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744話 似ている魔物

村から出て、捨て場に向かう道を通って森の奥へ進む。

周りの気配を探って……離れた場所に人がいる。

人数は3人。


「方角から、果実が生っていた場所だな」


お父さんの言葉に頷く。

今日も収穫に来ているのかな?

もしくは、果実を盗みに来る人用の罠を張っているのかもしれない。

あれ?

盗んでいた人は捕まったんだっけ?


「お父さん」


「どうした? ソラ達は、出しても大丈夫だと思うぞ」


あっ、そうだった。


「皆、出ていいよ」


バッグから勢いよく飛び出すソラ達。

ときどき失敗してあらぬ方向へ飛び出すけど、今日は大丈夫みたい。


「にゃうん」


「シエルはご飯を食べに行くんだったよね。気を付けてね。お父さんが知らない魔物がいるみたいだし」


「にゃうん」


元気に鳴くと嬉しそうに駈けていくシエル。

あっという間に見えなくなる姿は、やっぱりかっこいい。


「それで、さっきは何を聞こうとしたんだ?」


「『果実を盗んだ人が捕まった』という噂を聞かないなって思って」


誰かが罠に掛かったという話は、噂で流れた。

でも、普通ならそれが誰だったのかという噂が流れるはずが、全く聞かない。

あれ?

全くというか、罠に掛かった人がいるという噂も聞かなくなった。

もしかして噂が制御されている?


「気付いたか?」


お父さんが私を見て笑う。


「うん。噂が誰かによって抑えられているよね? という事は、捕まった人が……何かある?」


「そうだろうな。おそらく何か問題が起きていると思うぞ」


ははっ、聞くんじゃなかった。

うん、忘れよう。


「あっ、無かった事にした」


えっ!

お父さんの言葉に、顔を両手で隠す。

すぐに私の表情を読むんだから。

いや、読まれないようにしないと駄目なんだろうけど。


「お父さんは鋭すぎる」


「それは、嬉しい言葉だな」


そうだった。

これは冒険者にとって誉め言葉だ。

お父さんは元だけど、冒険者だったからね。


「ぷっ、くくくっ」


あ~、今のは完全に表情に出た。

絶対に悔しい表情になってたはず。


楽しそうに笑うお父さんをジト目で見る。

いつかお父さんを出し抜いて見せる!


「頑張れ」


「うん。頑張る」


……あれ?


「シエルが戻ってくるまで、得体のしれない魔物の痕跡を探そうか」


「分かった」


罠を張っていた場所に来ると、2本の大きな爪跡を確認する。

なぜかソラ達も一緒に、爪跡を見ている。


「これが何か知ってるの?」


私の言葉に、皆の体が横に傾く。

うん、知らないね。

というか、3匹のスライムが同じ行動すると可愛すぎる。

あっ、お父さんが下げているカゴの中でトロンまで同じように体を傾けている。


「癒されるな」


お父さんの言葉に、無言で頷く。

……いや、痕跡を探さないと。


「低い木々が多い方へ、行ったみたいだな」


足跡の向いている方を見ると、確かに低い木々が多い方へ向かったようだ。

クラさんが案内してくれた大木からは、少しずれている。


「そうだね」


お父さんと、周りを注意深く見ながら進む。

小さな痕跡は、ゆっくり確認しないと見逃してしまう。


「足跡があったよ」


落ち葉に隠れていたけど見つけた。

2本の爪の跡もあるし、間違いないだろう。


「こっちにもあるぞ。どうも、1匹じゃないみたいだな」


お父さんと私の場所は少し離れている。

足跡の向いている方角から、お父さんが見つけた足跡とは別の個体だと判断できる。


「そうだね。あっ、また見つけた」


「群れで動いているのか?」


魔物は1匹で行動する事が多いから、珍しい。


足跡を見つけた周辺を見て回り、他に足跡が無いか調べる。

その結果、複数の足跡が見つかった。


「足跡の数から、およそ8匹から10匹ぐらいの群れだな」


「そうだね。足跡の向いている方角は……低い木々が生えている方で……奥には岩場があるんだったっけ?」


マーチュ村と隣のオカンノ村の間には、巨大な岩場があると地図に載っている。

地図に載っている大きさが正しければ、かなり大きな崖もあるはずだ。

村道はその大きな崖を避けているため、かなり遠回りになっていた。


「そうだ」


もしかして岩場に住み着いている魔物が、ここまで来たのかな?

