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788話 大丈夫

「急に思い出したわりには、驚いた様子がないですね」


ラットルアさんの言葉に、師匠さんを見る。

確かに、あまり驚いた様子がない。

思い出してから、少し時間が経っているからかな?


「ははっ。さすがに思い出した瞬間は驚いたけど、すぐにあの人なら『やるな』と思ったんだ」


そんな風に思わせる人なんだ。

どんな人なのか、凄く気になる。


「あっ、あれか?」


師匠さんが指す方を見ると、屋根の一部と壁が崩壊した教会が見えた。

たぶんあれは私のせいだろうな。

そして見ないようにしてきたけど、教会の周りに倒れている人達も私のせいだろうな。


「アイビー、どうした?」


「えっと、あの……木の魔物になって逃げる時に足元で色々と叫び声が聞こえて。あの人達だったのかなって」


私の説明に、皆が周りを見る。


ポン。


「お父さん?」


私の頭を撫でるお父さんを見る。


「気にする事はない。ここにいるという事は、悪事に手を染めていた者達だ」


それはその通りなんだろうけど。


「ドルイドの言う通りだ。それに、生きているみたいだから気にするな」


えっ、生きてるの?

師匠さんの言葉に、周りで倒れている人達をよく見る。


「本当だ。動いている」


見ないようにしていたから、気付かなかった。

生きていたんだ、良かった。


「降りようか」


お父さんの言葉に頷くと、サーペントさんから降りる。


「人の気配はないな。逃げたのか?」


師匠さんの言葉に、シファルさんが頷く。


「確かに、動いている人の気配はないですね。でも何があるか分からないので、俺とラットルアで中の様子を見てきます。ここで待っていてください」


シファルさんとラットルアさんが武器を持ち、壁が崩壊した所から教会の中に入って行った。

しばらく待つと、ラットルアさんが顔を出して手招きした。


「誰もいないから大丈夫です」


教会に向かうと、ソルが腕の中から飛び降りる。


「ぺふっ」


「ソル? どうしたの?」


私の言葉にプルプルと震えると、教会に入って行った。

誰もいないみたいだから、大丈夫だよね?


「何かあったら呼んでね」


「ぺふっ! ぺふっ!」


教会の中に入ると、中央にある大きな石が目に入った。

あれだ。

洗脳されていたせいか少し記憶があやふやだけど、私が手を付いていたのはあの石だ。

そして、たぶん私を守ってくれた。


石の傍まで来ると、何か違和感と覚えた。

何だろう?

さっきと、少し違うような気がする。

でもここにいた時の記憶が、はっきりしていないからな。


「どうした?」


「あっ、シファルさん。なんだか、さっき見た石とは少し違うような気がして」


私の言葉に首を傾げるシファルさん。


「どう違うんだ? 色? それとも濁り方?」


色?

あれ?

どんな色だったっけ?


目の前の大きな石を見る。

石の色は水色で、薄っすら白く濁っている。

んっ?

……違う!


「透明だった! 石は透明でした」


「そうなのか?」


「はい。間違いないです」


どうして色が変わってしまったんだろう?

そっと手を伸ばす。


パシッ。


「えっ?」


手を掴んだシファルさんを見る。


「何が起こるか分からないから、触ったら駄目だよ」


あっ、それもそうだよね。


「ごめんなさい」


私の言葉に首を横に振るシファルさん。


「この石以外に、何か変わったところはあるかな?」


シファルさんの言葉に、部屋全体を見る。

特に変わったと思う場所は見当たらない。


「無いと思います」


「ぺふっ」


あれ?

ソルの声だ。

何処だろう?


「ぺふっ」


ソルの声を探すように建物の奥に行く。

さっきまで気付かなかったけど、教会には石のある部屋ともう1つ部屋があったみたい。

その部屋に入ると、こちらも何もなくただ広い空間になっていた。


「ソル? 何処?」


「アイビー」


お父さんが私を見て悲しそうな表情を見せた。

何?

どうして、そんな表情をしているんだろう?


