732話 罠ですか?
あれ?
今、微かな気配を感じたような気がする。
どこかな?
……見つけた。
ここからは、ちょっと離れた場所にいるみたい。
この気配の消し方は、隠れているのかな?
「あっ、これは」
お父さんも気付いたみたい。
もうあんな微かな気配も気付けるんだ。
凄いな。
「お父さん、この気配はちょっと変だよね?」
「あぁ、気配を消そうとしているみたいだな。無理矢理なのか、違和感を覚えるな」
ちゃんと気配の性質も捉えているんだ。
「移動を始めたみたいだけど」
慌てているみたい。
もしかして見つかったのかな?
でも、他の気配は感じないな。
「「えっ?」」
微かだった気配が大きく揺れた。
というか、気配を隠せなくなってるみたい。
何があったんだろう?
「どうしたのかな?」
マルチャさんが不思議そうに、私とお父さんを見る。
「もう少し森を入った所で、隠れている気配を見つけたんだが……今はなぜか気配が大きく揺れているんだ」
お父さんの言葉に少し考えこんだマルチャさんは、ハッとした表情をすると笑った。
「もしかしたら、果実の盗人を捕まえたのかもしれないね」
ママガさん達が言っていた、勝手に盗んでいく人達の事かな?
だとしても、どうして隠していた気配を隠さなくなったんだろう?
今も、かなり動揺している気配を感じる。
「確実に通る道を見つけたら、罠を張ると言っていたからね。彼らが、罠に掛かったのかもしれないね」
それは……あるかもしれない。
焦った気配のあとで、一気に気配が膨れ上がったし。
なにより、周りには他の気配が無いから。
「マーチュ村は罠を使うんですか?」
「んっ? あぁ、珍しいかもしれないけどね。そうだよ。あれはいいよ。傍にいなくてもいいからね」
あっ、お父さんが嬉しそう。
「どんな罠なのか見たいな」
「えっ?」
お父さんの言葉に、不思議そうな表情をするマルチャさん。
「俺達は狩りに罠を使っているので」
「ほぉ、それは珍しいね」
マルチャさんが、面白そうな表情でお父さんを見る。
「罠を見たいなら、自警団にあると思うよ。罠を考えるのが好きな団員がいてね。この村で使う罠は彼の作った物なんだよね」
うわ~。
お父さんってば、すっごく興味津々だ。
自警団に行ったら、凄い時間がかかりそうだな。
「そろそろ村だな。ソラ達はバッグに入ってくれるか?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
鳴きながら私の傍に来るソラ達を、バッグに入れる。
それを不思議そうに見るクラさん。
「そのバッグは何?」
その質問に首を傾げる。
「テイマー用のバッグだよ。テイムした魔物が入れる特殊なバッグ」
私の説明を聞くと、ジッとバッグを見るクラさん。
まだテイムした魔物がいないから、専用バッグの事を知らなかったのかな?
「テイマー達が使う専用バッグは、マジックアイテムの糸で作られたバッグなの。小型の魔物や動物が入れるように見た目より中は広いんだよ。マジックバッグほど大きくは無いけどね」
「マジックバッグ?」
あっ、そうか。
マジックバッグは、生き物は入れないから不思議に思ったのかも。
「マジックバッグは生き物が入れないけど、このテイマー専用のバッグに使用するマジックアイテムの糸は、不思議だけど生き物が入れるバッグが作れるの」
クラさんがバッグを軽くチョンと突く。
そして頷くと、マルチャさんを見る。
「テイム出来たら、買おうね」
「うん」
クラさん、嬉しそう。
早くテイム出来るスライムと出会えたらいいね。
門番さん達に挨拶して村に入る。
マルチャさん達と一緒にいるから、ちょっと不思議そうに見られたけど特に声が掛かる事は無かった。
それよりマルチャさんに対する、門番さん達の態度が気になる。
門番さん達、ちょっと緊張していたよね?
マルチャさんは、クラさんが言うよりこの村で力を持っているのかも。
「アイビー、自警団には俺だけで行ってくるよ」
「えっ?」
お父さんの言葉に首を傾げる。
何か気になる事でもあるのかな?
「マルチャの話で思ったけど、この村は少し他のところとは違うようだから。まずは俺が中にいる自警団員の様子を見てくるよ」
自警団員の様子から村の状態を調べるのかな?
「分かった。あれ? 商業ギルドのカードに依頼料が振り込まれたら、テイマーが誰かバレるよね?」
うん。
絶対にバレる、というかお父さんがテイマーだと思われるのでは?
「それは大丈夫だ。マルチャのカードから俺のカードに振り込むことになるから」
「そうなの?」
「あぁ、さっき確認した。それと彼には、俺達以外にも特別依頼で守っている存在がいるみたいだ」
それって内緒のテイマーがこの村にいるって事?
「大丈夫だから」
あっ、不安だと思われたかな。
「分かった。お父さんに任せるね」
「あぁ」
「あっ、罠の事で盛り上がり過ぎないでね」
私の言葉に苦笑するお父さん。
「今日はカードの登録だけにする」
「別にちょっとならいいけど」
ずっと外で待ち続けるのはつらいけど、少しなら待てるのにな。
「絶対に止まらなくなるから」
あぁ、そっちか。
どうなるか分かっているから、今日はあえて触れないと。
「行ってくるな」
「行ってらっしゃい」
クラさんと、お父さん達を見送る。
私が外で待っていると分かると、クラさんも一緒に待ってくれる事になった。
「美味しいお菓子」
クラさんが、ある屋台を指す。
近付くと、甘い良い香りにお腹が鳴ってしまう。
「甘い、ほっこり。おばちゃん」
嬉しそうに笑うクラさんが、屋台の中に向かって声を掛ける。
「いらっしゃい。あら、クラちゃん今日も来たの?」
常連さんなんだ。
「うん。2個、下さい」
「2個?」
クラさんの言葉に、屋台の中から女性が顔を見せる。
視線が合うと、にこっと笑顔になった。
「今日はお友達も一緒なんだね。はい、2個ね」
女性から、袋を受け取るクラさん。
「あっ、お金!」
ぼうっと見てしまった。
屋台の壁に貼られている金額の紙を見てお金を出すが、クラさんが首を横に振る。
「いらない。これ、どうぞ」
クラさんの行動に、どうしようかと迷っていると、
「奢ってもらいなよ。クラちゃんのために」
奢られる事がクラさんの為になるのかな?
首を傾げながら、お金をマジックバッグに戻して袋を受け取る。
「クラさん、ありがとう。温かい」
袋からじんわり伝わる温もりに笑みが浮かぶ。
「あっち」
クラさんの後を付いて行くと、お店とお店の間の少し開いた場所に椅子と机があった。
「使っても大丈夫?」
村が用意している休憩場所かな?
「大丈夫。温かい方が美味しい」
椅子に座ったクラさんは、袋からお菓子を出すとかぶりついた。
「冷めちゃうよ」
クラさんの様子に笑って、隣の椅子に座る。
袋を開けて中を見ると、薄く焼き色のついた焼き菓子が見えた。
そっと袋から取り出すと、一口食べる。
ふんわりした甘めの生地に、真ん中に果物のジャムを挟んでいる。
「美味しい」
「よかった」
私の言葉に嬉しそうに笑うクラさんを見ていると、可愛く見えてくる。
弟ってこんな感じなのかな?
「んっ。もっといる?」
クラさんを見ていると、もっと欲しいと思われてしまった。
慌てて首を横に振って、持っているお菓子を食べる。
「これで十分だよ」
食い意地が張っているように見えたのかな?




