表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
841/1152

番外編 守る者5

―「炎の剣」ラットルア視点―


フォロンダ領主が話した、この世界の過去は衝撃だった。

魔法は生まれた時から、傍にあって当然だった。

だから、その魔法がどうして生まれたのかなどは考えた事も無かった。

まさか、戦争の中で生まれたなんて。


「それは本当の話なのか? 昔の事というか、今の王家が始まるもっと昔だよな? どうやって知ったんだ?」


シファルは、怪しそうな表情でフォロンダ領主を見た。

貴族にそんな視線が許されるのは、彼だけだろうな。


「どうだろうな。この話をしてくれた者も、過去の戦争を全て見たわけでは無い」


見た?

いや、おかしいだろう?

もしかして、教会の化け物か?


「教会の化け物と呼ばれているのは、オードグズの大地を支配していた王の子だ。そして我々に過去を教えてくれたのは、全てを見届けたら死ぬはずだった魔法を使う者だ。彼が親や周りから聞き、そして見てきた戦争を我々に教えてくれたんだ。だから、(おおむ)ねあっているだろうが、違うところもあるだろう」


「「「「……」」」」


何を言ったらいいのか分からない。

教会の化け物が王の子で、こっちにも教会の化け物と同じ存在がいる?


「教会の化け物は、他者の体を乗っていると聞いた事がある。こちらの協力者も同じなのか?」


セイゼルクの神妙な表情に、フォロンダ領主が首を横に振った。


「こちら側の協力者に肉体は無い。肉体は遥か昔に滅び、今は魂だけの存在だ。だが、存続するには力が必要だから、数十年に1回。魔法陣を使って必要な力を補給しているそうだ」


「そうか」


セイゼルクが頷くと、シファルがフォロンダ領主を見た。


「魔法陣は発動しようとしても無効化されるはずなのに、何故発動するんだ? おかしいだろう?」


そうだ、おかしい。

さっきフォロンダ領主は「魔法陣は見事に発動、成功した」と言った。

少し内容は変わったみたいだが、無効化されているはず。


「ある条件を満たす者には、『無効化』が適応されなかったからだ」


ある条件?


「教会はその条件に合う者達を使って、この世界に掛けられた魔法を少しずつ弱めてきた。そして、あと少しで魔法陣に傷が出来る可能性が高い。魔法陣は、少しでも変わると発動しなくなる。最悪の場合は、暴走する」


魔法陣は文字や絵に厳しい決まりがあると、噂で聞いた。

それは本当だったという事か。


「魔法陣が変わったらどうなる?」


「無効化の魔法が消えるだろうな」


フォロンダの説明に、セイゼルクの眉間に皺が寄る。


「んっ? 教会がアイビーを探しているのは、『ある条件』に合うからなのか?」


ヌーガの言葉に、フォロンダ領主が頷く。


「彼女が狙わる理由は、その通りだ。悪いがその条件については、アイビーさんから話していい許可をもらっていないから話せない。教会は、この世界に掛けられた魔法を消して、魔法陣をもっと自由に使いたいんだ。だが、魔法陣は世界に必要な力を利用している。使い続ければ、この世界は崩壊する」


「教会の化け物は、この世界を壊したいのか?」


セイゼルクの言葉に、フォロンダ領主は少し考えこむ。


「どうかな。彼は、自分の親。王に魂を受け入れる器として育てられたらしい」


器?


「王は、長生きするためなのか、何か事情があったのかは分からないが。魂を自分の息子に移動させようとしていたそうだ」


教会の化け物が生き延びた方法は、親から学んだのか。

というか、自分の息子を、自分の魂を入れる器にしようとしたのか?


「「最悪な親だな」」


シファルと俺の言葉を聞いて、ヌーガも頷く。


「そうだな。彼の生い立ちから、この世界を憎んでいる可能性はある。でも、だからと言って今の時代を壊しても意味がないんだけどな」


そうだよな。


「教会の化け物については分かった。それで、アイビーは大丈夫なのか?」


今は、マーチュ村にいるはずだよな。

シファルの言葉に、笑みを見せるフォロンダ領主。


「大丈夫だ。こちら側の信頼出来る者を1人、向かわせた。既に合流しているはずだ」


「連絡は、取っていないのか? 直通出来るマジックアイテムがあるだろう?」


セイゼルクの言葉にフォロンダが肩を竦める。


「教会側の人間が入り込んでいるからな。彼と連絡をとることはない」


敵か。


「内部にまで入り込んでいるのか?」


セイゼルクの言葉に、フォロンダ領主が頷く。


「あぁ、処理しても、処理しても、いつの間にか入り込んでいる」


部屋の出入り口には、フォロンダ領主が信頼しているアマリがいる。

彼女は、廊下の様子を探るためにあそこにいるんだろう。


「今も警戒が必要なほど?」


俺の視線に気付いたフォロンダ領主が苦笑する。

それに、溜め息を吐く。

この部屋の会話は、漏れないようにマジックアイテムを使用している。

それなのに、警戒しなければならない状態という事だ。


「でもまぁ、こちらもそれなりの数の見方を送り込んでいるから、どっちもどっちか」


「お互いに探り合いか」


「そうだな。あぁでも、ある者達のお陰でかなり情報を集める事に成功したよ」


シファルの言葉にフォロンダ領主が頷くが、なぜか嬉しそうな笑みを見せた。

そうとう、いい成果を得たみたいだな。


「ある者達?」


「奴隷契約で縛られている者達の事だ。彼等をこちら側にする事が出来たんだ」


えっ、奴隷契約で縛られた者を?

