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786話 迎え

「えっ? あれっ?」


「ぺふっ! ぺふっ!」


ソル?

あぁ、枝の上にソルが……木の枝!

もしかして……成功してる。

私、木の魔物になってる!


えっ、でもそれだったらさっきの何?


「なぜだ? なぜ、結界が!」


「えっ?」


下を見ると、男性の被っていたフードが外れ、顔が露わになっていた。

それを見て、小さな悲鳴を上げてしまう。


「なにあれ、怖い。あぁ、それより逃げないと!」


あれっ、木の魔物の体はどうやって動かすんだろう?

とりあえず、視線を遠くへ向けるとチラッとサーペントさんの姿が見えたような気がした。

あれが、私の知っているサーペントさんなのかは分からない。

でも、なんとなくあっちだと思った。


「動け~」


複写出来るのは2分から3分。

急がないと。

やった!

動い出した……って!


「早い~」


思った通りの方向へ動き出した、木の魔物になった私。

その移動速度に少し怖さを感じながらも、動いた事にホッとした。


ただ、さすがに木の魔物と同じ動きは無理みたいで、下から何かバキッとかバコッとか聞こえる。

そして何となく叫び声や、悲鳴のような声も……気のせいかな?


「ぎゃ~」


ひっ、気のせいじゃなかった!


「ごめんなさ~い」


いや、気にしている暇が無いし、どうやって根っこが動いているのかもさっぱり分からないし。

だから、制御は無理!

お願いだから逃げて下さい。


「ぺふっ! ぺふっ!」


「ソル。どうして楽しそうなの?」


ソルの鳴き声を不思議に思いながら突き進む。


「ぎゃ~」


気にしない、気にしない!


というか、あとどれくらいで魔石の力が消えるんだろう。

後ろが気になるけど、今は振り返っている時間は無い。

とにかく、あの場所から逃げないと。


あれ?

地面が揺れているような気がする。

立ち止まった方がいいのかな?


「うわっ。えっ、木の魔物だ」


急に現れた木の魔物に、驚き少し速度が落ちる。

どうしよう。

このまま突き進んだら、木の魔物の傍を通る事になる。


「攻撃されたりしないかな?」


でも、後ろには敵がいるから止まれない。


「えっ?」


目の前にいる木の魔物の体が、下から黒く染まっていくのが見えた。


「うそ。また、魔法陣?」


ビシビシ……パリン。


何かが割れる音がすると、ぶわっと風が吹き体が少し斜めになる。

慌てて体勢を整えて、木の魔物に視線を向ける。

既に全身が真っ黒になり、動きを止めた木の魔物がいた。


さっき見た光景を思い出す。

この子達は、あの木の魔物の子孫なのかな?

胸が痛いよ。


「アイビー!」


「お父さん?」


お父さんの声に驚いて、周りを見回す。


「あっちだ!」


お父さんがサーペントさんの上に乗って、こちらに向かって来るのが見えた。

えっ?

木の魔物になっている私に気付いたの?


「お、うわぁっ!」


時間切れ!

えっ?

私もしかして、空中に放りだされた?


「アイビー!」


目をギュッとつぶると、温かく力強い物に包まれた。


「良かったぁ」


安堵した声にそっと目を開けると、お父さんに抱きしめられていた。

それが分った瞬間、どっと涙が溢れた。


「ふぅっ」


怖かった。

凄く、凄く、怖かった。


「お、とう、さん」


「遅くなって悪い。迎えに来たぞ」


「うん」


本当に、来てくれた。

お父さんだ。


「アイビー。良かった」


えっ?


ここで聞くとは思わなかった声に視線を向けると、ラットルアさんとシファルさんがいた。


「ぐずっ。無事か?」


泣きながら心配そうに私を見るラットルアさん。

その隣で、少し呆れた表情のシファルさん。

2人を見て、なぜかおかしくなってしまう。


「はい、大丈夫です」


腕でぐっと涙を拭くと、笑顔で応える。

2人も来てくれたんだ。


「来るぞ」


お父さんの真剣な声に、腕の中から周りを見る。


「あっ」


冒険者の格好をした敵が、武器を持ってこちらに来る姿が見えた。

しかも、魔物までいる。


「屑どもが。ぶった切る」


シファルさんが、サーペントさんから飛び降りると敵に向かって行った。

なんだか、いつものシファルさんでは無かったような気がするけど大丈夫かな?


