番外編 守る者6
―ジナル視点―
凄い速さで進むサーペントに感心しながら、周りに視線を向ける。
そろそろ目印にしていた場所が見えて来るはずなんだが。
「あっ、あった」
目印にした丘が見えたので、あと少しでマーチュ村に着けることが分かった。
魔物「グーク」も凄かったが、やはりサーペントの速さは桁違いだな。
「ククククッ」
「あれ? どうした?」
サーペントは急に止まり周りの様子を窺うと、少し方向を変えて進みだした。
それに首を傾げる。
「遠回りになっていないか?」
シファルの言葉に頷く。
少しだが、確かに遠回りのような気がする。
「どうしたんだ? アイビーの所には行かないのか?」
ラットルアが戸惑った様子でサーペントを見る。
サーペントは、ちらっと彼を見るがそのまま進んでしまう。
「ここに来たかったのか?」
サーペントは、少し高くなっている場所まで来ると、また立ち止まってしまった。
その行動に、全員で首を傾げる。
あと少しでマーチュ村に着けるはずなのに、どうしたんだろう?
「何かが、あるのかな?」
シファルの言葉に首を傾げると、周りの様子を探る。
魔物達はこの周辺にはいないようだ。
それに、いたとしてもサーペントはかなり強いので攻撃してくる事は無いだろう。
攻撃してくるとしたら、それは洗脳されている魔物だ。
もしかして、洗脳された魔物が近くにいるのか?
「なんだ、あれ?」
セイゼルクの言葉に視線を向けると、空中に薄ら光の壁のようなものが見えた。
「えっ」
まさか、嘘だろう?
「ジナル、やばいぞ」
フィーシェの言葉に、ギュッと両手を握る。
ここまで来たのに。
あと少しでアイビー達の所に行けるのに!
「フィーシェ、あれは何なんだ? やばいとはどういう事だ?」
ラットルア達は知らないのか、焦った様子で俺達を見ている。
「あれは結界で、魔法陣を無効化しないと通れないんだ」
俺の言葉に、ラットルアが唖然とする。
「魔法陣。他の方法は無いのか? 攻撃で穴を開けるとか」
セイゼルクの言葉に、力なく首を横に振る。
「下手に攻撃をすると、こちらがやられるだろう」
フィーシェが「くそっ」とサーペントの上で頭を抱える。
まだだ。
諦めてたまるか。
何か方法があるはずだ。
魔法陣についての情報を全て思い出せ。
魔法陣を弱めるには、魔法陣で使用される力以上の力がぶつけて壊す。
これは無理だ。
俺に、魔法陣の壊すほどの魔力は無い。
あとは、魔法陣に描かれている文字に傷を付ける方法だけど……あの魔法陣には近付けない。
近付けば、間違いなく死ぬだろう。
「くそっ」
カランカランカランカラン。
森に響いた音に、全員が武器を手にする。
「なんだ? 何の音だ?」
ラットルアの言葉に、首を横に振る。
警戒音のような気もするが。
「分からないが、何かあったみたいだな。えっ? 今の風は……」
セイゼルクが、ビクリと体を震わせると警戒しながら周りに視線を向ける。
俺やラットルア達も同じように、警戒を強めながら周りを見回す。
今、風の中に魔物の気配を感じた。
しかも1匹や2匹では無い。
もっと沢山の魔物の気配を。
「もう、魔物が来たのか」
フィーシェの言葉に、全員に緊張が走る。
まだ、アイビーと合流が出来ていないのに。
しかも、結界がある。
どうしたら。
カランカランカランカラン。
カランカランカランカラン。
まだ魔物の気配が増えた?
もしかして音と魔物の気配は関係があるのか?
視線を森に向けるが、ここからでは遠すぎて森の様子が分からない。
「ジナル。これを使え」
フィーシェから受け取った物を見ると、遠くと見る事が出来るマジックアイテムだった。
「ありがとう」
カランカランカランカラン。
カランカランカランカラン。
カランカランカランカラン。
マジックアイテムを通して音が聞こえた方を見ると、木々が大きく揺れている事に気付く。
そんな場所が1カ所ではなく、何ヵ所もあるみたいだ。
おそらくあそこに……あっ、見えた。
「魔物がいた。しかもかなりの数だ」
俺の言葉に、ラットルア達の表情が苦しそうに歪む。
カランカランカランカラン。
カランカランカランカラン。
まただ。
もしかしたら空間移動をした時の音なのか?
