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771話 ドルイドとウル

―ドルイド視点―


アイビーが寝たのを確かめてから、そっとベッドを出る。

シエルは、俺が起きた事に気付き頭を上げた。


「俺がいない間、アイビーを頼むな」


俺の言葉に小さく頷くシエル。

本当に頭のいい子だ。


窓に設置した、防犯道具を確かめる。

少しでも窓が開いたら、大きな音が鳴る仕様だ。

道具屋で音を確かめたが、かなり大きな音が鳴ったので侵入者を驚かせる事も出来る。


「あれ?」


この防犯道具の事を、アイビーに言ったかな?

……明日、アイビーに話しておこう。

侵入者だけなく、アイビーまで驚く事になってしまう。

まぁ、寝ている時にあの音が鳴ったら、知っていても驚くだろうけど。


「問題ないな」


窓の数は、3個。

全ての防犯道具に問題はない。


部屋の扉からアイビーの寝ているベッドを見る。

規則的に掛布団が上下しているので、しっかり眠れているようだ。

ウルの話を聞いて、アイビーが不安に襲われるのではないかと心配だったのでホッとする。


部屋から出て扉に鍵を閉め、ウルの泊っている部屋の前に立つ。

さすがに組織に属している者だ。

部屋の外からでは、彼の気配がほとんど掴めない。

まだ、寝ていないとは思うが……。


コンコン。


ウルの話は、正直衝撃を受けた。

さすがに、この世界を覆う魔法陣や魂の話になるとは思わなかった。

でも、何を聞いても受け止めるつもりでいたので、今は気持ちも落ちついた。


ただ、不安だ。

俺は、アイビーを守り切れるだろうか。


「はい」


部屋の中から、しっかりしたウルの声が聞こえた。

やはり起きていたな。


「ドルイドだ」


「来ると思ったよ」


扉が開き、ウルの姿が見えた。

その彼の右手には、ナイフが握られている。


「悪い。もしもという事があるからな」


ウルが、ナイフを腰のケースに入れた。


「いや、予想はしていたから問題ない」


教会の状態を聞いたので、ウルの態度は正しい。

「大丈夫だろう」という気持ちは、自らを追い詰める結果に繋がる。


「どうぞ」


「ありがとう」


ウルの泊っている部屋に入りながら、腰に下げているナイフから手を離す。

部屋の中にいる者が、絶対にウルとは限らないからだ。


「酒でも飲むか?」


「いや、いい」


ウルの誘いに首を横に振る。


「確認したい事がある」


「なんだ?」


ウルに薦められて、彼の前の椅子に座る。


「石の力で魔法陣を発動させると、空を覆っている魔法陣に傷が付くんだよな?」


「あぁ」


俺の質問に頷くウル。


「その原因を、本当に知らないのか?」


魂の話までしたのに知らないのか、少し疑問に感じだ。

それに、ウルの「教えてもらっていないや聞かないでくれ」と言った時の少しうわずった声も気になった。


「あ~、それな」


ウルが肩を竦める。

その様子で、本当は知っている事が分かった。

では、どうしてあの時に話さなかったのか


「俺が聞いたら問題があるのか?」


俺とアイビーには、話せない事なのかもしれないな。


「ドルイドは問題ない。ジナルからは『アイビーには知られないように』と、言われたんだ」


アイビーに知られないように?


「無効化の魔法陣には、膨大の力が必要だった」


それは、そうだろうな。

世界を覆うほど、巨大な魔法陣だ。


「魔法陣に個々で力を送るより、何かに全員の力を集めて一気に送る方が成功する確率が高かった。だから、力を籠める事が出来る石を利用したそうだ。石の数は5個。3個は破壊済み」


残っているのは2個か。


「残った2個は、あるはずの場所から消えてしまい見つけられなかったそうだ」


「消えた1個は、教会の化け物が持ち去った。残りの1個は?」


「最後の1個はいまだに不明。教会がもう1個も持ち去ったのかと探したが、無かったようだ」


教会の化け物は、その石が空を覆う魔法陣と関係していると、どうして分かったんだろう?

何かを感じた?


そういえば、その化け物はいつからこの世界にいるんだ?

まさか、魔法陣が空を覆った時から?

