743話 遊んで祝う
朝だ……眠い。
昨日は寝るのが遅かった。
まさか本当に村全体がお祝いで盛り上がっているとは思わなかった。
マーチュ村に戻って来て、驚いた。
まさか大通りで皆が踊っているなんて、想像すらしていなかったから。
村に近付くと音楽が聞こえたので、不思議には思っていたけれど。
そして、大通りに宿があるため、なかなか宿に戻る事が出来なかった。
なぜなら「一緒に踊りましょう」と誘われて、何度も踊ったから。
踊りには決まりがなく、くるくると音楽に合わせて踊るので、初めての私でも楽しかった。
だからつい、いっぱい踊ってしまった。
宿に戻ってからも、店主のバトアさんやシャンシャさん、彼等の友人達とゲームを楽しんだ。
なんでもお祝いの時は、子供も大人も関係なく夜遅くまで遊ぶのが、この村では当たり前らしい。
「おはよう」
隣から、眠そうなお父さんの声が聞こえた。
見ると、眠そうに欠伸をしている。
私が部屋に戻る時も、まだゲームをしていたお父さん。
いったい何時に寝たんだろう?
「おはよう。昨日は何時に寝たの?」
「ん~、2時間前かな」
眠そうなわけだ。
「大丈夫?」
「あぁ、問題ない。酒は飲んでないから」
そういえば、昨日はお酒類を見なかったな。
「お酒は飲まなかったの?」
「んっ? あぁ酒は、『酔うと迷惑を掛ける者が出る』という理由から、祝い事の時は出さないらしい」
「そうなんだ」
確かに酔って暴れてしまう人とかいるもんね。
ベッドから降りて、軽く運動をする。
よしっ、目が覚めた。
「皆、ご飯だよぉ」
既に起きて、窓から入る太陽で日向ぼっこしていたソラ達に声を掛ける。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「……ぎゃっ!」
今日は、トロンも起きているんだね。
「トロン、おはよう」
ポーションとマジックアイテムをマジックバッグから出して並べ、トロン用の紫のポーションはお皿に出してトロンの前に置く。
「どうぞ」
皆が食べる様子を、変化が無いか見る。
食べが悪いとか、消化する時の音が違うとか、いつもと違うところを探す。
「問題ないね」
今日も元気な事を確認してから、シエルの頭を撫でる。
「シエル、おはよう」
「にゃうん」
そういえば、シエルがお腹を空かせる頃じゃないかな?
「シエル、そろそろ狩りに行く予定がある?」
「にゃうん」
やっぱり。
今日は、昨日寄ったけど閉まっていた看板屋さんに行ってパトパトについて話を聞いて、もしあれば加工したパトパトを買う予定だったよね。
午前中で終わらせるつもりだったけど、今日は朝からお店は開いているんだろうか?
昨日、お店が閉まっていたのは、お祝いの為だった可能性が高い。
つまり、お父さんのように朝方まで遊んでいたかもしれない。
……午後から訪ねた方がいいような気がするな。
「お父さん。看板屋さんは午後からにして、午前中は森に行っていい?」
クラさんは、今日は用事があるらしく来ないし。
「いいぞ。昨日のあの騒ぎだ。午前中は休みの可能性があるからな」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「ぎゃっ!」
皆の声に視線を向けると、食事が終わったのかそれぞれ体を動かしだした。
シエルも参加するので、4匹のスライムと木の魔物が縦に伸びたり、横に伸びたり。
まぁ、トロンの場合は枝を揺らしているだけなんだけど。
たぶん、本人は一緒に運動している気なんだろうな。
「アイビー、朝食に行こうか」
「うん。あれ? お父さんは食べられるの?」
朝方まで、何か食べていたんじゃないの?
「夜中からは、飲み物だけだったんだ」
そうなんだ。
この村のお祝いは、なんだか不思議だな。
部屋の扉に鍵を掛け、1階に下りる。
食堂に入ると、眠そうな表情のシャンシャさんがいた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
バンガルさんがいつも座っていた場所を見るが、今日もいなかった。
痛めた腰が、治らないのだろうか?
