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763話 マルチャさんの息子

「もしかして、狙われているのかい?」


マルチャさんの視線が私に向く。

私の態度から、何かを感じたみたい。

お父さんを見てから、マルチャさんの質問に頷く。


「そうか。それなら雪が解けたら、すぐにこの村から離れた方がいいね」


「雪が解けたらですか?」


「そう。雪が積もる時期の森は危険だから、止めた方がいいからね」


マルチャさんの言葉に、お父さんを見る。


「オカンノ村から離れた方がいいという事ですか?」


「うん。あの村には近付かない方がいい」


マルチャさんは、悲しそうな表情をすると窓の外を見た。


「30年以上前だったと思う。オカンノ村に新しい司教が来たんだ。化け物を崇めている集団だから、何かすると思った。だから、マーチュ村から監視する人員を送ったんだよね。でも、ずっと何も無かった。だから、気を抜いてしまったんだろうね」


マルチャさんがお父さんと私を見て、寂しそうに笑う。


「息子の異変に気付いていたのに、止められなかった」


息子さん?


「私の息子は自警団員でね。オカンノ村を監視する仕事に就いていたんだよ。2年仕事に就いて、戻って来たあの子は少しおかしかった。何か悩みがあるのかと話を聞こうとしても、拒否されてね。でも不安だったから、監視の仕事を止めるように言ったんだ。でも、あの子は行ってしまった」


小さく息を吐くマルチャさん。


「オカンノ村に行ったあの子は、半年後に一緒の仕事に就いている仲間を殺してしまったんだよ」


えっ、仲間を殺した?


「あの子の先輩にあたる人が、止めてくれたんだけどね。でも、2人の仲間を殺してしまったんだ。その時にあの子が叫んだ言葉が『教会に害なす存在など殺されて当然だ』らしい。いつの間にか教会に心酔していたんだ。急いであの事の下へ行ったけど、変わり果てた姿に愕然としたよ」


「じい」


クラさんがマルチャさんの腕をそっと掴むと、彼は少し笑ってクラさんの頭を撫でた。


「大丈夫だよ。ありがとう」


マルチャさんの視線がお父さんに向く。


「あの集団には少しでも関わったら駄目だ。奴らには、何か得体のしれない力があるような気がする。その力のせいで、あの子は狂ってしまった。まぁ、親としてそう思い込みたいだけなのかもしれないけどね」


得体のしれない力か。

それって、魔法陣の影響を受けたって事だよね?


あれ?

魔法陣が危険な物だと分かっているんだよね?

それなのに、どうして得体のしれない力なんて表現したの?


「マルチャさん。おそらく彼は魔法陣によって洗脳されたんだと思います」


お父さんの言葉に、マルチャさんが驚いた表情をする。


「魔法陣に、そこまでの力は無いだろう?」


「「えっ?」」


お父さんと私が驚いて、マルチャさんを見る。

彼は、そんな私たちの反応に戸惑った様子を見せた。


「息子の事件があった後、オカンノ村に残った仲間達が教会や魔法陣について調べてくれたんだ。そうしたら、息子は密かに教会に通っていた事が分かったんだよね。魔法陣についてはなかなか調べられなかったけど、洗脳するにはかなりの時間が掛るらしい事は、分かったんだよ。息子がオカンノ村に関わったのは約2年だから、魔法陣は関係ないと判断したんだけど……違うのかい?」


マルチャさんの話を聞いたお父さんは、眉間の皺を深くした。


「その報告をした者達は、今どこに?」


「息子の先輩と同期の子なんだけど。彼等は、仕事を終えてマーチュ村に戻って来たんだよ。でもすぐに出て行ってしまったんだよね。彼等の両親や友人達が必死に探したけど、今もどこにいるのか不明なんだよ」


