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748話 ようやく

「「「行ってきます」」」


シャンシャさんに声を掛けてから宿を出る。

昨日は遅くまで人生ゲームを楽しんだ。

そのため、ちょっとだけ眠い。


大通りを歩くと、昨日と同じように「変異したガシュ」の噂が聞こえて来た。

噂を聞いていると、討伐隊の話が増えている事に気付いた。

どうやら、「変異したガシュ」の住処をもう見つけたらしい。

森へ行ったのは昨日の夕方なので、住処を見つけるのが少し早い気がする。

住処の場所を予想できる何かが見つかったのかな?


「こっちの方が、近い」


一緒に看板屋へ行く事になったクラさんが、大通りから左に曲がる道を指す。

クラさんのお姉さんフララさんは、残念ながら用事があるらしく一緒ではない。


「近いなら、曲がろうか」


「うん。クラさん、案内お願いします」


私の言葉に頷き、左の道に曲がるクラさん。

後に続いて左の道に曲がると、マジックアイテムを専門に扱っている店が集まっている通りに出た。


「この通りは、道具屋が多いな」


「この通り、マジックアイテムの店だけ。決まり」


クラさんの言葉にお父さんが首を傾げる。


「他の場所では、マジックアイテムの店は出せないのか?」


「そう。並んでいる方が見比べられていい。あと、悪い事が出来ない」


悪い事?

客がマジックアイテムを盗むとか?

いや、お店を一ヶ所に集めても盗む人は盗むよね?


「あぁ、なるほど。粗悪なマジックアイテムを売ったら、周りの店の者達がすぐに気付くから出来ないのか」


悪い事をするのは、店の方だった。

それにしても、店を一ヶ所に集めるだけで自然に他の店の商品を監視する体制が出来るんだ。

思いついた人は凄いな。


「開いてる」


クラさんの言葉に、看板屋に視線を向ける。

前に来た時は閉まっていた門が、開いているのが見えた。


「今日は大丈夫みたいだな」


お父さんが門の中に入ると、奥に進むための道があった。


「この奥か。看板が無かったら、店には見えない作りだな」


「そうだね。庭付きの家みたい」


奥に進むと、微かに鼻につく臭いがした。

この臭い、かなりマシだけどパトパトの臭いだ。

まだ建物は見えないのに、既に臭っている。


「結構、臭っているな」


お父さんの言葉に頷く

このまま近付いても大丈夫なんだろうか?


「ずっとこれぐらい」


クラさんの言葉を信じるなら、これ以上は臭くならないって事だよね。

良かった。


「確かに、奥に進んでも臭いがきつくなったりしないな。アイビーは大丈夫か」


「うん。これぐらいの臭いなら大丈夫」


ちょっと鼻につくぐらいだからね。

これ以上だったら、鼻を布で覆おうと思ったけど。


「ここだな」


道をずっと進んでいくと、平屋の建物が見えた。

中から2人の気配がする。

作業中なのか、動き回っているのが分かる。

声を掛けても、問題ないかな?


お父さんと一緒に、建物の扉からそっと中を窺う。

中には、大鍋を順番にかき回している男女がいた。


「んっ? 誰だ?」


何をしているのか見ていると、男性の方が私たちに気付いた。


「すみません。少し聞きたい事があってお邪魔しています」


お父さんの言葉に、2人が首を傾げる。


「えっと、看板の事ですか? もしかして依頼かしら?」


女性の方が、大鍋から離れ私たちの方へ来てくれた。


「いえ、違います。パトパトの臭いを抑える方法があると聞いたので、その方法を教えてもらえないかと思いまして」


お父さんの言葉に、2人が驚いた表情を見せた。

どうしてそんなに驚くんだろう?

別におかしな事はお願いしていないよね?


「えっ。知ってどうするの? まさか自分達で試すの? それは止めた方がいいわ。あの作業は地獄よ。初めての人だったら、絶対に途中で逃げ出すわ」


女性が凄い勢いで止めてきた。

それほど凄い臭いがするって事なんだろうか?


「そんなに凄い臭いの中で、作業をするんですか?」


「そうよ。パトパトの実をすり潰して煮詰めるんだけど、あまりの悪臭に初めての時は私も倒れたからね。だから絶対に止めた方がいい」


女性の真剣な表情と内容に、戸惑いながら頷く。

というか、すり潰して煮詰めるの?