「ドルイドさん、昨日は遅くまでありがとう」
「いえ、俺も楽しかったので。バンガルさんは、まだ療養中ですか?」
お父さんの言葉にシャンシャさんがため息を吐く。
「違うわよ。もう元気よ。そうしたら、今日からお手伝いに行ってしまって。無理をしないように言ったけど、今日の様子を見る限りまたやるわね。全く、すぐに頑張り過ぎるんだから」
そういえば、バンガルさんはカポの加工を手伝っているんだったよね。
あれ?
「加工は、お昼からじゃないんですか?」
「収穫が終わったから、朝からなのよ」
そうなんだ。
加工の手伝いか。
どんな事をしているんだろう。
「そうだ、最後のゲームは誰が勝ったの? 私はその前に休ませてもらったから」
シャンシャさんの言葉に、お父さんが苦笑する。
「バトアが勝ちましたよ」
「あら、約束を守ったのね」
お父さんの答えに嬉しそうに笑うシャンシャさん。
「あっ朝食だったわね。すぐに持って来るわね」
機嫌よく調理場に行くシャンシャさん。
いったい、どんな約束をしたんだろう?
「お父さん。シャンシャさんとバトアさんの約束って何か知ってる?」
「いや。何を約束したかは聞こえなかったんだけど、彼女は凄く真剣だったよ」
「そうなんだ」
調理場の方を見る。
シャンシャさんが本当に嬉しそうに笑ったから気になったけど、分からないんじゃしょうがない。
近くの棚に、カードが置いてあるのが見えた。
「お父さんは、どんなゲームをしていたの?」
冒険者達がよくやっていたゲームかな?
確か……5枚のカードの柄を揃えたり数字を揃えたりしていた……ような気がする。
広場では時々見かけたけど、お金を賭けている事が多くて子供は近づいたら駄目だった。
「賭け無しのカードゲームだ。そういえば、途中で面白いゲームをしたな。人生ゲームという物なんだけど、サイコロを振って出た数字の分だけマスを進めるんだ。そして止まったマスに書かれてあった事が、ゲームに影響を及ぼすんだよ。借金が出来たり、結婚もしていないのに急に子供が出来たり」
人生ゲーム?
んっ?
なんだか懐かしい響きだな。
もしかして小さい頃に遊んだ事があるのかな?
ん~?
小さい頃の記憶には、そんなゲームをした記憶はないような……あっ、もっと前?
……駄目だ。
全く何も思い出せない。
という事は、前世とは関係ないのかな?
「どうした?」
「なんでもない。そのゲームは勝ったの? というか、勝敗は何で決まるの?」
「勝敗は、ゴールした時の所持金の多さだ。俺は3回勝って、4回負けた。凄い借金を抱えて負けた事もあったよ」
凄い借金?
サイコロを振って進む数が決まるから。
「運が悪かったの?」
「あぁ、止まるマス、止まるマスで問題が起こるんだ。さすがにこれは無いだろうと思ったな」
それは本当に運がない。
「気になるのか?」
「うん。ちょっと」
どんな人生になるかな?
お父さんみたいに、借金まみれとか?
それは、嫌だな。
「あらっ、人生ゲームが気になるの?」
朝食を持って来てくれたシャンシャさんの言葉に頷く。
「楽しそうだったので」
「そうね。それなら今日の夕飯の後で一緒に遊びましょう」
嬉しいけど、良いのかな?
お父さんを見ると、肩を竦められた。
「俺達は問題ないですが、シャンシャさんは大丈夫なんですか?」
お父さんの言葉に、嬉しそうに笑うシャンシャさん。
「大丈夫よ。私が出来る手伝いは全て終わっているから」
それなら大丈夫かな?
「私、強いわよ」
「知ってます」
んっ?
自信ありげに言ったシャンシャさんの言葉に、同意するお父さん。
もしかして昨日の夜に、お父さんはシャンシャさんに負けているのかな?
「次は勝ちます」
「そう言って3敗だったわよね」
お父さんを見る。
少し気まずそうな雰囲気で、今日のスープを飲み視線を逸らす。
これは、今日の夜が楽しみ。
人生ゲームなら、お父さんに勝てるかも。




