779話 こっそり出発
「用意した物に、問題はないか?」
お父さんの言葉に、並べて置いたマジックバッグを見る。
ソラ達のポーションとマジックアイテムが入ったマジックバッグに、旅の途中で私達が食べる料理が入ったマジックバッグ。
それと、テントや鍋などの小物が入っているマジックバッグ。
うん、全部問題なし。
あとは、忘れ物……部屋に残っている物は、元々ある物だけだね。
「大丈夫。お父さんは?」
「大丈夫だ」
マジックバッグを、お父さんと手分けして持つ。
最後にソラ達をバッグに入れる。
トロンは、お父さんが肩から下げたカゴの中だ。
「よしっ、行こうか」
「うん」
部屋の前で待っていたウルさんと一緒に1階に降りる。
宿の玄関前には、宿の店主バトアさんと奥さんのシャンシャさんがいた。
そして、マルチャさん。
「「「おはようございます」」」
3人に挨拶すると、シャンシャさんが私の傍に来た。
「行ってらっしゃい。また会いましょうね」
優しい笑みで見送ってくれるシャンシャさんに笑みが浮かぶ。
「はい、行ってきます。また来ます」
ポンと頭を優しく撫でてくれるシャンシャさんを、見上げる。
少し心配そうな表情に変わったシャンシャさんに、笑みが浮かぶ。
「大丈夫です」
「そうね。お父さん達も一緒だからね」
「はい」
宿の店主バトアさんとシャンシャさんには、私達を探している者がいて逃げていると話した。
そして、誰にも見られずに村を出たいので、協力をして欲しいとお願いした。
2人は、私達が何かを抱えていると気付いていたみたいで、話を聞いてもあまり驚かなかった。
「行こうか」
バトアさんが、紹介してくれたのがマルチャさん。
お父さんとウルさんがマルチャさんと話をして、協力をしてもらえる事になった。
どこまで話したのかは分からないけど、少しだけ踏み込んで話したと、お父さんから聞いた。
「今日はありがとうございます」
お父さんの言葉にマルチャさんが笑う。
「いいよ。それに、なんだかちょっと森が不穏でね。一緒に森まで行くつもりなんだよね」
森が不穏?
「何かあったんですか?」
お父さんの質問に、難しい表情をするマルチャさん。
「ん~。どう言ったらいいのかな? 説明しづらいんだけど、なんだろう……森がざわざわしているというか、何か森から異様な物を感じるというかね」
マルチャさんの言葉に、お父さん達が首を傾げる。
「異様な物?」
昨日、ソルも何かに反応していた。
同じ物かな?
「ははっ、悪いね。説明しづらいんだ。ただ、何かいつもと違うような気がするんだよね。あっ、こっちだよ」
マルチャさんの案内で、村を守っている壁沿いに移動する。
しばらく歩くとマルチャさんは、立ち止まり周りを見る。
そして、傍にある壁を手で押した。
「ここから出るからね」
マルチャさんがもう一度同じ場所を押すと、壁の一部が右にスッと移動した。
マーチュ村の壁にある、隠し扉。
今回は、これを使用させてもらって村を出る事になった。
マーチュ村に教会は無い。
でも、教会の仲間が潜んでいないとは言えない。
もしかしたら、門を見張っている可能性だってある。
だから、隠し扉を使いたいとお父さんがお願いしたらしい。
まさか、本当に使えるとは思ってなかったのか「言ってみるものだな」と呟いていた。
ウルさんがそんなお父さんを呆れた表情で見ていたので、ちょっと気になった。
でも何があったのか聞こうとすると、お父さんの笑顔が怖くなったので諦めた。
隠し扉から、ウルさんが最初に出て周りを探る。
合図が来たので私が出てお父さん、最後にマルチャさんが森へ出た。
「ありがとう。助かります」
「いや、いいよ」
ウルさんの言葉に、マルチャさんが首を横に振る。
そして、森に視線を向け険しい表情をした。
「何か感じますか? 俺には分からないのですが」
お父さんの言葉にウルさんが頷く。
私も、気配を広範囲で探ってみたけど、分からない。
「そうだね。森の気配に何か混ざっている気がするね」
混ざっている?
森の気配……ん~?
やっぱり分からない。
「あの、何が混ざっているのか分かりますか?」
私の言葉に、マルチャさんが少し考えこむ。
答えづらい事を聞いてしまったのかな?
「自然の中に、人工的な物が混ざっているような気がするね」
「それが分るのは、スキルですか?」
ウルさんの言葉に、マルチャさんが頷く。
「そう。我が家系で引き継がれるスキルだね」
えっ?
家系で引き継がれるスキル?
親の子のスキルが同じ事はあるけど、家系で引き継がれるスキルがあるなんて、聞いた事が無いけどな。
「オカンコ村に行く予定だったよね?」
実際にはオカンコ村には、行かないけどね。
「あっ、はい。あの、スキルが家系で引き継がれるなんて聞いた事が無いんですが」
やっぱり、ウルさんも聞いた事が無いんだ。
「オカンコ村なら、こっちだね」
マルチャさんが先頭になり、森の中を歩き出す。
最初の予定では、森を出たらすぐに別れる事になっていたけど、どうするんだろう?
「スキルは神からん贈り物だから、血では引き継がれないと言われているね。でも、マーチュ村では家系で引き継がれているスキルが何個かあるんだよね」
「そうなんですか? 知らなかったな」
ウルさんがお父さんを見ると、お父さんも首を横に振っていた。
2人が知らないなら、私が知らないのも当たり前だね。
マルチャさんを先頭に森を進む。
まだ夜が明けたばかりなので、夜行性の魔物が多いはず。
攻撃的な魔物が多いと聞いたから、気を付けないと。
「マルチャさんの家系では、ずっと続いているスキルがあるんですか?」
お父さんの言葉に、頷くマルチャさん。
「えぇ、森に関係するスキルが……あれ?」
先頭を歩いていたマルチャさんが、何かに気付いて立ち止まる。
「どうしました?」
「いや、先ほど感じた物を感じなくなったみたいですね」
自然の中に混ざった、人工的な物の事かな。
という事は、気になる物が無くなったという事でいいのかな?
「ドルイド、どうする?」
ウルさんの言葉に視線を向けると、神妙な表情でお父さんを見ていた。
「ここに留まるのは、駄目だろ」
「そうだな」
お父さんとウルさんの様子から、少し不安な気持ちが湧き上がる。
そうか人工的な物が消えたという事は、消した者が森の中にいる可能性があるんだ。
でも、森の気配を追っても人の気配はない。
何が起こっているんだろう?
「アイビー、大丈夫だ」
不安な気持ちが表情に出てしまったのか、お父さんがポンと私の肩を叩く。
「武器はちゃんと持っているな」
雷球を入れたバッグにそっと触れる。
「うん」
ちゃんと準備してきたから、大丈夫。
「それなら行こうか。マルチャさんはどうしますか?」
お父さんの言葉に、森の奥を見たマルチャさん。
「もう少し森を見て回りたいから、途中まで一緒に行っていいかな?」
「もちろんです」
お父さんの言葉に、少しほっとした様子を見せたマルチャさん。
やはり森に混じった物のせいで、少し不安な気持ちがあったのかもしれないな。
「行こうか」
ウルさんが先頭に立って、森を進む。
無事に、この森を抜けられますように。




