番外編 守る者5
―「炎の剣」ラットルア視点―
フォロンダ領主が話した、この世界の過去は衝撃だった。
魔法は生まれた時から、傍にあって当然だった。
だから、その魔法がどうして生まれたのかなどは考えた事も無かった。
まさか、戦争の中で生まれたなんて。
「それは本当の話なのか? 昔の事というか、今の王家が始まるもっと昔だよな? どうやって知ったんだ?」
シファルは、怪しそうな表情でフォロンダ領主を見た。
貴族にそんな視線が許されるのは、彼だけだろうな。
「どうだろうな。この話をしてくれた者も、過去の戦争を全て見たわけでは無い」
見た?
いや、おかしいだろう?
もしかして、教会の化け物か?
「教会の化け物と呼ばれているのは、オードグズの大地を支配していた王の子だ。そして我々に過去を教えてくれたのは、全てを見届けたら死ぬはずだった魔法を使う者だ。彼が親や周りから聞き、そして見てきた戦争を我々に教えてくれたんだ。だから、概ねあっているだろうが、違うところもあるだろう」
「「「「……」」」」
何を言ったらいいのか分からない。
教会の化け物が王の子で、こっちにも教会の化け物と同じ存在がいる?
「教会の化け物は、他者の体を乗っていると聞いた事がある。こちらの協力者も同じなのか?」
セイゼルクの神妙な表情に、フォロンダ領主が首を横に振った。
「こちら側の協力者に肉体は無い。肉体は遥か昔に滅び、今は魂だけの存在だ。だが、存続するには力が必要だから、数十年に1回。魔法陣を使って必要な力を補給しているそうだ」
「そうか」
セイゼルクが頷くと、シファルがフォロンダ領主を見た。
「魔法陣は発動しようとしても無効化されるはずなのに、何故発動するんだ? おかしいだろう?」
そうだ、おかしい。
さっきフォロンダ領主は「魔法陣は見事に発動、成功した」と言った。
少し内容は変わったみたいだが、無効化されているはず。
「ある条件を満たす者には、『無効化』が適応されなかったからだ」
ある条件?
「教会はその条件に合う者達を使って、この世界に掛けられた魔法を少しずつ弱めてきた。そして、あと少しで魔法陣に傷が出来る可能性が高い。魔法陣は、少しでも変わると発動しなくなる。最悪の場合は、暴走する」
魔法陣は文字や絵に厳しい決まりがあると、噂で聞いた。
それは本当だったという事か。
「魔法陣が変わったらどうなる?」
「無効化の魔法が消えるだろうな」
フォロンダの説明に、セイゼルクの眉間に皺が寄る。
「んっ? 教会がアイビーを探しているのは、『ある条件』に合うからなのか?」
ヌーガの言葉に、フォロンダ領主が頷く。
「彼女が狙わる理由は、その通りだ。悪いがその条件については、アイビーさんから話していい許可をもらっていないから話せない。教会は、この世界に掛けられた魔法を消して、魔法陣をもっと自由に使いたいんだ。だが、魔法陣は世界に必要な力を利用している。使い続ければ、この世界は崩壊する」
「教会の化け物は、この世界を壊したいのか?」
セイゼルクの言葉に、フォロンダ領主は少し考えこむ。
「どうかな。彼は、自分の親。王に魂を受け入れる器として育てられたらしい」
器?
「王は、長生きするためなのか、何か事情があったのかは分からないが。魂を自分の息子に移動させようとしていたそうだ」
教会の化け物が生き延びた方法は、親から学んだのか。
というか、自分の息子を、自分の魂を入れる器にしようとしたのか?
「「最悪な親だな」」
シファルと俺の言葉を聞いて、ヌーガも頷く。
「そうだな。彼の生い立ちから、この世界を憎んでいる可能性はある。でも、だからと言って今の時代を壊しても意味がないんだけどな」
そうだよな。
「教会の化け物については分かった。それで、アイビーは大丈夫なのか?」
今は、マーチュ村にいるはずだよな。
シファルの言葉に、笑みを見せるフォロンダ領主。
「大丈夫だ。こちら側の信頼出来る者を1人、向かわせた。既に合流しているはずだ」
「連絡は、取っていないのか? 直通出来るマジックアイテムがあるだろう?」
セイゼルクの言葉にフォロンダが肩を竦める。
「教会側の人間が入り込んでいるからな。彼と連絡をとることはない」
敵か。
「内部にまで入り込んでいるのか?」
セイゼルクの言葉に、フォロンダ領主が頷く。
「あぁ、処理しても、処理しても、いつの間にか入り込んでいる」
部屋の出入り口には、フォロンダ領主が信頼しているアマリがいる。
彼女は、廊下の様子を探るためにあそこにいるんだろう。
「今も警戒が必要なほど?」
俺の視線に気付いたフォロンダ領主が苦笑する。
それに、溜め息を吐く。
この部屋の会話は、漏れないようにマジックアイテムを使用している。
それなのに、警戒しなければならない状態という事だ。
「でもまぁ、こちらもそれなりの数の見方を送り込んでいるから、どっちもどっちか」
「お互いに探り合いか」
「そうだな。あぁでも、ある者達のお陰でかなり情報を集める事に成功したよ」
シファルの言葉にフォロンダ領主が頷くが、なぜか嬉しそうな笑みを見せた。
そうとう、いい成果を得たみたいだな。
「ある者達?」
「奴隷契約で縛られている者達の事だ。彼等をこちら側にする事が出来たんだ」
えっ、奴隷契約で縛られた者を?
