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782話 違う

「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


えっ、何?


「何の音だ? 鳴き声か?」


ウルさんが立ち止まり周りを見回す。


「アイビー、大丈夫か? 怖くないか?」


「大丈夫だよ」


お父さんの言葉に手を振ると、ホッとした表情になり少し笑った。


「アイビー。悪いんだが、そこから何か見えないか? さっきの音が気になるんだ」


ウルさんの言葉に頷くと、高い枝に跳び移ってから周りを見る。


「ごめんなさい。ここからは、見えないです」


もう少し高いところにある枝に行ければ、見えるかな?

飛び移れそうな枝は……あった。

少し細いような気もするけど、大丈夫でしょ。


少し上にある枝に両手を掛ける。

体を持ち上げるために、ぐっと体重を掛け……。


「うわっ」


持っていた枝が大きくしなり、体制が崩れる。

慌てて手を離し、元の枝の上で体勢を整える。

……怖かった。


「無理はしなくていいぞ!」


下を見ると、ウルさんが慌てているのが見えた。


「はい」


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


また、聞こえた。

何だろう。

この声、知っているような気がするんだけど。


「ぎゃっ」


んっ?

肩から下げているトロンの入ったカゴを見る。


「あっ。木の魔物の声だ!」


お父さんを見ると、ハッとした表情をして頷いた。


「確かに、あれは木の魔物の鳴き声だな」


ここに来ているの?

もしかしたら結界の魔法陣を無効化してくれたのかもしれない。


「ぎゃぁ」


「トロン?」


なぜだろう。

トロンの鳴き声に、力がないような気がする。


「ぎゃぁ」


「トロン? 大丈夫? どうしたの?」


私をジッと見るトロンに首を傾げる。

もう少し意思疎通が出来れば、トロンが何を思っているのか分かるのに。


「ごめんね。トロンの気持ちがわかってあげられなくて」


「ぎゃ~」


優しく葉っぱを撫でると、プルプルと枝を震わせるトロン。


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


木の魔物は1体じゃないのかな?

今の鳴き声、どれも少しずつ違うような気がする。


「くそっ。またこっちに来たな」


魔物から逃げて村に向かっている途中、何故か魔物が追って来るのを止めた。

その間にかなり逃げられたのだけど、またこちらに魔物が向かってきたようだ。


「アイビーはそのまま木を伝って移動してくれ」


「分かった」


ウルさんの指示通り、ソラに案内してもらって移動する。

木の下では、魔物が時々現れるけど、ウルさんとお父さん。

マルチャさんとシエルが、見事に倒している。

私の投げる雷球も、少しだけお手伝い出来ているようで、ちょっと嬉しい。


木の上を移動していると、途中で遠くまで見渡せる場所があった。

とはいえ、魔物に追われているのでチラッと横目で確認しながら通り過ぎる。


「えっ?」


今のは、……何?

真っ黒だった。

形は知っている。

あれは、木の魔物だと思う。

でも、どうして真っ黒なの?


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


……もしかして、結界の魔法陣を無効化してあんな状態になったの?


「アイビー? どうした?」


気付けば移動して足が止まっていた。


「ごめん。なんでもない」


慌てて、足を動かす。

見間違いだよね?


また、木々の間から遠くまで見る事が出来る場所があった。

ほんの少し、速度を落として確認する。


あ~駄目。

見間違いじゃない。

あれは間違いなく木の魔物だ。


枝から枝に跳び移りながら、カゴを見る。

トロンの様子が、いつもと違ったのは仲間の死が分かったから?


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」


また。

いったい、どれだけの木の魔物がここに来ているんだろう?


「あっ。光の壁が消えて行く」


マルチャさんの言葉に、足が止まる。


「本当だ。誰かが魔法陣を無効化したのか?」


ウルさんの言葉に、お父さんが私に視線を向ける。


「木の魔物が……真っ黒になって動かない」


「ぎゃぁ」


私の言葉に同意するようにトロンが鳴く。


「大丈夫か?」


お父さんの言葉に、1回大きく深呼吸をする。


「大丈夫」


今は、悲しんでいる時間は無い。

とにかく、逃げて村の人達と合流しないと。


「ググググッ」


森に響いた重低音。

どこかで似たような鳴き声を聞いたような気がした。

でも、何処で聞いたんだろう?


