764話 一緒だから
マルチャさんの家から出ると、彼がクラさんを呼んだ。
「クラ。ドルイドから聞いた話を、私が言った事にしてお父さん達に話すんだ。絶対に彼の名前を出しては駄目だぞ」
「分かった」
「頼むな」
マルチャさんとクラさんの会話に首を傾げる。
どうして、クラさんのお父さん達に話す必要があるんだろう?
あっ、彼の家族はマーチュ村の最後の壁と言われているんだった。
この村の現状を知っておく必要があるのか。
「では、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
マルチャさんとお父さんが挨拶を交わすと、マルチャさんは自警団の方へすぐに行ってしまう。
本当に急いでいるみたいだ。
ソルの魔石が役に立ってくれるといいけれど。
「帰ろうか。クラはどうする?」
「今日は帰る。罠はいつ見に行くの?」
「そうだな。今日の夜から雪が本格的に降るみたいだから、明日にでも見に行った方がいいだろうな。雪に埋もれている可能性があるから」
そうだ。
せっかく罠を仕掛けたのに、雪に埋もれてしまったら狩りにならない。
「明日、行く。また、明日」
手を振ると、走って行くクラさん。
「クラは、反応を見ずに行動を起こす事があるよな」
「そうだね」
今も、クラさんの中で決定したみたいだけど、お父さんは返事を返していないもんね。
まぁ、明日でも大丈夫だから問題ないけど。
「帰ろうか」
「うん。お父さん」
宿に向かって、隣を歩くお父さんを見る。
「どうした?」
「魔法陣の事を、マルチャさん達に話して良かったの? マルチャさんは、お父さんの事を誰にも言わないようにしてくれるみたいだけど」
周りを見て誰もいない事を確かめてから、声を潜めて聞く。
魔法陣については、誰にも知られない方がいいからね。
「あぁ、今はあの情報が必要だと判断したんだ」
「そうなんだ」
お父さんがそう判断したなら、間違ってはいないんだろう。
宿に戻ると、店主のバトアさんが迎えてくれた。
挨拶をして部屋に戻ると、ソラ達をバックから出す。
「お茶を用意するよ」
「ありがとう」
お父さんにお礼を言って、お菓子の入っているマジックバッグを開ける。
今日は、ちょっと甘めのお菓子にしよう。
「甘めのお菓子だったら、果物の入った焼き菓子か木の実が入った焼き菓子かな? どっちにしよう……どっちも食べたいから両方を出しちゃおう」
お皿にお菓子を並べてテーブルに置く。
椅子に座ると、お父さんがちょうどお茶を持って来てくれた。
「今日は、甘めのお菓子なんだな」
「うん。ちょっと、疲れたなぁって思って」
私の言葉に、お父さんが頷く。
「そうだな。オカンノ村の事や、魔法陣の洗脳の事とか。朝からは考えられない話になったな」
お父さんが私の頭をポンと撫でる。
「大丈夫か?」
もちろんと頷きたいけど、どうだろう?
大丈夫だとは思うけど、不安もある。
「大丈夫じゃないな」
椅子に座ったお父さんが、私の手をギュッと握ってくれた。
その力強さと温かさに、笑みが浮かぶ。
不安だけど、お父さんと一緒だから大丈夫。
「大丈夫」
お父さんを見ると、優しい表情で私を見ていた。
それにちょっとくすぐったい気持ちになり、笑みが浮かぶ。
「アイビーは強いな」
「そうかな?」
「あぁ。強いよ」
お父さんにそう言ってもらうのは嬉しいかもしれない。
「さて、お茶が冷めないうちに飲もうか」
「そうだね」
温かいお茶とお菓子を楽しむ。
この時間が凄く大切。
何があっても、守りたい。
「ぷっぷぷ~」
ドン。
「こら、ソラ。お茶がこぼれただろう? えっと、拭く物は……」
テーブルに飛び乗ったソラの振動でお茶がこぼれてしまったのか、お父さんが慌てている。
「はい。これ」
お父さんに布を渡すと、ソラの頭にポンと手を置く。
「ソラ、気を付けないと駄目だよ。お父さんと私が、火傷をしてしまうかもしれない」
「ぷ~」
情けない鳴き声をあげると、お父さんと私を交互に見るソラ。
その表情は、どこか可哀想な印象を受ける。
「まぁ、今のお茶はそこまで熱くなかったから大丈夫だよ。でも、気を付けような」
「ぷっぷぷ~」
真剣な声と表情で鳴くソラに、お父さんと一緒に笑ってしまう。
それにちょっと不服そうな表情をするソラ。
「ぷっ!」
ポンッ。
「「えっ?」」
ソラが勢いよく鳴くと、テーブルに青く光るポーションが転がった。
「……なぜ今?」
急な事に、転がったポーションを見て呟く。
いつもなら、捨て場でポーションを食べながら、作ってくれるのに。
「ぷっ!」
ポンッ。
「ぷっ!」
ポンッ。
「ぷっ!」
ポンッ。
「待った! ソラ、待った!」
テーブルに転がるポーションが3本になったところでお父さんが止める。
ソラは不思議そうにお父さんを見上げる。
「どうして急にポーションを作ったんだ? もしかしてソルに対抗しているのか?」
ソルに対抗?
