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745話 オカンノ村

村に戻る前に、皆をバッグに入れる。


シエル対ソラ達の勝負は、いつの間にかシエルと協力して一番遠くに飛ぶ勝負に変わっていた。

一番遠くに飛んだのは、シエルとフレムのチーム。

これには、私もお父さんもちょっと驚いた。

なぜなら、フレムはちょっとだけソラとソルより運動神経が悪いから。

フレムもその事に気付いているようで、一番遠くに飛んだと分かった時には驚いた表情をしていた。

そしてその後に見せた嬉しそうな表情は、ものすごく可愛かった。


村に戻って、自警団に向かう。


「まだお祝い状態かな?」


「仕事があるから、それは無いだろう」


そうかな?

昨日の盛り上がり方を見ていると、数日続きそうな勢いだったけど。

あっでも、大通りは元に戻っていたね。


自警団に着くとお父さんの言う通り、お祝いの雰囲気は全くなかった。

それに驚きながら、自警団の中を見回す。


「こっちだよ」


お父さんの後に付いて行くと、ある男性に挨拶をしてその前にある椅子に座った。


「こんにちは」


温和な雰囲気の男性が私に軽く頭を下げる。


「こんにちは。失礼します」


お父さんの隣に座ると、彼はお父さんへと視線を向けた。


お父さんが森で見つけた足跡や、見慣れない魔物について説明を始めると男性の雰囲気が少し変わった。

そして、お父さんが「もしかしたら変異した魔物かもしれない」と言った時、男性の表情が険しくなった。


「その魔物は、どうしましたか?」


魔物については、シエルの事が言えないのでたまたま見つけた事にした。

シエルが狩って来てくれたのに、言えないのが悲しい。


「1匹でそれほど大きくなかったので、マジックバッグに入れて持ってきました」


男性の質問に、お父さんがマジックバッグをテーブルに置く。

男性は頷くと、立ち上がる。


「すみませんが、一緒に来てもらっていいですか?」


「分かった。娘も一緒だが、いいか?」


「もちろんです」


男性の案内で、自警団の奥の部屋。

大きなテーブルがある、広い部屋に通された。

壁には、大きさや形が異なるナイフやハンマーなど様々な道具が掛かっていた。


「ここは、魔物の解体部屋だ。新しい魔物や、変異した魔物を調べる場所だよ」


お父さんが、不思議そうに部屋を見回す私に教えてくれた。


「そんな場所があるんだね。魔物を調べる事は大切なの?」


魔物の事なら、冒険者に聞けばある程度は分かりそうだけどな。


「詳しく調べるのは、変異した事で攻撃方法が変わったり、今まで通じていた攻撃が全く通じなくなったりする可能性があるから」


そんな大きな変化があるんだ。

凶暴化するのは知ってたけど、攻撃方法まで変わるなんて知らなかったな。


「お話し中に失礼します。これは、魔物の取引代金と情報料についての書類です。確認して、問題が無ければ名前の記入をお願いします」


男性は、お父さんに書類を渡すと部屋を出て行った。

すぐに、廊下からバタバタと走る音が聞こえてきたので、首を傾げる。

自警団員が、あんなに足音を立てるかな?

もしかして、慌てている?


「変異した原因に、何か思い当たる事でもあるんじゃないか?」


書類を読みながら、お父さんが言う。


「急いで対応する必要があるから、慌てているという事?」


そういえば、「変異した魔物」とお父さんが言ったら、かなり険しい表情をしていた。


「あぁ。途中から彼の雰囲気が変わったからな」


やっぱりお父さんも気付いているよね。

変異か。

考えられる原因はゴミ。

でもマルチャさんが、そうならないように森に捨てられたゴミはマーチュ村で対応してたよね?


「すみません」


お父さんが書類に名前を書いていると、男性が2人部屋に入って来た。

1人は、ここまで案内してくれた男性。

もう1人は、少し年配。

見た目で言うと60代前半ぐらいの男性だ。


お父さんが、書類を年配の男性に渡す。

そして、マジックバッグから出した魔物を、テーブルに置いた。


魔物を見た男性2人は、眉間に皺を寄せた。

そして、年配の方の男性が大きくため息を吐いた。


「この魔物は、洞窟にいるガシュが変異したものでしょう。部分的に大きく変異していますが、全体的な特徴はガシュのままなので、間違いないと思います。まさか、またやるとは」


やっぱり洞窟にいるガシュの変異なんだ。

年配の男性の方は、ガシュが変異した原因も分かっているみたい。

しかも凄く嫌そうな表情で「また」って、言った。

変異した原因は、何なんだろう?


