番外編 守る者3
―フォロンダ領主視点―
部下から、数枚の紙を受け取る。
これは、ラトミ村の教会から消えた神父の報告書だ。
「どうだった?」
目の前にいる部下に、視線を向ける。
「予想通りでした」
「やはり、殺されていたか」
「はい。元ラトミ村の住人に毒殺されていました。そしてその毒を用意したのは、占い師ルーバです」
部下の話に頷くと、手の中の書類をさっと読み冷笑する。
「神父は、教会からの金を横領しバレる事を恐れ自殺した」と王都の教会は判断したらしい。
実際は、自殺に見えるように毒殺されたのに。
毒殺か。
これは間違いなく、口封じだろうな。
占い師ルーバが神父を買収していたと、教会の奴らに知られる訳にはいかないからな。
占い師ルーバと神父は、随分と長い間一緒に行動していたようだ。
おそらく神父は、教会が用意した占い師ルーバの見張り役だろう。
しかしどうやったのかは不明だが、占い師ルーバは上手く神父を堕落させていったな。
神父の行動が、年々派手になっている。
教会の縛りがある状態で、占い師ルーバはよくやったものだ。
まぁ、神父が金で簡単に制御できるようになっていたから、アイビーは守られたんだろうな。
アイビーの第2スキル。
「空白」。
スキルが無い場合、何も表示されない。
なのに、彼女は空白が表示された。
言い方は変だが、でもこれが正しいんだろうな。
星なしと言う衝撃で、空白については誰も気にしなかったのが幸いだった。
もしあの時、誰かがその事を気にしていたらアイビーの人生は、もっと過酷なものになっていただろう。
そして占い師ルーバが、神父に金を渡して報告を止めなければ。
占い師ルーバ。
ラトミ村でアイビーを守っていた存在。
そして、教会と契約で縛られていた被害者。
「実行した者は?」
「教会に子供を奪われ、殺された母親でした。どうやら占い師ルーバはそれに関わっていたようです。どういう経緯で彼等が協力関係になったのかは分かっていません。母親は、それについて一切口にしませんでした。聞き出しますか?」
「いや、必要ない」
何があったのかは分からないが、今はもうどうでもいい事だ。
「母親はどうしますか?」
どうするか。
我々の事を知った以上は始末する事もあるが、今回は必要ないだろう。
神父を毒殺するまでの時間や毒殺した方法を見る限り、かなり忍耐強い人物のようだ。
こういう者は、使える。
「アマリ。この母親と話してみてくれ。最終判断は君に委ねる」
「分かりました」
俺の後ろにいたメイドがスッと頭を下げる。
子供を教会に殺された母親か。
アマリとは逆だな。
彼女は、教会に母親を殺された。
「占い師か」
部下が出ていくのを見送ってから、机にある書類に手を伸ばす。
「彼女はたった1人で、アイビーさんを守っていたのですね」
アマリの言葉に頷く。
「あぁ。彼女が1人で旅立てるまで、守ったんだ」
書類には、ラトミ村の占い師だったルーバの人生が載っていた。
と言っても、分かった範囲の事だけだが。
占い師ルーバの人生は、5歳の時に大きく変わった。
「先読みスキルなんてものを持っていたから」
このスキルのせいで家族は殺され、教会に連れ去られ、そして契約させられた。
書類を見る限り、14歳の頃から先読みスキルを使って、あちこちの村や町で仕事をさせられている。
これはきっと、人々の中に紛れ込み、教会に必要なスキルを持つ者を探すためだろう。
そして見つけたら、教会に報告し、教会がその人物を手に入れる。
きっと神父を殺した母親の子供は、特殊なスキルを持って生まれてしまったのだ。
昔から5歳になると、教会でスキルを調べた。
この習慣のせいで、多くの子供達が被害にあってきた。
アイビーもこの習慣で、人生を狂わされた1人だ。
王都では、教会に対する不信感が強く、5歳になってもスキルを調べない者が増えてきた。
だが王都から遠く離れた村や町では、未だに5歳になると全ての子供達が調べられている。
教会を信じている者達が多い場所ほど、厄介だ。
机にある、もう1つの書類に手を伸ばす。
そこには、ある魔法陣についての詳細が載っている。
占い師達に、彼等にも極秘で掛けられた魔法陣「名の呪い」の効果などが。
「こんな物騒な魔法を、本人も知らない間に掛けるなんて……屑どもが」
我々は「名の呪い」と呼ぶが、教会関係者は「名の祝福」と呼んでいた。
「何が祝福だ」
この魔法を掛けられた者の名を呼び続けると、無条件でその者を信じていくそうだ。
まさか、こんな魔法を占い師達が掛けられていたなんてな。
占い師達も、ずっと気付かなかったみたいだ。
違和感が無いように、かなりゆっくり浸透していく魔法だったようだから。
ただ、知った者は自分の名前を言わなくなっている。
今では、住んでいる村や町の占い師と呼ぶ方が多い。
「占い師達は、どうやってこの事実を仲間に広めたんだろうな」
最初に気付いた占い師が誰なのか。
それからどうやって、仲間達に知らせたのか。
その辺りの事が、調べても全く分からなかった。
占い師達については、まだまだ知らない事が多いな。
「アマリ」
「はい」
「彼等からの返事は?」
アイビーを、教会から守るための盾。
占い師ルーバが守った彼女を、教会に利用される訳にはいかない。
「準備をしてこちらに来るそうです」
「そうか。良かった」
これで少しは安心できるな。
だが、どうも教会の動きが不気味だ。
連絡がつかなくなった村や町が報告されている。
他にも、操られた魔物に空間移動を可能にする魔法陣。
「何をしようとしているんだ?」




