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番外編 王都の教会3

―ある男の視点―


オカンケ村に送り込んでいた部下から、絵姿が送られて来た。

色も付いているので髪色まで分かるそれに、笑みが浮かぶ。


「この子が、最後の1人」


姿絵には、笑っている少女の姿が描かれている。

そっと絵に触れる。


あ~、この子が私の望みを叶える最後の生贄。

まだ、居場所は掴めていないが、姿が分かった以上はすぐに居場所も掴めるだろう。


「はははっ。王都を襲う準備も終わり、最後の生贄の姿まで確認できた。あとは、雪解けを待つだけだな」


「はい。あと少しですね」


部下の言葉に頷く。

そして、その後ろに控えている男に視線を向ける。


部下が最も信頼している男。

既に25年ほど、部下の下で働いている者だ。


「名前は?」


「プリスと申します」


プリスか。

そういえば、部下の名前は……まぁ、どうせ聞いても忘れる名前だ。

どうでもいいか。


「王都の異変に、よく気付いたな」


「監視していた犬どもの動きが変わりましたので、気付くことが出来ました」


プリスを観察する。

頬を、すこし上気させている。

どうやら、少し興奮しているようだ。


「どうした?」


「あっ、申し訳ありません。ようやく、あなた様にお会いする事ができ、少し気持ちが浮ついているようです」


恥ずかしそうに顔を伏せるプリス。

なるほどな。

私に会いたかったという事か。


「これからは直に指示を出すこともあるだろう」


「ありがとうございます」


部下に視線を向けると頷く。

この男は合格だ。

これからも使える。


コンコン。


「失礼いたします」


慌ただしく入ってくる女に、不快感を覚える。


「なんだ」


「子供がいなくなりました!」


はっ?

子供がいない?

それは、俺の魂を移動させるために用意した子供の事か?


「どういう事だ!」


「それが、昨日までは確かにいたそうです。ですが、今日の朝方に監視が見に行くと――」


「探せ! すぐに探せ!」


「はい! すぐに!」


俺を見て怯えた様子の女は、何度も頷くと部屋を出て行く。


「私も捜索に加わります」


プリスが一礼すると、女を追って部屋を出て行く。

その後ろ姿を見ながら、痛む胸元を掴む。


この体の不調は、日々ひどくなっている。

だからすぐにでも、魂の移動をしたいのに。

いなくなっただと!


魂を移動させる器だが、誰でもいいわけでは無い。

器になるには、魔力が強い者でないと移動の衝撃に耐えられない。

だから、時間を掛けて最適な子供を見つけ、ある場所で日々訓練をさせ器と強化してきた。

魂の移動に、耐えられるように。

あと少しで、強化が完了すると連絡がきていたのに。


「くそっ!」


まさか犬どもか?

いや、それはあり得ない。

子供を訓練していたあの場所は、教会とは一切関係が無い場所だ。

だから、犬どもが嗅ぎつけるわけがない。


「新たな子供を連れてきますか? 候補に挙がっていた子供でしたら、すぐに居場所が掴めるでしょう」


部下の言葉に、ぐっと奥歯を噛みしめる。

今から訓練をして、間に合うか?


「候補に挙がった子供を、全て連れてこい」


「全員ですか?」


「そうだ。全員に訓練を施せ」


この体の様子から、限界は夏ごろだろう。

ぎりぎりまで訓練させて、一番出来のいい子供に移動するしかない。

もし、どの子共も耐えられそうになかったら、出来の良い子供の特訓を続け、他の子共に移って時間を稼ぐしかない。

確か候補に挙がった子供は全員で6人。

4人もいれば十分な時間稼ぎになるだろう。

心配は、移動すればするほど体の限界が早くなっている事だが、今回はしょうがない。


「あっ」


握りしめていた姿絵を見る。

そうだ。

この者に、呪いを解かせれば、こんな心配はしなくて良くなるはずだ。

もっと、高度な魔法陣が使えるようになるのだから。


「この絵姿を複写して、部下たちに配れ。この者を、俺の元に連れて来い」


部下に姿絵が描かれた紙を渡す。

あと少しだ。

あと少しで、全てを手にする事が出来る。



―ある部下の側近―


ようやく会えたが、まさか本当に化け物のような姿だったとは驚いた。

フードで隠していたが、顔の半分が赤くただれて、垂れ下がっていた。

それに、首の辺りも色がおかしかったな。


あと、左足も悪いようだ。

立ったところを見たが、体重の掛け方が右に寄っていた。

おそらく、あの体の限界が近いんだろう。


それにあの絵姿。

この事は、報告が絶対に必要だな。


「失礼ですが。子供が行方不明になってから、何時間経っていますか?」


隣を歩く女性に声を掛ける。

女性は、ビクリと震えると俺に視線を向ける。


「監視の話から4時間ほどだと思います。3時間おきに見回りをする予定になっていたそうですが、見回りをする予定の者が姿を現さず、不信に思い子供を見に行って、姿が消えている事に気付いたそうです」


