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742話 くさい!

クラさんが先頭になり、スライムを探しながら森の奥へ進む。

シエルがアダンダラという事は内緒なので、今日はスライムのままクラさんの隣にいてくれている。


「いない」


クラさんが周りを見回す。

私も、木々の間や頭上を注意深く見るが、スライムが1匹もいない。

それに、動物の気配が前より減っている気がする。


お父さんを見ると、神妙な表情で森の奥を見ていた。

気配が少ない事に気付いているみたいだ。


「予想できなかった魔物も出たし、気配も少ない。変だな。村に戻ろうか」


お父さんの言葉に頷くと、クラさんを見る。


「残念」


お父さんがクラさんの頭をポンと撫でる。


「また、来よう」


「はい」


少し元気になったクラさんと、捨て場に向かう。


「どんな物を探したらいいの?」


クラさんの質問に、お父さんは首を傾げる。


「カゴとカゴをくっつける物だな。まぁ、今のところ紐以外に何も思い浮かばないけどな」


そうなんだよね。

カゴの強度を上げるのに有効なのは、カゴを何個も重ね合わせて、紐できつく縛る方法。

今まではこれで、大丈夫だったんだよね。

鋭い爪を持っていても、紐を何重にもぐるぐる巻きにする事で逃げられなかったし。

だけどその紐を、今回の魔物は見事に引き千切った。

紐の状態から、巻き付ける紐を多くしても無駄だと思う。


「カゴとカゴ。くっつける?」


クラさんが、お父さんに聞いた事を繰り返しながら首を傾げる。


「考えながら歩くと、危険だぞ」


お父さんの注意にハッとした表情のクラさん。


「パトパト」


んっ?

パトパト?


クラさんの言葉に、お父さんと私は視線を向ける。

彼は納得した表情で、私達を見て頷いた。


「パトパトが使えるかも」


聞いた事が無い名前だけど、有名なんだろうか?

お父さんを見ると不思議そうな表情なので、一般的な物ではないのかもしれない。


「パトパトというのは、なんなんだ?」


「パトパトの木になる実。木と木をくっつけるのに使っていると言ってた。カゴにも使えるかも」


木と木をくっつけるのに使っているなら、使える可能性が高いかな。


「くっつけるのか。いいかもしれないな」


お父さんも、興味が湧いたようだ。

楽しそうに笑っている。


「うん。ただ、くさい」


くさい?

どれくらい、くさいんだろう?

そういえば動物や魔物は、臭いに敏感なのかな?

そうだ。

動物を紹介する本に、「動物の中にはくさい臭いで襲ってくる敵に反撃する」と書かれてあったな。

という事は、動物や魔物は臭いに敏感なのかな?


「魔物だったら、少しくらい臭くても大丈夫だと思うぞ」


魔物だったら?

動物は魔物より、臭いに敏感という事かな?


「完成品は少しだけくさい。実はもっとくさいって」


クラさんは、完成品から臭ってくるくささしか知らないみたいだな。


「どれくらいくさいのか、知りたいな。パトパトの木が、どこにあるのか分かるか?」


「パトパトの木は……あっちだと思う」


立ち止まったクラさんは周りを見て、捨て場がある方向とは異なる方を指した。


「近くか?」


「うん。ちょっとだけ歩く」


お父さんが少し考えると、私を見た。


「行ってみるか?」


「うん、行ってみよう」


方向を変えて10分ほど歩くと、クラさんが背の低い木を指した。


「あの青い実が生っているのが、パトパトの木」


くさいと聞いていたので、近付く時にちょっと緊張した。

いったいどんな臭いがしてくるのかと。


「あれ?」


なのに、全く臭って来ない。

それに首を傾げる。


「臭わないね」


「パトパトの実を割ると、くさいんだ」


クラさんはそう言うと、パトパトの木から1個だけ実を採った。

クラさんの手の中を見る。

真っ青な木の実を指で突いてみると、硬い感触が伝わってくる。

指でつまみ上げてみる。

色のせいか、少しだけ不気味に見える。


「手の中で割って、大丈夫か?」


お父さんの言葉に、クラさんが首を横に思いっきり振る。

どうやらそれは駄目な事みたいだ。


「手に付いたら、暫く取れないと言ってた」


もしかしてパトパトの実は、かなりくさいんだろうか?