それは、凄いな。
「奴隷契約を解除する方法でも見つけたのか?」
セイゼルクの言葉に、にこりと笑うフォロンダ領主。
あぁ、見つけたんだ。
それは、凄い。
「とりあえず、今はアイビーに危機は迫っていないという事だな」
シファルの言葉に、微かに迷う表情を見せたフォロンダ領主。
信頼している味方を送り込んだのに、まだ不安なのか?
まぁ、敵は教会の連中だからな。
「アイビーの絵姿が、教会に渡ったんだ」
それは危機が迫っているという事では無いのか?
「すぐに奴らは動くと思ったから監視を強化したんだが、動きが無いんだ。どうやら、他の事に意識が向いているようだ。それが気になる。特に、アイビーがいるマーチュ村の隣の村。オカンノ村が関わっている可能性が出てきたから」
「オカンノ村?」
セイゼルクの表情が少し険しくなる。
それを見たフォロンダ領主が、少し驚いた表情を見せた。
「もしかして、何か知っているのか?」
「あの村に関わった冒険者はおかしくなる。俺達、冒険者の間で流れている噂だ」
オカンノ村。
最初に異変に気付いたのは、オカンノ村から戻って来た冒険者の妻。
会話をしようとしても、「オカンノ村は素晴らしい所だった」と言って、話が続かない。
それなら、どこが素晴らしいのか聞こうとしても詳しく話さない。
異変を感じて、妻がギルマスに相談。
でもいつの間にか、冒険者は姿を消していた。
「オカンノ村は、教会の手に落ちた」
落ちた?
「教会は、あちこちの小さな村や町で魔法陣や洗脳の実験を行っていたんだ。オカンノ村もその被害に遭った村だ。それを知ったのは最近だけどな。まさか、あの大きさの村を洗脳するとは思わなかった。ギルドとの連絡も問題なかったから、気付くのが遅れてしまった」
悔しそうな表情のフォロンダ領主に、何も言えなくなる。
「やっぱり不安だな。悪いが、雪の降り方が落ち着き出したら、すぐにマーチュ村に向かってくれないか」
「分かった。いつでも旅立てるように準備をしておく」
セイゼルクの言葉に、全員で頷く。
窓の外を見る。
これから本格的に雪が降って来る季節だ。
でも、それが通り過ぎたらアイビーに会えるんだな。
「話は変わるが、王弟が死んだという噂を聞いたんだが……」
セイゼルクの言葉に、意味ありげな笑みを浮かべるフォロンダ領主。
その表情を見た、セイゼルクの表情が引きつる。
「全て、計算づくか」
シファルが苦笑すると、ヌーガが頷く。
フォロンダ領主は一見穏やかそうに見えて、そうでは無いからな。
「面白い話があるんだ」
そう言い出したフォロンダ領主の話は、王弟を殺した暗殺者達の話なんだが。
面白いというより、馬鹿なのか?
「王子達を誘導するように、味方を送り込んでいるのか?」
シファルの言葉に、「あぁ」と声が漏れてしまった。
つまり、こうなるように誰かが王子達を誘導したという事か。
「いや。暗殺者については誘導していない。彼等は、勘が働くから口を挟むと危険なんだ」
フォロンダ領主の言い方から、味方は送り込んでいるんだな。
でも、暗殺者を選ぶ時は、誘導せずに王子に任せたと。
「彼等のどちらかが、次の王になるんだよな?」
シファルの嫌そうな表情に、笑ってしまう。
「それは、絶対に無い」
フォロンダ領主の強い言葉に、全員が彼を見る。
それ以上は、話す気とはないみたいだけど、彼等は王になれないのか。
まぁ、それだったら安心だ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次回の更新は3月9日(木)となります
1回お休みいたします、申し訳ありません。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




