753話 返事は来たけど……
昨日はマーチュ村を探索するつもりだったけど、気付けば大きく予定が変わっていた。
原因は、マジックアイテム。
タタミラさんもルルリガさんもいろいろ試させてくれるので、つい全てを試してしまった。
槍を突いた瞬間に槍が伸びたり、剣で切ったはずが凍ったり、本当に不思議。
他にも、持ち方を間違ったら「痛い」と言う声が聞こえる包丁とか、ちょっと変わった道具も見せてもらった。
あと、2人が改良したマジックアイテムも見た。
改良は難しいらしく、まだまだ失敗が多いと言っていた。
失敗した盾は、攻撃されると相手に電撃が流れるはずが、改良後は持っている者に電撃が流れるらしい。
全く使えない道具になったと、タタミラさんが嘆いていた。
確かに持ち主を攻撃する防具は使えないよね。
ルルリガさんは、鍋に水が溜まる時間を短くしようと考えているそうだ。
確かに大きい鍋だと、ちょっと時間が掛るから短くなるなら嬉しいかもしれない。
でも、今のところ成功した鍋は無いとタタミラさんが教えてくれた。
そして失敗した鍋は、水が止まらなくなったり、ある一定の時間が経つと水が消えてしまったりするそうだ。
タタミラさんとルルリガさんの話を聞きながら、いろいろなマジックアイテムを試していると、時間なんてあっという間に過ぎてしまった。
気付いたら外は真っ暗で、あと少しで夕飯の時間だった。
さすがに帰らないと駄目だと、試した道具をお父さんと急いで片付けた。
タタミラさんとルルリガさんも手伝ってくれたので、すぐに帰る準備が整う。
店を出る前に「またお邪魔をしていいですか?」と、2人に聞いた。
だって、まだ見ていない道具が沢山あったから。
2人は「もちろん大丈夫」と言ってくれたので絶対にまた行こう。
と、決意していたらレアなマジックアイテムを2日後に受け取りに行く予定だった事を、宿に戻ってから思い出した。
まぁ、整備してもらう道具を受け取りに行くのと店の道具で遊ぶために行くのは違うよね。
うん。
そして今日は、自警団に届いていたふぁっくすを確認するつもりだ。
チラッと見たけど、オグト隊長とラットルアさんが代表で送ってくれたみたいだ。
ただ、今回はなぜか返って来たふぁっくすの数が少ない。
それにちょっと違和感を覚えた。
ラットルアさんから届いたふぁっくすを読む。
木の友達について、怖い印象だったけど違う面もあるんだなと言う言葉から木の魔物だと気付いてくれたみたいだ。
良かった。
ただ、「どうして紹介される事になったんだ?」と言う質問に、首を傾げてトロンを見る。
どうしてと言われても困る。
洞窟にいると、急に木の魔物が現れてそしてトロンを渡されたのだ。
なぜなのか、それは私にもわからない。
だから、次のふぁっくすでは「不明」と書いておこうかな。
ジナルさん達「風」の事は知っていたみたい。
あっ、一緒に仕事をした事があるんだ。
なのに、どうしてだろう?
ジナルさん達と知りあった事を凄く心配されている。
ジナルさん達は冒険者を調べる調査員だけど、いい人達だよね。
それに私もお父さんも冒険者ではないから、調べられる事も無いだろうし。
んっ?
珍しい花がカリョの花だと気付いたみたい。
「また面倒な事に巻き込まれて」って言われても、旅の途中で見つけちゃったんだもん。
「どうした」
私の表情を見たのか、お父さんが不思議そうに私を見る。
「送ったふぁっくすの内容はしっかり伝わったみたい。それで『また面倒な事に巻き込まれて』だって」
「はははっ。言われるのは分かるけど、避けようがないもんなぁ」
「そうだよね?」
「うん」
お父さんなら分かってくれると思った。
私と一緒に巻き込まれているからね。
あれ?
今度は、ジナルさんと旅をした事まで心配されている。
どうして何度も心配だと書いてきたんだろう?