それはちょっと……離れていいかな?


「石の上で潰すか」


お父さんが傍にある石にパトパトの実を置く。

そして、手ごろな石を見つけて来ると、パトパトの実に振り落とした。


「「「うっ」」」


割れた瞬間、臭って来た。

くさい!

これはちょっとというくささじゃない。

すっごく、くさい。


「これはちょっと、罠に使うのは無理じゃないか?」


そうだよね、無理だよね。


「離れようか」


割ったパトパトの実から離れる。

でも何となく臭ってくるような気がする。

もしかして果実の汁が服に飛んでいるのかな?

胸元の服を持ち上げて臭いを嗅ぐ、違う場所かな?

袖かな?


「どうした?」


袖の臭いを嗅いでいると、不思議そうな表情でお父さんが聞いてくる。


「何となく、くさいような気がして」


「汁が飛んだのかな?」


お父さんも自分の袖の臭いを嗅いだが、分からなかったようで首を傾げた。


「たぶん、でもほんの少しだから気にしなくてもいいと思う」


本当にちょっと気になる程度だから。


「俺」


んっ?

クラさんを見ると、腕の部分の臭いを嗅いで表情を歪めている。

どうやらクラさんの袖にパトパトの汁が飛んでいたみたいだ。


「悪い。割り方が悪かったな」


お父さんの謝罪にクラさんは首を横に振る。


「大丈夫。ちょっとだから」


お父さんが布を濡らしてクラさんの袖を拭く。

何度か拭くと、少しマシになったようだ。


「そうだ、パトパトを使った完成品があると言っていたけど、何に使われているんだ?」


そういえば、クラさんは完成品とは言ったけど、それが何かは言っていなかったな。


「看板」


看板?

あっ!


「この村の看板は面白いよね。他の村や町だと一枚の板に描いたり彫ったりしていたのに、この村の看板は前に飛び出していたから、最初見た時は看板だと気付かなかったんだよ」


一枚の板に、いろいろな形の木が飛び出していた。

最初は厚い板を彫っているのかと思ったけど、少し違うように見えた。


「あれは板に、好きな形に切った板をパトパトでくっつけているんだ。10枚の薄い板をくっつけている看板もあるんだ」


だから、複雑な形の看板があったんだ。

あれは見ていて面白かったな。


「看板だから少しくさくても大丈夫だったのか?」


あぁ、外で使うから。


「時間が経つと臭いも消えるから」


「そうか」


クラさんの言葉にお父さんが頷く。


「看板屋さんに行って、パトパトの使い方を聞いてみようか」


看板屋?

お父さんを見ると、パトパトの木を指す。


「絶対にあのままでは使っていないと思うんだ」


それはそうだろうな。

くさすぎる。


「おそらく、パトパトの臭いを抑える方法があると思う。それを教えてもらえないかと思ってな」


なるほど。


「方法が秘密なら、臭いを抑えたパトパトを購入できないか聞くのもいいだろう」


お父さんの言葉に頷く。


「いいね、それ」


クラさんに視線を向ける。

彼もいいと思ったのか、何度も頷いた。


「看板屋さんなら大通りの最初の角を右に曲がって、ずっとそのまま直進」


宿に戻るのに少し遠回りになるけど、帰りに行けるね。


「そうと決まれば、とっとと村に戻ろうか」


お父さんの言葉に、周りで遊んでいたソラ達に声を掛ける。

そういえば、ソラ達はパトパトの木に近付く事もしなかったな。

やっぱり臭いが駄目だったんだろうか?


いつも読んで頂きありがとうございます。

800話を超えていました。

感想を、ありがとうございます。

これからも、どうぞ宜しくお願いいたします。


ほのぼのる500

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― 新着の感想 ―
実が狙われない=実を食べる動物がいない=種の拡散に動物を利用できない 生存戦略的にマイナスでは。 たぶん好んで食べる動物がいるんだろう。
[気になる点] 臭いがキツイ実と言うとドリアンが真っ先に思い浮かぶけど、こちらは一体どんな匂いだろう?そしてドルイドが知らないとなると、この村だけの特産物なのかな。もしかしたら罠に新展開とかも期待出来…
[一言] 臭いニオイのするパトパトの実。適者生存で他の動物に実を狙われないんだろうなw
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