768話 ジナルさんの仲間
クラさんが持ってきた剣は、刀身は幅が広く、全長は80㎝ほどの短刀。
持たせてもらうと、見た目より重みを感じた。
「それは、重さを生かして叩くように攻撃するのが特徴だ。特に接近戦にお薦めだな」
お父さんの説明に、タタミラさんが頷く。
接近戦に強い武器なんだ。
「クラは、この短刀が気になったの?」
タタミラさんがクラさんに確認をする。
「うん」
「そっか。この剣は、自警団員が洞窟の中でドロップして、売りに来た物なのよ。まだちょっと整備に不安があるから、引き渡しまでに時間を貰いたいんだけど、いいかな?」
「もちろん」
「ありがとう。自信をもって引き渡せるようにするわね。そういえば、ようやく気に入った武器が1つ見つかったのね」
タタミラさんの言葉に、嬉しそうに笑うクラさん。
その言葉に、首を傾げる。
今日のクラさんの腰には、剣が提げられている。
あの剣が1つ目では無いのだろうか?
「クラさん、その腰から提げている武器は、気に入らなかったの?」
「うん。これは、じいの物。森に行く時は持っていけと言われたから、今日初めて持ってきた」
つまり、マルチャさんから借りている物なのかな?
それなら、今選んだ武器がこれからのクラさんを守る武器になるのか。
「お父さん、あの武器はどうなの?」
「クラにとって、いい武器を選んだと思う」
そうなんだ。
「クラは力が強いし体力がある。あの短刀は重さを生かした武器だ。そこにクラの力強さが加わると、かなり重い攻撃が繰り出せるだろう」
お父さんの説明に、クラさんが頷く。
そうとう気に入っているのか、剣をギュッと抱きしめている。
「良かったね」
「うん」
タタミラさんが、クラさんから剣を受け取ると売約済みの印をつけた。
それを嬉しそうに見るクラさんに、なんだか微笑んでしまう。
タタミラさんに、雷球と投げナイフの代金を払う。
雷球はそのまま受け取ったが、投げナイフは整備をして使った回数を元に戻してくれるそうだ。
「それでは、頼むな。明日は午後3時頃に受け取りに来るよ」
「分かったわ。任せて! あっそうだ。雪の降り方があまりにも凄かったら、店は開けないから気を付けてね」
タタミラさんの店を出ると、宿に向かう。
風が吹くと、体が芯から冷えていく。
一気に気温が下がったみたいだ。
「クラさん、嬉しそうだね」
「うん。じいから、自分の武器を探すように言われてた。やっと見つけた」
本当に嬉しそうな表情で話すクラさん。
声からも興奮しているのが分かるし、歩き方もいつより弾んでいる。
「クラ、少し落ち着こうか。滑って転ぶぞ」
お昼ごろに少し暖かかったから雪が解けたのだろう、部分的に地面が凍っているみたいだ。
歩いていると、かなり滑りやすい場所がある。
凍っている場所は見ただけでは分からないから、気を付けないと。
「うわっ」
「アイビー!」
クラさんではなく、私が滑った。
支えてくれたお父さんにお礼を言って、地面にしっかりと足を付けて立つ。
雪の上も歩きにくいけど、凍った部分も歩きにくいよね。
「大丈夫?」
心配そうに見るクラさんに頷く。
「ありがとう。大丈夫」
「アイビーは、冬の道と相性が悪いよな」
お父さんが笑いながら、ポンと私の頭を撫でる。
「本当だよね」
気を付けているのに、足が取られるんだよね。
歩き方を考えていると、左手がギュッと握られた。
見ると、クラさんが私の手を握っていた。
「滑らないように、俺の後ろを歩いて来て」
クラさんは年下だから、普通は逆だよね。
そう思いながら彼を見ると、心配そうな表情で私を見ていた。
「ありがとう」
クラさんの後ろを歩くと、凍った場所を避けて歩いている事が分かる。
地面に見るが、凍っているかは分からない。
どうやって、判断しているんだろう?