さすがにそれは……いや、ありえるかもしれない。

それなら石と魔法陣の関係は、知っていた可能性が高い。


「その石なんだけど、空を覆う魔法陣と繋がっているんだ」


「そうなのか?」


「あぁ。アイビーに内緒にしたい理由は、石と繋がっているからだ」


ウルの言葉に首を傾げる。

内緒にする理由が分からない。


「ドルイドは、魔法陣の事をある程度は知っているんだよな?」


「まぁ、少しだが」


魔法陣を使い続けた事によって起こる自我の崩壊と暴走。

発動させるための生贄が必要な事ぐらいか。

あと、魔法陣に使用される文字の組み合わせも見た物は覚えているな。

まぁ、覚えていてもあまり意味はないだろう。

なぜなら、魔法陣は完璧でないと駄目だからな。


「魔法陣は完璧に書かなければならない事は、知っているのか?」


「知っている」


魔法陣は、小さな間違いも許されない。

文字の点の位置まで、決まっているからな。


「完璧な物を壊すのは、ほんの小さな傷でいい。その小さな傷が、魔法陣を呆気なく壊す」


ウルの言葉に頷く。

ただ、アイビーに内緒にした理由はいまだにわからないんだが。


「石と空を覆う魔法陣は、役目を終えたら切れるはずだったそうだ。それが切れずに繋がったままの状態になってしまった。だから、石に籠められた力で魔法陣を発動すると、その波動が空を覆う魔法陣にも伝わってしまうんだ。数回なら問題はない。でも、何度も何度も波動をぶつけていくと、波動がぶつかった部分が少しずつ歪みだす」


完璧なければ発動しない魔法陣に、小さな歪み。


「おそらくあと1回か2回で、その歪みは決定的な傷になる可能性があるんだ。そして魔法陣に傷が出来たら」


無効化の魔法陣は動かなくなる。


「ジナルが、アイビーに繋がっている事を知らせないように言ったのは、もしもの時を考えてなんだ」


もしも、アイビーが教会の奴らに捕まってしまったら。

絶対にそんな事にはなって欲しくはないが、その可能性も考えておかないと駄目なんだよな。

そうなった時、俺とアイビーはどう動くか。


「アイビーは絶対に魔法は発動しない。拒否するだろう」


例え自分の命が危ぶまれても、絶対に拒むだろうな。


「でも、人質がいたら?」


そうなんだよな。

人質がいたら、きっと魔法陣を発動させられてしまうだろう。


「アイビーが、石と空の魔法陣が繋がっている事が問題だと知っていたら、どうすると思う?」


知っていたら?


「魔法を発動させると見せかけて、繋がりを切ろうとすると思わないか?」


ウルの言葉に頷く。


「するだろうな」


アイビーなら、きっとそう動く。


「でもそれは、かなり危険な事なんだそうだ」


「危険?」


「あぁ、繋がりを切るには、石から一気に力を吸い上げないと駄目らしい。だが、石に残っている力の量が分からない以上かなり危険だ。もしアイビーが繋がりを切ろうとして石に触れたら、石から一気に力がアイビーに流れてしまう。そして流れ込んできた力に耐えられなければ、死ぬ」


アイビーが死ぬ。

俺が一番恐れている事だ。


「繋がりを切ろうとしただけで、力が流れ込むのか? 力を吸い上げようとしたわけでもないのに?」


「あぁ、『そうなるように』なっているそうだ」


「そうか。それならアイビーには、知らせない方がいいな」


もしもなんて考えたくはないが。


「石に残っている力なんだが、まだかなりあるだろうという事だ」


ウルの言葉に、首を傾げる。

先ほどから、気になっている事がある。


「石や空の魔法陣に付いて、かなり詳しいものが味方にいるんだな」


「こちらにも、教会の化け物みたいな者がいるという噂だ」


えっ。


「そうなのか?」


「噂だけどな」


ウルは噂だというが、どこか力強い言い方になっている。

つまり、その可能性が高いと思っているんだろう。


「そうか」


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― 新着の感想 ―
王かな?? それっぽいこと言ってたよね領主様
これフラグというのでは… もう最終手段が存在してしまうというのが最悪 というか繋がり切るだけじゃなくて、 治さなくちゃやばいんじゃ…_:(´ཀ`」 ∠):
[気になる点] 完璧なければ発動しない魔法陣に、小さな歪み 完璧でなければ発動しない では❓
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