それって、魔法陣から解放する魔石を作ったから?
「ぷっぷぷ~」
ちょっと力強く鳴くソラに、お父さんの表情が引きつる。
本当にソルに対抗したのか。
「てりゅっ!」
ポンッ。
「てりゅっ!」
ポンッ。
「てりゅっ!」
ポンッ。
「てりゅっ!」
ポンッ。
「「えっ!?」」
後から聞こえた音に、慌てて振り向く。
「てりゅ~」
なぜ、そこでフレムまで対抗してポーションを作るの?
というか、止めて欲しい。
マジックバッグの中に、ソラとフレムの作ったポーションは大量にあるから!
使う場所を選ぶポーションの在庫を増やさないで、お願いだから。
「ありがとう。でも、十分だからね」
「ぷぷ?」
「てりゅ?」
「本当に十分だから」
私の言葉に納得したのか、テーブルから下りてシエルの元に行くソラ。
フレムも満足したのか、ソラのあとを追った。
「急に驚いたな」
「うん」
フレムのポーションとソラのポーションをテーブルに並べるお父さん。
いつ見ても、綺麗なポーションだよね。
「マジックボックスに入れておくか」
「うん。お願い」
お父さんが立ち上がって、部屋の隅に置いてあるマジックボックスを開ける。
私が部屋に籠っている間に、整備が終ったのだろう。
マジックボックスは、少しだけ綺麗になっていた。
「整備したマジックボックスはどう?」
「問題ないぞ。あの2人はかなり腕がいいみたいだ」
「そうなんだ」
整備の仕方で、使いにくくなる事もあるらしいからね。
お父さんの表情を見る限り、本当に満足しているみたい。
私も、もう一度あの2人の店に行きたかった。
「整備士、ルルリガとタタミラの店に行きたいのか?」
「うん。あの2人が整備した道具を見たかったんだ」
タタミラさん自慢の整備した盾は沢山見たけど、ルルリガさんの整備した生活道具は見ていない。
次の時にじっくり見ようと思っていたからな。
本当に残念。
「マーチュ村の位置から考えて、雪が積もる時期は3週間ぐらいだから、その間に店にお邪魔しようか」
「いいの?」
「あぁ、剣以外の武器をちょっと見たくてな。それと、アイビーが使える雷球を改良していただろう?」
「うん。私が見たのは使えない雷球だったけどね」
「あぁ、ちょっと振動しただけで電流が流れる雷球な」
「そう」
自分を攻撃する雷球だった。
「他にも無いか聞こうと思っているんだ」
「そうなんだ」
「あぁ、アイビーが使える武器が増やしたいんだ」
えっ、私が戦うための武器?
「戦う……」
「アイビー、戦うための武器じゃない。逃げるための時間を稼ぐ武器だから、戦おうなんてするんじゃないぞ」
「分かった」
逃げるための時間稼ぎか。
なるほど。
「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」を読んで頂きありがとうございます。
次回の更新は1月22日(日)となります。
木曜日は用事のためこれから隔週でお休みとなります、すみません。
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
ほのぼのる500