それは、凄いな。


「奴隷契約を解除する方法でも見つけたのか?」


セイゼルクの言葉に、にこりと笑うフォロンダ領主。

あぁ、見つけたんだ。

それは、凄い。


「とりあえず、今はアイビーに危機は迫っていないという事だな」


シファルの言葉に、微かに迷う表情を見せたフォロンダ領主。

信頼している味方を送り込んだのに、まだ不安なのか?

まぁ、敵は教会の連中だからな。


「アイビーの絵姿が、教会に渡ったんだ」


それは危機が迫っているという事では無いのか?


「すぐに奴らは動くと思ったから監視を強化したんだが、動きが無いんだ。どうやら、他の事に意識が向いているようだ。それが気になる。特に、アイビーがいるマーチュ村の隣の村。オカンノ村が関わっている可能性が出てきたから」


「オカンノ村?」


セイゼルクの表情が少し険しくなる。

それを見たフォロンダ領主が、少し驚いた表情を見せた。


「もしかして、何か知っているのか?」


「あの村に関わった冒険者はおかしくなる。俺達、冒険者の間で流れている噂だ」


オカンノ村。

最初に異変に気付いたのは、オカンノ村から戻って来た冒険者の妻。

会話をしようとしても、「オカンノ村は素晴らしい所だった」と言って、話が続かない。

それなら、どこが素晴らしいのか聞こうとしても詳しく話さない。

異変を感じて、妻がギルマスに相談。

でもいつの間にか、冒険者は姿を消していた。


「オカンノ村は、教会の手に落ちた」


落ちた?


「教会は、あちこちの小さな村や町で魔法陣や洗脳の実験を行っていたんだ。オカンノ村もその被害に遭った村だ。それを知ったのは最近だけどな。まさか、あの大きさの村を洗脳するとは思わなかった。ギルドとの連絡も問題なかったから、気付くのが遅れてしまった」


悔しそうな表情のフォロンダ領主に、何も言えなくなる。


「やっぱり不安だな。悪いが、雪の降り方が落ち着き出したら、すぐにマーチュ村に向かってくれないか」


「分かった。いつでも旅立てるように準備をしておく」


セイゼルクの言葉に、全員で頷く。


窓の外を見る。

これから本格的に雪が降って来る季節だ。

でも、それが通り過ぎたらアイビーに会えるんだな。


「話は変わるが、王弟が死んだという噂を聞いたんだが……」


セイゼルクの言葉に、意味ありげな笑みを浮かべるフォロンダ領主。

その表情を見た、セイゼルクの表情が引きつる。


「全て、計算づくか」


シファルが苦笑すると、ヌーガが頷く。

フォロンダ領主は一見穏やかそうに見えて、そうでは無いからな。


「面白い話があるんだ」


そう言い出したフォロンダ領主の話は、王弟を殺した暗殺者達の話なんだが。

面白いというより、馬鹿なのか?


「王子達を誘導するように、味方を送り込んでいるのか?」


シファルの言葉に、「あぁ」と声が漏れてしまった。

つまり、こうなるように誰かが王子達を誘導したという事か。


「いや。暗殺者については誘導していない。彼等は、勘が働くから口を挟むと危険なんだ」


フォロンダ領主の言い方から、味方は送り込んでいるんだな。

でも、暗殺者を選ぶ時は、誘導せずに王子に任せたと。


「彼等のどちらかが、次の王になるんだよな?」


シファルの嫌そうな表情に、笑ってしまう。


「それは、絶対に無い」


フォロンダ領主の強い言葉に、全員が彼を見る。

それ以上は、話す気とはないみたいだけど、彼等は王になれないのか。

まぁ、それだったら安心だ。


いつも読んで頂きありがとうございます。

次回の更新は3月9日(木)となります

1回お休みいたします、申し訳ありません。

これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。

ほのぼのる500

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >「でもまぁ、こちらもそれなりの数の見方を送り込んでいるから、どっちもどっちか」 それなりの数の味方を ではないかと思います。
[気になる点] 「でもまぁ、こちらもそれなりの数の見方を送り込んでいるから、どっちもどっちか」 見方→味方❓
[一言] 下手なホラーより怖いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