「お父さん、方法を聞くのは止めよう」


パトパトの実を潰した時でさえ臭くて耐えられなかったのに、あれを煮詰めるなんて絶対に凄く臭いでしょ!


「そうだな。止めておこう」


「あの、それでしたら、臭いを抑えたパトパトを購入する事は出来ますか?」


私の言葉に、女性が笑みを見せる。


「えぇ、その方がいいわ。面白半分で挑戦する人が数年に1回はいるんだけど、全員が凄く後悔する結果になっているからね。えっと、臭いを抑えた商品よね。商品名は『パトパ』で、大きさが大小とあるんだけど、どれくらい必要なのかしら?」


どのくらい?

1個の罠に使う量が分からないから、どっちを選ぶべきなのか分からないな。


「罠を使用した狩りを行っているんですが、その罠にカゴを使っています。1つだけだと強度が足りないので、数個のカゴを重ね紐で縛る事で強度を上げていました。でも、少し前にその紐を食いちぎって逃げた魔物がいたんです。だからパトパトを使用してカゴをくっつけようと思ったんですが、どれくらい必要なのか、予想がつかなくて」


お父さんが罠の話をすると、作業を続けていた男性が作業を止めて傍に来た。


「『パトパ』は、伸びがいいから少しでもカゴ同士をしっかりとくっつける事が出来ると思う。もしもずっと罠を使った狩りをするなら、大きい瓶を選んでも、数年は品質が変わらないから無駄にはならないと思う」


男性の言葉に、お父さんが首を傾げる。


「数年とは、正確にはどれくらいですか?」


「俺が確認した限りでは、4年は問題なく使えたな」


4年も使えるなら、大きな瓶でも大丈夫かな。


「それなら大きな瓶でも問題ないな。大きい瓶の方を下さい」


お父さんの言葉に、女性が嬉しそうに棚を見た。


「『パトパ』の大きな瓶ですね。えっと、あれ? 棚には小さな瓶しか無いわね」


女性が小さな瓶が並んでいる棚に近付く。


「あっ、あった。奥に2個あったわ」


棚の奥から、少し大きめの瓶が出て来た。

女性は、その瓶をお父さんに渡す。


「これが『パトパ』ですか?」


お父さんが瓶の中を確認する。

瓶には、青い色をした液体のようなものが入っていた。

しっかり蓋が閉まっているのだろう。

臭ってくる事は無かった。


「そうよ。使い方は、刷毛で薄く塗ってくっつけたい物を乾く前に合わせるだけよ。手に付いたらすぐに洗ってね。パトパト自体は皮膚に付いても問題は無いんだけど、臭いがねぇ。臭いを抑えてあるとはいえ、無臭になっているわけではないから、付くと厄介よ。なかなか取れないから」


今の言い方だと、臭いが付くと数日は取れないのかな?


「分かりました、気を付けます」


お父さんの言葉に私も頷く。

臭いが、気になるな。

どれくらい抑えてあるんだろう?


「ちょっと臭いを確認していいですか?」


「えぇ、いいわよ。ただし、瓶に鼻を近付けないでね」


女性の言葉に神妙に頷く。

臭いを抑えていても、やっぱりある程度は覚悟しないと駄目なのかもしれない。

瓶の蓋を開けて、手で扇ぐ。


「……あっ」


確かに潰した時のような、強烈な臭いはしない。

でも絶対に、皮膚に付かないように気を付けよう。

この臭いを嗅ぎながら食事はしたくない。

それに、絶対に宿に迷惑を掛ける事になる。

というか、食堂では食べられなくなるだろうな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前に来た時は閉まっていた門が、開いているのが見えた。 と書いてありますが。 746話 正しい情報を素早く より 「そういえば、看板屋さんに行けなかったね」 前日は色々あって看板屋に…
[気になる点] >臭いが、気になるな。 >俺くらい抑えてあるんだろう? 誰?誰の匂いなの!? [一言] 匂いのある接着剤だと罠に使って大丈夫でしょうかね 野生動物は変な匂いに敏感だからなあ
[気になる点] 臭いがなかなか取れない、ずっと生乾きなわけないから乾いても臭うということ、しかも食堂で他の人が気にするほどの臭い。基本人間より嗅覚が鋭い獣に使えるのか?癖の強い植物は一部の動物の好みに…
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