次のふぁっくすで「ジナルさん達はいい人達だ」と書こうかな。
あ~「バタバタしていたけどそれなりに楽しかった」と書いたのに、「巻き込まれたね?」って。
まぁ、その通り。
あまり聞かないという事は、書けない事がいっぱいあったんだろうと考えてくれたんだろうな。
ラットルアさん、分かってくれてありがとう。
あとはオカンコ村の事だよね。
あっ、初心者コースの洞窟はラットルアさんも昔挑戦したことがあるんだ。
ラットルアさんが冒険者になりたての頃か。
どんな感じだったのか、次に会ったら聞こうかな。
あっ、ソルの事もちゃんと伝わってる。
良かった。
ふふっ、また可愛い子が増えたみたいですねって。
うん、凄く可愛い子です。
あっ「捨て場では本当に気を付ける事」だって。
ソルがマジックアイテムを食べる事に気付いてくれたのかな?
ん~ちょっと分からないけど、何かがあるとは思ってくれたみたい。
詳しくは会った時だね。
あれ?
ハタカ村の事が書いてある。
えっと「俺の友人がハタカ村にいたんだが、大変だったみたいだ」。
この一文だけ?
俺の友人?
これって……関わった事がバレてるのかな?
でもふぁっくすに、ハタカ村の事は一切書かなかったから、バレるはずはないんだけど。
でも、わざわざ前と関係ない一文に一行空けての感想の言葉。
とりあえず、書き方が変。
つまり、この文には意味があるって事だよね?
「眉間に皺が寄ってるぞ」
お父さんが傍に来て、私の眉間を突く。
「これ、どういう意味だと思う?」
ラットルアさんからのふぁっくすをお父さんが読みやすいように向ける。
しばらく読んだお父さんは苦笑した。
「きっと道順や時期などを見て、その一文を入れたんだろう」
つまり、バレているという事?
「今までが巻き込まれてきたからな。ここだけ回避できるとは思えなかったんじゃないか?」
なるほど。
これまで行く先々で問題に巻き込まれていたのに、ここだけ回避?
それは無いでしょう。
そういう事か。
「心配掛けちゃったかな?」
「まぁ、元気ですというふぁっくすを送っているから大丈夫だろう」
「そうだね」
「返事を書かないとな」
「あ~、それがね」
お父さんに、ラットルアさんからのふぁっくすの最後の方を指す。
「『しばらく王都に行くから、ふぁっくすによる連絡は無理なんだ。ごめんな』か」
「そうなの。『炎の剣』のチーム皆で王都に行くんだって」
「王都に行くと書いてあるな」
お父さんが指した箇所を見て頷く。
確かに、「王都に行く」と書いてある。
それが、どうしたんだろう?
お父さんを見ると、神妙な表情をしている事に気付く。
「ちょっと気になるな」
「何が?」
「任務で王都に来るわけでは無いという事だ。それだったら何をしに王都へ行くんだ?」
任務ではない?
あっ、そうか。
任務で王都に来るんだったら、仕事で王都に行くと書くよね。
ラットルアさんの性格だったら、たぶん「仕事」だとちゃんと書くと思う。
「炎の剣の皆で王都に来るんだから、個人的な用事ではないだろうし」
なんだろう、凄く気になるな。
でも、今からふぁっくすを送ってももう出発している可能性が高いから無駄だしね。
「2枚目には何が書いてあった?」
「それが今回は1枚目だけなの。2枚目は他の人達の名前とちょっとした挨拶だけみたい」
ふぁっくすの2枚目をお父さんに見せる。
そこには、ラットルアさん以外の皆からの挨拶が書かれてあった。
こんなに簡単な内容のふぁっくすは初めてだ。
「他の人からも、ふぁっくすが届いていたよな?」
「うん。ラトメ村のオグト隊長さんからもファックスがあったよ。でもこっちも、1枚だけだった」
オグト隊長からのふぁっくすを、お父さんと読む。
内容は元気な事と、私を心配する内容。
それと、新しい仲間が出来た事を喜んでくれていた。
でも、いつもよりさっぱりした内容のふぁっくすになっていた。
「アイビー。ふぁっくすを送るのを、当分止めよう」
「えっ?」
ラットルアさん達は王都に行くから無理だけど、他の人達には送ってもいいのでは?
「ふぁっくすの最後に『次は、会った時に話しましょう』とある」
そういえばラットルアさんのふぁっくすにも、オグト隊長のふぁっくすにも書いてあったな。
「わざわざ『次に会った時に話す』と書いている。つまりふぁっくすは駄目って事じゃないか?」
そうなるのかな?
そういえば、前に貰ったふぁっくすには「次のふぁっくすを楽しみにしている」と書いてくれていたよね。
「分かった。ふぁっくすはちょっと止めておくね」
「あぁ」
何が、起こっているんだろう?