「あぁ、すみません。私は、この自警団の団長をしているヒャガと言います。今回は、どうもありがとうございます。このガシュは、この村と隣のオカンノ村の間にある岩場。そこにある洞窟に住んでいるんです。見つけた場所は、森の中と聞きましたが本当ですか?」


ヒャガ団長さんの言葉にお父さんが頷く。


「あぁ、低い木々が沢山ある場所だ。足跡はもっと村に近い場所で見つけた」


「そうですか。つまり洞窟から出て来たんですね」


お父さんの説明を聞いたヒャガ団長さんが、再度大きなため息を吐く。


「変異した原因はなんですか?」


お父さんの質問に、ヒャガ団長さんが少し考える様子を見せた。


「隠す必要は無いですね。最初は3年前、森の魔物が凶暴化してこの村の近くまで姿を見せるようになりました。調査の結果、マーチュ村に近い森の中に巨大な捨て場が出来ていたんです。ゴミの出所を調べるとオカンノ村の冒険者が捨てに来ていました。オカンノ村にゴミの撤去と対策を願いましたが、ことごとく無視。森の監視を強めて、ゴミを捨てられないようにし、同時に知り合いの貴族に間に立ってもらい、オカンノ村から処理料と迷惑料を貰いました」


村ぐるみで、ゴミを他の村に押し付けたの?


「解決したと思ったのですが1年後、見慣れない魔物が目撃されるようになりました。調査すると、マーチュ村から一番近い洞窟の中に、オカンノ村の冒険者がゴミを捨てに来ている事が発覚したんです」


1年前の問題を、全く反省しなかったんだ。


「見慣れない魔物が、洞窟に住むガシュが変異したものだと分かりました。再度知り合いの貴族に動いてもらって対処したんです。この頃は何もなかったから諦めたと思ったんですが、また違う場所で同じ事をしたんでしょうね。まったく……無能な屑野郎どもが」


ヒャガ団長さんが、小さく言った言葉に頷く。

まさにその通り。


「オカンノ村のゴミ問題は、本当に深刻なんですね」


お父さんの言葉に、ヒャガ団長さんが眉間に皺を寄せ頷く。

マルチャさんから「深刻」だとは聞いていたけど、想像より悪いみたい。


「そういえば、オカンノ村付近の洞窟に挑戦した冒険者達から出たゴミも、マーチュ村が引き受けていましたよね?」


お父さんの言葉に、ヒャガ団長さんは頷く。


「えぇ、そうです。本当は、その洞窟の恩恵を受けているオカンノ村が対応するのが常識ですが、彼らにそんな余裕はありません。だから、我々の村で対応する事に決めたのが5年前です。捨て場が出来た場所が、我々がオカンノ村に行くのに使っていた道の近くだったんです。ゴミのせいで凶暴化した魔物が、その道を使って、この村に来る可能性があったため、対応したんですよ」


そうだったんだ。


「3年ほど前から、その捨て場に明らかに冒険者からは出ないゴミが混ざりだしたんです。オカンノ村には注意を促したんですが……」


無視をしたと。

ヒャガ団長さんがため息を吐く。


「オカンノ村の惨状を知っていたので、黙って受け入れたんですが。それが間違いだったのかな?」


いや、ヒャガ団長さんは全く悪くないでしょう。

悪いのは、愚かな判断を続けるオカンノ村の上の人達だ。


説明を終えたヒャガ団長さんは、壁に掛かっていたナイフを手にして変異したガシュの解体を始めた。


「不味いな。子供がいる」


「春になると、変異したガシュの数が一気に増えるのでは?」


お父さんの言葉に、苦い表情で頷くヒャガ団長さん。


「すぐに討伐隊を出します。この情報の謝礼は、数日後に振り込むので振込先だけ、彼に知らせて下さい。すみませんが、急ぐので」


ヒャガ団長さんは、案内してくれた男性を指すと慌てて部屋を出て行った。


「すみません。慌ただしくて」


残された男性が、ガシュを乗せたテーブルを壁の方に寄せた。


「いえ、大丈夫です。手伝いましょうか?」


お父さんの言葉に男性が首を横に振る。


「大丈夫です。このまま、マジックボックスに入れるだけなので」


男性は手慣れた様子で、大きなマジックボックスにテーブルから天板を外し、入れた。


「そうだ、振り込みと言っていましたが、現金払いも出来ますよ。どうしますか?」


「現金でお願いします」


「分かりました。情報の精査が必要なので、お支払いは3日後になります」


「分かりました」


男性はテーブルの上を綺麗に拭くと、部屋の外を指す。

一緒に部屋から出ると、自警団の中がかなり慌ただしくなっていた。

おそらく今から、変異したガシュの討伐へ向かうのだろう。


「隣の村が愚かだと大変ですね」


「本当にいい加減にして欲しいですよ」


男性の言い方に、かなり苦労しているのだと分かる。

それにしても、ゴミ問題はテイマー達の気持ちのありかたで変わると思ったのに。

テイムされている魔物達が可哀そうだ。


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― 新着の感想 ―
説明を終えたヒャガ団長さんは、壁に掛かっていたナイフを手にして変異したガシュの解体を始めた。 「不味いな。子供がいる」 ↑話の流れから、子供=アイビーと勘違いしました。 子供の目の前で解体を始…
[一言] Σ( ̄□ ̄)!妊婦な変異した魔物 そうか、産まれるのは、変異した子なのか
[良い点] アニメ化おめでとうございますっ!! 今からめっちゃ楽しみっ!!!
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