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番外編 守る者4

―フォロンダ領主視点―


連絡が取れなくなった村の数は、全部で17か所。

どの村も王都からは離れていたため、気付くのに遅れてしまった。

全ての村を調べるのは無理だが、王都から近い5ヶ所の村に冒険者を送った。

だが、その冒険者達との連絡も途絶えたと、先ほど報告がきた。


「もっと慎重に進めるべきだったな」


冒険者達にもっと……いや、今更だ。

これは俺の失敗だ。

そして、冒険者が向かった村に何かある。


コンコン。


「どうぞ」


「失礼します。今連絡が……何か、ありましたか?」


部屋に入って来たアマリが、俺を見るなり眉間に皺を寄せた。

どうやら俺は、彼女に心配させるほど酷い顔をしているようだ。


「村を調べに行った冒険者達からの連絡が、途絶えたんだ」


「そうですか……何かあるんですね」


アマリの言葉に、頷く。


「それより、どうした?」


村の事は、少し落ち着いてから考えよう。


「あっ、はい。王弟が殺されました」


「ようやくか。時間が、掛ったな」


王弟には気付かれないように、俺の部下が警護に付いていた。

彼等を下げたらすぐに殺されると思ったが、実際には1週間も掛かった。

王弟の警護だけで、1週間も守り切れるわけがない。

彼等は、王弟が自ら選ぶだけあってとても金に柔順だったからな。


「これまでの失敗があるので、警護体制が変わったと分かっても慎重になっていたようです」


なるほど。

俺の付けた警護が、優秀過ぎたのか。


「誰が動いた?」


第1王子の送り込んだ暗殺者か、第2王子が送り込んだ暗殺者か。

もしくは、教会か。


「第2王子が送り込んだ暗殺者でした」


んっ? でした?

何か言い方に違和感があるな。


「捕まえたのか?」


そんな指示は出していなかったが。


「いえ、死にました」


死んだ?


「第1王子が送り込んだ暗殺者が、手柄を横取りするために第2王子の暗殺者を殺しました」


「……はぁ」


もっと矜持を持った暗殺者を選べよ!

横取りって、ありえないだろう。


「それで、その暗殺者はどうしたんだ?」


「嬉しそうに、第1王子の執務室に入って行きましたよ」


こちらの尾行に全く気付かなかったのか?

いや、こちらの部下が優秀なんだろう。


「それで?」


「第1位王子から出されたお茶を飲んで、お旅立ちに」


「はっ?」


暗殺者が、依頼主の出したお茶を飲んだのか?

証拠や証人を消すために、依頼主が毒を盛るのはよくある事だ。

だから、依頼主と仕事後に会う時は、かなり注意するものなんだが。


「馬鹿なのか?」


「それもかなりの」


アマリの言葉に、笑ってしまう。

なんなんだ、この馬鹿々々しい展開は。


「全く予想できなかったな」


出来たら、凄いが。


「しかし、暗殺者が死んだ以上は、証人が消えた事になるな」


暗殺者の証言が一番効果的なのだが。


「王弟を見張っていた部下たちが、他の証拠を探してくれました」


アマリの言葉に首を傾げる。

そういえば彼等には、「暗殺を指示した者の特定と証拠の収集」を指示していたな。


「何か見つけたのか?」


殺しを依頼した事が分かる物と言えば、暗殺者と依頼主の間で交わした契約書だ。

だが証拠になる契約書に、王子の名前でサインする事は無いだろう。

そのサインだって、筆跡鑑定でバレないように第3者が書くはずだ。


「筆跡鑑定の結果で王子達の書いたサインで間違いないと判断された、2枚の契約書です」


「えっ?」


「成功報酬もしっかり書かれていますし、なんと言っても契約書のサインに王子の名前が書かれてあります」


証拠が出て嬉しいと思う以上に、なんだか情けなくなってきた。


「あの2人には、しっかりとした教師達が付いていたよな?」


例え王の血を継いでいなくても、王としての資質があったら王位に就けるつもりだったらしい。

第3王子は、もしもの時にしか使わない事になっているそうだから。


「えぇ。次の王になるために、しっかりと教育してきと聞いています」


やはり、小さい頃からしっかり教育してきたんだよな。


「そうだよな」


俺の記憶が間違っていたわけでは無いんだな。

しっかり教育を受けているのに、全て無駄だったんだな。


「まぁ、証拠を見つけてくれた部下達には感謝だな」


「証拠を見つけた者は、かなり驚いたみたいですよ。最初は、罠だと思ってかなり警戒したようです」


それは、そうなるだろうな。

俺だって、そんな証拠を見つけたら、まず罠を疑う。


「部下たちに『ご苦労様、ありがとう』と伝えてくれ。あと彼らに報奨金を出しておいてくれ」


「分かりました」


アマリは、笑みを浮かべ頷く。


「王子達はこのままで?」


「そうだな」


王子達が、教会と繋がっている事は分かっている。

それぞれに付いている貴族が、間を取り持ったようだ。


「まだ、現状のままかな」


今王子を潰すのは、得策では無いだろう。

貴族達の目を、王位継承で争う王子達に向けておく方が何かと便利だ。


コンコン。


「誰だ?」


「冒険者『炎の剣』の方々が到着されました」


来たか。


「入ってもらえ」


扉が開くと、見知った顔の冒険者達が入ってくる。

少し緊張した面持ちなので、小さく笑ってしまう。


「久しぶりだな」


「はい。お久しぶりです」


炎の剣のリーダー、セイゼルクと握手を交わす。

アマリに視線を向けると、既にお茶の用意を始めていた。


「座ってくれ」


俺の言葉に、それぞれが椅子に座ってこちらを見る。

アイビーさんを一番気にしていたラットルアの真剣な表情に、今から話す内容を考える。

どこまで彼らに話すのか。

全てか、それとも部分的か

セイゼルク率いる炎の剣の事は信頼している。

だから、全てを話しても大丈夫だと思う。


だが、どこまで巻き込む?

もし教会に、彼等が関わっている事が知られたら?


教会の動きも気になる。

アイビーさんの絵姿を手に入れたのに、彼女の捜索にあまり多くの人を動かしていない。

教会の化け物にとって、アイビーさんはどうしても手に入れたい存在のはずだ。

冬で雪が降っているとはいえ、おかしい。


まるで、他の事に気を取られているようだ。

その「他の事」とは何か。


「フォロンダ領主。俺達が呼ばれたのはアイビーを守る為だと聞いた。それ以上の情報はまだ貰っていないが、教会が関わっているのでは?」


ラットルアの言葉に、ハッとして視線を彼に向ける。


「アイビーが送ってくれたふぁっくすから、色々考えた。彼女は、魔法陣と関わってしまったのだろう?」


そうだった。

彼等はアイビーさんと、ふぁっくすでやり取りをしていたんだった。


「あぁ、そうだ」


「教会と魔法陣に、深い関りがあるのは知っている。だから俺達は、教会からアイビーを守ればいいのか? 教会にいると噂されている化け物から」


「ははっ。さすが」


まさか教会の化け物が、本当にいる事を知っているとは。

アマリから聞いた王子達とは、全然違うな。

……比べるのは、炎の剣に失礼だな。


「フォロンダ領主?」


セイゼルクの声に、1回深呼吸をすると彼等に視線を向ける。

4人を順番に見て。


「概ねあっているよ。君達を巻き込んで構わないか?」


俺の言葉に、真剣な表情で頷く4人。

炎の剣には、全てを話そう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 王子も暗殺者も■■過ぎて、この国の首脳陣って宗教に汚染される前から末期だったんじゃないかなぁと思い始めた今日この頃
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