738話 不思議な大木
罠を仕掛けてから、クラさんに森を案内してもらう。
森の奥に進みながら、いつもと違う風景にため息が出る。
「帰ったら、機嫌直っているかな?」
「どうかな? かなり機嫌を損ねていたからな」
お父さんの言葉に、再度ため息が出てしまう。
今日の朝、ふぁっくすを確認して気付いてしまった。
「あれ? ソルの事は紹介してあったかな?」と。
そして、以前に送ったふぁっくすを確認。
その結果、ソルの事を紹介し忘れている事が発覚。
ただ、気付いた時間が悪かった。
もっと早く気付ければ、ふぁっくすに追加で書く事も出来た。
でも気付いたのは手伝いに行く直前だから、無理だと判断してしまった。
今思えば、ふぁっくすを送る日を明日にしてもよかった。
そうすれば、今日の夕方にゆっくりふぁっくすに追加を書けたのだから。
慌てている時こそ、冷静にならないと駄目だね。
それにしても、
「ソル、凄く可愛かったよね」
「うん、凄く可愛かったな」
私の傍で、様子を見ていたソル。
「次でいいか」と言った瞬間、体当たりをされて布団の中に潜り込んでしまった。
その行動に驚いたけど、私が悪いと出掛ける直前まで謝った。
でも、布団の隙間から私を見たソルは、完全に拗ねていた。
そしてその姿は、もの凄く可愛かった。
だからつい、そうつい「可愛い」と言ってしまった私。
結果、布団の隙間は閉じられた。
実は森に行く前に、皆を迎えに行こうと思っていた。
だけどソルがまだ拗ねていたら、部屋に残るかもしれない。
もしもソルだけが留守番となったら、今よりもっと拗ねてしまう可能性がある。
だから、迎えに行くのを止めた。
「変な感じ」
森にいるのに、皆がいない。
まさか、こんなに違和感を覚えるとは思わなかった。
「あっち。時々スライムがいる」
クラさんが指す方を見ると、大木が見えた。
この周辺の木々に比べると、その木はかなり大きい。
「凄い木だな」
「うん。この周辺で一番大きくて太い木。『村を守る木』だって言ってた」
クラさんの言葉に首を傾げる。
「村を守る木」とは何だろう?
村に伝わる伝承でもあるのかな?
「行ってみようか」
お父さんの言葉に、クラさんと一緒に大木に近付く。
周辺の気配を探るが、スライムの気配は感じない。
ただ、スライムの気配は森に紛れ込みやすいので、絶対にいないとも言えない。
「本当に大きいね」
大木の傍に立ったけど、本当に太い。
私が10人いても、幹を囲めないかもしれない。
それに、上空に視線を向ける。
「この木、枝も凄い太いね。私ぐらいあるんじゃない?」
なんだか不思議な木だな。
「お父さん、この木の事を知っている?」
「いや。いろいろな森を通って来たけど、こんなに大きな木を見た事は無い。それに、葉っぱがおかしい」
おかしい?
お父さんの視線を追って、大木の葉を見る。
あれ?
葉の形が1つじゃない。
視線の先にある、大木の葉は2種類あるように見える。
「あっ、スライムだ!」
えっ?
クラさんの言葉に視線を向けると、濁った緑色をしたスライムがいた。
「こちらの様子を窺っているみたいだな」
お父さんの言葉に、スライムの視線がお父さんに向く。
スライムは、お父さんと視線が合うとプルプルと震え、森の奥に行ってしまった。
「あっ! 行っちゃった」
残念そうなクラさんに首を傾げる。
「クラさんは、スライムに話しかけたりしないの?」
「えっ?」
クラさんが不思議そうに私を見る。
「ジッとこっちを見ている時に、話しかけてみたらどうかな?」
ソラを見つけた時、話しかけたよね。
ジッとこっちの様子を窺っているのが不思議で。
「話しかける……うん、わかった」
クラさんは頷くと私を見て笑う。
「次はやってみる」
「ただし、遭遇してすぐに襲って来る事もある。気をつけてな」
「うん」
お父さんの言葉に神妙に頷くクラさん。
そうか。
スライムは人を見たら、襲って来る魔物だったね。
あれ?