お父さんが、マルチャさんの話に小さく息を吐きだした。

少し安心したように見える。


「マルチャさん。オカンノ村を調べた者達も、きっと洗脳されていたと思います。だから、彼等の報告は信用しない方がいい」


「だが、他の者が調べても同じ報告を……。魔法陣による洗脳に、時間はかからないのかい?」


マルチャさんが呆然とした表情で呟く。


「はい。俺もアイビーも、魔法陣による洗脳に掛かった事があります。おそらく2、3日で掛かったと思います」


「そんな……」


お父さんの言葉に、マルチャさんが項垂れる。


「今、オカンノ村に誰か送り込んでいますか?」


「いや、オカンノ村の様子がどんどんおかしくなっていったから、誰も送り込んでいないよ。今は、荷物を運んだ際に、少し調べる程度だと聞いているね」


「そうですか、良かった」


そうだよね。

今も誰かを送り込んでいたら、その人はもう洗脳されている事になる。


「息子は洗脳されていたのかい?」


「絶対ではないですが、おそらくその可能性が高いと思います」


「そうか。洗脳されていたのか。あの時、もっとしっかり引き留めていたら良かったんだね」


息子さんが、おかしいと感じた時の事だろう。

でも、マルチャさんの年から考えて息子さんは既に独立しているはず。

仕事を自分で決められるのだから、引き留めるのは難しいよね。

オカンノ村の実態がわかっていたら、それも出来ただろうけど知らなかったんだから。


「はぁ、こうしちゃいられないね。オカンノ村の報告書が全て無駄な物だと、団長に言わないと」


マルチャさんは、勢いよく顔をあげるとぱちんと両手で頬を叩いた。

少し赤くなった頬をそのままに、お父さんと私に笑いかけた。


「ありがとう。岩の絵について教えるはずが、逆に色々と教えてもらったね」


強い人だな。


「それにしても岩の絵から、魔法陣についてはかなり注意していたのに、仲間が既に洗脳されているとは考えた事が無かったよ」


普通は考えないと思う。


「オカンノ村だけど、雪が降る時期は大丈夫だと思うけど見張りをした方がいいよね?」


マルチャさんの言葉に、お父さんが頷く。


「あと、オカンノ村から来た者はいますか? もしくは関りがある者。いるなら、彼等を調べた方がいい。背中と腹も」


「背中と腹も? えっ、どう言う事だい?」


お父さんが、これまで知った魔法陣についてマルチャさんに話す。


「えっ、体に魔法陣を? それは、本当の事なのかい?」


体に魔法陣を刻んだ者がいたと話すと、一気に顔色が悪くなった。

一緒に聞いていたクラさんも同じように顔色を悪くした。


「はい。残念ながら本当の事です。だから、背中と腹を含めた調査をした方がいいでしょう。オカンノ村と関わった者がいますか?」


お父さんの言葉に、マルチャさんがため息を吐いて頷く。


「変異したガシュの事でオカンノ村の自警団団長に信書を届けた者がいるはずだね。ただ、オカンノ村に長時間は滞在しないように言われているはずだよ。あっ、荷物を運ぶ者も関りのある者になるね」


「荷物や手紙を届ける事は多いんですか?」


「昔は頻繁になったけど、今はそれほど多くないかな? でも定期的に荷物は運んでいるね」


「荷物は、ずっと同じ者が届けているんですか?」


「そこまでは知らないね。でもこれは、すぐに調べた方がよさそうだね。今から、自警団に行って来るよ」


「分かりました。俺たちは宿に戻りますね」


マルチャさんが、立ち上がると出かける用意を始めた。

それを見て、私もソラ達に声を掛ける。


「何か分かったら、知らせた方がいいかな? もしかしたら、誰かが……そうだ。マーチュ村の村民全員の体を調べた方が安心できるよね。うん、それがいいね」


えっ、村民全員?

そんな事が出来るの?


「よしっ、そうと決まれば、団長と交渉して来よう。あっ、団長は頻繁にオカンノ村に行っていたな。彼は信用できるのかな? ん~、周りと協力して服を引っぺがすか」


えぇ~。

それは、大丈夫なの?


「ぺふっ」


コロン。


んっ?

ソルの前に転がった魔石を見る。

黒い魔石で淡い白の光に包まれている。

どこかで見た事があるな、これ。


「その魔石、術の解放に使った物と同じか?」


お父さんの言葉に、頷く。

そうだ。

ハタカ村でソルが生み出した黒い魔石と同じだ。


「ぺふっ」


「もしかしてマルチャさんに?」


私の言葉に、元気に飛びはめるソル。


「ぺふっ。ぺふっ」


「スライムが魔石を生んだように見えたけど……見間違いだよね?」


ソルと私が持つ黒い魔石を交互に見て、マルチャさんが首を傾げる。

そんな彼にお父さんは笑うと、私の手の中にある魔石を指す。


「見間違では無いですよ。マルチャさん、これをどうぞ」


ソルが生み出した黒い魔石を、マルチャさんに差し出す。

不思議そうに受け取った彼は、お父さんと私とソルを見る。


「魔法陣による洗脳に掛かっていたら、この魔石が解放してくれます」


お父さんの説明に、驚いた表情で黒い魔石を見るマルチャさん。

そして、お父さんと私に向かって深く頭を下げた。


「ありがとう。この魔石をお借りするね」


誰も魔法陣の洗脳に掛かっていないといいけどな。

でも、ソルがあの魔石を生み出したという事は、いるという事なのかな?


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― 新着の感想 ―
楽しく拝読しております マルチャさんが語っている部分で 「急いであの事の下へ行った」の部分は 「急いであの子の元へ行った」では無いですか 違っていたらすみません
ここでもそれが必要になってくるのか… ほんと最悪だなアイツラ
[良い点] 教会の酷さがまた少し分かって不気味な印象が強くなった。 [気になる点] オカンノ村が今どうなってるのか気になる。
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