魔物が住み慣れている場所から移動するのは、かなり珍しい。

だけど、無いとは言えない。

食べ物が無くなったり、環境が大きく変化したりすると移動するから。


「これは、自警団に報告した方がいいかもしれないな」


魔物の移動は、移動先の魔物にかなり影響を及ぼしてしまう。

食べる物が元々いた魔物と同じだった場合は、どちらの魔物も生存をかけて戦う事になる。

そのため、普段より凶暴になってしまうと聞いた事がある。


「そうした方がいいと思う」


私の言葉に頷くお父さん。


「戻ろうか」


「うん」


どんな魔物なのか分からないから、深追いは駄目だもんね。


「シエルが、そろそろ戻ってくると思うんだけど……」


お父さんが周りを見回す。


「うん、シエルならそろそろ戻ってくるはずなんだけど……」


2本の爪を持つ魔物の痕跡を探すのに、少し時間が掛ってしまった。

なので、シエルの食事が終わってもいい頃だと思う。

何かあったのかな?


「「あっ!」」


シエルの気配が、凄い速さでこちらに向かっている。


「戻って来たな」


「うん」


良かった。


「シエル、お帰り」


「にぃ」


あれ?

何か咥えてる。


「お父さん、あれ……」


「あっ……2本の爪が見えるな」


「うん」


シエルはどうやら、罠を壊した魔物を狩って来てくれたようだ。


「にゃうん」


私とお父さんの前に、2本の大きな爪を持つ魔物を置くと、自慢気に鳴くシエル。

その様子に笑ってしまう。


「ありがとう、シエル。とっても助かったよ」


シエルの頭を撫でると、尻尾が少し速くゆらゆらと揺れる。


「これは……なんだ?」


お父さんの声に視線を向けると、シエルが狩ってきた魔物を見て首を傾げている。


「どうしたの?」


「ん? 爪が大きいのは足跡から分かっていたんだけど、何か違和感が……知ってる魔物か? いや、見た事はないよな?」


不思議そうに首を傾げるお父さんの横に立ち、魔物を見る。

紺色の毛におおわれた姿は、シエルに似た体格をしている。

シエルよりは小さいけど。


パッと見て目立つのが爪。

前脚の爪が大きいのも、足跡から分かっていた。

だけど、お父さんが言うように違和感を覚える。

どこかで見た事があるような魔物なんだけど……あれ?

この魔物、洞窟によくいるガシュに似ている。


「お父さん、この魔物なんだけどガシュに似てない? 洞窟で見たガシュはもう少し大きかったけど」


どの洞窟にもいる魔物で、狭い空間でも俊敏に動き攻撃してくるのが特徴だと聞いた。

私が見たガシュは、どの子も伏せをしてシエルに攻撃しないよと態度で見せていたけれど。


「そういえば、似ているな。洞窟の中だったからもう少し黒っぽく毛が見えたけど。でも、これはガシュだな。前脚もここまで太くなかったが、鋭い爪を持っていたし」


確かその爪で襲い掛かるんだよね。


「シエル、この魔物をマーチュ村の自警団に持って行っていいか?」


「にゃうん」


「ありがとう」


お父さんが、魔物を空っぽのマジックバッグの中に入れる。


「村に戻ろう」


シエルを先頭に、村に向かって歩く。

魔物の事はあるけど、特に急いでいないのでゆっくりと。


「ソラ、フレム、ソル」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


シエルの上で不思議そうに私を見る皆。

いや、どうしてシエルに乗っているの?


「疲れたの?」


「「「……」」」


違うのか。


「楽をしたいのか?」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


お父さんの質問に元気に答える皆。

次の瞬間、シエルが体をブルブルと振った。


「ぷっ!」


「てりゅっ!」


「……」


シエルから振り落とされたソラ達。

3匹は驚いた表情で、シエルを見る。

シエルは、ソラ達を見る事なく村に向かって進む。


「ぷ~!」


「てりゅ~!」


「ぺふっ! ぺふっ!」


ソラ達は、もう一度シエルの上に乗ろうとシエルに向かって跳んだ。

でも、跳び乗ってもブルブルと振り落とされてしまう。


「ぷぷ~!」


「てりゅりゅ~!」


「ぺふっ! ぺふっ!」


シエル対ソラ、フレム、ソルの攻防を見ながら、村に向かう。


「ソラ達、楽しくなってきてないか?」


お父さんの言葉に、笑ってしまう。

確かに、攻防というより遊びになってるね。

シエルもブルブルでどこまで飛ばせるか、試しているみたいだし。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛いねぇ…
[良い点] すべて! 毎回楽しみにしてます! [気になる点] ゲームの内容?(笑) [一言] 最後のソラ達とシエルの攻防が可愛すぎてニヤニヤしてしまいました(笑) たぶん読者みんな和んでると思いま…
[一言] アニメ化おめでとうございます! 動くソラ達に早く癒されたい〜
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