「どうしたの?」


何か嫌な予感がする。


「ぺふっ」


私を呼ぶようにソルが鳴く。


「ソル」


ソルを見つけて、傍に寄る。


「えっ?」


ソルの傍には、真っ黒になった木の魔物がいた。

でも、外で見たような大きさではなく、まだ子供の木の魔物。

この大きさの木の魔物を私は知っている。

ずっと一緒に旅をしたから。


「嘘」


どうしてここに?

いや、他の子かもしれない。


「ぺふっ」


ソルが私の考えを否定するように鳴く。

ぐっと手を握り締める。

1つ深呼吸をすると、黒くなって動かなくなった木の魔物に近付く。


「トロン?」


「ぺふっ」


そうだ。

意識を失った時、ソルの声ともう1つ。

トロンの鳴き声が聞こえて来た。


それに、フードを被った人が言った。

「教会には魔法陣で結界を張ってある」と。

そして「外からその結界を外す事は絶対に無理だから、結界が破られることはない」とも。

それってつまり、内側からなら結果を外せるという事だ。


「トロン」


そっと手を伸ばして、途中で止まる。


「あっ」


目のまえでサラサラと崩れて行くトロン。


「……」


視界が滲んで見えなくなる。


「……」


私が捕まったせい?


「ぺふっ!」


ソルの力強い鳴き声に視線を向ける。

目を合うと、ポンと私の腕の中に飛び込むソル。


「ぺふっ。ぺふっ」


私に何かを訴えている。

でも、分からない。


ギュッと抱きしめられた。

そして背中をぽんぽんと優しく撫でられる。


「お、おと、さん。と、とろ、が」


「うん。そうだな」


少し抱きしめる力が強くなる。


「うぅぅぅ」


ソルに、ぽろぽろと涙が落ちる。

ソルはそっと触手を伸ばすと、頬に触れた。


「ぺふっ、ぺふっ」


抱きしめてくれるお父さんと、優しく触れるソル。

後から、後から涙が出て止まらなくなる。


どれくらい泣いたのかわからない。

でも、ようやく少し落ち着いた。


「ありがとう」


私の言葉に、お父さんが私の頭を撫でた。


「無理はするな」


「うん。ソルも、ありがとう」


「ぺふっ」


トロンのいた場所を見る。

今は、黒い砂の小さな山がある。

ギュッと目を閉じて、開ける。

お父さんから離れて、その小さな山に手を置く。


「トロン、ありがとう」


手を離すと、山の中に何か光ったように見えた。

山を崩すのは少し躊躇したが、そっと砂の山を崩す。


「石?」


とても小さな石。

それを掌に乗せる。


「どうした? それは?」


「トロンの中から出てきたの」


「石みたいだな?」


「うん」


ポケットから布を出して石を包むとポケットに仕舞う。

とても小さい石だから、無くさないようにしないと。


「アイビー、大丈夫か?」


奥の部屋から石のある部屋に戻ると、ラットルアさんが私をギュッと抱きしめた。

シファルさんも傍に来て、私の頭を撫でてくれた。

そんな2人にまた泣きそうになる。


「ありがとう。トロンは、大切な家族だったの」


「うん」


「私を守ってくれた」


「うん」


「2人にも紹介したかったな」


「うん。俺達も会いたかったよ」


ラットルアさんをギュッと抱きしめると、顔を上げる。


「もう、大丈夫。ありがとう」


泣いてばかりいたら駄目。

今は、まだやる事があるのだから。


「アイビー、無理は駄目だよ」


シファルさんの言葉に、頷く。

お父さんにも言われた。

そう、見えるのかな?

でも、本当に大丈夫だよ。


ソラ達に会いたいな。

あの子達は大丈夫だよね?


「マーチュ村に戻るか」


お父さんが私を見て言う。

きっとソラ達に会いたい気持ちがバレたんだろう。


「ここはいいの?」


「問題ない。後を任せる者達がいるから」


ラットルアさんの言葉にシファルさんが頷く。

それならいいのかな?


「皆の所に戻ろうか」


「うん」


皆は大丈夫だよね?


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― 新着の感想 ―
嘘でしょ…今回出番ないだろうなって思ってたら、気付かれずに守ってくれてた… なんとかなりませんか!?
お気に入りに登録してあるけど、読むといつも泣いちゃうの。
涙が止まらないよおおおトロン…………
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