「クラさんは、凄いね、凍っているところが分かるの?」
「なんとなく」
「なんとなく」でも、分かるのが羨ましい。
「そうなんだ。やっぱり、凄いね」
宿に着くと、ホッと体から力が抜けた。
「ありがとう、クラさん。凄く助かった」
「良かった。あっ、バトを見てくる」
夕飯に出て来るはずのバトが気になるのか、宿に入るとすぐに調理場に向かうクラさん。
その行動にお父さんと笑ってしまう。
「降り始めたな」
お父さんの言葉に、玄関の窓から外を見る。
外は、雪が降り始めていた。
「雪が降る前に帰って来られてよかったな」
「うん。そうだね」
見ている間にも、降る雪の量が増えていっている。
ほんの数分、帰るのが遅くなっていたら全身雪まみれになっていただろうな。
「お帰り~」
「えっ?」
お父さんの驚いた声に、視線を向ける。
「ウルか?」
厚手のコートを着て、耳まで隠す帽子をかぶっているので分かりづらいけど、確かにウルさんだ。
「そう。今日からよろしくなぁ」
ウルさんは、オカンイ村で初めて会ったジナルさんの仲間だ。
オカンイ村からオカンコ村まで、一緒に旅をした事もあり、頼りになる人だと思う。
「どうしてここに?」
お父さんの疑問にウルさんが楽し気に笑う。
「『知っている仲間が1人先に行く』と、ジナルから伝言が来ていないか?」
あっ、ジナルさんのふぁっくすの内容だ。
「あれは、ウルの事だったのか?」
お父さんの言葉に、頷くウルさん。
「そういうこと。2人とも元気そうでよかったよ。少し、心配していたんだ」
ウルさんの言葉に、お父さんが苦笑する。
その表情に、少し首を傾げる。
なぜかほんの少しだけ、違和感を覚えた。
「今日から、この宿に泊まるのか?」
「あぁ、既に部屋も借りた。夕飯の後で、少し話しがしたいんだが大丈夫か?」
あれ?
部屋は既に借りているのに、その格好?
もしかして、どこかへ行くのかな?
窓から外を見る。
さっき見た時より、雪の降り方が一層激しくなっているように見える。
この状態の外に出たら、危なくないかな?
「まさか、今から出るのか?」
お父さんが、ウルさんの格好を見てから眉間に皺を寄せた。
「あぁ、宿の周辺だけでも確認しようと思ったんだけど……ここまで降るか?」
どうやら、ウルさんの予定は変わりそうかな。
まさか、雪で視界が真っ白なのに、周辺を確認することはしないだろう。
「無理かな?」
「無理だろう」
ウルさんの言葉に、お父さんが呆れた表情をする。
「あれ? やだ、ウルさん。まさかこの雪の中、外に出るつもりなの?」
食堂から出て来たシャンシャさんが、ウルさんの格好を見て驚いた表情をする。
それに慌てた様子で首を横に振るウルさん。
「いえ、さすがに今の状態では出ません」
「そうよね。びっくりしたわ」
シャンシャさんがホッとした様子で、お父さんと私を見た。
「もう少ししたら夕飯が出来るんだけど、その前に冷えた体を温めてきたら?」
それはいいかも。
部屋は暖かいけど、外で冷え切った体にはやっぱりお風呂が一番だからね。
「そうだな、そうしようか」
「うん」
シャンシャさんと別れて、ウルさんと一緒に3階に向かう。
どうやらウルさんも3階らしい。
「ウルさんはお風呂、どうするの?」
「あぁ、俺は寝る前に入るよ。夕飯に行く時に声を掛けてくれ」
私たちが泊っている部屋の右側がウルさんの部屋のようだ。
ウルさんは、手を上げると少し眠そうな表情では部屋に入って行った。
今日宿に着いたという事は、疲れているのが当然だよね。
夕飯の時に、起きてくれるかな?




