて説明する?
「詳しく言う必要は無い。ただ、助けてくれたお礼を言いたいだけだ」
「……あの子はシエルだ。怪我を治療したソラと仲間だ」
「そうか」
ソラがまた怪我人の治療を始めた。
というか、2人同時にとか出来るんだ。
あっ、シエルがこっちに来た。
もうあの大量の魔物を倒して来たのか?
そう言えばフレムは何処だ?
周りを見る。
あっ、いた。
「この子を頼む」
男性が自警団員に子供を預けると、自警団員から声が掛かった。
「あの、魔物を倒しているあれはアダンダラですよね? えっと、俺達を助けてくれているんですか?」
「そうだ。だから間違っても攻撃なんてするなよ。あとあの青いスライムも」
「それは大丈夫です。ここの怪我人を全て治療してくれましたから」
うわ~、既にやらかしていたのか。
それよりフレムは何をしているんだ?
赤色のスライムだから、病気の治癒が出来るスライムでいいのか?
「うわ~」
男性が急に立ち上がると、叫びだした。
恐怖で混乱してしまったようだ。
こういう場所では時々見られる。
「てっりゅりゅ~」
「えっ?」
混乱して暴れている男性の頭を包み込むフレム。
しばらくすると男性は落ち着き、その場に座り込んだ。
「あのスライム、凄いですよね。混乱した人たちを落ち着かせてくれるんですよ。それに不安で泣いている子達の事も慰めてくれて」
そう言えば、子供達が集まっているのに泣いていない。
こんな場所では恐怖と混乱、そして鳴き声が当たり前なのに。
「なぁ、あの子の名前は?」
「あぁ、フレムだ」
一緒にこの場に来た男性に聞かれ、つい応えてしまった。
隣に立つ男性を見る。
まぁ、注意していればいいか。
「そうか」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
集まった人達の中を飛び回っている2匹のスライム。
そして、村に入った魔物を追い掛け回しているアダンダラ。
というか、いつの間にか魔物が逃げ回っている。
「これは……また、凄い光景だな」
楽しそうな声に視線を向けると、マルチャさんが手を上げてこちらに歩いて来た。
「森の魔物は、どうなりましたか?」
自警団員が不安そうに聞くと、マルチャさんが笑って「大丈夫」と応える。
「凄いんだよ~、サーペントがいっぱい来てね。村を襲っていた魔物を倒してくれたんだよね。木の魔物も、また来てくれたしね」
木の魔物が?
ジナル達は大丈夫だろうか?
村の門がある方を見る。
「あれが、最後の1匹かな?」
マルチャの言葉にシエルを見ると、魔物の首に食らいつき周りを見回している姿が見えた。
そして、魔物を口から離すと一声鳴いた。
「にゃ~ん」
それを見ていた人達から歓声が上がる。
シエルに集まる子供達に、少し焦った表情の大人達。
その光景に、体から力が抜ける。
「そうだ。ポーションは足りましたか?」
光ポーションは、自警団員に渡したけど足りたのだろうか?
「あぁ、十分だったよ。それよりあのポーション。首を切られて、死にそうだった者まで助けちゃったんだよね。凄過ぎるよね」
あ~、これは危険だな。
そんなポーションがあると分かったら、最悪奪い合いになるかもしれない。
上に頑張ってもらうのは当然だけど、この村のトップとも話す必要がありそうだな。
「ウル、大丈夫だよ。今回使わせてもらった光ポーションやあの子達の事は、村全体で内緒にすることを約束する。決して恩人を裏切る事はないよ」
マルチャを見ると、真剣な表情をしていた。
「当然だ」
男性を見ると、傍にいた自警団員まで頷いている。
そう言えば、この村の結束力は凄いと聞いた事がある。
「あぁ、頼むな」
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
申し訳ありませんが、3日~5日は更新をお休みさせていただきます。
短編とか校正とか仕事がたまってしまって、すみません。
次の更新は5月7日(日)になります。
宜しくお願いいたします。
ほのぼのる500