「シファルのやつ、本気で切れてるな」


ラットルアさんの言葉に、お父さんがクスっと笑う。


「アイビーはよい友人を持ってるな」


「うん」


本当に、そう思う。

シファルさんもラットルアさんも、私にとってとても大切な友人だ。


「さて、俺も行くか。アイビーは、サーペントの上で待機していてくれ。サーペント、ラットルア。娘を頼むぞ」


お父さんがサーペントさんから降りると、こちらに向かって来ていた魔物を一気に倒していく。


「お父さん、シファルさん」


「大丈夫だって、2人がもの凄く強いのは知っているだろう?」


ラットルアさんの言葉に、頷く。

でも、やっぱり心配だ。


「いたぞ!」


後ろから声が聞こえると、魔物がサーペントさんを襲った。


「ククッ」


サーペントさんは、尻尾を振り上げると襲って来た魔物を吹っ飛ばす。

その勢いは凄く、魔物がぶつかった木々が倒れてくのが見えた。


「すっごいな~。さてと、俺はあいつ等だな」


サーペントさんから飛び降りたラットルアさんが、魔物と一緒に来た敵に向かって走り出した。

魔物が一掃され慌てていた敵は、ラットルアさんの姿に焦って逃げようとする。


「てめえら、逃げられると思うなよ!」


ラットルアさんの剣が、敵をどんどん倒していく。

やっぱり彼も強いな。


ガチーン。


剣と剣がぶつかる音が森に響く。

木々が邪魔で、お父さんもシファルさんも見えない。

それに少し不安になりながら、気配を読む。

闘っている時は、動きが速いので分かりづらいけど……見つけた!


「良かった。無事だ」


……あれ?

いつもより2人の気配が荒々しい。


「あっ!」


木々の間から見えたシファルさん。

全身に血が付いているけど、動きから怪我をしている様には見えない。

という事は、返り血なのかな?


「あれ? シファルさん……笑ってる?」


まさかこんな状況で、笑わないよね?


「うわ~。シファルの奴、容赦がないな。相手に同情するよ」


シファルさんは怒らせると怖いと思っていたけど、どうやら本気で怒っているみたい。

あっ、敵が逃げ出してる。

でもそっちにはお父さんが……あっ、方向転換した。

あれ?

もしかして、敵の人達はお父さんとシファルさんから逃げ回っているの?


「今までだったら止めに行くけど、別にいいよな」


ラットルアさんの言葉に視線を向けると、もの凄くいい笑顔で笑っていた。


「ぎゃ~」


「にげっ」


「ひぃぃ……」


んっ?

どうして人の声が、急に聞こえだしたんだろう?

あぁ、サーペントさん達が魔物をほとんど倒したから、唸り声や木々の揺れる音が無くなったんだ。


「おっ、いた」


あれ?

この声は?


「誰だ?」


ラットルアさんが、声がした方に剣を向ける。

その先には、手を上げたお父さんの師匠さん。


「師匠さん、どうしてここに?」


「あっ、モンズさん?」


ラットルアさんの言葉に、師匠が手を振る。


「あぁ、そうだ。君は……『炎の剣』のラットルアで良いか?」


「はい。それよりどうしてここに?」


「ある人から、アイビーの危機を知らされてな」


ある人から私の危機を聞いた?

誰だろう?


「久しぶりだな。元気そうでよかったよ。この近くには、早く着いていたんだけど結界で入れなかったんだ」


師匠はそういうと、木々の上から微かに見える黒く染まった木の魔物を見た。


「彼女が『あの子が危ない、助けて!』と家に押しかけられた時は焦ったよ。でも、無事でよかった」


私を見て、安堵した表情を見せる師匠さんに、笑顔を返す。


それにしても彼女か。

それは、未来視の力を持つマリャお姉ちゃんの事かな?

でも、彼女は未来視の力が嫌で無くなったはずだけど。


「なぁ、ラットルア」


「はい」


「あれは……いいのか?」


師匠さんが、叫び声が聞こえる方を指す。


「別に、問題ないでしょう」


「そうか。まぁ彼等が自ら選んだ結果だな」


そうかな?

サーペントさんに、楽しそうに追いかけられるのは結果なのかな?

というか、サーペントさん、本当に楽しそうだね。

あっ、追いかけられている人の中に、私をこの場所に連れて来た人がいる。


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― 新着の感想 ―
ど、どうしよう凄く楽しい_:(´ཀ`」 ∠):wwwww
[良い点] すごいピンチだったし、木の魔物は可哀そうだったけれど、暗いだけじゃなくて良かった。面白かった。
[良い点] 早く逃げ出せて本当に良かった! 過去は悲しみが多いけど、ここから先は良くなると信じて!!!
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