760話 2本だけ
岩穴から出て、岩の後ろに立つ木を見上げる。
やっぱり葉っぱが気になるな。
あれ?
そういえば、クラさんが教えてくれた「村を守る木」も葉っぱが……そう、4種類だった!
「アイビー、どうした?」
ジッと木を見上げていたのが気になったのか、お父さんとクラさんが傍に来て同じように木を見上げる。
「クラさんが紹介してくれた『村を守る木』も、葉っぱが4種類だったよね。この木も同じだなって思って」
「そういえばそうだな」
「あっ! そうだった」
クラさんは初めて気付いたのか、驚いた表情をしたあと恥ずかしそうに笑った。
それに笑ってしまう。
「でもこの木と『村を守る木』は別の種類だよな?」
お父さんの言葉に頷く。
「うん。違うと思う。『村を守る木』は幹が太くて真っすぐ育っていたけど、この木の幹はそれなりに太いけど真っすぐは育ってないから」
岩に沿うように曲がっている木を見る。
「そうだよな? という事は、マーチュ村の近くで育つと、葉っぱが複数になるのか? そんな事がありえるのか?」
お父さんの言葉に、私もクラさんも首を傾げる。
でもそれだったら、複数の葉っぱを持っている木をもっと見かけてもいいはずだよね。
今のところ、2本だけ。
「違うな。2本だけ特別だと判断した方がよさそうだ」
お父さんの言葉に頷く。
どうして特別になったのかは分からないけど。
「ここにいたら魔物達が戻ってくるから、村に戻るか」
「「うん」」
岩穴から離れると、魔物の気配が動き出した。
こちらに来ているのでちょっと緊張したけど、途中で止まった。
どうやら、いつもの場所で落ち着いたみたい。
「分かるかな?」
お父さんの声に、視線を向ける。
お父さんはクラさんに、マルチャさんに会えるか聞いているようだ。
きっとあの絵が気になるんだろうな。
というか、私も凄く気になるので、話が聞けるなら聞きたい。
「今日は、寒いから家から出ないって言ってた」
「これから家に行っても、問題ないかな?」
「分からない」
「それもそうか」
まぁ、急に押しかけるのは駄目だよね。
「クラ。マルチャさんに伝言を頼めるかな? ドルイドが『会いたいと言っていた』と、あと『良ければ会える日を知らせて欲しい』と」
「分かった」
クラさんの言葉に、お礼を言うお父さん。
早く会って、話が聞けたらいいな。
マーチュ村の捨て場に近い場所で、ソラ達をバッグに入れる。
シエルが、アダンダラからスライムに変化したところを見たクラさん。
興奮してシエルに抱き付いていた。
「「「「おかえりなさい」」」」
「「「ただいま」」」
門番さんに挨拶をして村に入る。
あれ?
門番さんが4人に増えている。
いつもは1人、そして待機室に1人なのに。
何かあったのかな?
「お父さん?」
クラさんのお父さん?
彼の視線を追うと、背の高い男性の後姿が見えた。
「お父さんがいる所に、行こうか?」
お父さんの言葉に、クラさんが首を横に振る。
「用事が無いからいい」
「そうか」
クラさんの返事が面白かったのか、お父さんが少し笑う。
それを不思議そうに見るクラさん。
「いや、悪い。随分とあっさりした返事だったから」
そういえば、クラさんはまだ7歳だ。
これぐらいの年だったら、親を見たら用事が無くても傍に寄って行きそうなのに。
「あっさり?」
「悪い。気にしなくていいよ。それじゃ、これからどうしようか?」
お父さんの言葉に、考え始めるクラさん。
そして私を見る。
「どうしたの?」
「どうしよう?」
あっ、私も考えないと駄目だよね。
これから……少し暗くなってきた時間だから……それほど時間もない。
ん~、何も思いつかないな。
「お父さんは?」
お父さんが行きたい所は無いのかな?
「そうだな。道具屋通りを見て回るのはどうだ? 前の時は、整備を頼んだ2店しか見てないからな」
「いいね。クラさんはどうかな?」
この村の道具屋さんなんて見慣れているかな?
「楽しい!」
クラさんを見ると、嬉しそうに笑って頷いている。
もしかして、クラさんも道具が好きなのかな?
「道具を見ると、面白いと思う?」
「うん。アイビーも?」
「うん」
良かった。
同じだ。
「それなら行こうか」
3人で道具屋通りに向かう。
途中で自警団員達とすれ違った。
「連絡が完全に途絶えた」
連絡?
通り過ぎた後、振り返って自警団員の後姿を見る。
「何かあったな」
「うん」
お父さんも気になったのか、同じように立ち止まって振り返っていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。行こうか」
クラさんの頭をポンと撫でるお父さん。
それに嬉しそうに笑うクラさん。
あ~、
「アイビーも」
「えっ?」
お父さんの手が私の頭を撫でる。
もしかして、羨ましそうに見ていたのかな?
いや、そんな事は……ちょっとだけしか……思ってないし。
「ははっ」
これは、絶対にバレている。
というか、顔が熱い。
これ、赤くなっているんじゃない?
「アイビー、大丈夫?」
「大丈夫です」
クラさんの視線から逃れるように反対側を見る。
これは、恥ずかしい。
歩いている間に、落ち着くかな?
「さて、どこから見る?」
道具屋通りに着くと、お父さんがクラさんと私を見る。
「私は詳しくないから、クラさんは何が見たいの?」
「武器」
「武器か。となると……」
お父さんが道具屋通りを歩きながら、店を覗いていく。
「あの店、時々行く」
クラさんの視線の先には、茶色の扉を持つ店があった。
外からはどんな店なのか全く分からないし、扉も閉まっている。
道具屋通りを見る限り、開いている店は扉が開いている。
今日は開いていないのだろうか?
「やっているのか?」
「大丈夫。いつも扉は閉まってる」
クラさんが店に近付き、扉に手を掛け引いた。
「開いた」
クラさんの言った通り、店は開いているようだ。
お父さんが不思議そうに、店の中を覗き込む。
「凄いな、品揃えがいい」
「そうなんだ」
3人で店の中に入り、並べられている商品を見て行く。
あれ?
ここにある剣、捨て場で見る剣と少し違う。
「まさか、鍛冶師か錬金師がいるのか?」
鍛冶師に錬金師という事は、ここにある剣は真剣なのかな?
だから、見た時の印象がいつもと違った?
「分かるのか?」
少し低い声が聞こえて、慌てて視線を向ける。
「いらっしゃい」
150㎝ぐらいの背の、恰幅の良い女性がお父さんと私を交互に見る。
その視線が鋭いので、ちょっと緊張してしまう。
「「お邪魔しています」」
「ばあば」
クラさんが声を掛けると、少し驚いた表情をした。
「クラの紹介かい?」
「そう。お世話になってる」
クラさんの言葉に、女性の視線が少し優しくなる。
それにホッとする。
「何か欲しい物でもあるのか?」
「いや、済まない。見ているだけなんだ。いいかな?」
「あぁ、問題ないよ。ゆっくり見て行けばいい」
女性はそれだけ言うと、奥の部屋に戻ってしまう。
あまり商売するつもりは無いみたいだ。
「うわぁ」
そばから、お父さんの感心した声が聞こえる。
見ると、クラさんと2人である剣を前にして感動していた。
あの2人、なんだか不思議な繋がりがあるような気がする。