「なるほど、4時間ですか」


俺の言葉に、不安そうな表情で周りを見る。

周りには、化け物を崇拝する者達がいる。


「あの、一部の監視達から、その姿を見せない者が子供を連れ去ったのだろうと。ただ、その者を知る友人達は『それはあり得ない』と言っています。あの御方を大切に思っていた者だったようです」


化け物を崇拝していた監視と消えた子供。

微かに、周りが騒がしくなる。

どうやら、俺達の話から色々と想像を膨らませているようだ。

チラリと女性を見る。


「あの……」


女性は、周りの様子に困惑している。


「大丈夫です。こちらも人手を出して捜索に当たりますから」


「お願いします。あの御方が大切にしている子供です。きっと、どこかで泣いています」


周りの者達が「あの御方が大切にしている子供」という言葉に、大きく反応した。

きっと、子供の役割を知っているからだ。


「分かりました。動ける者は全員動かしますから、安心して下さい」


俺の言葉にホッとした様子を見せる女性。

肩をポンと叩くと、周りに視線を向け部下を探す。

近くにいるのは、カリマ……部屋の隅には、彼で良いか。


「ヒーリュ。大切な子供が、何者かに連れ去られました。すぐに捜索を始めて下さい。いなくなってから4時間。王都からは、まだ出ていないでしょう」


「分かりました。すぐに始めます」


部屋の隅にいた部下に指示を出すと、女性と一緒に子供が監禁されていた建物に向かう。

女性の話と俺の指示は、すぐにあそこにいた者達から外に漏れる。

そうなれば、あの化け物の目に留まるために、各自で勝手に動き出すだろう。

とりあえず目的、達成だな


子供が監禁されていた建物が見える。

中に入ると、監視を任されていた者達の死体が転がっていた。


「これは?」


「おや、あんたは」


化け物に信用されている部下の男が、建物の奥から顔を出す。

その手には、血に塗れた剣が握られていた。


「お久しぶりです。彼等から、話を聞きたかったのですが……これでは無理ですね。何か、子供に付いて話した者はいませんでしたか?」


「いや『俺たちは何も知らない』というばかりだった。役立たずが」


「そうですか。建物内を見ても? もしかすると、何か手掛かりがあるかもしれません」


俺の言葉に、男は肩を竦める。


「俺よりあんたの方が、そういうのを見つけるのが得意だろう。ここは、任せるよ。ところで、それは?」


そう言うと、隣にいた女性に剣先を向ける。

女性は真っ青な表情で、ぶるぶると震えている。


「奴隷です」


「あぁ、奴隷か」


そう隣にいる女性は、教会を絶対に裏切る事が無いように奴隷契約を一方的に結ばされた存在だ。


「それなら問題ないな。何か見つかったら、教えてくれ」


「分かりました」


部下の男は、俺をちらりと見たあと建物を出て行った。

女性がホッとした様子で、息を吐くのがわかった。


「子供はどこにいたんですか?」


「あっ、こちらです」


チラリと、男が出て行った扉に視線を向ける。

既に男の姿はない。

それに、微かな笑みを浮かべると女性を追うために、足を動かした。


子供の顔を覚えている者達は、全て消えた。

隠していたために、その姿を知っている者が少なったので助かったな。

これで、あの子を探し出すのはほぼ不可能。

候補に挙がった子達も、既に死んだ事になっている。


「こちらです」


女性が案内したのは、窓すらない地下。

空気が淀んでいているのか、少し息苦しい。


「最悪な場所だな」


子供がいて良い場所ではない。


「えぇ、全くです」


女性の雰囲気が、ガラリと変わる。

実はこの女性は、こちら側の者だ。


ある暗殺者達のお陰で、一方的に結ばれた奴隷契約を無効化出来る方法が見つかったそうだ。

この女性は、その方法で自由になった存在だ。


「子供は?」


「保護して、ある方に託しました」


女性の言葉に、笑みが浮かぶ。

とりあえず、奴の次を潰せたな。


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

ソルの鳴き声が間違っている事を、教えていただきありがとうございます。

修正いたしました。

これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


ほのぼのる500

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― 新着の感想 ―
周りも攻めて解決に向かってるけど、姿バレたのはヤバいヤツ。
バレてるーー!? いやーーーー!? もういっそのことずっと森の奥に居れば良いのでは
[一言] 段々動いてきましたね。
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