まぁ、今はどちらでもいい。
俺達に必要なのは、結界を通る方法を見つける事だ。
「ジナル。どうする?」
セイゼルクの言葉に、結界を見る。
「サーペント、結界の近くまで行ってくれ」
結界を作っている魔法陣を見れば、壊す方法を見つけられるかもしれない。
持って来たマジックアイテムを使っても良い。
とにかく、どんな方法を使ってもマーチュ村に行き、アイビーと合流する。
絶対に。
「きっと大丈夫」
そう、大丈夫だ。
信じよう。
絶対にアイビーと会えると。
サーペントに乗って、結界の傍まで来る。
結界を作る魔法陣を探すが、なかなか見つけられない。
「なんで、魔法陣が見つからないんだ?!」
ラットルアの言葉に、焦りが混じり出す。
それに引きずられないように、大きく深呼吸をする。
今は、冷静に考える必要がある。
「きっと大丈夫だから。落ち着け」と何度も心で呟きながら、地面に視線を向ける。
それにしても、どうして魔法陣を見つける事が出来ないんだ?
おかしい。
カランカランカランカラン。
カランカランカランカラン。
くそっ、またあの音だ!
ドドーン。
ドドーン。
「えっ?」
地面に響くような音に、視線を向ける。
木々が邪魔で何が起こったのか分からないが、魔物がいた場所と少し離れた場所から音がしたような気がする。
「何が起こっているんだ?」
シファルの言葉に、ヌーガが首を横に振っている。
気になるのは分かるが、今は魔法陣が最優先だ。
「とにかく魔法陣を探そう」
結界にそって移動するが、やはり無い。
どういう事だ?
「ジナル、あった!」
ヌーガの言葉に、彼が指した場所を見る。
そこには、落ち葉の間から魔法陣に使われる文字が見えていた。
「デカいな」
セイゼルクの言葉に、地面に描かれた魔法陣の大きさを想像する。
確かに、かなり大きな魔法陣だ。
しかも、魔法陣の半分ほどが結界で守られている。
ギャアウア~。
ガルガルガル。
何処からか聞こえてきた魔物の唸り声に、体が震える。
「「「「「ククククッ」」」」」
えっ?
魔物の鳴き声に反応したのか、サーペント達が鳴き出す。
「サーペント? どうした? 落ち着け」
驚いてサーペントの首を撫でるが、鳴きやまない。
どうしたんだ?
サーペントを見ると、魔物の方ではなく別の方向を見ている事に気付く。
その視線を追うが、木々が見えるだけで特に気になる物が無い。
ガタガタガタ、ガタガタガタ。
「うわっ、地面が揺れてる!」
足元から襲う揺れに、傍にいたサーペントにもたれ掛かる。
「悪い」
「ククククッ」
サーペントの気にしない様子にホッとして、彼等が見ていた方を見る。
あれ?
あんな大きな木があったかな?
視線の先には、木々の間から飛び出した巨大な3本の木。
ただ、少し前とは景色が違うような気がする。
「ぎゃぁ」
「ぎゃぁ」
「ぎゃぁ」
ウソだろう。
木の魔物だったのか。
「これも、教会が送り込んだのか!」
ラットルアの言葉が聞こえたのか、木の魔物の1体がこちらを見た。
全員が武器を構える。
あれ?
そう言えば、魔法陣を無効化した木の魔物がいたと報告が着ていた。
それに、教会が送り込むなら結界内。
でもあの木の魔物は、結界の外にいる。
「待て、戦う必要は無いかもしれない」
俺の言葉に、全員の視線を俺に向く。
「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」
「なんだ?」
セイゼルクの不思議そうな声に、全員の視線を木の魔物に向く。
木の魔物は、木々を揺らしながら結界に近付いていく。
そして結界に触れた瞬間、木の魔物の全身が一気に真っ黒に変わった。
「えっ?」
確かに魔法陣を無効化したら、体の一部が黒くなったとは書いてあった。
でも、こんな一気に真っ黒になるのか?
「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」
「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」
次々と結界に触れ、真っ黒になって行く木の魔物。
何をしているんだ?
「あっ、魔法陣が」
えっ?
シファルの言葉に、先ほど見つけた魔法陣を見ると、淡い光で包まれていた。
「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」
「ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃぁ」
新しい木の魔物が現れたと思うと、すぐに結界に向かって行く。
そして最初の木の魔物と同じように、黒くなって動きと止める。
その様子をただジッと見つめる。
バチバチバチ。
地面から音が聞こえ視線を向けると、魔法陣の一部が崩れていた。
「結界が、消えて行く」
ラットルアの言葉に、結界があった場所を見ると光の壁がスーッと消えて行くのが見えた。
バタバタバタバタ。
何かが落ちる音に視線を向け、息を飲む。
最初に黒くなった木の魔物が、ボロボロとその形を崩し地面に落下していた。