「あ゛~、今度は何だ!」


ウルさんの苛立った声に、視線を向ける。


「落ち着け」


お父さんがウルさんの肩をポンと叩く。


「はぁ、分かってる」


今、冷静さを欠くのは危険だ。

ウルさんだってわかっているのだろう。

でも、次から次に起こる問題に、苛立ってくるのも分かる。


「ググググッ」


「ググググッ」


やっぱり、知っているような気がする。

いや、知っている鳴き声は、もう少し高めの鳴き声だったかな?


バキバキバキ。

バキバキバキ。


「デカい魔物みたいだな」


お父さんの言葉にウルさんも頷く。


「いた!」


木の魔物がいる逆。

オカンノ村の方の木々が、なぎ倒されていくのが見えた。

そして姿を見せたのは、私もお父さんも知っている魔物。


「あっ! お父さん、サーペントさんだ」


そうだ。

あの鳴き声は、サーペントさんの鳴き声だ。

でも、少し低いような気がする。

それに、


「ググググッ」


「ググググッ」


どこか苦しそうな鳴き声に聞こえるんだけど、気のせいかな?


「サーペントなのか?」


「うん。オカンノ村の方から……何匹だろう? 木々が邪魔で分からないけど、かなり大きな子も……」


バキバキバキ。

バキバキバキ。


「アイビー?」


途切れた言葉に、お父さんが不思議そうに私に視線を向けたのが分かった。

でも、しっかり見えたサーペントさんの姿に言葉が出ない。


「お父さん。あのサーペントさん……」


「えっ? どうした?」


木々の間から見えた、大きなサーペントさんの姿。

スッと体を持ち上げたのでサーペントさんの顔が見えたのだが、その顔には大きな傷があった。

しかも、体が黒く光ると苦しそうに木々を倒しながらのたうち回っている。


バキバキバキ。

バキバキバキ。


「凄く苦しそう」


「苦しそう?」


「ドルイド。アイビー。魔物が来る」


ウルさんの言葉に、ハッとすると周りの気配を探る。

魔物が多すぎて気配が読みにくい。


「こっちに来るな。行こう」


お父さんの言葉にちらりとサーペントさんを見るが、すぐに意識を切り替える。


バキバキバキ。

バキバキバキ。


「ググググッ」


サーペントさんが木々をなぎ倒す音に、苦しそうな鳴き声。

なんだか、嫌な予感がする。


「不味いな。あれはサーペントなんだろう?」


「あぁ」


ウルさんとお父さんの会話に、少し視線を遠くに向ける。

サーペントさんが見えた場所は、木々が邪魔で見る事は出来ない。

それに小さくため息を吐く。


バキバキバキ。

バキバキバキ。


「うわっ」


大きく揺れる木に体が飛ばされる。


「アイビー!」


お父さんがとっさに私を受け止める。


「良かった」


「サーペントだ!」


えっ?

ウルさんの言葉に、視線を向ける。

そこには確かにサーペントさんの姿がある。

でも、気配が全く無い。


「にゃ゛~」


サーペントがこちらに向かって来ると、シエルが私とお父さんを守るように前に出て戦いだした。

どちらも強い。


「不味いな。他にもいる」


マルチャさんの言葉に、周りを見回す。

気配が全く感じられなかったので気付くのが遅れた。


「5匹か」


お父さんとウルさん。

マルチャさんが、それぞれ緊張した面持ちで武器を構えた。


木々の間から見えるサーペントさん達。

その姿、顔を近くで見て気付いた。

体中が傷まみれで、目が真っ白だった。


「俺達の知っているサーペントだと思わない方がいいな」


お父さんの言葉に、頷く。

目の前にいるサーペント達から、空間移動をして表れた魔物と同じ物を感じる。


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