さっきのスライムはどうして襲って来なかったんだろう?
もしかしたら、クラさんに少し興味があったのかな?
「今日はこの周辺をもう少し見て回ってから帰ろうか」
お父さんの言葉に、空を見る。
自警団に行ってから森に来たから、そろそろ村に戻った方がいい時間か。
「分かった。この木を一周したら帰ろう。クラさんもいい?」
「うん」
皆でゆっくりと大木の周りを歩く。
「この木、葉っぱが4種類あるんだよ」
クラさんの言葉に、大木の葉っぱを見る。
丸い葉っぱと、細くて先がとがった葉っぱ。
あと、3つに分かれている葉っぱも見つけた。
でも4種類?
あと1種類はどこだろう?
「あっ、1種類は……あそこ。あの部分にしかないんだ」
クラさんが指した方を見ると、明るい黄緑の葉っぱが見えた。
あとの3種類は、濃い緑色をしている。
「黄緑色の葉は、カモという名前の木の葉と似ているな。そういえば3種類の葉も、森で見た事があるような気がするんだが」
お父さんの言葉に首を傾げる。
それは……どういう事なんだろう?
4種類の木が、この大木になったという事?
それは無いか。
「そろそろ戻ろうか」
お父さんの言葉に、村に向かって歩き出す。
そうだ。
ソラ達が、遊び回っても大丈夫な広い場所がこの森の中に無いかな?
大木のある場所も広かったけど、飛び跳ねていたら周りにある木々の枝とか折ってしまいそうなんだよね。
「クラさん。この森に広場みたいな場所はあるかな?」
「広場?」
不思議そうに私を見るクラさん。
「ソラ達が思いっきり飛び跳ねても、木や枝にぶつからない場所を探しているんだけど」
私の説明に立ち止まって、考え出すクラさん。
村に戻ってから聞けばよかったかもしれない。
「川の傍に広い場所がある。あそこなら飛び跳ねても大丈夫だと思う」
「川の傍か。ここからどれくらいの時間で、その場所に着けるのかな?」
クラさんの視線が、大木がある方角から少し左に向く。
そちらの方向に、今言った広い場所があるのかな。
でも川の傍という事が、気になるな。
川の近くにいると、結構な頻度でソラが川に流されるからね。
夏ならいいけど、今は秋。
絶対に寒いよね。
「10分ぐらい歩くと思う」
「意外と近いんだ」
10分ぐらいなら問題ない距離だね。
でも川の傍か。
遊ばせたいけど……迷うな。
とりあえず、宿に戻ったらみんなに相談してみよう。
「行ってみる?」
クラさんの言葉に首を横に振る。
既に空は暗くなり始めている。
この季節は、暗くなるのが早いので見に行く時間は無い。
「暗くなる前に村に戻ろう」
「うん」
私とクラさんの様子を見ていたお父さんが、村に向かって歩き出す。
「あれ?」
急に森が暗くなる。
見上げると、空には薄暗い雲が見えた。
もしかして雨でも降るのかな?
「少し急ごうか」
「「うん」」
お父さんの後ろをクラさんと小走りで付いて行く。
しばらくすると村が見えたので、ホッとした。
挨拶をして村に入ると、頬に何かが触れた。
手で確かめると、濡れている。
「雨が降り出したな。宿まで走ろう」
「うん。クラさんも一緒に行こう」
私の言葉に頷くクラさんを確認してから、宿に向かって走る。
まさか、雨が降るなんて思わなかった。
雨が降ったあとは、水かさが増すから川の傍は駄目だね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
ラットルアさん達にソルの事を紹介し忘れていました。
ご指摘、ありがとうございます。
次回の更新は1回休みで、10月27日の予定です。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500